~日本・美柚樹社員寮室~
美柚樹「おお? 電話だ。はーいもしもし」
ハルウララ『あ、美柚樹さーん! 元気?』
美柚樹「あーウララちゃん。元気よー。どうしたの?」
ハルウララ「あのね。私ちょっとみんなに恩返しがしたくて・・・今度のレース、動画にあげられるようマンノウォーさんに頼んでみるから、みんなに見せてほしいんだ」
美柚樹「ほうほう? そこを詳しく・・・ああ、なるほどなるほど・・・了解。ありがとねウララちゃん。それじゃ、朝早くにお疲れ様。レース頑張ってね。・・・・・・リボー、いいかしら」
リボー「なに? ・・・ほーちょうどいいわ。これちょっと企画に絡めてみましょっか」
~キングヘイローSide~
「ふぅ・・・いい仕上がりじゃないですか~? 前よりへばるまでの時間が伸びていますよ」
「あ、ありがとうございます・・・・・・ぐ・・・」
「おいおいキング。無理はするな」
「だ、大丈夫ですわ・・・」
カラッとした、日本よりも乾燥した熱気の中身体が限界を迎えて思わず座り込み、胃の中からすっぱいものがせりあがりそうなのを抑えつつ、どうにか体を起こす。近藤トレーナーが心配そうにしていますがもう何度も見た光景でしょうと目でいいつつそのまま日陰に移動して休む。
アメリカに来てはや二か月・・・アメリカ全土をまたにかけた条件戦からGⅠレベルの短距離、マイルまであらゆる場所で走り尽くし、その合間合間に来る地獄のような特訓。
フォグさんも一緒に練習に付き合うのだが自分にまけない走りを見せて尚へばらない。一緒にアメリカ横断レースの旅をしているというのに疲れの色を見せない。リボーさんやサンデーさんもそうですが・・・これが本当の一流。まさしく時代の頂点に立つものなんだと、一流と口にしても憚れない怪物とはこういう者なんだと思い知らされる毎日です。
「じゃー3日後のGⅡレース、私の名前を関したレースには出走登録してますので~限界まで追い込みますし、その後にある10日後のGⅠレースも出ましょうか」
「ちょちょちょっ!? 待ってくださいフォグさん!?」
「なんです~?」
「さ、流石にこれ以上は・・・! キングももう3週連続の短距離レースで優勝もしていますし、一度休んでも」
「大丈夫ですわよトレーナー・・・この程度でへばりませんわ。私は・・・」
本人も走った後だというのにかぶっている帽子の下で涼し気にレースの予定を組んでいく。近藤トレーナーも止めようとしているが私はそれを制する。望んでアメリカに来たのは私達。ウララさんも頑張っている中で私たちが足を止めるのは許されない。
信じて送り出してくれたリボーさん、サンデーさんたちのためにも、アメリカでも元気でいてほしいと保存食や日持ちする食べ物を作り、ケアをしてくれた美柚樹さんたちのためにも・・・
「ふー・・・まあ、近藤トレーナーも一つ休みつつ話を聞いてください。キングさんを見てね。私少し思ったんですよ~才能は文句なし。努力も怠らないまさしく最高レベルの原石の一つですよ~でもね。リボーさん、サンデーさんがウララちゃんをダート天国のアメリカに行かせるのはまだしも、キングさんも行かせるのか、私に頼んだのか。その理由が分かったんですよ」
黒鹿毛の長い髪をゴムで後ろにまとめ、帽子をうちわがわりにぱたぱたと仰ぎ水を飲むフォグさん。私がアメリカに送られた理由・・・
「設備も日本ならそもそも中央トレセン学園所属。キングさんの家柄と名前を使えばいいものが用意できるし、ファンのエールをもらって背を押してもらうこともできる。追い込むことが出来る。GⅠレベルのレースであれ程戦えるしそれこそ日本の方が鍛えるには適しているでしょう。でも、私に預けた理由は心でしょうね~」
