ウマ娘外伝 大河ウマ女優への道?    作:国津真史

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大河ドラマ「鎌倉殿のふたり」撮影現場にて①


ウオッカ「やっぱこの時代の大鎧ってかっちゅ良いよな~  さすが、命懸けの勝負服なだけあるぜ!」
ダイワスカーレット「ちょっとアンタ、何か〝会長〟入ってない? まあ、気持ちは分からないでもないけど」
ウオッカ「だろう。 そしてこの太刀。 いやあ、見るほどに惚れ惚れするぜ……」
ダスカ(うわあ…… 目つきがいつになくヤバくない?)
ウォッカ「よし!決めたぜ!! 今度からレースの勝負服はコイツで決めてやるぜ!」
 
 ブンブンと太刀を振り回すウオッカ。

ダスカ「ちょっとやめてくれない!? ただでさえ周り物騒なの(薙刀を構えるグ〇ス、錨をぶん回すゴ〇シ、短剣を抜こうとするラ〇ス……etc)ばっかなんだから!」

 大河ドラマ撮影は、ウオッカの何かを刺激し続けて止まないようだ。

ダスカ「……っていうか、撮影のたびになんかウオッカに〝降りてくる〟みたいな感じよね。 マチカネフクキタル先輩にお祓いでも頼んどこうかしら?」


第一幕 『鎌倉殿のふたり』 その拾伍(15)

◆NHK大河ドラマ『鎌倉殿のふたり』 第21話 髭切の沙汰

 

 出演

 生食(八幡)    ダイワスカーレット

 磨墨        ウオッカ

 雑仕女(ぞうしめ) 乙名史 悦子

 

 

 

 ここに、数奇な運命に彩られた一振りの名刀がある。

 源氏累代の宝刀、髭切(ひげきり)。

 

 頼朝をはじめとする清和源氏の祖経基王(源経基)の嫡男、源(多田)満仲が、天下守護を目的に作らせた二振りの太刀のうちの一振り。満仲の命を受けた刀工が八幡大菩薩から「六十日間かけて鉄を鍛え、二振りの太刀を打ちなさい」とのお告げを受けて作ったものだ。満仲が罪人の遺体で試し切りをさせたところ、首と同時に髭も切り落とされたことからその名がついた。

 

 その後髭切は、満仲の嫡子である源頼光の代に鬼丸と改名され、頼光の甥の源頼義、頼義の嫡男の八幡太郎義家と河内源氏の間に相伝され、源為義(義朝の父、頼朝・義経の祖父)の代に、獅子ノ子と名を改められた。為義は、獅子ノ子(髭切)と対に作られたもう一振りの太刀膝丸(ひざまる…為義の時代には「吠丸(ほえまる)」と改名)を自らの娘婿である熊野別当行範に譲ったことから、その代替として、獅子ノ子に似せた小烏という名の太刀を作らせた。小烏は獅子ノ子より二分(およそ6mm)ほど長かったが、あるときこの二振を障子に立てかけた際、ひとりでに刀が倒れ、二振りとも同じ長さになっていた。不審に思った為義が調べると、小烏の茎(なかご…刀身の柄で覆われる部分)がちょうど二分ほど切られていて、それを獅子ノ子の仕業と考えた為義は、再び名を友切(ともきり)と改めた。

 

 髭切→鬼丸→獅子ノ子→友切と度々改名されたこの太刀は義朝に譲られたが、名刀を持ちながら平治の乱で武運に恵まれなかった義朝は「名刀の力は失せたか」と八幡大菩薩を恨み嘆いた。すると八幡大菩薩から「やたら改名してきたことが、ことに「友切」という名が良くない。 元の名前に戻せば太刀の力は戻る」とのお告げがあり、改めて名を髭切に戻した。平治の乱で敗れた義朝は、尾張国野間にて家人であった長田忠致(ただむね)・景致(かげむね)父子の裏切りに遭い殺される。その後、髭切は一時行方知らずとなっていたのだが……。

  

 

 

