(ゴーランドが美術館にいることを、ユリウスはどう思っているのかしら)
元よりユリウスは、仕事を邪魔されるのを嫌う。そしてゴーランドは、基本的にユリウスの邪魔になるようなことしかしない。
(ハートの国でも、ほとんど交流なかったもんね、この二人)
そもそも私用で遊園地を訪れるユリウスなんて想像がつかない。
「それはそうと、わざわざ心配して来てくれたのか。すまねえな」
脱線していた話をジェリコが戻す。
「だが、心配はいらねえ。俺達なら、見ての通り大丈夫だ」
「でしょうね」
大丈夫でなかったら、引越しの直後に抗争へ出向いたりするはずがない。
「まあ、みんな元気そうで安心したわ。ゴーランドにも会えたし」
「おう。演奏が聴きたくなったらいつでも来てくれよ」
「当分来ないわ」
本気で立ち去りたくなったところでふと気付く。
「そうだ、エースは? こっちには来ていないの?」
『ハートの騎士』エース。ハートの国やクローバーの国ではハートの城に滞在していたが、ダイヤの国でアリスが会ったのはそのエースとも違う子供のエース。
(しかも大人のエースも時々こっちの国に来ているみたいだし……、ああややこしい)
だが、ここで聞いたのはもちろん子供の方のエースについてだ。
「こちらには来ていないようだな。おまえは見ていないのか、ゴーランド?」
「いや、俺も見てない。城じゃねえか?」
ダイヤの国では、エースはダイヤの城に滞在していた。ユリウスのところにはよく遊びに来ていたようなので今回もそうではないかと思ったのだが、どうやら違ったようだ。
「だが、それでいい。エースはここへ来ない方がいい」
ユリウスは静かに、だがはっきりと告げる。
引越しの前から、彼は一貫して子供のエースと距離を取ろうとしていた。
はじめのうちはアリスも、ユリウスを慕って来るエースを邪険に追い払う様子を見て冷たいと思ったが、どうやら理由があるらしい。
(私もジェリコに聞いただけだから、そんなに詳しくは知らないけど……)
この世界で死が確定しているジェリコと、その時計を回収するユリウス。どちらも死に近い存在といえる。そんな自分達が、子供のエースに悪い影響を与えるのを危惧している、というのが理由のようだ。
(確かに、大人のエースってえげつないもんね。あんなふうに育ってほしくないって気持ちは分かるわ)
大人のエースは騎士を名乗るだけあって強い。異常なほど強い。アリスもこれまでに、彼が顔なしたちを血祭りにあげるところを何度も目撃している。
「分かったわ。次はダイヤの城へ行ってみるから、一緒にエースのことも探しておくわ」
「げえっ。まだ行くのかよ」
横でボリスがうんざりした声をあげるけれど気にしない。
「ああ、頼む」
「エースに会えたら、何か伝言とかある?」
アリスの問いに、ユリウスは少し考える。
「いや、無事が確認できればそれでいい」
「オッケー。後でもう一度報告に来るわね」
横でボリスが「どんどん移動距離が増えてるよ」と愚痴るけれど気にしない。
「……頼んだ」
照れたように頭を下げるユリウス。本当は誰よりもエースを案じているのに、本人の前ではそんな様子を一切見せない。
(不器用な人なのよね)
それはハートの国のユリウスも変わらない、一番の本質。そしてその性質ゆえに、アリスはユリウスのことを放っておけないのだ。
ハートの国でも、ダイヤの国でも、そして新しいこの国でも。