ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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めっちゃ更新遅れました、すみません。

大学が一週間ほど休校になったので、八年ぶりくらいに、押し入れからポケモンプラチナを取り出してプレイしていたら、なんかすっごい楽しくなっちゃって遅れました。おのれバトルフロンティアめ、楽しすぎて執筆時間が減ったじゃないか。


あっさりと

 サソリの魔物の初手は尻尾の針から噴射された紫色の液体だった。かなりの速度で飛来したそれを、ハジメはすかさず飛び退いてかわす。

 着弾した紫の液体はジュワーという音を立てて瞬く間に床を溶かしていった。溶解液のようだ。

 

 ハジメはそれを横目に確認しつつ、拳銃を発砲する。しかし頭部に着弾した瞬間に、目を細める。

 

(銃が効いてない……)

 

 どうやら、このサソリの魔物の甲殻はえげつないほどに硬いようである。少なくとも、電磁加速させた銃弾を弾くだけの硬度を持っているらしい。

 

 そんな事実を目の当たりにしても、ハジメは足を止めることなく“空力”を使い跳躍を繰り返す。ダメージが無いのだ、いつ攻撃が来てもおかしくない。

 

 するとサソリの魔物のもう一本の尻尾の針がハジメに照準を合わせた。そして、尻尾の先端が一瞬肥大化したかと思うと凄まじい速度で針が撃ち出された。

 避けようとするハジメだが、針が途中で破裂し散弾のように広範囲を襲う。

 

「うおっ!?」

 

 ハジメは驚きつつも、銃の一部を変形して刃を形成。そこから“三爪”や“飛爪”を組み合わせて斬撃を飛ばし、針を叩き落とす。

 どうにか凌いだ後に、ハジメは一発発砲しつつ、ポーチから取り出した灰色の手榴弾を投げつけた。

 

 サソリの魔物は銃撃を耐えきり、再び散弾針と溶解液を放とうとした。しかし、手榴弾がシュゥゥ、という音と共に、コロコロの転がってきた。特に煙が出ているとか、そういうことはない。

 だがサソリの魔物は何かを察知したのだろうか、後退して手榴弾から距離を取った。

 

(気体化した鉱物にも気づかれるか……)

 

 この手榴弾――鉱物手榴弾とでも言うべきか。それには、気体化させた鉱物が入っている。それを吸い込ませて体内から攻撃を行う予定だったのだが……サソリの魔物は気体に気づき、それから距離を取った。

 階層を降りるほどに、探知系の能力を持った魔物は増えていき、気体鉱物による内臓攻撃も効きにくくなる。このサソリの魔物も探知系の能力を持っているようで、気体を避けようとする。

 

「まぁ、問題は無いけど」

 

 もちろんハジメは、これに対応した戦闘方法をとる。サソリの魔物は気体化した鉱物を避けて動くが、逆に言えば、気体の鉱物がある場所には近寄らないともとれる。この性質を利用して、行動範囲を制限する。

 

 複数の鉱物手榴弾を投げ、気体を蔓延させる。そうなれば、サソリの魔物の行動範囲を狭まっていく。さらにハジメは気体を直接操作し、サソリの魔物を壁際まで追い詰めた。

 

 そこにハジメは、赤色の手榴弾を三つ同時に投げ込む。それがサソリの魔物の甲殻にぶつかると、衝撃で爆ぜ、燃える黒い泥を撒き散らしサソリモドキへと付着した。

 この赤いのは焼夷手榴弾だ。高温で発火するフラム鉱石の性質を利用したもので、破裂すれば、摂氏三千度の付着する炎を撒き散らす。

 

 この高温には、サソリの魔物は大暴れするが……

 

「はい終わり」

 

 そんなハジメの声とほぼ同時に、サソリの魔物の動きは止まった。音があるとすれば、フラム鉱石が燃える音くらいだ。

 

 そんな炎が鎮火した時には、サソリの魔物はピクリとも動かなくなっていた。

 

