秘密結社のボスに祭り上げられた話   作:じゃがありこ

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第2話

「失礼します、第一部隊所属の雨乞時雨です」

 

時雨は上司からの呼び出しに答え、部屋に入る。その部屋の一番奥に一人の男性が座って立派な机に肘をついていた。

 

「おう、待ってたぜ?」

 

座る男性が時雨に笑みを浮かべる。時雨はその机の前まで歩き寄り、欠伸を噛み殺し聞いた。

 

「何の用ですか?藤松隊長」

 

公安秘匿組織『Different ability crime countermeasures room』通称、DACCR。それは国内の能力者を統括し管理する組織である。似たような組織は世界中に存在している。しかし、実際のところ上の人間たちはお飾りの人間が多く、ほとんどの権限は実働部隊である『異能犯罪対策特務室』が所持している。その仕事は主に、国内の異能者の統括と異能犯罪の取り締まりだ。特務室はいくつかの部隊に分けられており、全五部隊だ。階級的には各部隊の隊長の上に、副室長、室長がいる。つまり、時雨の目の前にいるこの藤松は特務室において三番目に権限を持った人間なのだ。

 

「随分眠そうじゃねえか?最近寝てねえのか?」

 

「ええ、まあ」

 

ここ数日地下組織『ヴェクター』の調査でほとんど寝れていない時雨は、突然の呼び出しに機嫌を悪くしていたのだが、これが終われば寝れると思い我慢する。

 

「先日、第三部隊所属の藤沢海藤が『X』の構成員と交戦。負傷したうえ、敵を逃がした」

 

「藤沢さんが負けたんですか!?」

 

時雨は、藤松の口から発せられた驚愕の事実に思わず食いついた。藤沢は第三部隊のエースであり、特務室の中でもその実力は上位に食い込む。

 

「痛み分けといったところだな。藤沢は右腕を粉砕骨折、他数か所を骨折したのに対し相手も少なくとも左腕は使い物にならないようだからな」

 

「…そもそも、どうして第三の藤沢さんが『X』の構成員と戦闘になったんですか?『X』の調査は我々第一と第二の氷川の管轄のはずでは?」

 

「あいつらが『X』の構成員と交戦したのは単なる偶然だろう。向こうにしても予想外だったはずだ?お前さんは、『X』の用心深さをよく知っているだろ?そう簡単に尻尾を掴ませちゃくれねえ」

 

そう、時雨はそのことをよく知っていた。2年間もの間『X』を追い続けているのだ。何人もの人間があの組織を追い、敗れていった。確認できている構成員は7人。全体の構成人数は不明。目的も不明。分かっていることといえば、構成員は何かしらの面をかぶっていること。尋常ではない練度を誇っていること…そして、裏社会においてパンドラの箱とされ、恐れられていることだけだ。

 

「お前と氷川が『X』のボスらしき人物と交戦して以来、あの組織に執着しているのは分かるけどな?俺らの目的は日本の能力者の統括、そして治安の維持だ。言ってること分かるよな?」

 

「ま、待ってください!」

 

何を言われようとしているのか敏感に察した時雨は、声を荒げ遮ろうとする。

 

「『X』の捜査は大幅に人数を削減して行うことが決定した。時雨隊員、お前はまだ16歳の学生だ。優れた才を認められ特例で、ここにいるものの本来は高校生であることを忘れてはいけない。俺と上は少し働き過ぎだと判断した」

 

「待ってください!私はまだやれます!」

 

「さっき、寝てないのだと自分で言っなかったか?」

 

時雨は臍を噛む。この展開を読んでいたからこそ、藤松は自分にそんな質問をしたのだと気づいたからだ。

 

「……自分は藤沢さんのように負けたりしません」

 

「ハッ!ガキが強がってんじゃねえよ」

 

なおも食って掛かる時雨に、藤松は静かで諭すような口調から一転、厳しい口調に変え時雨を諫めた。決して、怒鳴ったわけでもない。声が通ったわけでもない。しかし、明確に言葉に含まれた圧を感じ取り、時雨は一瞬ひるんでしまった。

