本作(幕間)はウマ娘、大河ドラマのほか、『信長を殺した男』や『戦国武将のララバイ』的な要素も含まれていますので、そういったパロディーがお好きな方は、よろしくお付き合いいただければと思います。
ちなみに、筆者の一番好きな家康キャラは、池宮彰一郎の『遁げろ家康』だったりします。
『宇摩(うま)娘』
それは別世界に存在する名馬の名と魂を受け継ぐ少女達。
彼女達には耳があり、尾があり、超人的な脚がある。
時に数奇で、時に輝かしい運命を辿る、神秘的な存在…
西に比叡山の山麓を臨み、東に琵琶湖の水面をたたえた近江国、坂本(滋賀県大津市)。この地に築かれた坂本城は織田信長の軍団長筆頭、明智光秀の拠点の一つである。
天正十年六月十四日。その日、坂本城の天主閣が炎に包まれていた。
城の主である明智光秀は、主君信長とその嫡男信忠を京で襲撃、殺害した。日本史上最も有名なクーデター「本能寺の変」である。その後光秀は京都周辺の掌握を図るも、「中国大返し」で舞い戻って来た羽柴秀吉に山崎の合戦で敗れ、すでにこの世の人ではい。そして、坂本城も羽柴の軍勢に囲まれ、落城は時間の問題であった。
この天主では光秀に代わり、彼の重臣の一人にして、従弟ともいわれている明智左馬助秀満がその最期を迎えようとしていた。ひとかどの武人として、明智一族の一人として、覚悟はしている。しかし、たった一つ心残りが…
左馬助「…大鹿毛には、申し訳ないな」
事変後、左馬助は近江国の平定を図り琵琶湖の東岸に進出していたのだが、敵の挟み撃ちにあい、琵琶湖を背にすっかり逃げ道を塞がれてしまう。その時、彼の窮地を救ったのが宇摩娘大鹿毛である。彼女は左馬助を背負うと琵琶湖へ飛び込み、そのまま対岸にある坂本城近くまで泳ぎきって、敵の追撃を突破したのだ。これが世に名高い「大鹿毛の湖水渡り」である。
クーデターに失敗した者の、敗者の末路は悲惨である。本人や一族郎党が命を落とすのはもちろん、死んだ後も、勝者の手によって彼らの願いや言い分までもが踏みにじられ、汚され、最終的には抹殺される。
明智一族が信長に対する謀反におよんだのには理由があった。光秀らには乱世を終わらせる「天下泰平」の志があった。「天下布武」をスローガンとした信長についていけばその大望が果たせるようにも思えていた。
かつて信長は、たまたま百姓が畑の中で昼寝をしているのに出くわした時、こう言った。
信長 「俺はこうして、百姓が安心して昼寝が出来る世の中にするため戦っている」
そう。かつての信長の考えは、光秀らの「大望」と一致していた…はずだったのだが…。
当時来日していたキリスト教宣教師の記録
「信長は、日の本を統一した後大陸に攻め入り、息子たちにその領土を分け与えるつもりだと私に語った」
信長が生きている限り戦は無くならない。泰平の世は訪れない。毛利や長曾我部など、織田に抵抗する意思をくじかれた諸大名を含め、これからも血が流され続ける。「本能寺の変」はそれを食い止めるため、心を鬼にした明智一族の、苦渋の決断だったのだ。
信長とその後継者(嫡男信忠)をこの世から消すことまでは成功した。しかし、その後がいけなかった。「主君殺しの大逆の徒、明智を滅ぼせ」と「あの男」が世を煽った。そうすることで、自らの手に天下が転がり込んでくるぞとほくそ笑みながら…。
光秀らの「大志」を共有するだけでなく、左馬助に対して想いを秘めた大鹿毛は、せめて彼一人だけでも生き延びてほしいと強く願い、その持てる力を振り絞ったのだ。
