ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

22 / 52
人間のままで

 迷宮のとある場所に、二尾狼の群れがいた。

 

 二尾狼は四~六頭くらいの群れで移動する習性がある。単体ではこの階層の魔物の中で最弱であるため、群れの連携でそれを補っているのだ。この群れも例に漏れず四頭の群れを形成していた。

 そうすれば、爪熊はともかくとして、上手くやれば蹴りウサギくらいなら倒すことができるほどだ。

 

 周囲を警戒しながら岩壁に隠れつつ移動し絶好の狩場を探す。二尾狼の基本的な狩りの仕方は待ち伏せだからだ。

 

 しばらく彷徨いていた二尾狼達だったが、納得のいく狩場が見つかったのか、それぞれ四隅の岩陰に潜んだ。後は獲物が来るのを待つだけだ。その内の一頭が岩と壁の間に体を滑り込ませジッと気配を殺す。これからやって来るだろう獲物に舌舐りしていると、ふと違和感を覚えた。

 

 二尾狼の生存の要が連携であることから、彼らは独自の繋がりを持っている。明確に意思疎通できるようなものではないが、仲間がどこにいて何をしようとしているのかなんとなく分かる。

 その感覚が、違和感を察知した。自分達は四頭の群れのはずなのに、三頭分の気配しか感じない。反対側の壁際で待機していたはずの一頭が忽然と消えてしまったのだ。

 

 どういうことだと不審を抱き、伏せていた体を起こそうと力を入れた瞬間、今度は仲間の悲鳴が聞こえた。

 消えた仲間と同じ壁際に潜んでいた一頭から焦燥感が伝わってくる。何かに捕まり脱出しようともがいているようだが中々抜け出せないようだ。

 

 救援に駆けつけようと反対側の二頭が起き上がる。だが、その時には、もがいていた一頭も一瞬悲鳴を上げたが、すぐに静かになった。

 

 混乱するまま、急いで反対側の壁に行き、辺りを確認するがそこには何もなかった。ただ壁から、ジュゥゥ、ジュゥゥと、煙が出ていただけだった。

 

 そして二尾狼は、煙を吸い込んでしまった。

 

「“錬成”」

 

 その瞬間、二尾狼の皮膚を内側から突き破って、無数の鋭利な岩の棘が伸びた。内側から直に内蔵を傷つけられた二尾狼が生きているはずもなく、絶命した。

 

「よし、これで終わりっと」

 

 二尾狼を倒したハジメが、壁の中から出てくる。実は他の二尾狼を倒したのもハジメだ。しかも今のと同じ方法を変えることなく、全部瞬殺していた。

 普通に棘を足元から出現させるのであれば、あまり効果は無かっただろう。なんせ、錬成は鉱物の形を変えることはできても、その速度を上げることはできないから。故に威力が出ない。

 しかしそれでも、体内から攻撃するのなら話は別だ。体内まで堅牢な生物などそうそういない。大抵の場合、皮膚や甲殻が硬いだけで、内側の肉や内臓は非常に柔らかい。そこを突けば、いくら威力が出なくても、簡単に殺せるというわけだ。

 

「とりあえず……香織にはもう二頭運ばせてるし、残りを運ぶか」

 

 そうしてハジメは、他に仕留めた二尾狼も含めて、拠点にしている空洞へと持ち帰るのであった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「ただいま~」

 

 そう言って、香織が待つ空洞へ穴を開けたハジメ。すると先に戻っていた香織はすぐに駆け寄ってきた。

 

「ハジメくん! 大丈夫、怪我とかはないよね、ね?」

「うん、大丈夫……大丈夫だよ」

 

 ハジメは軽く香織にハグして、一分間ほど抱き合ってようやく離れた。

 

「とにかく、魔物は狩ってきた。四頭分はあるから、食べれるなら食料には困らないけど……」

 

 ハジメは、事前に作っておいた包丁のようなものを利用して、二尾狼の肉を無理矢理取り出す。それを香織が用意してくれた薪の側に置いて焼き始める。

 

「さて……魔物の肉は劇毒だ。食ったらどうなるかは知らないけど、まぁ死ぬかもしれない。だから……」

「うん。私が何とかするよ」

 

 そうして、焼き上がった肉にかじりつくハジメ。肉は硬く、肉食の魔物の肉のためか、臭みがあって非常に不味い。

 

「うわっ、臭いし不味い……」

 

 調味料等は一切無いので、純粋に肉の味だけがする。その肉の味がこれまた不味いのだ。吐きそうになるほど……ではないが、食べにくいのは事実だ。

 