 その日、鎌倉にある源頼朝邸の大広間の上座には頼朝が、左右には生食、磨墨ら寝所警護役(親衛隊)を含む御家人がずらりと居並ぶ。そして頼朝の視線の先に平伏する3人の神主。彼らは尾張国熱田神宮からやってきた。ちなみに頼朝の母親は、熱田神宮の大宮司の娘である。そして彼らの前には、三方の上に据えられた一振りの太刀が。

 

神主「平家打倒の旗揚げ、さらには富士川における勝利、祝着至極に存じます」

 

源頼朝「遠路はるばる苦労であった。 それなるが源氏累代の宝刀、髭切だというのか」

 

神主「ははっ。 源義朝公が先の戦での敗走の折、万が一を考え神宮に預けられたものです」

 

頼朝「そうか、父上が…… 磨墨、それをここへ」

 

磨墨「はっ!」

 

 磨墨は、神主たちから太刀を乗せた三方を受け取ると頼朝の前に進み、平伏してそれをおのれの頭上に掲げる。頼朝は太刀を受け取り、ゆっくりと鞘から刀身を抜く。この時磨墨は、チラチラと上目遣いで名刀の姿を瞳に焼き付けんとしていた。

 

磨墨(うぉー、流石は源氏累代の至宝!! 見れば見るほど惚れ惚れしてならねぇ!)

 

頼朝「磨墨……欲しいのか?」

 

磨墨「えっ、いえいえ、滅相もない!」

 

生食「何言ってるの。 欲しいです~って、顔に書いてあるわよ」

 

 生食のセリフに、周囲からも笑いが漏れる。

 

磨墨「う……うっせい!」

 

頼朝「ふふっ、さすがにこの源氏累代の重宝をくれてやるわけにはいかんが…… どうだ、一つ振るってみるか」

 

磨墨「えっ!?」

 

頼朝「磨墨、そなたにこの太刀の試し切りを命ずる。 すでに用意はしてある」

 

磨墨「ははっ!!」

 

 頼朝の言う通り、縁側から望む庭には、従前から青竹の芯を通した藁束が6本立ち並んでいる。頼朝の命を受けた磨墨は満面の笑顔だ。そして、この時その場に同席していた頼朝の弟、義経は義経で

 

義経「源氏の至宝髭切を、一族たる私より先に手にすることが許される者がいるだなんて…… あ、でもそれのおかげで磨墨のまぶしい笑顔を拝めることが出来るというなら…… ああ、胸が張り裂けそうだ」

 

……と言いながら身もだえていた。

 

生食「磨墨。 ホント、アンタってわかり易いわ」

 

磨墨「ふっ、言ってろ。 お前のような野良宇摩(ウマ)娘に、この太刀の有難みは到底理解出来ねーよ」

 

生食「ふ~んだ」

 

 磨墨は庭に降り、立ち並ぶ藁束を前に、切っ先を上に立てながら自身の右側に引き寄せるように髭切を構える。いわゆる八相の構えだ。

 

生食(刀や弓の腕前となると未だにアイツの方が一枚も二枚も上手ね、悔しいけど。 しかし、いずれは……)

 

磨墨「はあああっ!!」

 

 八相の構えから少しだけ振りかぶるとそのまま袈裟斬りに振り下ろす。立ちどころに藁束の一本がバッサリと落とされる。さらに磨墨は、上半身を中段の構えを取り固定させたまま、足だけでつつっと二本の藁束の間に移動し、右に、そして左に袈裟斬りにする。

 磨墨と、そしてその姿を言葉もなく見つめる生食の瞳が爛々と輝く。そして二人は心の中で全く同じことを考えていた。

 

 欲しい……。 叶うものなら、この名刀を我が物に……。 

 

 残る藁束は三本。そのうちの二本を今しがたと同じように左右に袈裟斬りにした後、最後の残り一本の正面で上段に構え、そのまま兜割りをするが如く垂直に振り下ろす。藁束は見事なまでに、根本の近くまで真っ二つに裂けた。

 

 

