その日も、チームスピカメンバー+αの面々がトレセン学園の視聴覚室に集められた。
◆第4回 大河ドラマ『鎌倉殿のふたり』試写会。
第2回以降、毎週木曜日、午後のトレーニング後に開催されている試写会。ちなみに木曜日に固定化された訳は、金曜日~日曜日はレース当日、もしくはレース前の移動日にあたることがしばあり、それらを避けた上で次の日曜日になるべく近い日ということで決まった。今回は「第5話 出会い」の試写会だ。会場である夕飯時の視聴覚室には、いつものようにスパイスの利いた香りが充満している。
スペシャルウィーク「う~ん、このスーパークリークさんが作る〝木曜カレー〟。 いつもながらいい味してますね~」
ゴールドシップ「おっと。 このゴルシ様の焼きそばを忘れてもらっちゃ困るぜ」
大盛りカレーをぱくつきながら、これまた大盛りの焼きそばの皿に躊躇なく手を伸ばすスペシャルウィーク。すでにポッコリとお腹を出して太り気味確定だ。彼女を筆頭に大半のウマ娘たちが食欲旺盛な中、1人だけ並べられた食事に全く手を付けないまま黙り込んでいるウマ娘が一人…。
トウカイテイオー「ねえ。 カイチョーさっきから何も言わないで黙ってるけど、大丈夫かな?」
ナイスネイチャ「…見るからに、ションボリルドルフね」
テイオー「そんなオヤジギャグ言ってる場合じゃないよ~。 ああ、きっとあの「北条政子」の役柄がいけなかったんだよ~。 カイチョーかわいそう」
ネイチャ「そう思うなら、生徒会長の所に行って慰めてあげたら? いつもカイチョー、カイチョーって言って生徒会長を追っかけ回してるアンタが」
テイオー「そうしたいけど~。 あんな表情のカイチョーに面と向かい合うの、ボクとっても耐えられなくて…声をかけるのもムリ~」
ネイチャ「オイオイ…っていうか、テイオーでもそういうのあるんだ」
テイオー「ちょっと~、ボクのこといつもどう見てるのさ?」
この日のシンボリルドルフは、普段は生徒会長べったりなトウカイテイオーでさえ声をかけるのをためらわせるくらいに「私に構うな」オーラがダダ洩れで、他のウマ娘やトレーナーはなおさら声をかけづらい。
ネイチャ「全く…しかたないわね」
ライスシャワー「あ、ネイチャ行くの? 行ってくれるの? ネイチャー、頑張れー、おーッ」
ネイチャ(だったらライス先輩が行ってくださいよ…)
この種の空気に明敏すぎるくらいに明敏で、おどおどしていたライスシャワーの小声の声援に苦笑しつつ、ナイスネイチャはシンボリルドルフに近づく。
ネイチャ「会長。 そうした憂いを帯びた表情も素敵ですが、周りが少し、その…」
シンボリルドルフ「おや? …そうか 。自らの言動でみんなを不安にさせてしまうとは… 私もまだまだ精進が足りないようだな。 いや何、ちょっとダジャレのネタを考えていただけだ」
ネイチャ「え………」
ルドルフ「ふふっ…冗談だ」
ネイチャ(うわー… そういう分かりづらいのやめて~)
ルドルフ「冗談はさておき、実はこのドラマの背景について色々考えていたところでね」
ネイチャ「はあ。 と、言いますと?」
ルドルフ「例えば、そもそもあの時代に登場した〝武士〟とは、一体何だったのだろうか、とかね」
ネイチャ「えっと… 確か日本史の授業で習いましたよね。 当時の都の貴族が地方の政治と治安をないがしろにしていたものだから、地元の農民とかが自ら土地や財産を守るために武装した、みたいな…」
ルドルフ「ああ、そうだな。 そういった自己防衛・救済のための武装集団や、他に都から地方に下った貴族が土着、武装化したものなどが武士の起源と言われているが… ただ、それだけでは今日我々が抱く、いわゆる〝サムライ〟のイメージとは直接結びつかなくてね」
ネイチャ「武器を手にしている=武士・サムライ、とは限らない…ということですか」
ルドルフ「ああ。 今日、〝サムライ〟という言葉には、ただ武力で自分を守るとかだけでなく…忠義とか名誉とか、一定の社会性や利他の精神のイメージもあるだろう」
