秘密結社のボスに祭り上げられた話   作:じゃがありこ

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第1話

思春期の少年は一度は非日常にあこがれると思う。少年に限らず、人って生き物は特別って言葉に弱い。加えて、現代には中二病なんてものがあるくらいだ。少年たちはいつも何者かになりたがっている。少女たちは認めてほしがっている。両者ともに心の穴を塞いでほしいのだ。

 

だが、ある意味特別と呼ばれる領域に足を踏み入れてしまった人間から言わせてもらうのであれば、日常というものは存外愛おしいものだった。

 

いつの間にか『能力者』同士の争いに担ぎ上げられ、なおかつ国家間のあれこれにまで関わりそうになっている俺が言うのだから間違いない。

 

 

 

 

11歳の頃。あの頃の俺は無邪気だった。秘密基地や秘密結社にあこがれ、友人とヒーローごっこをするような普通の少年だった。ちなみに、個人的にはヒーローよりも悪役の方が好きだった。ただ、問題があった。どうやら何かを演じるのが得意だった俺は、友人と遊んでいるとき以外でもヒーローや悪役のまねごとをしていた。

 

まあ、何が言いたいかというとちょっと早めのいわゆる『中二病』を発症したのだ。

だが、これ自体はそんなに問題じゃない。黒歴史にはなるが、小学生…まだ傷は浅くて済む時期だ。

問題はあの時の自分の行動で、何の偶然か知らないが本当に秘密組織ができて、さらにそのリーダーに担ぎ上げられてしまったことだ。

本来は可愛い思い出で終わるはずだったことだ。だが、そうは問屋が卸さなかったらしい。

 

『超能力』なんて御伽噺の話だと思っていたが実はそうでもなかったらしい。詳しい原因はわからないが、中二病真っ盛りの俺は怪しげな老人に声を掛けられて以降超能力が使えるようになった。あの頃の俺はバカだった。リスクも考えずにそれを振るっていた。もちろん、悪意を持って振るったことなどほぼないが。

 

結果を端的に説明すると、いつの間にか友人たちも超能力に目覚め中学二年生の終わりには秘密組織ができていた。中二病が抜けきっていなかった俺はあまりに完成度の高い秘密基地のロマンにあっさりと負け、高まったテンションのまま仲間たちと秘密組織ごっこ(・・・)に興じた。そう、ごっこだと思っていたのだ。時々やっていた会議も、異能を使ったちょっとした運動も、遊びだと思っていたのだ。ただ、冗談ではなかったらしい。中学三年生の時、やべー集団と殺し合いになってそれを悟った。

 

老人からもらった本とか適当なことを言っていたら俺は友人たちから畏敬の対象にされていた。俺は別にすごい奴ではないし、崇高な思想を持っているわけでもない。そう言いたかったが、言い出せなかった。学生だけの組織だったがいつの間にかよく分からない支援者が付いて大きくなっていたというものある。雰囲気的な問題もある。組織の方針が割と偏ってはいる者の間違いなく人助けになるものだったというものある。だが、一番は結局のところ俺も何かになりたかったのだろう。

 

その選択を後悔しているかって?

 

フッ——————めちゃめちゃしてます。

 

 

高校生というのは存外忙しい。朝の身支度をしながら思う。中学よりも付き合いが増えた。帰りにカラオケやゲーセンに行ったりジャンクフード店でだべったり。部活に勉強、委員会にバイト。俺はバイトはやっていないが、組織のお仕事をやっているので寝るのが深夜になる。そうすると、朝起きるのがめんどくなる。社会人も忙しいのだろうがやはり高校生もベクトルが違うだけで忙しいのだ。

 

「だから遅刻した俺は悪くないと思います」

 

「黙って反省文をかけ」

 

遅刻した俺は反省文を書かされていた。教卓の上に座っている不良教師と教室の窓側の席で欠伸をしている俺。茜色の光が教室の窓から差し込む。珍しく雨がやんでいた。珍しいのはそれだけじゃない。まだ梅雨が明けきっていないのにセミは愛を求め鳴きだしている。

 

「俺も恋を求めて街を走りだしたい気分ですよ」

 

「補導されるからやめとけ」

 

開いた窓から飛び込んでくる学生たちの叫び声。サッカーボールが蹴られる音。野球のバットがソフトボールを打つ音。テニスコートの音。何かを訴える下級生の女の子の甲高い叫び声。それらは日常という名のBGMだ。

 

「私服ならいけます。きっと」

 

「最近、物騒だからな。見回りが厳しいんだ」

 

はて見回り?何か事件でもあったっけ?

 

「先週ビルの爆破騒ぎがあっただろ。あと、死体が消えた殺人事件」

 

片方は知っている。ビルの爆破は友人たちの仕業だ。海外の犯罪グループがこの街に紛れ込んだらしい。狙いはこの街に逃げてきた元構成員の子供だとか。ただ、かなり過激で一般人の怪我人も出ていたため押さえこんでしまおうと干渉した結果、何故か自爆された。

 

「死体が消えたって話初めて聞きましたね」

 

「あー、余計な不安を煽らない様にって口止めされてるんだったわ」

 

顎髭を生やしている不良教師は、明後日の方向を見ながら気まずそうに話す。彼の兄は警察官らしくそういった事件の話を聞くのだそうだ。普通話したらダメなやつだと思うんだけど、兄弟そろって口が軽い。

 

「もう聞いたので口止め料として全部話してください」

 

「………お前って変に図太いよなぁ」

 

呆れた様子でため息を付く男は目が死んでいる。

 