 

頼朝「天晴! 見事であったぞ、磨墨」

 

 磨墨から髭切を返されると同時に、頼朝はねぎらいの言葉をかけた。

 

頼朝「さて、磨墨には何か褒美を遣わしたいところだが……」

 

 と、言いかけた頼朝は、ふと、磨墨の物欲しそうな視線、そしてそれが頼朝が手にする髭切に向けられている事に気が付いた。頼朝は思わず髭切を背中に隠すようなそぶりをして

 

頼朝「…先に言った通り、この源氏累代の宝刀はさすがにやれないが、それ以外なら考えてもよいぞ」

 

 磨墨は、はた目から見てもわかり易いぐらいションボリルドルフした表情で

 

磨墨「実は、近々京の都への出陣があるだろうから、その時は一族として私も手伝え、御大将にも話はつけておく、と、父平三景時から言われておりまして……」

 

頼朝「うむ。 ついこの間、法皇様より木曽義仲討伐の院宣が下された。 年明け早々、範頼(頼朝の弟)を大将として、出陣させる運びとなっておる。 そなたの出陣も許すつもりであるが……」

 

 そこで頼朝は考え込む。

 

頼朝(……となると、その出陣へのはなむけも兼ねることになるわけだ。 さて、どうしたものか)

 

磨墨「出来れば髭切…… いえ、そこまでは申しませんが、何か業物の一つでもいただければ、その戦においても、御大将の配下としてふさわしい、天下に恥じぬ働きをご覧入れましょう。 髭切……とまでは申しませんが……」

 

生食(髭切髭切って、未練たらたらね。 ……まあ、その気持ち、分からないでもないけどぉ)

 

頼朝(やはり磨墨を満足させるものといえば武具の類か。 しかし髭切に匹敵するとなると……いや待てよ)「義経、余の寝所からあの太刀を持ってきてくれまいか。 富士川の合戦の折、あの平家方の腰抜けの総大将が忘れていった、例のアレだ」

 

義経「え~。 そんな雑用、家人にやらせりゃいいじゃん。 ワケワカンナイヨー」

 

 ブツブツと文句を口にしながらも蔵へと向かう義経。そして、頼朝の話を聞いていた磨墨はというと

 

磨墨「御大将……。 私めの立場でかような文句を申し上げるのは不遜だと……不遜だと思いますが。 その、あれですか。 私めの恩賞を他人の、それも敵方の〝落とし物〟で済まそうとか……」

 

 磨墨のやる気が下がった。磨墨は絶不調だ。

 

 そして、磨墨の頼朝に向けられた視線がものすごーく冷ややかだ。しかし、頼朝には何故か自信があるらしい。含み笑いをしている。

 

頼朝「いや、文句は実際に物を見てからにしてもらおうか」

 

 義経が一振りの太刀を持ってきた。一目見てまず分かったのは、その長さが髭切とほとんど一緒であるということだ。

 

頼朝「どうだ? 刀身の長さは髭切と全くもって同じじゃ」

 

磨墨「これは……?」

 

頼朝「銘は小烏。 我が祖父為義公より伝わる太刀じゃ。 平治の乱にて我ら源氏が敗退した折に平家の手に落ちていたのを、富士川の合戦の敵方の大将維盛がたまたま佩いていたみたいでな。 何でも、この太刀で我ら源氏に引導を渡してやるなどと息巻いておったそうだが……。 お主も覚えておろう、彼奴らは水鳥の羽音におびえて敗走したのを。 その時維盛め、この太刀を置き忘れていったそうじゃ。 そうして今、此処に在るというわけじゃ。 髭切ほどではないかもしれぬが、これもなかなかの業物ぞ。 そして我らにとっては縁起も良い。 これでどうじゃ? 不満かの?」

 

 この小烏については磨墨も知っていて、その価値も十分理解していた。

 磨墨の表情が途端に明るくなる。

 

磨墨「いえ、不満も何も。 これほどの名刀を頂けるとあらば、誠に有難き幸せ。 この磨墨、次の戦では必ずや大手柄を立てて参りましょう」

 