「よしっ……香織、ユエ。そっちは大丈夫?」

 

 そう声をかけるが、香織の方は特に何もないが、ユエに関しては驚いていたのか、目を丸くしてハジメの方を見ていた。

 

「……さっきのは、何したの?」

「気体化した鉱物を利用して、内臓をぐちゃぐちゃにした」

「……?」

「ハジメくん、多分もう少し詳しく説明されないと分からないと思うよ……?」

 

 気体化した鉱物による攻撃。恐ろしいのは、攻撃の正体を見破るのが非常に難しいという点だ。錬成師であれば見破ることができるかもしれないが……そもそも錬成師は生産職なので、戦闘を行うことは、ハジメという例外を除けばほぼいないだろう。

 つまり、戦場でこの攻撃のタネを見破れる存在はほぼ皆無と言ってもいい。正体不明の攻撃を行えるというのは、つまり何度でも初見殺しができるということでもある。それがどれだけ恐ろしいことか。

 

「まぁ、さっきの戦闘で使った技の説明は後回しにするとして……早くここを出よう。ユエとしても、早めに出たいでしょ?」

「ん……」

「じゃあ行こう。サソリの魔物は僕が持ってくよ」

 

 そうしてハジメと香織は、新たにユエを連れて、この人工的な部屋から出たのであった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 ユエを連れて出たハジメ達は、サソリの魔物やサイクロプスの死骸を回収し、拠点へと戻った。

 

 拠点内で何をしているかといえば、ハジメは今後の戦闘に備えて消耗品の弾丸や手榴弾等の補充を。香織はユエを膝の上に乗せてお話をしていた。

 

「ユエちゃん、何百年も閉じ込められていただなんて……辛かったんだよね?」

「独りで辛かった……寂しかった……」

 

 香織の膝の上に乗せられているユエは、過去のことを思い出してか、少し俯いてしまう。

 そんなユエを、香織は後ろから抱きしめる。

 

「大丈夫だよ。これからは、私やハジメくんもいるから」

「そうだね。ユエが望むんだったら、いつまででも僕達の所にいていいからね?」

「ん……ありがとうハジメ、香織」

 

 表情は乏しく、何を考えているのか分かりにくいユエだが、ハジメと香織には、かなりの信頼を寄せているように見える。

 

「そういえば。ユエはここがどこか分かる? それと脱出のための道とか……」

「わからない。でも……」

 

 ハジメが尋ねてみるが、ユエにも詳しいことは分からないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるらしく、話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者……ああ、一応聞いたことはあるね」

「え、そうなの?」

「詳しいことは知らないけど、確か……大昔に、神に反逆しようとした眷属のことだっけ?」

「そう……神に敗北した反逆者は、世界の果てに逃走して……この迷宮を作って、隠れ住んだと言われている」

 

 どうやらここ以外にも、七大迷宮に該当する場所は、反逆者の作り出したとされているらしい。そしてその最奥には、反逆者の住処があるとも言われていたようだ。

 

「そこなら、地上への道があるかも……」

「確かにあり得るな。ここを作った反逆者が、わざわざこの迷宮を登って地上に出るとは思えないし……住処に隠し通路とかがあるのかもしれない」

 

 今まで曖昧だった可能性が、ユエの言葉によって確実とは言えないが、正しい選択である可能性が高くなった。それにハジメはホッとする。

 

 ハジメは手元に目線を戻し、作業へと戻る。本当であれば、香織やユエと一緒に色々お話したいのだろうが、そんなことよりも、二人を傷つけないように強くなる方が、ハジメにとって優先順位は上だった。

 

「……そういえば、ハジメと香織は、どうしてここにいるの?」

 

 そんなハジメを邪魔しないためにか、ユエは膝から降り、真正面に向いて香織に尋ねる。当然の疑問だろう。ここは奈落の底。正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。

