アリスの困惑をよそに、動物大集合とエースのやり取りは険悪さを増していく。
「事情はだいたい分かった。けどアンタらが後から引っ越してきたんだ、ここは宰相さん――そっちも宰相さんか、黒の宰相さんに従うのが筋なんじゃねえの?」
「くだらないですね。それに僕達の方がアリスとの付き合いは長いんです。新参者はおとなしく引っ込んでいなさい」
「……」
ボリスとペーターはどちらも臨戦態勢で、一触即発の状態。シドニーとエースも互いを牽制しながら身構えて、いつ撃ち合いが始まってもいいように備えている。
その一方で、アリスはボリスの言葉が引っ掛かっている。
(黒の宰相さん……)
もちろん白ウサギで宰相でもあるペーターとの対比で言ったのだろうが、その言葉にアリスは強い既視感を覚える。
(黒……ブラック……)
考えてはいけない。思い出してはいけない。思考のどこかで警鐘が鳴る。しかしそう思えば思うほど、頭の中では強く意識されてしまう。負のスパイラル。
(…………)
「危ないから、アリスはこっち」
思考の渦からアリスを引っ張り出したのは、ボリスだった。
「あ……」
気が付くといつの間にかボリスとシドニー、ペーターとエースの二陣営に分かれていて、本格的な衝突は避けられない状況。
「ちょっと、何するつもりなのよあなた達!?」
「何って、見りゃ分かるだろ。危ないことだよ」
(そりゃ、この世界にいたら嫌でも分かるけれど……!)
危ないことなら日常的に起きている世界だ。アリスだってこれまでに何度も巻き込まれている。
(だからって……)
これまで親しくしてきたボリス達やペーター達が争うところを見たくない。そしてそれ以上に、傷つくところを見たくない。
(止めなきゃ!)
手を引くボリスに抗おうとしたところで、逆の手をペーターに掴まれる。
「勝手なことをしないでください。アリスを守るのはこの僕です」
血走った目でボリスを睨む。ペーターの目は元々赤いが、今はそれ以上に殺気が伝わってくる。
「離せよ。嫌がってるだろ」
「あなたが掴んでいるからです」
(ど、どっちも嫌なんだけれど……)
正確には両手を引かれている状況が嫌なのだが、とても言える空気ではない。
「あはは、男の嫉妬は醜いぜ?」
「それは同意します」
「あんた達は止めなさいよ!」
横で傍観しているエースとシドニーに怒鳴るけれど、肝心なところで役に立たない。ましてそれぞれの兵士達が割って入れるはずもなく。
(痛いって言ったら、手を離してくれるかしら)
一瞬思うが、そんな大岡裁きを期待できる連中ではない。