ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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幕間2 憤怒と悲嘆と苦痛の先には

 ハジメと香織がユエと出会い、サソリの魔物をあっさりと撃破したあの日。

 

 光輝達勇者一行は、再びオルクス大迷宮にやって来ていた。ただし、訪れているのは光輝達勇者パーティーと、檜山達のパーティー、それに永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いる男女五人のパーティーだけだった。

 理由は簡単だ。ハジメや香織の死が、多くの生徒達の心に深く重い影を落としてしまったのである。死というものを間近で目撃してしまったことにより、それがトラウマになってしまったのだ。

 

 当然、聖教教会関係者はいい顔をしなかった。実戦を繰り返し、時が経てばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。

 

 しかし、それに猛然と抗議した者がいた。愛子先生だ。

 愛子は当時、遠征には参加していなかった。作農師という特殊かつ貴重な天職のため、実戦訓練するよりも、教会側としては農地開拓の方に力を入れて欲しかったのである。愛子がいれば、糧食問題は解決してしまう可能性が限りなく高いからだ。

 そんな愛子はハジメと香織の死亡を知ると、ショックのあまり寝込んでしまった。

 

 しかしその全責任をハジメに押し付けられたことを知ると、教会に猛抗議をした。愛子は生徒を信じているが故に、教会の行動は彼女にとって許し難いものであった。

 様々な抗議を行った結果だが、ハジメの無実を証明することができなかった。しかし生徒達を守ることには成功し、結果、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーと小悪党組、永山重吾のパーティーのみが訓練を継続することになった。教会としても、愛子の反感は買いたくなかったのだろう。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 今日で迷宮攻略六日目。

 

 現在の階層は六十五層、確認されている最高到達階層である。

 

 しかし彼らのパフォーマンスは、かなり落ちていた。それもそうだ、ハジメと香織が落ちた階層に近づいているというだけで、普通は心理的に辛くなるというもの。ほとんど全員の動きが鈍くなっていた。

 

 しかし、それにも例外はいる。その最たる例が、八重樫雫だった。

 彼女に関しては、戦えば戦うほどに、その戦闘力に磨きがかかっていった。パフォーマンスも落ちるどころか、むしろ上がっていた。

 今までの、迷宮攻略を行う前の訓練だってそうだ。雫は狂ったように剣を降っていた。血反吐を吐くのではないかと思うほどに戦い、魔物を斬り殺した。何度も何度も斬り殺し、その度に吐きそうになるほどの精神的苦痛を感じながらも、涙を流しながら、ひたすらに訓練に打ち込んだ。まるで人が変わったかのように。

 

 そして今、彼女のステータスはこうなっていた。

 

 

 

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八重樫雫 17歳 女 レベル:75

天職:剣士

筋力:1520

体力:1730

耐性:850

敏捷:2680

魔力:1690

魔耐:990

技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+無拍子][+限界突破][+魔力操作][+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅲ]・縮地[+爆縮地][+重縮地][+震脚][+無拍子][+幻踏]・先読[+投影]・気配感知[+透視]・隠業[+幻撃]・言語理解

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 このステータスは、勇者である天之河光輝すらも上回っている。香織を失い悲嘆し、ハジメに対する憤怒は雫を突き動かし、苦痛に塗れた鍛錬を行った末に、このステータスを得た。

 雫は、この迷宮攻略組の中では最も強いと言ってもいい。なんせ魔力操作の技能により、魔法の詠唱をしなくてもいいのだから。しかも単純なステータスでも非常に高く、通常の魔物程度なら、相手にならないレベルだった。

 

「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

 

 メルド団長の声が響く。光輝達はその言葉で表情を引き締め、集中し、未知の領域に足を踏み入れた。

 

 しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする一同。

 その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

 光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

 龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。なんせ目の前に現れたのは、あの時に生徒達を追い詰めたベヒモスだったのだから。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

 

 それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。しかし……

 

「飛剣」

 

 雫の低い声と同時に放たれた複数の斬撃は、ベヒモスの皮と肉、さらには骨すらも断ち切り、四肢を切り落とし、胴体を真っ二つにし、首を斬り落とした。

 

 一秒にも満たない時間で行われた攻撃には、誰も反応できなかった。気がついた時には、ベヒモスは動かない肉の塊と化していた。

 

「……な、に?」

 

 真っ先にこれに反応したのはメルド団長だ。そして驚愕した。なんせあのベヒモスを、あっさりと倒してしまったのだから。しかも勇者である光輝ではなく、あくまで一人の戦闘員でしかない雫が。

 

「雫……雫がやったのか?」

 

 恐る恐るといった感じに、光輝は雫に尋ねる。それもそうだろう。変わり果てた雫は、常に近づき難い威圧的な雰囲気を出しているのだから。

 

「そうよ、こいつは私の手で殺したかった。でもごめんなさい、結果的に戦術とか陣形とか、そういうのを無視しちゃったわけだから」

「あぁいや、確かにそういうのは意味無くなったけど、助かったのは事実だから。ありがとう」

「そう」

 

 淡々と返すと、雫は剣を収める。

 ちなみにだが、彼女が今使っている剣はハジメが作ったものではなく、宝物庫にあったものだ。流石に日本刀のようなものは無いか、使い勝手がそれに似ている、刀とシャムシールの中間のような剣を利用している。

 ハジメの作った日本刀に関しては、雫が自ら叩き折った。彼女にとっては、ハジメという香織を殺した存在が作った剣など使いたくなかったのだろう。

 

「アイツが来たら……」

 

 雫は一瞬、ポケットに手を入れ、その中に入っているあるものを握ってそう言った。

 

 ともかく、六十五階層はこれにて突破。これより先は完全に未知の領域。光輝達は過去の悪夢を振り払い先へと進むのだった。

オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?

  • 白崎香織
  • ユエ
  • どっちも
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