ペーターとボリスに両側から腕を引かれて、文字通り右往左往するアリス。
「さっさと離せよ、白の宰相さん!」
「それはこっちの台詞です! アリスが嫌がっているでしょう!」
(どっちも嫌なんだけど……)
ふたりのことを嫌いなわけではないが、肩が外れそうなくらい引っ張られて嬉しいはずがない。
(これ、いつまで続くのかしら)
延々と続く争いに、いい加減アリスがうんざりしてきたところで。
「どいて、どいてー!」
後ろから声がするが、両腕を掴まれているので振り返れない。
「何、何が起きているの?」
ふたりに尋ねても、引っ張るのに夢中で耳に入っていない様子。そして、背中に衝撃。
どすん。
「きゃあ!」
後ろから何かがぶつかってきて、アリスは弾き飛ばされる。
(痛い……でも、引っ張られるのからは解放されたから結果オーライかも)
起き上がってから改めて振り向くと、そこにいたのはひとりの少年。
「あら、エース」
エースといっても大人のエースではなく、ダイヤの国でもよく会っていた少年の方。アリスにぶつかった拍子に転んだのか、尻餅をついたままで文句を言う。
「だからどいてって言ったのに」
「いや、なんで遠くから走ってきてぶつかるのよ」
普通は途中で気付いてよけるはずだ。
「走っているうちに勢いがつきすぎて、止まらなくなっちゃったんだよ」
「あなたに普通を求めた私が悪かったわ」
非常識なエースの言い分に半ば呆れるが、いつも通りの態度でもあるので、アリスは半ば安堵もする。
しかし、その安堵はペーターには伝わらなかったようで、血相を変えて飛んできた。
「アリス、ああアリス! 大丈夫ですか? こんな雑菌だらけの土をつけられて」
「やめなさい」
土の中にたくさんの菌がいるのはアリスも知っているが、雑菌と言われてしまうといい気はしない。
(ペーターの潔癖症は相変わらずなのね……)
直ってほしいところは変わらないのに、このまま続いてほしいことばかり変わってしまう。引越しのように。
「……」
その一方でペーターは無言で立ち上がると、持っていた懐中時計を銃に変えてエースに迫る。
「おまえのような下賤の者が、アリスに雑菌をつけた罪は重い。死をもって償いなさい」
「え」
突然銃を向けられたエースは、事態を把握していないのか呆然とペーターを見上げる。
「やめなさいよペーター! その子、エースなのよ?」
「エース君? ……ああ、そういうことでしたか。それでしたら、なおさら殺してしまいましょう」
(逆効果だった)
考えたら、ハートの騎士のエースもペーターは嫌っているのだ。子供のエースだって容赦するはずがない。
そして騎士のエースは、いつの間にか姿を消している。また放浪の旅に出たのか、それとも子供の自分と顔を合わせるのを避けたのか。