無敗の悪戯好きとコックさん   作:零課

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 ピクシブでの馬を擬人化した作品が名作ぞろいすぎる。ステゴ一族とはイメージぴったりだし、ゴルシ、ジャスタ、ジェンティルの三名が部屋着でいるイラストがよすぎて良すぎて。もう尊い


中央トレセン学園御用達農園

 ~美柚樹Side~

 

 

 「みんなついたわよー」

 

 

 みんなを乗せたワンボックスカーが数台並んでゆったりと移動するのは東京の田舎。なんでそこに行くのかと言えば私の実家の農園のバイトをしてくれるウマ娘たち。

 

 

 秋のレースの合間。ちょっぴりの間だけどこの期間に収穫が出来るように仕込んだ野菜の数々。この時期に大量に用意できるように育てたのはいいけども同時に人手も必要なので学生バイトを連れて私の実家への送迎中だ。

 

 

 「しかし・・・メジロ家でも取り寄せてはいましたがバイトもしていたのですねえ」

 

 

 「なんだよマックイーン知らねえのか? 遅れてんなア。学生バイト秋の稼ぎ場所ってことで有名なんだぜ? アタシらウマ娘からすればもう一つおまけが嬉しいし」

 

 

 「あはは。この時期あたりからはウマ娘の皆、みんなをターゲットにしたお店からの注文が多いからね」

 

 

 そしてまあ、ゴルシちゃんの言う通りここの農園でのバイトは肉体労働だけど給金はいい。一つはそれだけの利益が出る。秋からは天皇賞にジャパンカップ、有馬記念に東京大賞典にURAファイナル。デビューした子たちも朝日杯、阪神JFなどなどを中心に大きなレースがわんさか。

 

 

 ウマ娘の皆の体調管理のために質のいい野菜を求めてくる人は毎年だし、レースを見るファンの皆はレースが終わってからもどこかの酒場で語らうついでに飯をつまむ。そしてレースに出るウマ娘たちは勝てばチームをあげてのお祭り騒ぎだし、そのまま友人を連れて外食に行くかもしれない。

 

 

 必然外食の機会が出るし味も質もいいと来れば私の実家の農園。トレセン学園のみならず多くの場所から毎度毎度駆け込みでほしい、あまりものとか規格外でもいいから是非ともという声が絶えないのだ。

 

 

 「少し調べるとほんと何処にもお姉さんの農園の名前が出るものねえ。ちょっとでも使っているというのを見せたいのだろうけど」

 

 

 「某アイドルが食堂企画とかで来たついでに色々ファンの皆がサーチしちゃったから一気に全国区になったしねえ。そこにトレセン学園も関わるとなって、求人が一気に来たわー」

 

 

 それを気に一気に農園を大規模拡大してもはや凄いことに。なんやかんや電車で東京の都心にも行ける場所だしで便利なのよね。乗り継ぎ使ってだけど。

 

 

 「さ、ついたわよー」

 

 

 「「「はぁあ・・・・!」」」

 

 

 話していて見えるは東京に都会のイメージを抱いている人には驚くようなド田舎の光景、数件の家とそれを囲むようにできた数々の野菜畑があたりを埋め尽くし、9割7分はそれという山間の中に広がる光景に圧倒されている。

 

 

 仲崎農園。日本有数の大農園に到着ってね。

 

 

 「じゃ、みんなはジャージをつけていると思うけど一応社員用の予備の長靴に軍手、道具があるからそれを取りに行きましょう」

 

 

 「ほーい。ん? 何だこの匂い・・・」

 

 

 「? どうしましたかゴールドシップさん・・・いい匂い・・・」

 

 

 「あ、確かに? 何だろう・・・果実。ジャム? でも野菜の香りも・・・」

 

 

 母屋の方に車を止めてからみんなを下ろすと何やら匂いを嗅いでいる。土かの匂いだらけのなかだけど、何を気に・・・あーまさか。

 

 

 「ここだな! おほーなんだこりゃ? 野菜の漬物? ジャムみたいなものか? すげえいい香り・・・いっただきまーす♪」

 

 

 「ちょっ!? 勝手に美柚樹シェフの実家のものを物色されては・・・」

 

