贋作 スペードの国のアリス   作:汐留ライス

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J is for Jail. (3)

「条件だと? 金か、女か。何でも言ってみろ」

 尋ねるブラッドに、エリオットは首を横に振る。

「そんなんじゃねえよ。ただ、もし俺が死んだら――俺の時計を、壊してほしい」

「……」

 この世界の住人達は、心臓の代わりに時計で動いている。そのことはブラッドも知っているし、自分が殺した相手の時計を残像が回収するところも何度か目撃している。

(だが、その時計を壊せというのは)

 ブラッドには理解しがたいが、彼にとっては何か特別な意味があるのだろう。

「よかろう。お安いご用だ」

「頼んだぜ! 約束だからな!」

 ブラッドの両手を取って、ぶんぶん上下に振る。手錠を掛けられたままなのに、異常なほどの怪力だ。

「交渉成立だな。そうと決まればこんな場所に長居は無用だ」

 ステッキで叩くと、手錠は簡単に壊れる。これもブラッドが想定していた通りだった。

「おおっ、すげえ!」

「行くぞ」

 独房を出ると、慌ててエリオットが後についてくる。あとはこのまま帰るだけなのだが。

(そこまで都合よくはいかないか)

 帰る途中の廊下。一本道をふさぐように看守が立っている。

 

「そこをどけ」

 ブラッドは一応言ってみたが、当然ながら看守は動かない。

「ご冗談を。その男――エリオット=マーチは友人の時計を破壊した大罪人。まだ刑期が10万時間帯以上残っています」

「私の知ったことではない」

 そんな言い分が通るはずもなく、警棒を構える看守。

「抵抗するようでしたら、あなたも収監することに――」

 看守の言葉を遮る銃声。撃ったのはブラッドではなく、その後ろにいたエリオットだ。

「なぜおまえが銃を――」

先刻(さっき)渡した」

 平然と答えるブラッド。

「このままで済むと思うな――」

 さらに続く発砲。肩を足を腹を正確に撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちる。まだ怒りが冷めないのか、完全に動かなくなった看守を蹴り続けるエリオットを、ブラッドが止めた。

「遊んでいる場合ではないぞ」

 今度は出口の方から、何十人もの警備員達が押し寄せてくる。どうやらブラッド達が話していた間に体勢を整えて、様子を窺っていたようだ。

「突っ切るぞ。途中で撃たれるなよ」

「へっ、顔なしなんかにやられるような俺じゃねえよ」

 そう言って、銃を手に突進するふたり。警備員達もまさか正面突破してくるとは思わなかったのか、反撃も忘れてある者は的になり、ある者は逃げまどう。

「なあ、ブラッド!」

 走り抜ける途中で、エリオットが叫ぶ。

「あんたの言う茶番ってのは正直よく分かんねえけど、これ面白えな!」

「それはよかった」

 こうして帽子屋ファミリーに貴重なNo.2が加わった。

 そしてこれをきっかけに、ブラッドは世界との戦いを本格化させる。

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