ブラッドがステッキをかざすと、鉄格子の扉は音もなく開く。どういう理屈でそうなるのかは分からないが、彼にはただ当然の結果としてそうなるという確信だけがあった。
(これも、余所者の特権なのだろうな)
「誰だ、あんた」
突然独房に入ってきたブラッドに対して、エリオットは臆する様子もなく尋ねる。ひとりで鍛えているのだろうか、何十時間帯も拘束されている割にやせ細った様子はない。
「俺を殺しに来たのか」
凶悪な目つきで、エリオットが立ち上がる。ブラッドよりも背が高いのに加えて眼光も鋭く、並の顔なしなら威圧感だけで殺せそうだ。
「悪いが、おとなしく殺される気もねえぜ。シャバに出たら、やらなきゃいけねえことがあるんだ」
だが、ブラッドは涼しい顔で答える。
「殺す? まさか、私は忙しいんだ。そんな暇などないし、第一だるい」
「だるいって……」
予想外の答えに、エリオットも呆気にとられる。しかしブラッドは相手の反応も無視して、平然と葉巻を取り出した。
「火、あるか」
「ねえよ」
「監獄というのは不便な所だな」
「便利な監獄の方がおかしいだろ」
エリオットのツッコミを聞き流して、ブラッドはマッチで葉巻に火をつける。
「燃えさしをその辺に捨てるな! 火事になったらどうすんだ!」
あわてて拾い上げるエリオットを見て、ブラッドは笑みを浮かべた。
「おまえ、見かけの割に几帳面だな」
「何しに来たんだよあんた……」
葉巻をくゆらせるブラッドに、エリオットは困惑した様子。
しばらく無言の状態が続いて、沈黙に耐えきれなくなったエリオットが尋ねる。
「あんた、忙しいんじゃねえのかよ」
「うむ、そろそろ本題に入るか」
「……」
エリオットが身構える。
「誘いに来た。私の下で働け」
「働くって、何をすんだよ」
「茶番だ」
「……茶番?」
これまでで一番困惑した様子のエリオットに、ブラッドは手を差し伸べた。
「私とおまえで茶番をしよう。この世界がひっくり返ってしまうような、最低最悪の茶番を、だ」
「……」
エリオットは腕を組んで黙り込む。ブラッドに言われた意味を、考えているようだ。
「つまりこういうことか? 俺をここから出して、あんたとふたりで大暴れしてやろうって」
「まあ大体そういうことだ」
適当に答える。
「正直、あんたが何者なんだか分からねえ。だが、その話に乗ってみるのは悪くねえ」
「だろう」
ブラッドはうなずく。そう答えると、最初から分かっていたように堂々としている。
なので、エリオットが続けたセリフは予想外だった。
「――だが、ひとつだけ条件がある」