ネイチャ「まあ、確かに」
ルドルフ「そうしたサムライのイメージの根幹はいつ形作られたのか。 そんな事を前々から考えていたのだが…」
ネイチャ(へー、会長の頭の中には、レースとダジャレの事しかないのかと思ってたけど…)
ルドルフ「おや、何か言いたそうだな?」
ネイチャ「あっ、いえ、別に!!」
ルドルフ「そうか? まあ、いい… で、武士=サムライの起源の話だが、最近一つの仮説として考えたのが、平将門にあるのではないかということだ」
ネイチャ「えっ!? でも、将門って平将門の乱を起こした、いわゆる反乱者ですよね? それがどうして…」
ルドルフ「平将門の乱が起きた直接の原因を君は知ってるかい?」
ネイチャ「いえ… 不勉強ですみません」
ルドルフ「別に謝ることでもないさ。 実は将門という人は、困りごとを抱えて自分を頼ってきた人を無条件で迎え入れてしまう性分であったらしくてね…」
ネイチャ「なんだか面倒な性分ですね」
ルドルフ「…周辺で起きるもめごとの仲裁を買って出ることも多かったようだ。ただ、そんな将門を頼った者たちの中の一人に、常陸の国司との間にトラブルを抱えた者がいて…」
ネイチャ「何ですかそれ? 嫌な予感しかしませんが」
ルドルフ「…結果として将門は国司軍との間で戦闘を起こし、常陸国府を陥落させてしまうんだ」
ネイチャ「あちゃー。 やっちまったって感じですね」
ルドルフ「この事件が関東一円を巻き込む大乱にまで発展するわけだが、ここでのポイントは、将門は己が欲得のために戦端を開いたわけではないという所にある」
ネイチャ「えーっ!? でも将門ってその後、自ら「新皇」とか名乗っちゃってませんか? 確か」
ルドルフ「世のため人のために力を振るう、その考えを突き詰めた末「新皇」という〝権威〟に行き着いたのだろう。 実際、最初に「新皇」とか言い出したのも将門本人ではないようだしな。 まあ確かに、将門のやり方は稚拙にして粗暴、最終的に自らの身を滅ぼしたのも無理はない。 しかし、彼の志が、彼一人だけのもので終わったかというと、決してそうでもない」
ネイチャ「どういう事です?」
ルドルフ「君も最初に言ってただろう。 当時、都の貴族が地方の政治と治安をないがしろにし、自分の身は自分で守るほか無かった時代だと。 将門はそうした荒涼とした世界の真ん中で、利他の精神に基づいて戦うという〝義〟を、粗削りながらも自らの行動で示した最初の武人であり、後にそうした将門の志や夢を追い求めた武人たちが、いわゆるサムライ、武士と呼ばれる存在となった… まあ、これはあくまで仮説だが」
ネイチャ「中央から見た反逆者は、実は坂東においては理想の王者だったってことですか。 ちなみにその仮説って、今回のドラマ『鎌倉殿のふたり』にどう絡んでくるんですか?」
ルドルフ「将門の志の実現という命題に対し、一つの〝模範的回答〟を示したのが、鎌倉幕府を創設した源頼朝であるということだ。 もっとも、その〝模範的回答〟を完成にまで漕ぎつけたのは、頼朝の死後、彼の志を引き継ぎ、承久の乱においては鎌倉武士たちを叱咤激励し、幕府側に勝利をもたらした北条政子なのだがな…」
ネイチャ「おー! そんな時代のキーパーソンである北条政子を、今回会長が演じてるわけですね!? …って…会長?」
ここに来て、シンボリルドルフの表情が、再び曇りだす。
ルドルフ「…うむ。 今度のドラマの主役はあくまで生食と磨墨だからな。この両名の活躍の場が無くなれば、そこでドラマは終わり。 私が演じる北条政子が、一番輝いた瞬間ともいえる承久の乱までには到底届かない。 このままだと、私が演じているのは、ただの〝嫉妬深い女〟でしかなくなるなと思うと…」
ネイチャ(結局そこかーい!!)「…まあ、仕方ありませんね。 あ、トレーナーさん。 あなた人参リキュールを隠し持ってませんでした? それでキャロットカクテルを…いや、私じゃなくて会長に…。 会長、飲みましょう、付き合いますよ、私はノンアルですけど」