 そうしていくらか食べ進めた所で、突然ハジメの肉体に異変が起こり始めた。

 

「ぅ……ガァァぁぁああ!?」

 

 突如全身を激しい痛みが襲った。体の内側が何かによって壊されていくかのような、そんな感覚が、全身を駆け巡った。

 

「ハジメくん!」

 

 香織は慌てて鉱石から出た水を飲ませる。しかしそれだけでは効果は無い。ほんの一瞬痛みを抑えただけであり、時間が経てば経つほどにハジメの叫び声ら大きくなっていった。

 

「ぐぅあああっ。か、香織ッ――ぐぅううっ!」

「ハジメくんっ! 治って、治って!」

 

 水を飲ませながら叫ぶ香織。いつ死んでもおかしくないような状態のハジメを見て、精神的に不安定な状態の香織が錯乱しないわけがなった。

 

「ひぃぐがぁぁ!! 香織……香織ぃ!」

「お願い! 治って! 治って……元に戻って!」

 

 その時だった。

 

 何も詠唱していないはずなのに、魔法を使おうとしていたわけじゃないのに、突如として魔法陣が出現した。ハジメも香織も、その魔法陣の出現には気づいていない。

 

 魔法陣からどのような魔法が発動されたのかは分からない。何か発光したりだとか、そういうのは無かったから。

 

 そうして悲鳴を上げること約二十分。その間、ハジメの肉体はひたすらに変異し続けていた。骨や筋肉が肥大化しては萎み、髪は白くなったり黒くなったり。変異こそするが、即座に元に戻っていくのだ。

 しかし十分経つ頃には、変異の速度が急速に遅くなっていき、十五分経つ頃には、目に見える変異はしなくなっていた。そして二十分で、ハジメの悲鳴は止んだ。

 

「ハジメくん! 大丈夫だよね、ね!?」

「……大丈夫。けど……流石に疲れたや」

 

 ハジメは生きていた。しかし疲れ果ててしまったのか、それだけ言うと、気絶するように眠ってしまった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 なんだか柔らかい感触がする。少なくとも岩ではない、何かの上に頭がある感覚を、ハジメは感じていた。

 

「うぅ…………ッ!?」

 

 目を覚ましたその時、ハジメは全て理解した。どうやら香織に膝枕されていたようだと。

 しかし、自分の体に違和感がある。なんとなくではあるが、体の調子がいい気がする。思考が澄んでおり、血流が良いように感じる。

 

「あ、起きたねハジメくん」

「うん、おはよう香織」

 

 ゆっくりと体を起こすハジメ。やはり、肉体の調子がなんとなく良い気がした。

 

「……なんだろうこれ。体の調子が物凄く良い。何か……ステータスに変化でもあったのか?」

 

 身体の何らかの変化を察知したハジメは、ポケットからステータスプレートを取り出して確認した。

 

 

 

==================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:12

天職:錬成師

筋力:150

体力:450

耐性:150

敏捷:300

魔力:450

魔耐:450

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+消費魔力減少][+鉱物融解][+鉱物凝固][+遠隔錬成][+鉱物融合][+鉱物分離][+高速錬成][+錬成範囲拡大][+鉱物昇華]・魔力操作[+魔力強化Ⅰ]・胃酸強化・纏雷・言語理解

==================================

 

 

 

 そのステータスは、以前と比べたら圧倒的に強化されていた。何故かステータスは大幅に増加しており、派生技能ではない通常の技能が三つも増えているのだ。

 ここまで変化したのなら、肉体も変異しているはず。変異していないとむしろ違和感があるレベルなのだが、目に見える部分には一切の変化が無い。

 

「……凄い」

「魔物を食べることで、ステータスや技能が得られる……? いや、そんな単純じゃないか?」

 

 魔物の肉には、当然ながら魔物の魔力が多量に含まれている。その魔力こそが、魔物を食べた人間に害を与える。

 

 魔物の魔力を多量に取り込んだ際の症状の第一段階。第一段階()()であれば、死ぬことは無い。

 体内に取り込んだ魔物の魔力は、元から体内に存在している魔力への攻撃を始める。魔石を持っていない人間の魔力は、この攻撃に非常に弱く、あっという間に体内の魔力がほぼ全てが分解され、魔物のそれに置き換わることになる。

 

 次に第二段階。ここから身体への致命的な害が一気に出てくる。

 体内に残った魔物の魔力は、次に身体そのものに作用し始める。その結果として、肉体は変異していくのだが、たいていはこの変異に耐えられず、人間は死亡してしまう。

 