義経「良かったですね、磨墨殿。 ついてはこの小烏があなたの手に渡ったお祝いに、今宵私の屋敷で宴会とか……」

 

磨墨「(乂´∀`) お こ と わ り し ま す」

 

 磨墨のやる気が上がった。磨墨は好調だ。(絶好調に至らなかったのは、義経の余計な一言のせい)

 

生食「ホント単純よね」

 

 口ではそう言うものの、それでも生食の目にはそれとなく悔しさがにじみ出ている。そして生食のみならず、その場に居合わせた他の御家人たちも揃って、羨望の眼差しを磨墨に向けていた。生食が逗留する屋敷の主、佐々木秀義の四男高綱もその中の一人である。

 

 

 

 それから数か月ほど後。木曽義仲討伐に向かう鎌倉軍の出陣が始まり、頼朝に従う御家人たちが銘銘集結地点の尾張(現在の愛知県西部)を目指し、東海道を西上し始めていたある日のこと。

 

 その出陣の挨拶として、佐々木高綱が生食を伴い頼朝の屋敷を訪れた。生食は、佐々木家からの要請もあって、磨墨と同様この度の出陣に参加することとなった。生食にとっては初陣である。

 

 頼朝と高綱とのよもやま話も弾んでいくうち、堅苦しい挨拶から始まったのが、茶が入り、酒が入り、いつの間にやら参集していた他の御家人までをも巻き込んでの酒宴になっていた。もはや高綱出陣を祝う大壮行会状態だ。頼朝にとって高綱はそれくらい気心の知れた間柄であった。

 

 高綱ら佐々木四兄弟は、伊豆挙兵の当初から頼朝の下で戦い続け、特に高綱は、石橋山合戦において、殿として敗走する頼朝を助けた手柄もある。話題がこうした昔話にまで及ぶと、九死に一生のあの死闘も、今となっては懐かしく思える。もしあの時、高綱と、自分が洞穴に隠れていた時に見逃してくれた磨墨がいなかったらと思うと……。

 

頼朝「そうだ、高綱。 そなたの出陣に何かはなむけを遣わしたいのだが……」

 

 そこまで言って、頼朝ははたと気付いた。そういえばこの間、磨墨に小烏をやったばかりだったことを。

 

頼朝(うーむ。 そうなってくると、高綱にも下手なものを与えるわけにはいかんし…… だからといって小烏に負けないものと言ったら…… ええい!ままよ!)

 

 ひょっとしたら、酔いが回ったせいで頼朝の気も少しばかり緩んだのかもしれない。かくして、高綱と生食の前にあの髭切が引き出された。

 

生食「わあ! この天下に名高い宝刀、髭切を私たちに下さるのですね! いよっ、太っ腹!!」

 

頼朝「こらこら落ち着け。 余の話を最後まで聞くのだ。 この髭切は源氏累代の重宝、与えるというわけにはいかぬが……」

 

生食「ちぇっ、なんだ~、ケチ~。 鎌倉殿とあろうものが小さいこと言うんじゃないわよ!」

 

頼朝「だから最後まで話を聞かんか! ……ってお主、そんなに酒癖が悪かったのか?生食。 話を戻すぞ。 かつて頼光の時代、頼光四天王の一人であった渡辺綱にこの髭切が一時貸し与えられ、その髭切で鬼を退治したという話が伝えられておる。(一時、髭切が鬼丸と改名されていた由来である) そ こ で、この頼光と綱の故事に習い、高綱、そなたに此度の出陣の一時だけでも、この髭切を貸し与えたい。 どうかな高綱よ。 かつてこの髭切で鬼を退治した渡辺綱のごとく、そなたもまたこの宝刀の力をもって木曽義仲を討ち取ってきてはもらえぬか」

 

高綱「一時とはいえ、源氏累代の宝刀髭切を賜ることは、この上なき武門の誉。 この高綱、こたびの戦においては粉骨砕身の働きをお見せいたしましょう」

 

