ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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謝罪

 ハジメが光輝に殴られ、軽い脳震盪になってしまった。そのため大事を取って三日間、ハジメは学校を休んだ。

 

 その週の日曜日のことだ。ハジメは香織の父親である智一に会いたいと言われたので、白崎家にやって来ていた。幸い脳震盪による症状は完全に無くなっていたので、ハジメが自ら行くと行ったのだ。

 

「……」

「……」

 

 そして今、ハジメと智一は対面している。ハジメの隣には、香織も座っている。

 

「南雲ハジメ。香織との交際を認める」

 

 そうして出てきた言葉は、ハジメや香織にとって予想外のものだった。なんせ、まだテストが始まってすらいないのだから。

 

「え……? でもテストが始まってすらいませんよ?」

「うん。嬉しいは嬉しいけど……どうして急に?」

 

 その疑問を露にすると、智一はハァ〜と、大きなため息を吐いて言う。

 

「正式に俺から認めてもやらなきゃ、香織に光輝(クソガキ)が近づいてくるからな。それだけは認められねぇ」

「クソガキ……」

 

 以前はその言葉が誰を指すのか分からなかったが、今なら分かった。しかし智一がそう考えるのも妥当であると、ハジメは感じていた。

 自分を傷付けることで、香織を傷付けた。香織を傷付けたともなれば、その父親である智一が黙っていないわけがない。

 

「ただし、お前が香織に相応しくない行動をすれば、その時はその時だ、覚悟しておけ」

「肝に銘じておきます。そして……本当にありがとうございます」

 

 席から立ち上がり、ハジメは智一に向けて深々と頭を下げた。今は親に認めてもらった上で、香織と付き合うことができるという喜びに打ち震えていた。

 そしてそれは、香織も同じだった。彼女は頭を上げたハジメに勢いよく抱きついた。

 

「ハジメくん……よかった……!」

「うん……うん、そうだね。僕も本当に嬉しいよ」

 

 ハジメも香織が喜んでいる姿を見て、思わず表情が緩んでしまう。好きな子が喜んでいる姿を見ると、思わず嬉しくなってしまうものだ。

 

 イチャイチャしている二人に、大きな咳払いをして、智一は言った。

 

「……まぁそういうわけで、今回のテストの話は無しだ。流石に今回の状況で一位を取れというのは苦だろうからな」

「そうですか……でも、テストで良い順位を取るための努力は続けます。香織は本当に素敵で……そんな子に見合う男になりたいですから」

「そうか。お前なら……ああ、信じることができるな」

 

 こうしてハジメと香織の交際は、正式に認められることとなり、二人は喜んだ。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 そういった用事を済ませ、家に帰ってきたハジメ。日曜日ではあるものの、母親は漫画家、父親はゲーム会社の社長ということで、忙しくて家にいないことも多い。実際この日は、ハジメ一人だった。

 

 家に帰った頃には朝の十一時。それからカップラーメンを食べ、翌日からテストということもあり、勉強していたのだが、

 

 ピンポーン。

 

 チャイムが鳴った。誰だろうかと思いつつ、玄関まで行くとそこには、予想すらしていない人物が立っていた。

 

「……!」

「南雲……」

 

 そこにいたのは、光輝だった。手には家の場所など教えていないはずなのに、何故やって来たのかという疑問はあったが、それ以上に、まさかこの人がやって来るとは、想像すらしていなかった。

 

「学校では本当にごめんなさい!」

 

 すると光輝は、深々と頭を下げて、謝罪した。その様子にハジメは、少なからず驚いてしまった。なんせ、光輝が謝る姿を想像できなかったから。

 

「俺は……香織と付き合ってるお前が気に入らなくて、無理矢理香織から引き離そうと……そのために、変な噂を理由に殴って傷付けて……本当にごめんなさい!」

 

 その時の光輝には悪気は無かった。しかしその行動には、明らかな悪意があった。無意識にハジメを嫌い、嫌った人物への嫉妬により、こじつけでハジメを傷付けることを正当化し、実際に傷付けた。これを悪意と呼ばずして何と呼ぶか。

 光輝はそれを、全て理解していた。露骨に意識して悪い行動をしたわけではないが、無意識的に、いつの間にか、ハジメを傷付けるために悪意ある行動をしていたことを。

 

「それとこれ……お詫びの品です……」

 

