それと、な~んかどこぞの誰かさんが、私の作品のダイレクトマーケティングをしていたようで……本当にありがとうございます。これからも頑張っていきます。
両手で顔を庇い、目をギュッと閉じていたハジメは、ざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと目を開いた。そして、周囲を呆然と見渡す。
まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。しかしなんとなく、ハジメは壁画から違和感というか、言語では表現が難しい何かを感じ取った。
よくよく周りを見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。すぐ側には香織もいる。
「香織……大丈夫?」
「え……っと、ハジメくん……?」
「うん」
「私は、大丈夫だから……」
とは言うものの、香織の体は震えており、不安からかハジメの手を握り、体を寄せてきた。
「……安心して。何も起こらないだろうから」
「うん……」
そうして香織を落ち着かせながらも、ハジメは周囲を確認する。
おそらくは大理石、あるいはそれに近い材質の石材でできた白い石造りの建築物のようで、美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂、という言葉が一番良く似合う。
ハジメ達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りにはハジメと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。
そして、おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む者達への観察に移った。
この広間にいるのはハジメ達だけではない。少なくとも三十人近い人々が、ハジメ達の乗っている台座の前で祈りを捧げるように跪いていた。
法衣のような白い服装や、側に置かれた錫杖からして、なんとなく宗教関連の人達であろうと予測できた。
ならばここは教会のような場所か、と予測していると、法衣集団の中でも特に豪奢な衣装を纏い、高さ三十センチ位の烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。
◆◇◆◇
現在、ハジメ達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。
上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。ハジメは香織の隣なので、かなり前の方だ。
ここに案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは、未だ現実に認識が追いついていないからというのもあるだろうが、何よりカリスマレベルMAXの光輝が落ち着かせたことも理由だろう。
一度は嫌われていたにも関わらず、また信用を取り戻したのも、この天性のカリスマというものの影響かもしれない。
その後はメイドさんが部屋に入ってきて、飲み物を給仕してくれた。メイドさんが美女・美少女だったこともあり、多くの男子がメイドさんに釘付けになったりしていた。
全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そうして説明された内容というのは、現代に生きる人達にとってはあまりにファンタジックであり、どうしようもないものだった。
要約するとだ。
まずこの世界は、トータスという。トータスには三種の知的生命体が存在しており、それは人間族、魔人族、亜人族の三種である。ただ亜人族に関しては、今回の話ではそこまで関係してこない。
残りのニ種族、人間族と魔人族は、何百年も戦争を続けている。魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。
しかしある時、魔人族が大量の魔物という新たな戦力を使役してきた。本来なら一体か二体を使役するのがやっとだったが、未知の方法で、数百数千もの数を使役することが可能になった。
それにより、人間族の数の有利というものが消えてしまった。つまり言ってしまえば、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。
「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という“救い”を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。
イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。
おそらくこの世界の住人であれば、神の意思を何の疑いもなく信じたであろう。しかしハジメ達は異世界の住人、故に反論する人物も出てくる。
愛子先生だ。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
ぷりぷりと怒る愛子先生。社会科の教員ということもあり、戦争の恐ろしさをよく知っているからこその言葉だろう。
しかし今年二十五歳になるくらいの若い教師であり、百五十センチ程の低身長に童顔で、いつも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さ等々……態度だったり容姿だったり、そのせいで威厳というものが無い。
故に生徒達には愛されているのだが、その反面、こういった危険事態を知らせることができない。否、知らせようにも、その態度のせいで危険でないと思い込ませてしまうため、結果的にできないのだ。
実際、多くの生徒達は「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた。
しかしほんわかしていた生徒達は、次のイシュタルの言葉に凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちる。高校生以上の人間が、この言葉を理解できないわけがない。しかし、誰もが理解することを拒絶していた。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
愛子先生が叫ぶ。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
パニックになる生徒達。
これにはハジメも一瞬慌てたが、オタクであるが故にこういう展開の創作物は何度も読んでいる。もちろんこういう場合の対策方法も、知識はあるので一応だが分かっている。
なのでハジメの場合は、わずかな冷や汗をかきながらも、今後の行動方針を考え込んでいた。最善を見つけ出そうとしていた。
周りのパニックは収まらない。そんな中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。正直今は、やれることをやるべきだと思うんだ。……この世界と人々を救うことができれば、その時は元の世界に帰してくれるかもしれない。イシュタルさん、どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「……そうですか。でも、突然戦えと言われても、流石にそれは無理です。殺し合いなんてしたことないし、武術の類を修めている人も少ない。そこはどうするつもりなんですか?」
「勇者殿たちには、王国での訓練をして徐々に力を付けていってもらい、戦う準備をしてもらいます。流石に今すぐに戦わせる、ということはありません」
「分かった。なら俺はその訓練に参加する!」
握り拳を作り、堂々と宣言する光輝。同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ流石に心配だからな。……俺もやるぜ」
「龍太郎……」
「ええ、今のところ、それ以外には選択肢が無いのよね。……私もやるわ」
「雫……」
こうして、最終的には全ての生徒が、光輝の意見に賛同した。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力だった。
(光輝……この会話の中で「戦争に参加する」とは一度も言ってなかったな……あくまで「訓練に参加する」としか言ってない。注意して言ってたのかな?)
そんな光輝を見ながら、ハジメは考える。
光輝は一度も、戦争に参加するとは言っていない。彼はただ、訓練に参加すると言っただけである。つまり言質を取られていないわけである。これは地味かもしれないが、かなり重要なことだった。
クラスメイトに、戦争に参加するか否かという重い選択を後回しにさせたのだから。
それはそれとして、世界的宗教のトップということもあり、ハジメは頭の中の要注意人物のリストにイシュタルを加えるのだった。
本当であれば、評価者は第二章の最後に紹介する予定だったのですが、このペースだとかなり多くなりそうなので、一話毎に紹介していこうと思います。
只野村人C様 オアシス様 Aitoyuki様
田吾作Bが現れた様 シユウ0514様 亀の手様
評価していただき、ありがとうございます!
オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?
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白崎香織
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ユエ
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どっちも