ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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オラッ、二話同時投稿をくらえっ!

あ、でもこれは連続投稿の二話目なので、前の話をまだ読んでいない方は、この話を読むのは、一つ前の話を読んでからにするのをオススメします。


月下の語らい

 オルクス大迷宮。それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石というモノを体内に抱えているからだ。

 

 この魔石というのは、簡単に言えば、魔物を魔物たらしめる器官とでも言うべきか。強力であればあるほど、大きく良質な魔石を備えている。

 そんな魔石は、本当に様々なモノに使われている。日常生活の必需品だったり、軍需品だったり。他だと錬成師の作る道具にも、使われることは多いという、とにかく便利なモノなのだ。

 

 ただ、今回の目的は魔石ではない。あくまで訓練である。

 

 ハジメ達は、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に、オルクス大迷宮へ挑戦する冒険者達のための宿場町、ホルアドに到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まることになっている。

 

 久しぶりに普通の部屋を見た気がするハジメは、ベッドにダイブし「ふぅ~」と気を緩めた。全員が最低でも二人部屋だが、ハジメは人数の都合で一人部屋だ。そのことを、本人はそこまで気にしていないが。

 

 しばらくの間は、迷宮攻略に備えて、借りてきた迷宮低層の魔物図鑑を読んでいたハジメだが、少しずつ日が落ちてきたのを見て、少しでも体を休めておこうと少し早いが眠りに入ることにした。体はあまり疲れていないが、精神的にそこそこ疲弊していたためか、案外早く眠りに落ちることができた。

 

 しかし、ハジメがウトウトとまどろみ始めたその時、ハジメの睡眠を邪魔するように扉をノックする音が響いた。

 

「ん……あぁ~、誰ですかぁ?」

 

 そうして扉に向かうハジメ。鍵を外して扉を開けるとそこには、純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

「あ、ハジメくん。ちょっとだけ――」

「待て待て待て! なんて姿で来てるんだよ誰かに見られたらどうする……!?」

「え……あっ」

 

 ここで香織は、今の自分の姿に意識を向けてしまう。こんな姿で出歩くなど、あまりにも大胆過ぎる。それに気づき、香織は顔を赤くして羞恥に身悶える。

 

「……とりあえず入って。何か話があったんでしょ?」

「うん!」

 

 とにかく、落ち着いてハジメは香織を部屋に招き入れることに。香織も嬉しそうに入っていき、窓際に設置されたテーブルセットに座った。

 ハジメはお茶の準備をする。といっても、ただ水差しに入れたティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキだが。香織と自分の分を用意して香織に差し出し、自分は向かいの席に座った。

 

「ありがとう」

 

 嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付ける香織。窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。黒髪にはエンジェルリングが浮かび、まるで本当の天使のようだ。

 一緒にいることも多かったが、いつ見ても香織は可愛らしい、そう感じるハジメ。今の香織は、神秘的で美しかった。そんな感情を、ハジメは一口だけ紅茶モドキを飲んで、その感情も一緒に飲み込んだ。

 

「それで、話したいって何かな?」

「……」

 

 そう言うと、香織はゆっくり立ち上がり、ハジメの目の前にまでやって来る。すると勢いよく、香織はハジメに抱きついてきた。

 

「えっ!? ちょっ、どうしたのさ急に!」

「……夢を見たの」

 

 そう香織は切り出した。彼女の体は、わずかに震えている。

 

「ハジメくんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

 

 その先を口に出すことを恐れるように押し黙る香織。ハジメは、落ち着いた気持ちで続きを聞く。

 

「最後は?」

 

 香織はグッと唇を噛むと泣きそうな表情で顔を上げた。

 

「……消えてしまうの」

 

 そう言うと香織は、ハジメの胸に顔を(うず)めた。体の震えは小さいが、止まらない。悪い想像をしてしまっているのだろう。

 

 しばらく震えていて香織だったが、震えが治まると、顔を上げてハジメを見つめる。その目は潤んでおり、明らかに、見てわかるくらいには不安そうな表情をしていた。

 

「ハジメくん……死なないよね……?」

 

 ギュッと、手を握ってくる。その力は強く、むりやり不安を押し殺そうとしているようだった。

 

「……大丈夫だよ。今回はメルド団長率いるベテランの騎士団員がついているし、同じパーティーの光輝達もめちゃくちゃ強い、敵が可哀想なくらいだよ。多分、僕が錬成師でそこまで強くないから、無意識に不安になってそんな夢を見たんじゃないかな?」

 

 語りかけるハジメの言葉に耳を傾けながら、なお、香織は、不安そうな表情でハジメを見つめる。

 

「……やっぱり、不安?」

「うん……」

「それなら……」

 

 ハジメは若干恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐに香織と目を合わせた。

 

「香織、僕を守ってくれないか?」

「え?」

 

 自分の言っていることが男としては相当恥ずかしいという自覚があるのだろう。既にハジメは羞恥で真っ赤になっている。月明かりで室内は明るく、香織からもその様子がよくわかった。

 

「香織は“治癒師”だよね? 治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ……たとえ、僕が大怪我することがあっても、香織なら治せるよね。その力で守ってもらえるかな? それなら、絶対僕は大丈夫」

 

 しばらく香織は、ジーッとハジメを見つめる。ここは目を逸らしたらいけない場面だと羞恥に身悶えそうになりながらも、ハジメは必死に耐える。

 

 すると突然、香織は立ち上がってハジメをベッドにまで押し倒した。

 

「ちょっ、香織……!?」

 

 突然のことに、つい声を上げてしまうハジメ。しかしその香織は、体をくっつけて離してくれない。

 

「私が、ハジメくんを守るよ」

「あ、ありがとう……」

「でも、不安だから……離れ離れになっちゃいそうで。だから……しばらく、ギュッてしてほしいな。一緒に、なってほしいな……」

「……」

 

 香織のその声は、どこか不安そうで苦しそうで、それらの感情をなんとか押し殺そうとしているようだった。

 

 そんな香織を、ハジメは無言で抱きしめた。

 

 この後、香織がハジメの部屋を出たのは、太陽が昇り始める頃だったのだという。

 

 

 

 

 

 しかし、二人は知らない。香織がハジメの部屋に入っていくその姿を、無言で見つめる者がいたことを。そして、その者の表情が醜く歪んでいたことも。このことは、誰一人として知ることはない。

オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?

  • 白崎香織
  • ユエ
  • どっちも
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