「二丁目の交差点でな死体が見つかったんだ。黒服の男。見つけたのは深夜に車を運転していたドライバーでな。通報の3分後に忽然と死体が姿を消したらしいんだ」

 

「実は生きてたとかじゃなくてですか?」

 

「あー俺もなぁ、そう思ったんだけどな。死体の写真を撮っていたみたいで見たら、ありえない死に方をしてたんだよなぁ」

 

「あり得ない死に方、ですか」

 

「なんつーか、内部から壊されたみたいな?そういう死に方だったんだ」

 

詳しく聞こうとした瞬間五時を知らせる鐘の音が町全体に響く。

 

「反省文、書き終わったか?」

 

「………反省はしたんで見逃してほしいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「欠席者もいるみたいだけど、定例会議を始めたいと思います」

 

円卓を囲み、5人の男女が座っている。部屋の内装はSFに近い。無機質さと暖かさが混在している。

 

「今回は欠席が多いっスね~何かあったんっスか?」

 

「定例会議の出席率が悪いのはいつものことでしょ?それより、早く会議を進めてくれない?あたし寝不足なの!」

 

茶髪の少女の疑問をばっさり切り捨て、猫耳フードの少女が司会の青年を睨む。青年は、別段臆することなく少女の怒気をスルーして話を進める。

 

「氷雨、報告をお願いできるかな?」

 

司会の青年の視線が、黒い髪にバラ色のリボンをした少女に注がれる。ビシッと制服を着こなし凛とした雰囲気を漂わせており、できる女という感じだ。

 

「はい、地下組織『ヴェクター』を先日大門さんが壊滅させ、残党は公安秘匿組織『Different ability crime countermeasures room』通称、DACCRが確保したとの情報が入りました。ただ、大門さん曰くまだ生き残りが潜伏しているらしく、そちらを追うのでしばらくは戻れないとのことです」

 

「ヴェクターって海外のマフィアもどきっスよね?何で日本に拠点を移してきたんでしたっけ?」

 

声をあげたのは制服を着た少女だ。懐っこい顔立ち、長めの明るい茶髪を後頭部で一つにまとめている。隙間に輝くベージュ色の瞳はくりくりと可愛らしい。華奢な身体が小動物っぽさを際立たせていた。

 

「例の新薬を探しに来ていたらしいですよ」

 

「ああ、あの都市伝説のことか」

 

氷雨の言葉に反応したのは、質問した少女ではなくいかにも神経質そうな顔をした少年だった。

 

「あら、インテリ眼鏡。あんたいたのね、気が付かなかったわ」

 

「ほう、随分と目が悪くなったようだ。スナイパーなんてやめたらどうだ?」

 

「はぁ?」

 

「………」

 

インテリ眼鏡と猫耳フードの少女の間に見えない火花が散りだしたのを見て、司会の青年が手を叩く。

 

「はい、そこまでにしてね。京香、早く会議を終わらせたいといったのは君だよ。必要以上に突っかからないでね」

 

司会の青年にイケメンスマイルでたしなめられ、京香は渋々といった感じで大人しく席に着いた。それに呼応するように、インテリ眼鏡少年もにらみつけるのをやめ謝罪する。

 

「すまない、会議を続けてほしい」

 

「…これは確定事項ではないのですが、ボス(紫苑さん)の学校にDACCRの犬がいるらしいです」

 

「まあ、別に問題ないんじゃないっスかね?よほどの使い手じゃない限り、先輩には傷一つ付けることすらできないっスからね~」

 

「それに関しては同感です。ただ、何の目的で入学するのかはわかっていないのは、良い状況とは言えません。最近、DACCRは我々を血眼になって探していますからね…」

 

「まあ、それとなく監視はしておくっスよ。ただ、自分中等部の生徒なんで高等部の生徒を常に監視することはできないっスよ」

 

「構いません。もしもの保険というだけです。くれぐれも紫苑さんから頼まれない限りは何もしないでくださいね、凛香」

 

「もちろんっスよ~先輩の思考を読むなんて芸当、自分には無理なんで」

 

「報告は以上でいいかな?」

 

タイミングを見計らって、司会の青年が会話に入る。

 

「はい、報告は以上となります。質問のある方はいますか?」

 

「一ついいか?」

 

インテリ眼鏡と呼ばれた少年が眼鏡をクイっと押し上げながら、静かな声で氷雨に問いかける。

 

「はい、何でしょうか?」

 

「先日の爆破騒ぎの組織、RZEといったか?あのバカどもの動向はつかめたか?」

 

「ええ、どうやら元構成員の子供を探しているらしいです。理由まではわかりませんが、希少な能力を持っているようで」

 

「能力を利用しようと狙われてる感じか?」

 

「はい、裏は取れてはいないですが彼女の親は組織に娘を利用させないために庇って殺されたそうです」

 

「なるほど、理不尽な話っスね」

 

「その話の裏が取れたら助けに行かないとね?」

 

青年のその言葉に一同は頷く。京香は青年の言葉に対して一つの疑問点を投げかける。

 

「でもあんまり時間はないんじゃない?ビル爆破するぐらいイカれたやつらよ?長々逃げ切れるとは思えないわね」

 

その言葉に嘆息をこぼしながらも青年は淀みなく言葉を紡ぐ。

 

「紫苑が動いていないんだ。問題ないよ」

 

「………先輩はすごい人っスけど人間ですよ?」

 

そんな凛香のつぶやきは誰にも拾われることはなく虚空に消えていく。そして会議の終わりを告げるのだった。

 

「じゃあ、今日の会議は終わりで!解散!」

 

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