 

 「うんま! なんだこれ!? 超うめえ!! おいジャスタウェイも食べろよ! 超上質なフルーツミックスジャムだぜ」

 

 

 やっぱりというか・・・・「それ」に気づいちゃったかあ。そしてゴルシちゃんは止めきれなかったと。

 

 

 「あー・・・それね。食べても大丈夫だけど、肥料よ?」

 

 

 「ブッー!!? はあ!? これがあ?!!?」

 

 

 「ぶぇっほ! 何するのよゴルシちゃん!! もう・・・それと、美柚樹シェフ。これが肥料って・・・本当です? こう・・・ホームセンターで見る肥料とかとは色々違いすぎるというか・・・」

 

 

 思わず吹き出してしまうゴルシちゃんとその吹き出した肥料を顔面で受け止めるジャスタウェイちゃん。あーそうなるわよねえ。キラキラ光る果肉入りの金色のどろどろの液体。蜂蜜に果肉をカットして寝かせている蜂蜜酒の一種ですと言っても通じそうだし。

 

 

 スぺちゃんとかも北海道で農業の手伝いもしていたからかしら? 一番驚いている顔しているわ。

 

 

 「あーそれだけどね。ここの農園の飛躍。まあ美味しい野菜の誕生にもかかわるんだけど、この本が元なのよ」

 

 

 とりあえずジャスタちゃんに手ぬぐいとウェットティッシュを手渡しつつ家に何冊もあるある本を一つ手に取っていく。それはある作家の短編集。その作品の中にあるある短編のページを開く。

 

 

 「あら。星真一先生の。発想の柔軟さを培えるとラモーヌお姉さまから読まされましたわね」

 

 

 「この作品の中にある。とある宇宙探索をしていた探検隊がついた星。そこで食事を振る舞ってもらえるということで食料もなく飢え死になりかけていたみんなは喜ぶんだけど、もてなされた家にある壺の中身がすごくいい香りがしてね? 一人がつい我慢できず食べるの。そしたらこれが本当においしいのなんのってみんなで食べちゃうの」

 

 

 「ああ。その話は知っています。たしかそれはその星では肥料で、口直しに出された料理はさらにおいしくてみんなもう感動しちゃうやつですよね」

 

 

 「ああーあの人の作品か。昔クロスワード解きながら読んでいたっけ。で? それがどうしたってんだよ」

 

 

 流石、小説や活字に触れていくにはちょうどいいと定評のある作品。中身もオチが読めないからいいのよね。みんな知っているとは。

 

 

 「その美食の秘訣は何ぞや? と聞かれるとその星の人曰く美味しく栄養をつめたそれを肥料にしてより良い食材を作る。という方法で作っていたのよ。美味しいものと栄養を吸収した作物や家畜はよりおいしくなるという感じ。それを実際に私のおじいさんからずっと研究してきて実現させたのがこの農園の野菜ってわけ」

 

 

 まあ、その肥料には私がグルメ界、美食時代の人間界から再現したやつとかを肥料にしたり、品種改良に使ったりしてさらに良くしたものもあるけどそこは割愛。

 

 

 「小説を本当にした・・・と。事実は小説より奇なり。ですわね」

 

 

 「実際、これに関してはメジロ家も今の大奥方からも支えがあったのよ? 現役のころに美味しいものを食べたいということで私のおじい様達に投資していたとか」

 

 

 「そんなことが?」

 

 

 「メジロ家ブランドのお菓子にもいくつか関わっているのよここ。私が小さい頃にも何度も来てはお菓子を食べたりしていたわ。さ。軍手の予備と、長靴は履いたわねー」

 

 

 話しながらつい備品室でみんなに道具を渡しながら外に出る。

 

 

 「今から始めるバイトは簡単に言うと選別作業。この機械が人参を掘り起こしてベルトコンベアの上に流してくるからそれから傷のついたもの、あるいは形の悪いもの、砕けちゃっていたりモグラとかにかじられているものをはじいてもらうわ。で、リボーの所では水のシャワーやブラシ掛けしたものから傷、サイズの選別をしながら規格外品をはじいてもらう。・・・えーと大丈夫?」

