『ブラッディ・ツインズ』の攻撃を生き延びて任務を果たしたことで、ブラッドと組織のボスとの関係が改善するはずもなく、むしろ悪化している。
「……」
ブラッドも直接問い質したりはしないが、あの任務の目的が暗にブラッドを葬り去ることだったのは明らか。ブラッドがそれに気付かないはずがないし、ブラッドが気付いたことをボスも察している。さらに言えば、ボスが察したこともブラッドは見抜いている。
「……」
「……」
元より余所者ということもあって組織の中で浮いていたブラッドだが、今回の一件を通じてさらに孤立することになった。
うかつにブラッドに接近する構成員はブラッド派と見なされて今後の出世や待遇に悪影響を及ぼしたし、最悪の場合には粛清の対象にすらなりうる。
またブラッド自身も、組織の顔なし達を意識的に遠ざけている。
(いずれボスから離れ自分の
しかし実際問題として、ブラッドにそのような
部屋の中で独り思案するブラッド。手にはティーカップ。立ち上るダージリンの香気だけが、今の彼にとっては味方といえる。
ノックの音が思索を破る。
「入れ」
最初から鍵は掛けていない。だが返事はない。
不審に思ったブラッドは席を立ち、ドアを開ける。廊下には一抱えほどの箱と、封筒が置かれていた。
まず封筒から開く。ボスからの手紙、といっても当然本人が書いたわけではなく、筆跡は秘書のものだ。
口述筆記でもしたのだろうか、いかにもボスらしいもったいぶった調子で長々と書き連ねてあるが、要約するとこうなる。
同じ組織の中でいがみ合っていても仕方ないので、この辺で手打ちにしたい。同封した帽子は詫びの品だ。もしブラッドに受け入れる気があるなら、次の会合にはその帽子をかぶって来てほしい。
(詫びの品、ね)
改めて箱に視線を戻す。中には大仰で悪趣味なシルクハットが入っている。適当に買ってきたのか、値札までそのまま残っている。
「……」
ブラッドは手袋をつけたまま帽子を取り上げ、窓からの光にかざしてみる。特に頭が直接触れる内側は慎重に調べる。
(……あった)
暗くて見えにくいが、奥の方に針が1本、先端をこちらに向けて仕込まれている。知らずにかぶれば、ちょうど頭に針が刺さる位置だ。
「奴の考えそうなことだ」
大方毒でも塗っているのだろう。帽子を作る工程では水銀を扱うため、帽子職人は精神を病むことが多いといわれる。俗説だが、かぶる側に何か事故が起きても不思議ではないということでもある。
「さて、ようやく証拠が手に入った」
ボスはブラッドを始末しようとしている。もはや疑う余地はない。
ではどうするか。ボスに証拠として針を見せても認めるはずがないし、ブラッドもそんなことをするつもりはない。
(無駄なことだし、何よりつまらん)
先にボスから殺意を示してきたのだから、こちらも遠慮する必要はない。手打ちの場となるらしい次の会合を、いかに盛り上げてやるか。
ブラッドは針を取り除いた帽子を手にしばらく思案していたが、やがてにやりと笑みを浮かべると、おもむろにその帽子を自分の頭へと載せた。