「心・・・ですか?」
「ええ? でもキングの精神の強さと根性は並じゃないですよ!?」
レース場のそばに座りつつもストレッチでほぐし、空を見てどこか遠くを見ているフォグさん。昔を思い起こしているのだろうか。それと同時にまだ走ることはあると感じた私も身体を軽くほぐして固まらないようにしておく。
「ええー心も強い。けど、心のどこかに負け癖がついているのと、プライドが高いゆえに勝てる策を持ってもどこか踏み出せない。あれこれとやろうとしても泥臭さの極致に行けないんですよね。同期にすでに自分らしさを出して勝利したりしているのに自分だけらしさをかなぐり捨てるなんて。とか、身体が癖になっているんですよ。セクさん、サンデーさんたちと戦ったメンバーでどこか心が折れている子たちと同じものを私は感じました」
「・・・私は、いつの間にかどこかで負けるかもと考えていた・・・それが足を引っ張っていたと?」
「座学もレース運びもいいのに負けている。映像も見ましたがいい走りと素質があるのに負けはどの距離でもとなると日本国内で悪循環になるかもと考えたのでしょうね~だから、一度日本から離れる。レース環境も対戦相手も何もかもがここでは違う」
確かにレースに関していえばどんどん成績が落ち込んでいたし、更に言えば最近はようやく掲示板入りしても4、5着がせいぜい・・・オーバーワークになり気味になったり、レース前の不調に焦って悪循環になったりとで・・・日本は何もかもが充実している一方でしがらみも多かったと思うのは事実だ。
けど、アメリカではウマ娘もレースの間隔も違っていて、そこで自分を知らしめてやると、あるいはちょっとしたイベントでシンプルにレースを楽しんだりで・・・小さい頃を思い出せたときもあった。ある意味いい息抜きにもなっていたかもしれない。
「日本とは違う環境で一度戦い続けてその負け癖の心を潰すくらいに勝利を味わい、味わうために鍛えまくる。そのためのハードな訓練も、レースの数もアメリカは用意できます。三冠からしてタフさが求められる場所です。キングさん。ここで戦い続けなさい。貴女の負けん気とプライドを研ぎ澄ませ、勝負勘をより磨きなさい」
「言われなくても! 必ず私より先に勝ち進んでいったライバルの皆さんにリベンジをするためにも負けませんわ!!」
「そうです。貴女の作ろうとしていた栄光の王冠をここで作りなおして、どこかで踏んでいたブレーキを壊しなさい。泥まみれだろうとへとへとだろうがゴールにかじりついて戦いなさい。アメリカでリフレッシュと鍛え直しとはいえアメリカのウマ娘たちもパワーとタフさは伊達じゃないですしダートも芝も日本に負けないほどの高速バ場。帰国する8月まで走り倒しますよ~」
失われた栄光を取り戻せる。そう言われて燃えないはずがない。このチャンスを無駄にはしない。回復してきた手足に力を入れ、吐き気もおさまって大きく息を吸いながら立ち上がる。
「もちろんですわ! 5週連続レースもあと折り返し! こなせば5連続重賞制覇!! エルさん達にも負けない記録を手にしていけますもの!!」
「よし! キング。もうひと踏ん張り行くか!! 目指すは日米レース最優秀ウマ娘だ!」
「その意気ですお二方~♪ それじゃー軽く流した後にすぐに飛行機に乗って移動。レース場の間隔を確かめつつそこでディナーとケアをして挑みますよ~酸素カプセルにアロマも充実している選手御用達のいいホテルですし楽しめるでしょう」
さらりと過密スケジュールを笑顔で伝えるフォグさんにちょっと驚きつつも「これくらいならまだいい方ですよー」というので抑える。アメリカを横断した短距離王。彼女の元でキングとして強さを磨きまくってやるんだから!
