贋作 スペードの国のアリス   作:汐留ライス

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K is for Knight. (3)

 ペーターとボリスに両側から腕を引かれて、文字通り右往左往するアリス。

「さっさと離せよ、白の宰相さん!」

「それはこっちの台詞です! アリスが嫌がっているでしょう!」

(どっちも嫌なんだけど……)

 ふたりのことを嫌いなわけではないが、肩が外れそうなくらい引っ張られて嬉しいはずがない。

(これ、いつまで続くのかしら)

 延々と続く争いに、いい加減アリスがうんざりしてきたところで。

「どいて、どいてー!」

 後ろから声がするが、両腕を掴まれているので振り返れない。

「何、何が起きているの?」

 ふたりに尋ねても、引っ張るのに夢中で耳に入っていない様子。そして、背中に衝撃。

 どすん。

「きゃあ!」

 後ろから何かがぶつかってきて、アリスは弾き飛ばされる。

(痛い……でも、引っ張られるのからは解放されたから結果オーライかも)

 起き上がってから改めて振り向くと、そこにいたのはひとりの少年。

「あら、エース」

 エースといっても大人のエースではなく、ダイヤの国でもよく会っていた少年の方。アリスにぶつかった拍子に転んだのか、尻餅をついたままで文句を言う。

「だからどいてって言ったのに」

「いや、なんで遠くから走ってきてぶつかるのよ」

 普通は途中で気付いてよけるはずだ。

「走っているうちに勢いがつきすぎて、止まらなくなっちゃったんだよ」

「あなたに普通を求めた私が悪かったわ」

 非常識なエースの言い分に半ば呆れるが、いつも通りの態度でもあるので、アリスは半ば安堵もする。

 しかし、その安堵はペーターには伝わらなかったようで、血相を変えて飛んできた。

「アリス、ああアリス! 大丈夫ですか? こんな雑菌だらけの土をつけられて」

「やめなさい」

 土の中にたくさんの菌がいるのはアリスも知っているが、雑菌と言われてしまうといい気はしない。

(ペーターの潔癖症は相変わらずなのね……)

 直ってほしいところは変わらないのに、このまま続いてほしいことばかり変わってしまう。引越しのように。

「……」

 その一方でペーターは無言で立ち上がると、持っていた懐中時計を銃に変えてエースに迫る。

「おまえのような下賤の者が、アリスに雑菌をつけた罪は重い。死をもって償いなさい」

「え」

 突然銃を向けられたエースは、事態を把握していないのか呆然とペーターを見上げる。

「やめなさいよペーター! その子、エースなのよ?」

「エース君? ……ああ、そういうことでしたか。それでしたら、なおさら殺してしまいましょう」

(逆効果だった)

 考えたら、ハートの騎士のエースもペーターは嫌っているのだ。子供のエースだって容赦するはずがない。

 そして騎士のエースは、いつの間にか姿を消している。また放浪の旅に出たのか、それとも子供の自分と顔を合わせるのを避けたのか。

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