酒を注いで回る雑仕女「ああ……この高綱様の、都への入り口たる宇治川を真っ先に渡ろうという決心。 もし『高綱殿が宇治川で死んだ』と聞いたとあらば人に先を越され先陣は叶わず、『高綱殿がまだ生きている』と聞いたとあらば先陣は果たされたものと思ってほしいと……この命懸けの御覚悟、素晴らしいですっ!」

 

高綱「そんな話したっけ?」

 

生食「ねえ、ちょっと。 そこの女。 勝手に話捏造してるんじゃないわよ」

 

 しかしこの雑仕女の声があまりにも大きかったためか、この時周りにいた者はみな「高綱はあの時、こんな大言壮語しとったぞ」と、それこそ話を独り歩きさせるようなことを言いふらされ、さらに後世には「生食が言ったこと」として誤伝されることになるが、これはまた別の話。

 

頼朝「まあ、高綱には死んでもらっては困る。 こたびの戦見事勝利して、生きて……生きて、絶対この髭切を返しに帰ってくるのじゃぞ!! この宝刀は与えたのではないからな!」

 

生食(こういうのもツンデレっていうのかしら……?)

 

 

 

 

 寿永三年一月(1184年2月)某日

 

 駿河国 浮島が原

 

 北には霊峰富士と愛鷹山の山麓、南には駿河湾を臨む浮島が原の地では、頼朝の弟の範頼を大将、同じく義経を副将とした木曽討伐軍に参加すべく、鎌倉方の御家人たちが続々と西上していた。

 

 そうした中磨墨は、見晴らしの良い場所に立ち、しばらくの間道行く御家人たちの姿、特に彼らの腰に佩いている太刀の数々を眺めていた。

 

磨墨「やはり俺が、御大将鎌倉殿から拝領したこの小烏に勝る得物を持つ者は居ないか」

 

 磨墨はいかにも得意絶頂といった感じの表情でいたのだが……

 

磨墨「おや? 向こうからやって来るのは…… ひょっとして生食? 隣に居るのはさしずめ佐々木の四男坊といったところか。 生食の奴、何か振り回しているような……」

 

 一方、その頃の生食と佐々木高綱。

 

生食「ねえ、高綱殿、いいじゃない。 その髭切、私にも触らせてよ。 お願~い」

 

 鎌倉を発ってからここに至るまで、生食はずっとこんな様子で高綱にせがみ続けていた。

 

高綱「仕方ないですね…… ちょっとだけですよ」

 

 高綱から、鞘から抜いた髭切を受け取った生食は、興奮で鼻息を少し荒くさせながら

 

生食「そうね。 せっかくだからこいつを磨墨にでも見せびらかしてやろうかしら。 フフフ、アイツの泣きっ面が目に浮かぶわ」

 

高綱「それだけはやめて。 敵と戦う前に、味方に討たれる羽目になる」

 

生食「やはりいい得物を持つと気分が上がるわよね。 あの雑仕女の言いぐさじゃないけど、このまんま敵陣に一番乗り~、みたいな」

 

 生食は鼻歌まじりで足を弾ませながら、抜き身の髭切をブンブン振り回す。

 

近くに居た御家人「おいこら、危ないじゃないか…… おや、お前さん、ずいぶんいい太刀を持っているじゃないか。 どうしたんだ?それ」

 

生食「フフフ、いーでしょう。 これはね、我らが御大しh……」

 

高綱「わーっ! わぁーーっ!! 今はそれ以上はダメ!!!」

 

 そんなこんなで、二人は次第に磨墨の居る方へと近づいてきた。

 

磨墨「おいおい、街道で太刀を振り回す奴があるかよ。 しっかし、あの太刀、どっかで見たような気が…… …… ……な、何っ!?」

 

 磨墨は見てしまった。源氏嫡流でない者で、自分以外の者が源氏累代の至宝髭切を手にしている様を。それもよりによって……。

 

