殺意をむき出しにして銃口を向けるペーターと、向けられている状況を把握できていない子供のエース。
一触即発の状態で、シドニーが最初に動いた。
「待て。不本意ではあるけれど、その子は我が城で預かる身。勝手な手出しは許さない」
「はっ! おまえの許しなど必要ない。僕が許しを請うのはこの世界でただひとり、アリスだけです!」
「いやビバルディにも請いなさいよ」
直属の上司に許可を取らないのはいかがなものか。
「さて、そろそろ移動しようかしら。クリスタとビバルディは忙しいみたいだし、帽子屋屋敷の様子も気になるし」
「え、あいつらは?」
ボリスが指さす先では、ペーターとシドニーが熾烈な銃撃戦を繰り広げている。
「死になさい!」
「こっちの台詞だ!」
ハートとダイヤ、それぞれの兵士達もうかつに介入できず、流れ弾をよけるので精一杯。
「あのふたりなら、実力が拮抗しているから大丈夫でしょ。どっちも大きなケガはしないわ」
「まあ、確かにそうだけど……」
むしろ力量差のある方が危ない。強い側が圧倒的に有利だし、弱い側も死に物狂いで向かってくるから、どちらが勝ってもケガを負う可能性は高い。
アリスは一般論で言ったつもりだったが、ボリスは違うところを指摘してきた。
「ずいぶん詳しいんだね。黒の宰相さんもそうだけど、白の宰相さんのことも同じくらい」
「……っ」
とがめる口調ではない。気まぐれなチェシャ猫は、ただ気付いたことを口にしたにすぎない。だから余計に深く刺さる。
(クローバーの国、ダイヤの国と引越しを繰り返して、さらに名前も知らない別の国へ来ても、まだ私は……)
ペーターのことを引きずっている。
より正確に言えば、最初にペーターに連れてこられた、ハートの国を引きずっている。
「……行きましょう」
深く考えると泥沼にはまりそうなので、断ち切るように争いに背を向ける。
「俺も行く」
「え?」
アリスとボリスの間に入ったのは子供のエースだった。
「ここに残っててもヒマだから」
「……まあ、ここにいるよりは安全か」
ボリスが同意して、アリスも拒む理由はない。
背後からは、まだペーターとシドニーの撃ち合う音が聞こえてくる。どちらもエースがいなくなっていることには気付いていないようだ。
「それじゃ行きましょうか。戻ってくる頃には、クリスタ達の話し合いも終わっているでしょう」
「うん!」
こうしてハート/ダイヤの城を後にした三人は改めて向かう。
やはりハートの国の面影を強く残した場所、帽子屋屋敷へと。