 

「……」

 

「弁えな、時雨隊員。子供に危険な任務を課している今の制度がそもそもいかれてんだ。学生は学生らしく、学校に行け。非日常から日常を守るのが俺の仕事だ。いいな?」

 

「……それが命令なら」

 

渋々といった様子で時雨は頷く。

 

「じゃあ家に帰れ、時期が来たらまた呼び戻す。それまでは大人しくしていることだな。あ、あとお前の特務室の一員としての権限はなくなってねえけど、乱用はしてくれるなよ。部下の首を飛ばすなんて御免だからな?」

 

「はい…」

 

 

 

 

 

 

 

肺が上下に掻き回される。

空気が喉の隙間につまり、脳みそから酸素を奪っていく。頬の表面に、熱が集まり恐怖にも似た感情がじわりじわりと足の裏を蝕んでいる。

唇に食い込んだ犬歯の跡。そこに残るじくじくとした感覚を反芻しながら、(あたし)はただひたすらに屋上へ向かう。

早朝ということもあり、人気のない廊下に、靴の底が擦れる音が響く。階段を上り屋上へ続く扉を開く。まだ外は薄暗い。

(あたし)は僅かに目を細めて、内に溜まった感情を吐き出すかのように、屋上の壁を蹴りつけた。

 

「くっそ!!!」

 

目をつむっても思い出せる。2年前のあれを、忘れられるわけがない。

 

燃え盛る炎の中、積み重ねっている何人もの死体の山。その中に立つ一人の仮面の少年。年は同じくらいに見えた。奴の全身は血にまみれており、『微睡』の文字が刻まれた面は血を滴らせながら炎に照らされていた。体温が失われていく姉を抱えながら、(あたし)は必死に吠える。

 

「お前が!お前が姉さんを…みんなを殺したの!?」

 

「………姉の思いは汲んでやるべきだ。今のお前には何もできないし、何も救えないのだから」

 

奴はそう言い残し、私の目の前から消えた。あの時の言葉、今ならわかる。あいつはこう言いたかったんだ。

 

『姉の願いだからお前は生かしておいてやる』っと。

 

 

 

「泣かないで…しぐれ」

 

か細い声で言葉を紡ぐ姉さんに必死に声をかける。

 

「だ、大丈夫だ!すぐに治療する。もうすぐ、警察も救急車も来る。だからがんばって、姉さん!!!」

 

「わたし………私はもう……ダメ、だから」

 

「何言ってるのさ!!!」

 

声が震える。

 

「しぐれには………普通に生きてほしいの…。だから…」

 

「姉さん!」

 

「何もしてあげられなくてごめんね…。お母さんたちにもごめんねって伝えておいてほしいの」

 

炎の赤い光に照らされてなお姉さんの体は青白い。

 

「もうしゃべるないで!!!」

 

「せめて………しぐれにはこれを…」

 

なおもしゃべるのをやめない姉さん。もう限界なのはみてわかる。頭では分かっていた。だけど

 

「受け…とって」

 

姉さんは(あたし)の腕にかみつく。それはもう、甘噛みなんてレベルのものではなく血が噴き出すぐらい思い切りだ。痛みに顔をしかめ困惑する私を置いて、状況はめまぐるしく変化する。淡くあたたかな光る球体が姉さんの中から飛び出し、俺の中に入ってくる。一瞬の苦しさと、不思議な安心感に包まれ、私は意識を手放した。

 

記憶に残っているのはここまで。救助隊の話では、炎はなぜか沈下し建物は今にも倒壊しそうな状態だったが、不自然に保たれていたらしい。

 

後に私は、DACCRの職員に『X』のリーダーと思われる男が自分の見た仮面の少年だと聞かされた。姉さんが所属していたこともあり私は姉さんと同じ『未成年特別処置法』でDACCRに入り、今に至る。

 

 

あの男は必ず私が捕まえるんだ―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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