こうして命拾いをした左馬助だったが、その一方で大鹿毛は疲労が祟って倒れ、城外にある民家に匿われている。今でも死んだように眠っていることだろう。それにしても、せっかく救ってもらったこの命を、たった数日でこうして散らすことになるとは…大鹿毛には申し訳ないと思う一方、せめて彼女だけでも生き延びてくれればと願っていた。
炎が舞い、火の粉が激しく降る中、左馬助は脇差を自分の腹に突き立てる。するとやがて、ここにいるはずのない者の姿が、彼の目前に飛び込んできた。頭上にピンと立った耳、腰の尻尾…。
左馬助「まさかお主…大鹿毛…なのか?」
大鹿毛「左馬助…様……」
…………
………
……
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監督「カーーーーット! ………はーい、オーケーィ!! 皆さんお疲れ! あぁ、足元の火、もう消しちゃっていいよ」
時は、本能寺の変から440年近く経過した現代。年号も「平成」から「令和」に変わったばかりである。場所は東京都渋谷区のNHK放送センター、大河ドラマ『鬼神がくる』の撮影スタジオだ。この坂本城天主内のシーンをもって全ての撮影は終了だと、多くの者は聞いている。
ライスシャワー「ど…どうも、お疲れ様です」
煤で汚れた甲冑の姿で、古の宇摩娘「大鹿毛」を演じていたライスシャワーは、足元にちょこっとだけくべられた火をよけるように、いささか不格好なテイオーステップみたいな足取りで監督以下撮影陣のもとへ移動する。この撮影シーンに、より大きな炎とか、上から崩れ落ちる梁とかをCGで追加することで、この場面は完成する。
監督「お疲れ様、ライスさん。どうです、ここまでやってきた感想は」
ライス「ええ、とても感動しています。 でも、これって…とても悲しい結末ですよね」
そう言いながら、ライスの目は潤んでいる。
『鬼神がくる』最終話は、のちに視聴者から「大鹿毛演じるライスシャワーから青白いオーラのようなものが見えた」などと言われるようになる「湖水渡り」から始まり、坂本籠城、そして燃えさかる坂本城天主でのラスト。大鹿毛は、命果てた左馬助を抱きかかえたまま、炎の中へ消ていく、という流れなのだが…。
監督「実は、ライスさんにはもうワンシーンだけ追加でお願いしたいんですけど」
ライス「???」
監督「別に、セリフなんか全く無いし、立っている後ろ姿だけでいいんです」
ライス「え?…えぇ~っ!?」
監督「それじゃ、着替えてきてくれますか。撮影は隣のスタジオになりますんで」
…それから30分後…
黒い衣。頭にはおかっぱ頭のかつらの上に、白い頭巾。手には数珠。前後左右どこからどう見ても、全く見紛うことなき尼さん、尼宇摩娘だ。これって、もしや…。
ライス(え~、これってあれだよね。 一見、死んだように見せかけて実は生きてました~みたいな。 そしてその後は左馬助さんの魂を弔うために、南無南無っていう…)
監督「なんてベタな終わり方なんだろう…な~んて思いました?」
後ろからの監督の声に、ライスの耳と尻尾が思わずビクッとなる。
ライス「あ、いえ、別に。これじゃあまるで、昔流行ったアニメ、コード何とかのラストを真似ようとしてるんじゃないかなあとか、そんなことは…」
監督「いや、思っているじゃないですか」
ライス「ひゃあ!ごごご、ごめんなさい! …でも、大鹿毛が生き残ったとしても、ハッピーエンドになるわけじゃ…」
監督「そこなんですよ。ハッピーエンドかバッドエンドか、白か黒かみたいに真っ二つに割り切れたものかどうか… 例えば仮に、限りなく救いようのない、一見、バッドエンドの中に、一粒の希望の種が残っていたとすれば…」
ライス(この監督、ライスが想像する以上に難しいことを考えているのかな?)
