弱者の勇気
「ごめんなさいごめんなさい! 二人のことは許してやってください」
木の葉も紅葉し始め、秋の空模様に移り変わりつつあるある日。
一人の少年――南雲ハジメは、見知らぬ老婆と小さな子どもとために、不良達の間に入って土下座していた。
子どもが不良達にぶつかってしまい、服を汚してしまったのだ。それに難癖つけてきた不良達が恐喝していた所を見て、ハジメは思わず間に入ったのだ。
「は? なんだぁお前」
「急に出てきてなんだよ、邪魔なんだよ!」
しかし、入ったら入ったで、別にいいことがあるわけでもなく。
単に標的が子どもと老婆から、ハジメに移り変わっただけ。少年は代わりに暴力を受けることとなった。
土下座している所を蹴られ、飲み物の入ったペットボトルを投げられ、唾を吐かれた。
それでも大声で、ひたすらに謝り続けた。
するとどうだろうか。不良達も、流石に嫌な顔をして去っていった。土下座されると、なんだかんだで嫌なものである。
不良達が去ったところで、ハジメは顔を上げ、後ろを、子どもと老婆の方を見るが、
「ほ、ほら……早く行きましょう!」
「あ、うん……」
そそくさと、その場から逃げるように去っていった。わずかに見えたその目は、ハジメにとっては、まるで異質なモノを見ている時のもののように見えた。
それ以外の周りの人も、変なものを見る目でハジメを見ていた。その視線に気付かれたことに気付くと、周りの人達はすぐに目を逸らし、去っていった。
別に感謝されるために助けたわけじゃないけど。
そうは思っても、なんとなく悲しい気持ちになった。助けたところで、ただ馬鹿にされているように感じて。
その時だった。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「え?」
一人の少女が、声をかけてきた。
そこには、長い艶のある黒髪をした、非常に可愛らしい女子中学生がいた。ちょうど、ハジメと同じくらいの年齢だろうか。ただ制服は違うので、別の学校のようだが。
「ほら、さっきまで蹴られたり、飲み物をかけられたりしてたから……あっ、ちょっと待って!」
少女はカバンからティッシュを、ポケットからハンカチを取り出し、それでハジメの服に付いた汚れを拭き取った。完全には汚れは取れなかったが、それでも、ある程度は水気が取れてマシになった。
「怪我はなさそうですが……痛い所とか、ありますか?」
「いや、そういうのは特には」
傍から見れば、ハジメは変な人だ。大声で謝りながら土下座をしていたのだから。自分でもそれは理解していた。
だからこそ、少女の優しさには、涙が出そうになった。唯一、優しくしてくれた人だったから。
「とにかく……色々してくれてありがとう」
「いえ、これくらい全然」
そう少女は言ってはいるが、ハジメは何度もお礼をした。その中には、色々な想いが詰まっていた。
「もう本当にありがとうございます。えっと……」
「あ、私は
「白崎さん。今日は本当にありがとうございます」
そうしてハジメは別れ、家の方へと歩いていった。
◆◇◆◇
そして家に帰った時、制服が汚れていたので、母親には何があったのかと尋ねられた。しかしそれは転んだだけと、適当に誤魔化したのだが。
その後、ふと着替える時に、ポケットの中に気づいた。
「あ」
そこには、見知らぬハンカチが入っていた。見覚えは無かったが、心当たりはあった。確実に、助けてくれた白崎香織のものだろう。
「洗って返さないとなぁ」
白崎香織の家の場所を、ハジメは知らない。しかしそれでも、頑張って探さなければならなくなった。ハンカチを返して、また改めてお礼を言うために。
――中学二年生のある日の出会いを堺に、南雲ハジメの未来は、大きく変わっていく。
オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?
-
白崎香織
-
ユエ
-
どっちも