 顔を上げると、光輝はすぐに手に持っていた箱を手渡す。大きさ的には、おそらくケーキだろうと分かった。

 

「別にいいのに……それよりも、香織の所には行った?」

「一応行ったけど……謝ったらすぐに追い出された……。まぁ、俺はそこまでのことをしたんだ、当然のことだけど……」

「……」

 

 光輝は明らかに落ち込んでいる。自らの失敗をひたすらに悔いている。それもそうだ、彼は自らの悪行のせいで、幼馴染二人との仲が悪くなってしまったのだ。

 

「天之河君」

「なんだ……?」

「少しだけ、話がしたい」

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 そうして家に上がることになった光輝の額は、緊張による冷や汗で濡れていた。話とは何だ、何を言ってくるつもりなのか。俺は他に何をして償えばいいんだ。思考は巡り巡っていた。

 

「それで、話がしたいって言ってたけど……何を話すんだ……?」

「うん。なんだろうね……天之河君の過去を、少し知りたいと思って」

「過去っていうのは、小学生の時とかそういう……?」

「うん。ちょっと気になってさ」

 

 ハジメが光輝の過去に興味を持ったのは、やはりあの事件が影響している。何故あんなことをしてしまったのか、そもそもそれ以前には何があったのか。そして今、どうして悔いることができたのか。純粋に興味を持っていた。

 

「でも、どこから話せばいいのか……」

「あー……それもそうか。それならさ、小学生の時の話から聞いてみたいな」

「小学生の頃……普通に皆で仲良くしていた記憶しかないけど。失敗という失敗はしてないと思ってたし…………いやでも、今になって考えてみると、いくつか違和感がある」

 

 小学生の時の記憶を思い返して、光輝が感じた違和感は二つ。

 

 第一に、雫についてだ。彼女は小学生ある時期にイジメを受けていた。当時の雫は剣道のために髪を短くしており、飾り気の無い女の子だったらしい。そんな雫は、他の女子生徒からイジメを受けるようになった。もちろん光輝は、それを話し合いで解決した。

 しかししばらくして、雫はイジメがまだ続いていると訴えてきた。その時はそんなことはないと思っていたが、今になってみれば、本当は、イジメが続いていたのではないかと思っていた。

 イジメが続いていなかったとしたら、どうして雫は悲しんでいたんだろう。そういった疑問が出てきた。

 

 次に恵里について。光輝が恵里と出会ったのは、とある橋の上だった。一応学校でも姿は見ていたけど、あまり話すことはなかった。

 なんと恵里は、橋から飛び降りようとしていたのだ。それを止める過程で、恵里の話を聞くことになったのだが、今になって考えてみると、恐ろしいことを言っていたように思えた。

 その時の言葉を思い返すと、光輝は『恵里はその時、虐待を受けていたのではないか?』という風に思わずにはいられなかった。あの時は親とケンカしただけと思っていた気がするが……それだけで、飛び降りようとするだろうか。

 

「……なんだかこうして思い返してみると、俺って中途半端だな。誰かを助けたと思い込んで、実は誰も完全には助けてない」

「まぁでも小学生の時の話だから。今になってでも、思い返して反省できていればそれでいいと思うよ?」

 

 ああでもと、ハジメはさらに続ける。

 

「中村さんのことはちょっと気になるなぁ。虐待が本当だったら相当ヤバいし……ちょっと思い出せたりしない?」

 

 昔のことから、ハジメはわずかに危機感を募らせる。別に関係無いと言えば関係無いのだが、放ってはおけないと感じてしまった。

 

 しかし、流石に何年も前の話だったので、光輝も思い出すことができないようで。

 

「かなり昔の話だから、あんまり思い出せないなぁ。クラスで孤立してたから、女子達に手伝ってもらって恵里を何とかしてあげようとはしたけど……」

「それじゃあ……あっ。その時の中村さんの外見とかってどんな感じだった?」

「外見は……今と似てると思う。髪は短めで、でもなんか乱れてたというか……あと、昔はかなり暗い性格で、一人称が『僕』になってた気が……」

 

 一応大雑把なことは覚えているが、流石にこれ以上は光輝には思い出せなかったようだ。

 