監督「この「尼僧大鹿毛」のシーンについても、ライスさんが想像するような要素にとどまらず、別の大きな仕掛けにつながる予定になっていましてね」
ライス「う~んと。その仕掛けって、いつ、どんなふうに見えてくるんですか?」
監督「あまり具体的な内容を今ここで言うことは出来ませんが、ここと同じ「大河ドラマ」の中で、今から2年半から3年足らずの後に…」
ライス「2年半から3年…って、どうしてそんなに先なんですか!?」
監督「ライスさんもご存じの通り、次の大河は主要人物でウマ娘さんの登場すら無い幕末・維新モノでしょ。 その次、再来年の大河はすでに源平時代モノに決まっていて、となると、そのまた次の…」
ライス「次の次の、また次の大河ドラマの内容って決まっているんですか?」
監督「おおよその方向性は決まっているみたいですよ。 その年の大河は、徳川家康を軸に考えているみたいです」
なるほど、徳川家康ならば大鹿毛や明智左馬助らと同じ時代ではある。しかし、それを見ている視聴者が『鬼神がくる』の最終回の事をどれほど覚えてくれているのか。いやそれ以前に、その年の「徳川大河」を担当する脚本家さんや監督さんが、『鬼神がくる』に仕込まれたフラグを、きちんと回収してくれるのか。100%の保証は無い。
ライス(やっぱりこの監督、あんまり深く物事を考えていないんじゃ…)
ちなみに、この時撮られた「尼僧大鹿毛」(と、明言しているわけではないが)のシーンは、最終話の本当の最後の最後。あの、坂本城天主炎上の直後に、わずかな時間出てきて、あの後大鹿毛は生き残ったのかどうかという議論が視聴者の間で一時沸騰した。
…それから、およそ1年半後…
その頃の毎週日曜夜8時。NHKでは、源平時代を舞台にした大河ドラマ『鎌倉殿のふたり』が絶賛放送中。「元祖勝ち宇摩娘」と称えられた生食(いけずき)をダイワスカーレットが、そのライバル磨墨(するすみ)をウオッカが演じ、現実のレースにおける二人の競争と相まって、全国規模で人気を博していた。秋川トレセン学園理事長もこれにはご満悦だ。余談だが、鵯越の逆落としの場面で畠山重忠という武将に「お前の足が心配だ」と言われおんぶをされながら崖を下った三日月役のウマ娘に対しても、照れる表情が何ともカワイイ!と一部のコアなファンがついたようだ。
そして、次の大河ドラマも具体的内容が発表されていて、すでに撮影が始まっている。タイトルは『どうする白石』。織田、今川、武田といった大勢力に囲まれて右往左往しながら、やがて天下人となる徳川家康を、戦においても精神面においても支え続けてきた、落ち着きとバブみにあふれる宇摩娘、白石(しらいし)が主人公の戦国ストーリーだ。そして今回、その白石役の座を見事射止めたのがスーパークリークである。脚本家によれば、毛色は伝承とはちょっと違う(白石という名前に反し、黒髪であったと伝わる)ものの、そのほんわかとしたキャラクターが、白石のイメージにピッタリなのだとか。
スーパークリーク「こんにちは、ライスさん。 あなたのご活躍のおかげで、私を含め現在、多くのウマ娘がドラマや映画の世界で引っ張りだこ。 レース以外にも輝ける舞台が増え、あなたにはいくら感謝しても感謝しきれません…いい子、いい子」
ライス「ひゃあ!スーパークリークさん。ちょっと恥ずかしいですぅ」
挨拶早々、ライスの頭をなでなでするスーパークリーク。ドラマの中でも「いい子、いい子」と言いながら家康の頭をなでなでするシーンが少なくないことから、ネット上では「〇〇(家康役の若手俳優の名前)裏山!」「〇〇タヒね!」といった声がよくあがってくる。
ちなみにドラマの中の家康のセリフは、白石に甘える場面も多く、そこの微妙なニュアンスをうまく伝えるのに必要なためか、軽めの現代口調(しかも一人称が僕)というのが特徴だ。これがまた、賛否両論だったりするのだが…。