 

 

 「あ、は、はい大丈夫です!」

 

 

 「え、ええ。大丈夫ですわ」

 

 

 うーん。毎度のことながら作業が始まるとウマ娘の皆は掘り起こされる人参の香りについつい意識がそっち行っちゃうのよね。基本安全な作業とはいえ機械に乗っての選別はベルトコンベアに手を深く入れすぎて巻き込まれないかとか怖いから気を付けてほしいけども。

 

 

 まあ、そこらへんは大丈夫な子たちにさせて、力仕事とかに割り振ったりしつつやりますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~リボーSide~

 

 

 「・・・・・・・農業って、こんなにむなしい部分もありますのね」

 

 

 「あはは・・・まあ、みんな奇麗な野菜を欲しがりますからね。おかあちゃんやほかの農家さんも苦労していました」

 

 

 「うちも農業視察はしたことあるけど、改めてみるとねー」

 

 

 人参の収穫作業をして、昼休みに入った私達。で、まあほとんどの子たちがちょっと食への理解を変えられそうな感じに。

 

 

 何せまあ、あれだ。野生動物に駄目にされた、腐っていた、傷んでいた。傷が大きすぎるで廃棄されるのは分かる。けど多少の傷や規格外品。大きすぎて味が悪いからという理由ではじかれる。かすり傷があるからはじかれる。形が少し曲がっていたからはじかれる。

 

 

 これを延々とどの作業工程でも繰り返して大型トラックの荷台に山盛りに乗ったものが売りに出せないと判断されていく。まあ、これも訳あり商品として売ったり、工場に売るそうだが正規の規格品と比べれば二束三文もいい値段。捨てられる量もまたとんでもない。

 

 

 手塩かけて育てて、野生動物や雑草と戦い、天候に振り回され、重労働したけど多くが水の泡になって売り物にならないものが出る。自分たちが八百屋、店で出ている野菜、食べているものが本当に一部なんだと知った子たちは多分今後食べ残しはしないかもね。基本大食いのウマ娘にその心配は少ないけど。

 

 

 「はーいみんな。今の時点で出た規格外品で大丈夫そうなのがあるから、好きなだけ持っていってー」

 

 

 「え、こ、こんなに良いんですか?」

 

 

 「どうせ余っていても工場とか激安スーパーとかで売るのが関の山のものだしアルバイト代のおまけよ。ほらほら。実家の土産とか、食堂にこれで料理してくれと言えばいいわ。うちの野菜だし洗ってから生で食べてもいいかもね」

 

 

 その声でみんな嬉しそうに人参の山に群がってカバンに詰め込んでいく。いやー・・・規格外品とはいえ世界の美食家、料理人が認める。中央トレセン専属契約のとれたての野菜とかいくらになるのよ一本でも・・・

 

 

 みんな泥で汚れたジャージで嬉しそうに群がって尻尾を揺らす様子はクリスマスプレゼントに群がる子供たちの様子を思い出す。アメリカの孤児院とかで子供たちへのサプライズで乗り込んでプレゼントを置いたりとかしたわねー

 

 

 あ、そうそう。そういえば作業しながら気になっていた場所があるんだった。

 

 

 「ねえねえお姉さん。あの土が固まっている場所? はなんなの?」

 

 

 「? あーあれね。休ませている畑」

 

 

 「でもその割には整備されているし、砂に近いでしょ? あれじゃダート。しかも色々何か道具があるし」

 

 

 「鋭いわね。一応ここも小さいとはいえ社員の皆が過ごす村があったり、地元で行われる運動会みたいなイベントもあるの。その際に休ませている畑をちょっと固めて使ったりとかしているの。最近だとーうちの末っ子が走る練習しているわ」

 

 

 「走る? ウマ娘なの?」

 

 

 「そ。まだ小学生くらいだけど近いうちに中央トレセンと地方の方で受験するわ。推薦枠狙いみたい」

 

 