「……やっぱ、虐待があったんだと思う。物的証拠が無いから断言はできないけど、行動が異常だし」

「じゃあ今も?」

「ああいや、多分無いんじゃない? 今はそこそこ明るくなってるっぽいし、前少し話した時は一人暮らしだって言ってた。……だけど、ここは小学生の時に助けてあげた天之河君が、少し気遣ってあげた方がいいかも。助けてくれた天之河君以外は信用できない……ってこともあるかもしれないから」

「……分かった。少し話してみることにするよ」

 

 これで、光輝の小学生時代の話は終わり。ここでふと、ハジメは疑問が浮かんだ。そういえば、反省するきっかけってなんだろう、と。

 

「とりあえず、小学生時代の話はここまでにして……そういえば天之河君って、どうして今回のことを反省することになったの?」

 

 それに光輝は、わずかに俯いて答えた。

 

「母さんに怒られてさ。恥ずかしいことに、ここで初めて間違いに気づいたんだ。今までは、パッと見は何一つ間違えずに全て成功させてきたから……初めての感覚で、とても苦しかった」

「見かけ上は全て成功させてきたって……それはそれで凄いなぁ。そりゃ初めての失敗ともなれば、苦しいよね……」

「うん……だけど、普通は皆経験してることなんだよね?」

「そりゃあね。挫折も何も知らない人なんてそうそういない。みんなたくさん間違えて、直して、成長するんだ。僕もそうだったし」

 

 そうして、ハジメは少し自分の話をする。

 

「学校だけではあんまり分からないかもだけど……僕ってオタクなんだよね。父さんがゲーム会社の社長で、母さんが漫画家だから。そういうものにのめり込んじゃったりして。中学校の時とか、ほぼ全ての授業で寝てたんだよね」

「ああ……そういえば、遠藤とかとそういう話をしてた気が……」

「うん。そういうわけだから、漫画とかラノベとかゲームとか、そういうのが……あっ!」

 

 ちょっと待っててと言うと、ハジメは席を立ち上がり、急いで二階へと上がった。

 

 しばらくすると、ハジメは何冊かの本を持ってきて降りてくる。その本は、いわゆるライトノベルと呼ばれるものだった。

 

「せっかくだし、これ読んでみる? 今はテスト週間だからアレだけど……テスト全て終わったら、せっかくだし読んでみてよ」

「……いいのか?」

「そりゃもちろん。読み終わったら、その時に返してくれればいいから」

 

 そう言って、ハジメはラノベを何冊か光輝に貸すことにした。適当に袋の中に入れて、光輝に手渡した。

 

「……今日はこうして話せてよかった。八重樫さんとか坂上君から聞いたんだけど、クラスの皆に嫌われたんだっけ?」

「嫌われた……ああ。ほとんど全員、俺を避けるようになった。……どうすれば、信頼を元に戻せると思う?」

「どうすればって言われても……少しずつ、態度で示すしかないと思う。そのやり方は……流石に僕じゃ何も言えない」

「そうか……」

 

 光輝は自分の胸に軽く触れる。苦痛で胸が痛むのか、何度か深呼吸をしていた。

 

「南雲、今日はありがとう」

「え?」

 

 すると突然、感謝の言葉を述べる光輝。何に感謝されたのか分からず、ハジメは困惑する。

 

「俺に足りないことが見つかった気がする。色々なことを教えてもらった気分だよ」

「……それは良かった」

「また明日、学校で会おう。それじゃあ」

「うん」

 

 そうして、光輝はハジメの家を出ていった。少なくともその時の光輝は、家に来た時のような思い詰めた表情はしていなかった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 そうして、約一年が経過した。




なんか物凄い駆け足になってしまいました……。

しかしこれ以上高校生活編をやっても、なんとなく蛇足感があるのでこの辺でストップにします。今回の出来事による変化は次話にて軽く紹介する感じにします。

次回、トータス召喚です。



-追記-
エボニー&アイボリー様  トウリ様
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パルスD様  GREEN GREENS様  dさん 様
サイ岩様  カロンガンダム様
アンノウン・オリジー様  ユウ・十六夜様

評価ありがとうございます!
どんな評価であろうと、今後の励みになります。これからも応援よろしくお願いします。

それと、活動報告に書いておきましたが、一週間ほど投稿をお休みさせていただきます。次回の投稿は、多分次の月曜日だと思います。

オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?

  • 白崎香織
  • ユエ
  • どっちも
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