贋作 スペードの国のアリス   作:汐留ライス

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J is for Jail. (2)

 ブラッドがステッキをかざすと、鉄格子の扉は音もなく開く。どういう理屈でそうなるのかは分からないが、彼にはただ当然の結果としてそうなるという確信だけがあった。

(これも、余所者の特権なのだろうな)

「誰だ、あんた」

 突然独房に入ってきたブラッドに対して、エリオットは臆する様子もなく尋ねる。ひとりで鍛えているのだろうか、何十時間帯も拘束されている割にやせ細った様子はない。

「俺を殺しに来たのか」

 凶悪な目つきで、エリオットが立ち上がる。ブラッドよりも背が高いのに加えて眼光も鋭く、並の顔なしなら威圧感だけで殺せそうだ。

「悪いが、おとなしく殺される気もねえぜ。シャバに出たら、やらなきゃいけねえことがあるんだ」

 だが、ブラッドは涼しい顔で答える。

「殺す? まさか、私は忙しいんだ。そんな暇などないし、第一だるい」

「だるいって……」

 予想外の答えに、エリオットも呆気にとられる。しかしブラッドは相手の反応も無視して、平然と葉巻を取り出した。

「火、あるか」

「ねえよ」

「監獄というのは不便な所だな」

「便利な監獄の方がおかしいだろ」

 エリオットのツッコミを聞き流して、ブラッドはマッチで葉巻に火をつける。

「燃えさしをその辺に捨てるな! 火事になったらどうすんだ!」

 あわてて拾い上げるエリオットを見て、ブラッドは笑みを浮かべた。

「おまえ、見かけの割に几帳面だな」

「何しに来たんだよあんた……」

 葉巻をくゆらせるブラッドに、エリオットは困惑した様子。

 

 しばらく無言の状態が続いて、沈黙に耐えきれなくなったエリオットが尋ねる。

「あんた、忙しいんじゃねえのかよ」

「うむ、そろそろ本題に入るか」

「……」

 エリオットが身構える。

「誘いに来た。私の下で働け」

「働くって、何をすんだよ」

「茶番だ」

「……茶番?」

 これまでで一番困惑した様子のエリオットに、ブラッドは手を差し伸べた。

「私とおまえで茶番をしよう。この世界がひっくり返ってしまうような、最低最悪の茶番を、だ」

「……」

 エリオットは腕を組んで黙り込む。ブラッドに言われた意味を、考えているようだ。

「つまりこういうことか? 俺をここから出して、あんたとふたりで大暴れしてやろうって」

「まあ大体そういうことだ」

 適当に答える。

「正直、あんたが何者なんだか分からねえ。だが、その話に乗ってみるのは悪くねえ」

「だろう」

 ブラッドはうなずく。そう答えると、最初から分かっていたように堂々としている。

 なので、エリオットが続けたセリフは予想外だった。

「――だが、ひとつだけ条件がある」

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