マンノウォーさんに鍛えられているウララさんも今どうしているのでしょうか。気になりますわ。
~美柚樹Side~
今日はちょっと商店街会長さんに頼んで店の皆さんを集めてちょっとした依頼を頼むために足を運びます。ここの八百屋さんは私の農園の野菜を積極的に仕入れてくれますし、料理店の皆さんもウマ娘たち御用達の美味しいご飯が多い。なので私とも仕事のつてだったり、互いに料理研究のために会う機会も多い。なのですんなりと集まってくれたのが幸い。
商店街の八百屋さんは時間もあってもう閉まっているのでそこにパイプいすを並べてもらい、私も裏口からノックをして入る。
「皆さんこの度はお集まりいただきありがとうございます。お仕事でお疲れの後だと思いますのでささっと本題に入らせてもらいます。今年のトレセン学園の合同合宿においてなんですが皆さんに食品や嗜好品、チームTシャツ、タオルなどなどを用意してもらいたいのです」
そして本題を切り出しつつ夏の合宿の企画とそこに商店街の皆さんの力を借りるために来たと言えばみんな驚きつつも大口の依頼にどこか喜色を見せる。
「すいません美柚樹トレーナー。具体的にはどのようにするのでしょうか?」
「ええ。今回私たちはトレセン学園の所有する施設などで複数のチーム、トレーナーと個人契約しているウマ娘などで合宿を行うのですがその際に昼食、弁当などの用意、場合によってはこの期間の間雇って施設で調理を手伝っていただくかと思います」
「シャツに関しては?」
「既に学園の方でデザインは決定していて今は色などのバージョンでアンケートを取っていますね。タオル含めて大体3000円くらいですが既に数百名は購入を確定させているのでかなり大口になるかと」
しかもまあ学園有数の実力派チームリギル、スピカ、カノープス、Nなどなどが決めている。後リボーたちも喜んで頼んだこともあったりしたので後から欲しいと服屋さんにも依頼が来るだろうと言えば嬉しそうな笑顔を浮かべる。学園の近くなのでまだまだ活気はあるほうとはいえ、すたれつつある商店街に来た大口依頼。
私の実家から野菜を買ってくれる八百屋さんもいるし、ここらへんでうまい具合に刺激を与えられたらと思っていたのでこの機会に楽しませていきたい。
「八百屋さんやお肉屋さんなどの食品関係のお店ですが、市場で競り落とした食材をここにこのくらい送ってほしいです。予算以上になった時はこちらでカバーできるよう理事長からも許可をいただいています」
「お、おお・・・! これはすごい・・・全盛期の売り上げを優に超えるほどだ・・・!」
「ま、待ってください! 本屋さんや雑貨品店などには何か・・・」
「本屋さんは最後になりますが、雑貨品店さんに関してはこの備品、寮で使う備品の再点検と入れ替え、補給を行います。評判と値段次第では学園の学生、社員寮で使う備品にも契約を取りたいとも言っていましたね」
まあ、学園から近いし運送費用も浮けばアクシデントがあってもカバーしやすいからね。今回の合宿で品選びのセンスを見せて、そこから学園で長く契約をできるようになるチャンスを与える。生徒2000名以上。社員寮も300名を超えるマンモス学園のお風呂場のシャンプーやタオル。掃除用具などの発注先になれるという言葉に雑貨屋さんが何か口が開いたままふさがらなくなっている始末だが大丈夫だろうか?
