ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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第一章
弱者の勇気


「ごめんなさいごめんなさい! 二人のことは許してやってください」

 

 木の葉も紅葉し始め、秋の空模様に移り変わりつつあるある日。

 

 一人の少年――南雲ハジメは、見知らぬ老婆と小さな子どもとために、不良達の間に入って土下座していた。

 

 子どもが不良達にぶつかってしまい、服を汚してしまったのだ。それに難癖つけてきた不良達が恐喝していた所を見て、ハジメは思わず間に入ったのだ。

 

「は? なんだぁお前」

「急に出てきてなんだよ、邪魔なんだよ!」

 

 しかし、入ったら入ったで、別にいいことがあるわけでもなく。

 

 単に標的が子どもと老婆から、ハジメに移り変わっただけ。少年は代わりに暴力を受けることとなった。

 土下座している所を蹴られ、飲み物の入ったペットボトルを投げられ、唾を吐かれた。

 

 それでも大声で、ひたすらに謝り続けた。

 

 するとどうだろうか。不良達も、流石に嫌な顔をして去っていった。土下座されると、なんだかんだで嫌なものである。

 

 不良達が去ったところで、ハジメは顔を上げ、後ろを、子どもと老婆の方を見るが、

 

「ほ、ほら……早く行きましょう!」

「あ、うん……」

 

 そそくさと、その場から逃げるように去っていった。わずかに見えたその目は、ハジメにとっては、まるで異質なモノを見ている時のもののように見えた。

 それ以外の周りの人も、変なものを見る目でハジメを見ていた。その視線に気付かれたことに気付くと、周りの人達はすぐに目を逸らし、去っていった。

 

 別に感謝されるために助けたわけじゃないけど。

 

 そうは思っても、なんとなく悲しい気持ちになった。助けたところで、ただ馬鹿にされているように感じて。

 

 その時だった。

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

「え?」

 

 一人の少女が、声をかけてきた。

 

 そこには、長い艶のある黒髪をした、非常に可愛らしい女子中学生がいた。ちょうど、ハジメと同じくらいの年齢だろうか。ただ制服は違うので、別の学校のようだが。

 

「ほら、さっきまで蹴られたり、飲み物をかけられたりしてたから……あっ、ちょっと待って!」

 

 少女はカバンからティッシュを、ポケットからハンカチを取り出し、それでハジメの服に付いた汚れを拭き取った。完全には汚れは取れなかったが、それでも、ある程度は水気が取れてマシになった。

 

「怪我はなさそうですが……痛い所とか、ありますか?」

「いや、そういうのは特には」

 

 傍から見れば、ハジメは変な人だ。大声で謝りながら土下座をしていたのだから。自分でもそれは理解していた。

 

 だからこそ、少女の優しさには、涙が出そうになった。唯一、優しくしてくれた人だったから。

 

「とにかく……色々してくれてありがとう」

「いえ、これくらい全然」

 

 そう少女は言ってはいるが、ハジメは何度もお礼をした。その中には、色々な想いが詰まっていた。

 

「もう本当にありがとうございます。えっと……」

「あ、私は白崎香織(しらさきかおり)といいます」

「白崎さん。今日は本当にありがとうございます」

 

 そうしてハジメは別れ、家の方へと歩いていった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 そして家に帰った時、制服が汚れていたので、母親には何があったのかと尋ねられた。しかしそれは転んだだけと、適当に誤魔化したのだが。

 

 その後、ふと着替える時に、ポケットの中に気づいた。

 

「あ」

 

 そこには、見知らぬハンカチが入っていた。見覚えは無かったが、心当たりはあった。確実に、助けてくれた白崎香織のものだろう。

 

「洗って返さないとなぁ」

 

 白崎香織の家の場所を、ハジメは知らない。しかしそれでも、頑張って探さなければならなくなった。ハンカチを返して、また改めてお礼を言うために。

 

 ――中学二年生のある日の出会いを堺に、南雲ハジメの未来は、大きく変わっていく。

オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?

  • 白崎香織
  • ユエ
  • どっちも
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