 ふーむ。地元の運動イベントはいいとして、その子の適性はダートなのかしら。あと道具から見ても障害物レース向き・・・? うーん。日本だとどっちも芝に比べると恵まれた状況じゃないし、ましてや障害物はなあ・・・ダートもデビュー後しばらくの子たちにある場所は地方交流戦が多いくらいだし、障害物も海外を拠点にしていた私から見ても少ないし人気薄。

 

 

 お姉さんの妹に当たる子だし、一応才能さえあれば私からいい場所紹介するのもいいか。実家の方はデビュー前の子たちのデータ取れるぞと言えばいいし。

 

 

 「どんな子なの? 私も気になるし、障害物競走を目指す子は日本じゃ見なかったから気になるけども」

 

 

 「ちょっとまってね。オジュウ~! 前話していたリボーが来ているわよ~」

 

 

 「え!!? あの大スターが!! 待ってよお姉ちゃん! 今日のバイトで来るって聞いてな・・・っとと・・・」

 

 

 黒気味の鹿毛にやや見える白い流星。子供ゆえにまだ未発達だけど女としてもアスリートとしてもいいものを持っている肉体。それに・・・

 

 

 (あの道具の量を抱えてバランス崩してもとっさに足元だけで立て直したわねえ。凄い柔軟性とばね。いいものありそう)

 

 

 「あら。貴方はシェフの妹ですの? わたくしはメジロマックイーン。どうぞよろしく」

 

 

 「お! 何だ可愛いなお前! アタシはゴールドシップ。気軽にゴルシちゃんと呼んでくれ」

 

 

 「私がリボー。貴方が生まれる前にお姉さんにお世話になって、今もお世話になっているわ♪」

 

 

 「お、おおー・・・ターフの名優に黄金の浮沈艦。日本総大将に白銀の末脚・・・そして伝説の継承者・・・わ、私はオジュウチョウサンです! 今はここの近くの学校で勉強していますが、来年は中央トレセン学園に行けるよう頑張っています!」

 

 

 緊張しつつも頭を下げてくれるオジュウチョウサン。うーん・・・これ、やばいわね。私だけじゃ100%の確信持てないけどもサンデーが見たらおったまげるんじゃないかしら。ぱっと見でも才能がオーラになって見えるレベルで感じるってごく一部だけなんだけども。

 

 

 「ふむ・・・今度の秋休み、冬休みの時トレセンに来ないかしら? 障害物は私も経験はないけど、欧州、アメリカ、日本の芝で走ったし基礎トレや動きくらいは見てあげる」

 

 

 「い、良いんですか!? では、是非とも!」

 

 

 「良かったわねオジュウ~あ、リボー。作業を早めに終わらせることが出来れば場所貸すから、今日と明日もできれば見れる?」

 

 

 「いいわよ。仕事の息抜きになるし、学園に来る前の子たちを見るのも楽しいから。変に走りや意識が固まる前の面白さがあるというか」

 

 

 それにまあ、才能のある、それもこんな世界最高峰の宝石を見れるとなれば血が疼く。のんびりと農園で収穫作業と行くつもりだったけどウマ娘。こういうので気合が出るのは性よね。

 

 

 この後はなんやかんや仕事を早めに終えてオジュウチョウサンの動きを見て、近所で林業をしている方々の持ってきたおがくず、木片を肥料、土壌の一つ代わりにばらまいて疑似ウッドチップを作って休ませている畑の上で走ったりして愉快な時間を過ごして晩御飯もお世話に。

 

 

 出されたのは規格外品としてはじかれた野菜の数々。これを見てみんな絶対出された食事を残さないと言いながらむしゃむしゃしていたわ。食への意識改革をしたければ農業の収穫作業をやらせる。子供たちへの食育にもちょうどいいのでは?

 

 

 あと、マックイーンちゃんとゴルシ、リョテイがオジュウチョウサンにやたら絡んでいたけど、気が合ったのかしら。




 あの世界、屋台で人参料理一本の値段。記憶が確かなら800~1000円くらい言っていたので規格外品とはいえいいお値段するかも。


 オジュウチョウサン。この世界では障害物競走が盛んな海外にすぐいけちゃうので多分こっちはトレセン学園に入学直後から魔改造されることに。多分。後メジロパーマーとも仲がいいかも? 史実での障害物競走経験者的な意味で。

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