「そして最後に本屋さんですが・・・あー・・・すいません。確かプロジェクターってありましたっけ? 商店街会長さん」
「ああ。あるよ。これでレンタルしてきたDVDを大画面で見るのが楽しみなんだ。あ、やすさん。手伝ってくれ」
そういうと一度ここを離れてから八百屋さんの店主と一緒にプロジェクターとスクリーンを持ってきてくれる。プロジェクターをパイプ椅子に置き、スクリーンをセット。
私のスマホとつないでから映像データを入れて見せていく。そこに映っているのはレースを優勝して勝者インタビューを受けているハルウララちゃん。しかもまあ、首にかけているタオルは商店街の名前がばっちりカメラに映るようにしている。
『カルフォルニアンSを勝利。そしてこのハリウッドGCを勝利しましたハルウララ選手。日本からの遠征でGⅠ2連勝おめでとうございます』
『ありがとうございます! キングちゃんやトレーナーさん、みんなが応援してくれたからだよー!』
『可愛らしく、レース後というのに元気溌剌ですね! あのマンノウォーさんやサンデーさん、リボーさんに鍛えられ、こうして重賞レースを既に4つ手にしたわけですが、今後についての目標はありますか?』
『もちろん!! 私が目指すのはアメリカの準三冠レース! そっちへ挑むつもりです。そのためにこのレースでも勝てるように努力し続けました』
『伝説のウマ娘たちの名前を関したレースへの参加ですか! 今まで日本のウマ娘の選出たちは誰も手にできていない未知の領域への挑戦。獲得賞金も満たし、そしてあのスペシャルウィーク、エルコンドルパサーの同期としてアメリカの高みへの挑戦ですね!! では、せっかくです。日本にこの映像が流れるかもしれないですし最後にもう一言お願いします』
『スぺちゃん! キングちゃん! リボーさん! 美柚樹さん! フォグさん! トレーナーさん! 師匠!! セクさん! リムジンさん! 商店街の皆!! ウララはアメリカだけど三冠を目指して頑張るよ。時差もあってみるのは難しいかもだけど応援してね~!!』
『小さな体に秘めるガッツはこのアメリカの固い土に足跡を残せるか。桜の少女がどこまで挑めるか。アメリカンドリームをつかめるか今後が楽しみです。私も一押しのウマ娘ですしレース日すべては有休をとり・・・いや、ぜひアナウンサー、もしくはインタビューしたい所存です』
そこからはほかのウマ娘たちのインタビューを終え、スタジオに戻ることでその動画は終了した。
「今後ウララちゃんはアメリカの準三冠旧レースに挑みますし、キングちゃんも芝のGⅡ、GⅢですが連勝記録を重ねて現在アメリカで名をあげています。すでに特集も組まれていますし、雑誌も作られていくでしょう。これを発注して、売ることもできますし、ウララちゃん帰ってきたら商店街で交流会とミニライブをしたいそうです。
その際に色々と手を回してあげるのはどうでしょう?」
ウララちゃんはよく無償で、何の見返りも求めずにここの商店街で手伝いをして、人助けをしてみんなのアイドルになっていた。レースに関して勝てずとも手の空いている皆で横断幕を作り、鉢巻を巻いて法被をつけて応援するほどに。
負けても負けても笑顔で頑張っていた。そんな子がアメリカの地で大成の兆しを見せ、ここを忘れずに笑顔を見せていく。何名かは感極まって泣いている人いるし。気持ちも分かる。
「それとですが、合宿の時期あたりにウララちゃんの三冠の戦いは始まりますし。戻ってきてからも合宿というよりはバカンス、休養がてらアメリカのレースの経験を皆に話して遠征の際の助けにするでしょう。その際に商店街の皆さんの力をお貸しいただければと。彼女と学園のウマ娘たちへの一助となってくれませんか?」
大盛り上がりで応えてくれる商店街の皆さんに笑みを浮かべつつ、早速細かな打ち合わせと今後の予定。そして皆さんスポーツバーでレースを見れる場所がないかと探したりとで大忙し。
いやはや。これは暑い夏になりそうである。
ハルウララはGⅠ2勝。他はGⅢや条件戦での勝利。既にアメリカでの最優秀賞の候補に。彼女のインタビューの際後ろでマンノウォーが腕組んで嬉しそうに見ていました。
キングは芝のレース求めてアメリカ横断中。重賞5連勝記録を目指している。フォグがガイドをしてケアと休息のしやすいホテルや場所を抑えてくれているので大変助かっている。
合宿中に今まで負け続けだった子がアメリカで栄冠を手にしようと戦っている。海外遠征で実績を積んでいるのを聞かせてやる気バフ目的。
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