「シドニー、あなた無事だったのね!」
シドニー=ブラック。ダイヤの城の宰相。アリスに対しては険悪な態度を取り続けているが、それでも安否は気になる。
「おや、アリス。あなたでしたか」
そっけない口調だが、それなりに丁寧。だがその事務的な態度が、冷淡さを際立たせているともいえる。
「あの兵士達、ハートの国の兵よね? どうしてここにいるの?」
「よくご存知で。ああ、あなたはあそこから来たんでしたっけ」
赤い装備の兵士達。アリスが以前滞在していたハートの国の兵士だ。
「どうしても何もありません。連中がいきなり我々の領地に攻め込んできたんです。そのせいで、ご覧なさい」
シドニーは忌々しそうに城を示す。改めて見ると、
「ハートの城と一緒になっていたのね……」
どこかで見覚えがあると思ったら、ハートの城とダイヤの城が混ざり合っていたのだ。
「ただでさえ悪趣味な城が、さらに酷くなってしまった」
「……それは同意するわ」
どちらの城も派手な装飾だったが、混ざることで派手さが倍増している。
「全部真っ黒に塗ってしまえば、少しはマシになるのでしょうが」
「それは同意できないわ」
シドニーの嗜好は別の意味で特殊なので、アリスには理解しかねる部分も多い。
「じゃあ、クリスタとエースも無事なのね?」
「陛下は城内で、ハートの女王と交渉中です。エースは知りません」
「ハートのって……、ビバルディ!?」
『ハートの女王』ビバルディ。
アリスがハートの国とクローバーの国で滞在していたハートの城の城主で、気に食わない相手は誰でも処刑してしまう残酷な女王様。
ダイヤの国へ強制的に引っ越してきてからは当然会っておらず、もし会えるならずいぶん久しぶりの再会となる。
(あれ? でも……)
ここでアリスの頭に疑問が浮かぶ。
そのビバルディは、同じビバルディなのか。
アリスがダイヤの国に来た時、ボリスやグレイ、帽子屋屋敷の面々は前にいた彼らと同じ姿でありながら、アリスと過ごした記憶を共有していない別の存在だった。
(エースやナイトメアに至っては、年齢から変わっていたし……)
それでも新しい関係を一から築き直して、以前と同様、もしくはそれ以上に親しく付き合えるようになった。
とはいえ、ビバルディ達は過ごした密度が違う。もし彼女達が自分のことを覚えていなかったら、ショックは他の面々よりも大きいに違いない。
そんなことを思って落ち込みかけたアリスだが、不意にどこかから別の声が聞こえてきた。
「――」
声と同時に、地響きが近づいてくる。
「何か急に嫌な予感がしてきた」
「奇遇ですね。私もです」
「俺も」
アリスとシドニー、そしてボリスまでうんざりしたところで、もうその声と姿は無視できないほどに迫っていた。
「アリス、ああ、アリス!」