 最後に第三段階。ここまで来て生き残っていれば、もう死ぬことは無いだろう。

 ここまで死なずに生き残った場合、肉体は魔物の魔力に適応するように変異し、魔力は安定化する。残った魔物の魔力は、わずかに残った人間の魔力を取り込み、そこから使える形質を取り込んで変異する。こういった過程を経るため、魔物の肉を食べると、魔法の適性が変化することがある。

 

 しかし今回のハジメの場合は、普通ではあり得ないことが起きていた。ハジメの魔力が、外部から入ってきた魔物の魔力に打ち勝ってしまったのだ。

 何らかの魔法の影響だろうか、ハジメは第一段階と第二段階を行き来していたのだ。体内の魔力が分解されて修復、死滅されて修復……それを繰り返す内に、取り込んだ魔物の魔力が徐々に分解されていき、最終的にはほとんどを分解しきったのだ。

 しかしそれだけでは終わらなかった。ハジメの魔力は、魔物の魔力から使える形質を取り込んで変異したのだ。その結果として得られたのが、あの高いステータスと、複数の新技能というわけだ。

 

「まぁとにかく、試してみようか……」

 

 それはそれとして、ハジメは技能を試してみるようだ。体内に流れる()()を、ゆっくりと手元に集めようとする。するとハジメの意思に従い、何かが集まってきた。

 

「ん? おっ、来た……」

 

 独特の感覚に声を上げつつも、ハジメは錬成を試みる。すると詠唱していないにも関わらず、地面が盛り上がった。

 

「ウソ……詠唱無しで魔法を……」

 

 これには香織も隣で驚いていた。それもそうだろう。魔力操作という、普通は魔物しかできないとされている超技能を、人間であるハジメが使えているのだから。

 

「次は纏雷だけど……どう使うんだこれ?」

「えっと……尻尾がバチバチしてたアレじゃない?」

「尻尾がバチバチ……ああなるほど」

 

 香織の言葉でアイデアが思い浮かんだハジメは、魔力を腕に集めて、それを電力に変換するイメージで発動してみる。すると、腕からバチバチという音と共に、空色の電気が発生した。

 

「こりゃまた凄い。んで、胃酸強化は……魔物の肉に耐性ができたってことかな?」

「……もしかして、また食べるの?」

「まぁ、うん」

 

 そういうわけで、もう一度魔物の肉を焼いて、ハジメはそれにかじりつく。そうして食べ進めていくのだが、肉体への激痛が発生することはなかった。

 

「……痛くない」

「本当?」

「本当に全く痛くないし、体の違和感も全然無い」

 

 これは単に、ハジメの魔力が強化されて、体内に入ってきた魔物の魔力を片っ端から分解することができるようになり、肉体が変異することがなくなったからである。

 他の強い魔物を食べた場合だと、流石にこうはならないかもしれないが、かなりの耐性ができたことは事実だ。

 

 そんな強くなったハジメを、香織はじっと見ていた。そして大きく深呼吸して、決意する。

 

「ハジメくん」

「うん?」

「私も……魔物の肉を食べる。ハジメくんと一緒に強くなりたい」

「……本当に、するつもり? 見てたなら分かるだろうけど、本当に苦しいよ?」

「うん。それでも……ハジメくんに置いていかれたくない。強くなって、ハジメくんを守るから」

 

 そう言って香織は、魔物の肉に喰らいつく。ハジメもそれを止めることはなかった。




オリジナル技能紹介
・魔力強化Ⅰ:魔力を強化する。それにより、魔物の魔力を取り込んでも、それを上手く分解しやすくなる。



描写から分かっている人も多いかもしれませんが、香織は再生魔法に近い魔法を詠唱無しで無意識に使っています。それ自体によるものではありませんが、結果的に、一切の肉体的・魔力的な変異はせずに技能とステータスを得ました。

私の解釈では、魔物の肉を食べると、副作用として魔法の適性が下がると考えています。ですが今回の変異の仕方は例外で、適性は一切下がっていません。

ちなみにですが、魔物肉を食べた際の変化の過程や変化の内容については、文章内で記述した通りです。ただし再生魔法がある場合は、副作用的な変化は起きないかもしれません。



そして今回もたくさんの評価をありがとうございます。

Ex10様  オアシス様  ユウリス様
村井ハンド様  紅志様  三悪様
デーモン政様  ナツカンドル様  Laupe様

評価ありがとうございます。これからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。

オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?

  • 白崎香織
  • ユエ
  • どっちも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。