それまでいた組織に見切りをつけて帽子屋ファミリーを立ち上げたブラッドだったが、肝心の構成員が自分しかいない。
前の組織が管轄していた地域のシノギを引き継いで当面は生活していけるが、雑務や他の組織との抗争までひとりでこなすのはあまりにも効率が悪い。
「早急に人員を増やさないといかんな……」
特に、他の構成員をまとめるNo.2の存在が急務である。
しかし余所者のブラッドにはこの世界での人脈などないので、心当たりなどあるはずもない。
前の組織にいた連中はほとんど殺してしまったし、逃げ出した奴らも信用できない。
「どうしたものか……」
ある男の噂を聞いたのは、ちょうどそんな頃だった。
エリオット=マーチという、腕っぷしのめっぽう強い奴がいるらしい。
地元で暴れ回っていたが、今は大罪を犯して監獄に入っているという。
その話を聞いてブラッドが興味を持ったのは、エリオットという男が強いかどうかよりも、顔なし達を虐殺しても大した罪に問われないこの世界で、どんなことをすれば収監されるのかということだった。
ブラッドが監獄を訪れたのは夜だった。
石造りの建物は堅牢で、一度入ってしまうと脱出は困難なように見える。
ブラッドは躊躇なく、正面から向かって行く。
「どのようなご用件でしょう」
すぐに警備員の顔なしが、扉の前に立ちはだかった。
「こういう用だ」
手に持ったステッキをマシンガンに変えて、警備員達を一掃する。止める者のいなくなった入口から、悠々と中へ侵入する。
「思ったより牢屋が多いな。この中から見つけ出すのは面倒だ」
そもそもブラッドはエリオットの名前しか知らない。いちいち確かめて回ると、見つけ出すまでに何時間帯かかるか見当もつかないが、それでもブラッドには確信があった。
(それほどの奴なら、一目見ればわかるだろう)
そのまましばらく適当に進み、途中で看守に出会ったら、発砲すると目立つのでステッキで殴って気絶させる。そんな状態がさらに何時間帯か続いて、あまりに代わり映えしない景色にだんだん飽きてきたところで。
その男は、いた。
奥まった独房のひとつ。他の囚人達とは一線を画す大柄な男が、壁に背中を預けて呆然と座っている。暴れないようにするためか、両手は鎖で拘束されている。
しかしそれよりも目を引くのは、オレンジ色の髪から突き出ている長い二本のウサギ耳。その姿を見て、名前しか知らないはずのブラッドは一瞬で理解した。
(エリオット=マーチは、この男だ)