贋作 スペードの国のアリス   作:汐留ライス

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H is for Hatter. (2)

 そして会合の席。

 帽子をかぶったブラッドが姿を現すと、ボスを筆頭に場にいた面々は一様にうろたえる。

「ブラッド、おまえ、なぜここに」

 一同の疑問を代表してボスが尋ねる。

「なぜも何も、呼んだのは貴様だろう」

 涼しい顔で答えながら、ブラッドは周囲の反応を窺う。

 この場にいる顔なしはざっと五十人ほど。全員がうろたえているということは、帽子をかぶったブラッドがここに来るとは誰も想定していなかったことを意味する。

 つまり、ここにいる全員が敵。帽子に毒が仕掛けられていたのを知っている。

 しかし、それはブラッドにとってむしろ好都合。誰かをかばう必要もなく、全員を的にできるからだ。

「てめえ、ボスに向かってなんて口を」

 幹部の一人が立ち上がって銃を向ける。ブラッドの言葉に激昂したというよりは、単に脅えたのだろう。構えに腰が据わっていない。そのまま撃てば反動で転倒してしまう。

「私はボスだと思ったことなど一度もないね」

 答えながら、立ち上がった幹部に向かって歩み寄る。撃つ側にとっては当てやすくなるのに、むしろ動揺している。

「く、来るなあ」

 とうとうテーブルを挟んで幹部と向かい合うブラッド。この距離まで至っても、彼は銃の引鉄(ひきがね)を引けない。

 ブラッドの発する圧が、動きを封じているのだ。

「ミルクティーなんかを飲むようなやつなど」

 手にした杖を横なぎに払って、幹部の顔面を痛打する。結局一度も銃を撃つことなく、無様に床を転がった。

 

「てめえ!」

 ようやく我に返った他の幹部や構成員達が、一斉にブラッドへ銃を向ける。何人かはボスを後ろへ下がらせ、かばうように前に立った。

「さて、貴様ら全員を殺すのも面倒だ。今なら逃げても見逃してやっていいぞ」

「う、うわああ!」

 下っ端の構成員が一人、銃を捨てて走り去ろうとしたが、別の幹部に背中を撃たれて倒れた。他に逃げ出す者はいない。

「お互い、無能な上司を持つと苦労するな」

「やっちまえ!」

 ボスが叫ぶ。護衛に隠れて姿は見えないが、ブラッドはそちらへ向けて笑った。

「忠告はしたからな。恨むなよ」

「死ねえ!」

 一斉に発砲。軌道も速度も威力も異なる無数の銃弾がブラッドを襲う。一発でもまともに当たれば、たとえ余所者であっても命はない。

 飛来する致死の銃弾を、一部はよけ、一部は杖で弾いてことごとく回避していく。『ブラッディ・ツインズ』との戦いで掴んだ感覚を、ブラッドはすでに自分のものにしていた。

 銃撃が一向に当たらないので動揺する顔なし達に対して、ブラッドは反撃を始める。

 手の杖を一振りすると、それはマシンガンへと変じる。狙いも定めずに乱射すると、風に吹き散らされる木の葉のように散らばって倒れた。

 銃撃が治まると、場に生き残ったのはブラッドとボスの二人だけ。何人かはどさくさに紛れて逃げ出したのだろうが、数える気にもなれない。

「ま、待てブラッド! マフィアの組織は家族も同然だ。おまえにとって俺は、親みたいなもんじゃねえのか?」

「親か……、確かにそうかもしれないな」

 ブラッドの言葉に安堵しかけたボスだが、即座に蹴り倒される。

「結局のところ、私が一番殺したかったのは――親だったんだよ」

 ボスの口元に銃口を突きつける。ブラッドから姉を奪った両親。その怒り、恨みの全てをぶつけるには目の前にいる男は卑小すぎるが、一時的な気晴らしにはなる。

「次はもっといい舌を持って生まれてくるといいな。紅茶の味が分かるように」

「い、イカレてやがる」

 叫ぶボスの口中に、銃身を深く押し込む。勢いで前歯が折れたようだが気にしない。

「イカレているんだろうよ。何しろ私は帽子屋だからな」

 この世界に新しいマフィア組織、『帽子屋』ファミリーが生まれた瞬間である。

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