……
…………
………………
「…………」
「……あれ?」
アリスは辺りを見回す。
(私、今ボリスの部屋にいたような……。いや、確か森にいたはず……)
今いる場所は、そのどちらでもない。
だけど、見覚えはある。
木もキノコも建物もない、ただもやもやした空間だけが果てしなく続いている。
(これって、夢の中よね)
「その通り」
突然空中に姿を見せた人影も、見知った相手。
「……ナイトメア」
ハートの国にいた頃から、長い付き合いが続いている夢魔。
クローバーの国で領主だったナイトメアや、ダイヤの国で駅長だったナイトメアとは別の存在。
(別っていうか、同一人物だけど同一じゃないっていうか……。でも声は一緒だし、ああ、ややこしい)
「そこはあまり深くツッコまないでほしいんだが」
(……勝手に心を読まないでよ)
そう、どのナイトメアにも共通しているのがこの能力。相手の心を読んでしまう。
「勝手に、と言われても仕方がないだろう。自然に聞こえてしまうんだ」
「幻聴よそんなの。耳鼻科にでも行きなさいよ」
声に出してはっきり言うと、ナイトメアは空中で顔をしかめる。
「ぐっ……、私にこれ以上通院履歴を増やせと言うのか」
「何が通院履歴よ。どうせ病院になんて行っていないんでしょう」
病弱なくせに病院嫌い。それがナイトメアたちのもうひとつの共通点だ。
「君は少し危なっかしいところがあるからね。目を離すとおかしな方向へ進もうとするから、軌道修正させてもらった」
ナイトメアは善意から言っているのだろうが、アリスは保護者目線の物言いが気に食わない。
(自分の方がよっぽど子どものくせに)
「なっ、私は大人だ! タバコだってたしなむし、珈琲はもちろんブラックだ! どうだ、大人だろう。えっへん」
確かに水タバコのようなものを吸っているところは、何度か目にしているのだが。
「むしろタバコや珈琲で大人とか、その発想が……」
(……ガキっぽい)
明言を避けても、心を読めるナイトメアには意味がない。
「うううう~~」
ナイトメアはくやしさのあまり歯噛みして、そして――
「ぐはっ」
吐血した。
「だから、どうして都合が悪くなると血を吐くのよ!」
「都合が悪くて血を吐くんじゃない。精神に負担がかかると、身体のバランスが乱れて血を吐くんだ」
「どっちにしても病院に行きなさい!」
最初にナイトメアの吐血を見た時は大慌てしたアリスだが、今ではすっかり慣れてしまった。
「嫌な慣れっていうのもあるのね」
「……そこはせめて、思うだけにしておいてくれ」
夢魔はいちいち面倒くさい。