贋作 スペードの国のアリス   作:汐留ライス

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F is for Fiddle. (2)

「やめやがれえええ!!」

 両手に銃を構えたボリスが、ゴーランド目がけて乱射する。

「ちょっと、ボリス!?」

 ゴーランドもとっさに身をよじって直撃は避けたが、持っていたバイオリンは粉々に砕け散った。

「ああっ、なんてことしやがる! 楽器に対する冒涜だぞ!」

「うるせえ! あんたが弾いてる方が、よっぽど冒涜だろうが!」

「どこがだよ!?」

「そもそもあんた、美術館で何やってんだよ! 鑑賞なら黙ってしやがれ!」

 ボリスの指摘はもっともだが、言われたゴーランドは平然と答える。

「あん? 分かってねえな、ここは芸術作品の集まる場所だぜ? 俺が最高の作品を提供してるんだろうが」

 そしてゴーランドの手には、いつの間にか新しいバイオリンが。

「たらら~♪」

「歌うな!」

 ボリスが再び発砲して、バイオリンを破壊する。

「何が最高の作品だ? 客どもがみんな逃げてったじゃねえか!」

「芸術を分かってねえよな」

「あんただ、あんた!」

(遊園地で何度も見たやり取りだわ……)

 ゴーランドとボリスの不毛な言い争いを見て、アリスは強い既視感を覚える。

 実際、ハートの国ではアリスが遊園地を訪れる度にこんなやり取りをしていた。

 だが、決定的に違う点が一つある。

(この二人、初対面なのね)

 アリスがダイヤの国で初めてボリス達に会った際、彼らはアリスのことを覚えていなかった。忘れたのではなく、そこがアリスに会う前の世界だったから。

 それと同じように、このゴーランドとボリスは会ったことがなく、言動の端々から相手への不信感が伝わってくる。それは遊園地の二人からは感じなかったこと。

「……」

 そのことに気付いてしまい、アリスは強い淋しさに襲われる。それはつまりこのゴーランドが、アリスも覚えていないことを意味するのだから。

(私はこんなに覚えているのに)

 

 ゴーランドがボリスを、そして自分を覚えていないことに淋しさを感じつつも、今はそれより先にやるべきことがある。

「ちょっと、やめなさいよ二人とも! お客さんやスタッフさんの迷惑でしょ?」

「うおっ!?」

 強引に射線へ入ってきたアリスに、二人が慌てて銃を引く。

「何やってんだよアリス、危ないだろ!」

「危ないのはあなた達でしょ! 美術館で銃なんか撃ってんじゃないわよ!」

「アリスの言う通りだな」

 背後で声。振り向くと大柄な男が立っていて、その後ろには別の長髪の男もいる。

「ジェリコ! ユリウス! 無事だったのね!」

 アリスの声に、大柄な方が相好を崩す。

「おう、俺があれくらいの相手に……ああ、引越しのことか」

 『ドードー鳥』ジェリコ=バミューダ。

 美術館の館長でありながら、墓守頭、そしてマフィアのボスまで兼ねている。今まで館内が大変なことになっていたのに顔を出さなかったのは、マフィアの仕事で外出していたからのようだ。

「と、そんなことより――」

 そのジェリコは体格に似合わないすり足で音もなくゴーランドへ近づく。

「俺は言ったよなあ? 出掛けてる間、おとなしく留守番しとけって。留守番役が揉め事を起こしてどうするんだ、あァ?」

 ゴーランドの肩に腕を回して引き寄せる。ガタイのいい男同士が顔を寄せ合う絵面は、見ていて暑苦しい。

「いや、新しい芸術作品を提供しようと思ってだな……」

「ただの騒音を作品とか呼んでんじゃねえ! 今度客に迷惑かけるような事をしたら、ここから追い出すからな!」

「……すいません」

 しゅんとするゴーランドから腕を離して、ジェリコが向き直る。

「こいつはゴーランド。引越しで流れてきたみたいだから、うちで面倒見てるんだ。こう見えても、こいつ『侯爵』なんだぜ」

(それも知ってる)

 ゴーランドがアリスを覚えていなくても、アリスはゴーランドを覚えている。そしてダイヤの国での経験から、自分を知る前の相手とも新しい関係を築いていけることも知っている。

 だから、アリスは差し出されたゴーランドの手を握りながら、皮肉ではなく素直にこう言えるのだ。

「私はアリス=リデル。()()()()()()

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