 ユエには、他にも聞きたいことがあった。何故魔力を直接操れるのか。何故固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。何故魔物の肉を食って平気なのか。そもそも二人は人間なのか。ハジメの左腕はどうしたのか。ハジメが使っている武器は一体なんなのか。

 

「う~んとね……私達、こことは別の世界から来た人間なんだ」

「え……別の世界?」

「そう。地球っていってね。魔人族を倒すために召喚されたんだ」

「そうだね。まぁ召喚されて二週間後だっけ? オルクス大迷宮での訓練中に、事故で奈落に落ちちゃったんだけど……」

 

 香織とユエの話に、ハジメは作業を中断して入ってくる。話の内容が内容だからか、思わず話に入っていた。

 

「それでねユエちゃん。ハジメくん、左腕無いでしょ?」

「ん……どうして?」

「……全部私のせいで、ハジメくんはこうなっちゃったんだ」

 

 思い返し、香織は俯いてしまう。

 

「私、ハジメくんを守るって言ったのに……いざって時に守られてばっかで……私が守ることができて――」

「香織」

「……!」

「今までにも何度か言ってるけど、香織を庇ったのは僕の意思だ。だからそう自分を責めないで」

「うん……」

 

 香織のハジメへの罪悪感はかなり小さくなっていったが、それでも、あの腕が千切れた時の光景は、彼女にとって大きなトラウマになっていた。

 そんな香織の心を癒やすことができるのは、恋人のハジメだけだ。ハジメがひたすらに許し、愛することでしか、香織のトラウマを払拭することはできない。

 

 ハジメは香織を片手で抱き寄せる。そのままの状態で、香織は何度か深呼吸をすると、ようやく落ち着いてきた所で、ユエの声がした。

 

「……ぐす……ハジメ……香織」

 

 そちらを向くと、ハラハラと涙をこぼしている。ギョッとして、ハジメは思わず手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。

 

「いきなりどうしたんだ?」

「……ぐす……ハジメも香織も……つらい……私もつらい……」

 

 どうやら、ハジメと香織のために泣いているらしい。ハジメは少し驚くと、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。

 

「大丈夫だ、大丈夫。僕は香織を助けられた、それだけで良かったと思ってるんだから」

「……二人は、付き合ってるの?」

「うん、そうだよ。一年半くらいかな? そうだよねハジメくん?」

「あぁ、そうだね」

 

 そういう二人の会話を見るユエは、なんだか少し羨ましそうにしていた。

 

「まぁとにかく、今はここから出て、地球に帰る方法を探さないと」

「うん。生きて帰らないとね」

「……帰るの?」

「そりゃあね。僕も香織も家族がいる、心配させるわけにはいかないから」

 

 ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「……私にはもう、帰る場所……ない」

 

 ユエにはもう、信頼できる家族などいない。もしいたとしても、数百年の間封印されていたのだ、すでに死に、故郷も変わっているだろう。

 

「……ユエが望むんだったら、いつまででも僕達の所にいていいからね?」

「……!」

「最初、僕はそう言ったよ。ユエはもう、独りじゃないんだから」

「うんうん。独りが辛かったら、私達がずっと一緒にいてあげるからね。地球に帰っても、一緒」

 

 ハジメと香織は、一緒に地球に来ないかと、そう言っていた。その意味を察したユエは、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

 キラキラと輝くユエの瞳に、苦笑いしながらハジメは頷く。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。

 

「えへへ〜、ユエちゃんが嬉しそうで良かった。もうこれからは、独りぼっちじゃないよ」

「うん……うん!」

 

 ユエは香織に抱きついた。そしてそんなユエを香織は抱きしめ、ハジメは優しく頭を撫でた。




Hiko293様  コーチマSPL様  シュラバン様
豚汁様

評価していただき、ありがとうございます。しばらくは投稿頻度が下がるでしょうが、これからも応援よろしくお願いします。

オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?

  • 白崎香織
  • ユエ
  • どっちも
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