磨墨「何で髭切をあの野良宇摩娘が? くっそーっ! 鎌倉殿は俺よりアイツの方が上だと見ているのか!? 小烏を頂いた時には、相手が木曽だろうが平家だろうが、この命を張って戦いぬくと心に誓っていたのにぃ~!!」 

 

 磨墨のやる気が下がった。「片頭痛」になってしまった。

 

磨墨「お、おのれ~ かくなる上は、あそこの野良宇摩娘と刺し違えて、『優れた宇摩娘を二人同時に失ってしまった~……ヨヨヨ』とあの女好きのバカクラ殿を後悔させてやる~!!」

 

 磨墨は完全に掛かっていますねぇ。大丈夫でしょうか?(生食と高綱の命が)

 

 磨墨は、生食を取っ組み合いの上で討つか、それとも一度突き飛ばすかなどと思案しながら、まだ磨墨の存在に気付かない様子で近づいてくる二人を見ていたが、まずは言葉をかけることにした。

 

磨墨「よう、生食。 お前、あの髭切を拝領したみたいだな」

 

 高綱は磨墨の姿を認めると、思わずギャッと悲鳴に近い驚きの声をあげる。もし、頼朝から直接髭切を賜ったのが自分だと磨墨に知れたらどうなることやら……。一方生食は、髭切のことを知った磨墨が、思いの外落ち着いているように見えた(内心では()る気満々なのだが)のをつまらないと思ったのか

 

生食「残念ながら、貰えたわけではないわ。 ちょこっと拝借しただけよ」

 

と、ぶっきらぼうに答える。

 

磨墨「拝借? 何だそりゃ……。 まさかお前ら、御大将の屋敷から髭切をこっそり盗み出して!?」

 

生食「ちょっとアンタ! 変な勘違いを……」

 

高綱「いやあ、バレちゃいました? 今度の戦の相手は、木曽四天王や巴御前など強敵ぞろい。 願わくば髭切のような業物を頂戴したいと願っていたのですが、この間の髭切の試し切りの折、磨墨殿ほどの者にも与えられなかったのを、ましてや某如(それがしごと)きがお願いしても決して頂けまいと思いましてな。 お咎め承知で、出立の前夜に盗みおおせたのですが……で、それが何か?」

 

生食「高綱殿も、一体何言ってるのよ!?」

 

 どういう訳か、高綱の方が必死に磨墨の〝勘違い〟に話を合わせようとし、片や困惑の表情を隠せない生食。磨墨は、二人の顔を交互に見比べるうちに、何となくながら事の成り行きを察したようだ。磨墨の怒りもだいぶ収まり……

 

磨墨「へっっ。 そういうことなら、この磨墨が先に髭切を盗み出しておけばよかったぜ」

 

 磨墨は踵を返し、そして二人に背を向けたまま

 

磨墨「しかし高綱殿。 惚れた宇摩娘をかばい立てするのに必死なのはいいが、もうちょっと、嘘の腕前を上げておくんだな」

 

右手をひらひらと振りながら、遠ざかっていく。

 

 生食と高綱の二人はポカーンとして磨墨の後ろ姿を見送っていたのだが、やがて生食の顔は急激に赤味がさし、両手で高綱の襟首をつかむと

 

生食「ちょっとねぇ! アンタ! そんなつもりであんなこと言ってたの!? バカじゃないの!?バカじゃないの!?バカじゃないの!?」

 

まるでカツアゲにでもあっているような体勢の高綱は

 

高綱「ちょちょ、そんなつもりでは……。 それこそ磨墨殿の盛大な〝勘違い〟じゃ。 す、磨墨殿~、ちょっと、ちょっとお待ちくだされ~!!」

 

 別に磨墨は勘違いをしていたわけではない。ただ、怒りはだいぶ収まったとはいえ、髭切を手にすることが出来た彼らに対する嫉妬を完全には拭うことが出来なかった。そんな磨墨の、ささやかな仕返しであった。

 

 

 鎌倉勢、尾張国集結。

 

 生食と磨墨の進撃が、まさに始まらんとしていた。


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