「僕にもね、夢があるんだ」
立っているだけで精神を削られる中、それでも同種の敵に会ってしまったからにはと不敵に笑う。
魔王とはそういうものだからだ。己の危機にこそ、気高くなくてはいけない。
「ほう、言ってみろ」
こちらの様子を気にする様子もない。
目の前にいるのが見えているのか疑問に浮かぶくらいに、好きに喋りだす。
「今の子供は誰もがヒーローに憧れるんだろう? 僕はね、幼い頃に読んだコミックに登場する「悪の魔王」に憧れたんだ」
どこかねっとりとしたその夢は己の夢と似ていて、少しだけ違うようだった。
目の前に立つ相手の瞳を見る。
おぞましい闇をはらみながらもどこか純粋だった。
星のない夜のような吸い込まれそうな色をしていると思った。
目が合うことで、近所の女から会得した個性が発動する。
【個性:オール・フォー・ワン
他者から〝個性〟を奪い、己がものとし、ソレを他者に「与える」ことのできる個性】
……なんとまあ。
個性こそが己のアイデンティティとなっている世の中で、なんと絶対的な能力だ。
盗むだけではないあたりがこの男の魔王たるゆえんだろうと納得した。
「なるほど。お互い魔王を望みつつも少し違っているようだな」
「へえ。気になるな」
ここで初めて目の前の男はラハールに興味を示したと言わんばかりに手で続きを促してくる。
「キサマは真の勇者に打倒される魔王だろう? オレさまは魔を統べるものという意味での魔王なのだ。この超常社会で生きるほぼすべての人間が魔を持つもの。ならばオレさまこそが魔王となり、世界すべてを従えてみせる」
「……それこそ魔王は勇者に倒されるんじゃないかい?」
「この俺が勇者ごときに負けるかっ!」
そう、目の前の男はいつか打倒される魔王を目指しているが、自分は統治者になろうとしているのだ。
この個性社会すべてを統べる王として。
「ふふっ、なるほど。魔王の個性と聞いて手に入れるのも悪くないかと思ってきたけれど、僕の敵を待つ間の相手としては面白いか」
「ふんっ、ここで殺しておかなかったことを後悔するぞ」
「そうかい。させてくれよ」
そうして男は瞬きを一つする間に消えていなくなってしまった。
いいだろう。キサマがヴィランの中で魔王として降臨しているというのなら。
オレさまはキサマの敵としてヒーローになってやろう。
歯ごたえのない人生だと思っていた。
絶対的な力を得て、夢を大きくして困難を作っただけの退屈な一生だと思っていた。
ああ、なるほど。
ヒーローには敵が必要だ。
喉の奥から笑いがこみ上げてくる。
我慢ができず、口から溢れる。
「ハァ~ッハッハッハッハッ!!!! いいだろう、オール・フォー・ワン! キサマはオレさまが相手をしてやろう。光栄に思うがいいっ!」
腕組をして、高らかに笑う。
夜であったことを忘れて。
ヒーローが飛んできたので、闇を駆けた。
これは魔王の個性を持ったものが本当の魔王になるまでの物語だ。
~~になるまでの物語だ。とつけておくときれいに終わる感。
短編なのでここまでです。