子供とは調子に乗るものである。
人口の八割が何らかの特異体質、個性を持つ社会になればなおさらだ。
億万長者番付にヒーローの名が並ぶ中、成功者とはトップヒーローを指す言葉であり、将来なりたいものを聞けばほとんどの子供がヒーローと答えるだろう。
そして、そんなヒーローにならんとするならば強個性を持つのが早道なのだ。
だから子供が良個性に目覚めればそれこそ誕生日の何倍も力を入れて祝うし、個性婚などという言葉もある世の中であるので、大いに祝福する。そして、そんな価値観は親から子に伝播する。
個性がすごいやつは偉い。
その単純な真理は子供の中で固く根付く。子どもたちのカーストは個性一つで大きく変わる。
例えば爆破と言う個性を持った子供のように、周りが持て囃し、本人もまたそれに自信を感じるような個性を持った人間は増長する。
「ハァ~ッハッハッハッハッ!!!! 今日の敵も大したことがなかったなっ!!」
幼稚園生でありながら、彼もまた、増長の極みに立っていた。
なんと周りの子供達のお山の大将では満足できずに暗がりや小道、繁華街を歩き回り、ヴィランと思わしき存在を見るや闇討ちをしかけていたのである。
何の嗅覚か、運良く本当に襲った者たちはヴィランであったが、ヒーロー資格を持たない個性の行使は犯罪である。
過去はそういった自警的な行為をヴィジランテと持て囃されていたが、それもヒーロー資格が整うに従い、淘汰されている。
いや、淘汰されてないものはヴィランと呼ばれる現状であった。
そんな中彼は己の個性を伸ばすためには実践あるのみと家族が眠った夜中に抜け出しては喧嘩を売っていた。
恐ろしいのは相手がチンピラ崩れの相手であっても犯罪を経験しているきちんとしたヴィランであり、それに不意を打っているとはいえ勝っていることだ。
だが、不幸にも、その活躍が原因で彼はある存在に目をつけられることになる。
「しかし、どいつもこいつも骨がないっ! この俺様の相手にならんとは何事だっ!」
彼は"魔界貴族"の個性を持つ父と"魔女"の個性を持つ母から生まれたハイブリッドだった。
淡い青色の髪に、つんと伸びる職種のようなアホ毛。瞳は血のように赤く、ギラリと犬歯が尖っている。
冬でもないのに身長程ある赤いマフラーのがおかしな部分ではあった。
「しかし、これでは全然育たんっ。オールマイト打倒など夢のまた夢ではないか」
彼には夢があった。
親にもまだ言っていない夢だ。
そしてそれはオールマイトを超えたときに宣言しよう、そう思っていた。
だからこそさっさと彼を超える力を得たい。
そう思っていたのだが、なかなかに目標が遠い。
確かに自分は周りの大人相手であっても勝てる。
しかし、武闘派のヒーロー相手と比べれば自信がない。
オールマイトなんて小指一ついらないだろう。
それがわかってしまうだけに余計に歯がゆかった。
彼の気持ちを知ればきっと大人はヒーロー資格を得るまでに強くなればいいんだよと彼を諭しただろうが。
「オールマイト打倒、それが君の夢かい?」
ゾクリ。
暑いくらいの初夏の季節に、けれど世界の温度が急に凍えたように下る。
体が大きく震えだし、弾かれたようにバッと後ろを振り返る。そこにはスーツを着た一人の男が立っていた。
見た目自体はどこにでもいそうなのに、彼から放たれる空気はあまりに異質だった。初めて感じるそれに気圧されてしまい、一歩じりじと下がってしまいそうになり、
――ぐっと相手を睨みつけ、その場に留まった。
目で見なくてもわかった。
こいつは本物だ。
己のような個性で持って保証された存在ではなく、あり方事態がそうなのだ。
そしてそれがわかったからこそ、ひいてはいけないのだ。
自分こそが本物になるのだから。
「初めまして――魔王ラハールくん?」
男は怖気が走る笑顔を浮かべてそう言った。
GWなので、書き溜めていたけど公開してなかった短編です。