スパクリ「ライスさん。 今度私と共演してくださるそうですね、大鹿毛役で」
ライス「あ、はい。 その時はよろしくお願いします。 …でも…また、悲しい話になりそうですね」
ライスシャワーの視線が、伏し目がちになる。感受性豊かな彼女にとって、あの物語の結末は、今思い返してもつらいものがあった。
スパクリ「それなんですけどね。 もう少しだけ救いのある方向になるみたいですよ」
ライス「え!?」
…………
………
……
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本能寺の変からしばらく経った、ある晴れた日。駿河国。
狩装束に身を固めた徳川家康。鷹狩は家康にとって一番の趣味であり、富士山を望む景色やなすびの漬物と並ぶ好物だ。その家康が、富士の山裾を一望できる野原に陣幕を張らせ、白石ほか限られた数のお供と共に、ある者と対面している。
家康「白石から話は聞いているよ。 明智殿の事は残念だったけど、君はよく無事でいてくれたね…」
家康の目の前に平伏しているのは尼僧で、頭巾の上から尖った耳が突き出ている。白石と同じ宇摩娘のようだ。実は家康は、ある事情により、明智光秀が本能寺の変を起こした真の理由とその裏にある志を理解、共感している、数少ない人物の一人である。
白石「お館様。彼女には類まれなる才覚と、何より、誰よりも高い志があります。 この先、日の本をまとめ、戦無き泰平の世を築くためにも、どうか彼女をお取立てくださいませ」
家康「わかってるよ、白石。 …なあ、大鹿毛。 僕は今じゃ海道一の弓取りなんて言われてるけど、ホントは戦が嫌いでね。 戦場でほら貝を聞いたり、槍を見たりする度に、ああ、こんな因果な稼業いつかはやめたいなんて…あ、今僕が言ったこと、みんなには内緒ね。(し~っ) …僕自身、いつ死ぬんだろうか、明日は無事生き残れているんだろうかと毎日怯えながら過ごしている。 実際、あの時だって…。 そして、僕とおんなじ思いをしている人々が、この天下に、まだまだ沢山いるんじゃないかとか考えると…」
白石「ああ、お館様…なんとおいたわしや…いい子、いい子」
家康「し、白石。 今ここでそういうのは…」
心なしか、大鹿毛の顔も赤くなっているように見える。
家康「大鹿毛。 僕には明智殿ほどの賢さも、強さも勇気も無い。 それでも僕は、みんなが命の心配をしなくて済む、みんなが笑顔で暮らせる世の中が欲しいんだ。 手伝ってくれるかい?」
大鹿毛が、涙を流しながら面を上げる。
大鹿毛「殿。 あの日の…坂本城での私は、左馬助様の後を追うこと以外何も考えられませんでした。 しかしあの時、白石殿が私の命を助けてくれて、その上、この先私が生きていく意味をも見出せました。 私は、左馬助様の想いを…願いを…この世から消したくない! ですから…この大鹿毛…いえ、この天海、殿のお志に残りの生涯を捧げてまいります」
…………
………
……
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翌年放送予定の『どうする白石』では、「大鹿毛」改め「天海」が白石によって見出され、徳川家に仕える様子や、それにより明智光秀や左馬助たちが抱いていた「天下泰平」の志が未来に引き継がれ、江戸260年の平和という形で結実したことが描かれている。
ライス「このお話で、大鹿毛の魂も浮かばれるといいな…」
スパクリ「浮かばれますよ、きっと…」
『鬼神がくる』の最終話で描かれた「絶望」から、ここに来て新たな「希望」が生まれた…この物語は、改めて多くの人に感動を与えることとなるのだが、それはまた後の話。
さて、今宵はここまでに致しとうござりまする。アテブレーベ!オブリガード!