ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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『ハジメ魔王化回避』のタグを追加しました。


お出かけ

「……わかった、駅のバス乗り場前で朝の十時に集合ってことでいい?」

『うん、それで大丈夫。明日は楽しみにしてるね』

「僕も楽しみにしてます。それじゃあ……」

『おやすみ、南雲くん』

 

 その言葉を最後に、香織との通話は切れたが、ハジメはわずかにニヤけていた。

 

 ハジメは、香織のことが好きなのだ。一目惚れ……に近いと、そう言ってもいい。

 

 初めて出会ったあの日、香織は初対面の人である自分を助けてくれた。他の人達は変な目で見てくる中、たった一人だけ、そうしてくれた。その時はまるで、香織が女神かのように見えた。

 そしてハンカチを返しに行った時、少しだけだが話した。笑顔で純粋で、そんな風に自分と楽しげに話してくれた香織に、ハジメは心を奪われたのだ。

 

 こんな優しい人がこの世界にいたんだと、本気で感じたほどだ。

 

 そんな人と、一緒に遊びに行くのだ。ハジメは少なからず興奮していた。

 

(とりあえず、バスとかのダイヤも調べとこう。何かあって電車が止まったりしたらまずいし)

 

 だがその興奮は抑え、何かが起こった時のために、電車の運行時間や、代わりのバスについても調べておくことにした。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 その翌日。ハジメは駅のバス乗り場前で三十分ほど待ち続けていた。

 

「……流石に早すぎた」

 

 興奮はしていて眠れなかったものの、一応寝坊することはなかった。むしろ早く起きたくらいだ。しかし、気が急いていたのか、あまりに早く出発しすぎてしまったのだ。

 

 しかも三十分待ったが、まだ時刻は九時半。つまり、約束の時間まではさらに三十分ある。流石に残りの三十分をまるまる待つことにはならないだろうが、それでもハジメにはキツイことだろう。

 

 何もすることがなくて手持ち無沙汰な状態で、ふぁぁと、大きな欠伸をした時だった。

 

「あっ、南雲くん!」

 

 そんな声とともに、香織が走ってやって来た。

 

「お待たせ。待たせちゃった?」

「いいや、大丈夫だよ。それよりほら、行こっか」

「うん!」

 

 そうして二人は、駅の改札口を通り、数分の間待ってから電車へ乗った。

 

 休日ということもあり、空いているというほどではないが、席はそれなりにあいていた。

 

「あっ、ここ座ろ?」

 

 そんな中の二人がけの席を指差し、香織は言った。それはつまり、ハジメが香織の隣に座ることを意味していた。

 

「う、うん……」

 

 内心ではドキリとしつつも、窓際に座った香織の隣に座るハジメ。すると女の子特有の良い香りが鼻を擽り、心臓が高鳴ってしまう。

 

「南雲くん、今日はよろしくね」

「あっ……よ、よろしく……」

 

 ハジメは、微笑みながら顔を向けてくる香織にそう返事をする。とてつもなく緊張しているようだ。

 

「もしかして、緊張してる?」

 

 それは、どうやら香織にも分かったようで。ぎこちない態度のハジメにそう尋ねる。

 

「うん、実は……こういう風に遊びに行くことって、今まで一度もなかったからさ。しかも女の子と遊びに行くのなら尚更ね……」

「へぇ〜。じゃあこういうのは初めてなんだね」

「そうだね。……そういえば」

 

 今日は映画を見る、という予定だったが。そもそも何を見るのだろうか。そんな疑問がふとハジメの頭に浮かんだ。

 

「今日はどんな映画が見たい?」

 

 特に大きな好き嫌いは無いが、強いて挙げればハジメはファンタジー系やアクション系が好みだ。しかし必ずしも好みが合致するとは限らない。

 

「う~んと、どうだろう……ファンタジー系とか恋愛系とか、そういうのが好きだから見たいかな? 南雲くんはどんなのが好き?」

「特に好きなのはアクション系とかファンタジー系とかだね」

「そうなんだ。それじゃあ……」

 

 香織はスマホを取り出して、画面を見せてきた。画面には、いかにもなファンタジー映画の特集がのっていた。

 

「こんなのはどう?」

「あー、いいと思う。でも上映時間を見ると……早く到着しすぎるかな?」

「うん。ちょっと早過ぎちゃったね」

 

 しかし、上映時間まではそこそこ時間がある。三十分も早く出発してしまったせいで待ち時間ができたので、電車内で話し合い、その間は適当に他の場所を回ることになった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 それから約十分後、目的地に到着した二人は、電車から降りた。そこそこの都会で休日ということもあり、人で賑わっている。

 

「南雲くん。待ち時間の間、他の場所を見て回ることになったけど……どこ行く?」

「そうだなぁ……カラオケとかゲーセンとか、その辺でいいんじゃない?」

「じゃあゲームセンターにしよう。カラオケはちょっと前に友達と一緒に行ったから」

「分かった」

 

 そういうわけで、ちょっとした話し合いの後、二人は映画館の近くにあるゲームセンターに入った。中に入ると、ゲームセンター特有の耳が詰まるような騒がしい音が聞こえてくる。

 

「白崎さんは、ゲーセンでは何が好き?」

「クレーンゲームとかは好きだよ。特にお菓子の掴み取りとか、そういうのはよくやるね。一緒にやる?」

「うん」

 

 まず最初に、香織がやることに。動物のぬいぐるみがたくさん置かれている筐体。それにお金を入れて、アームを動かす。

 

「よしっ、とれる……あれ?」

 

 だがアームが狙っているウサギのぬいぐるみを掴んでも、すぐに落っこちてしまう。何度かやってみても、人形が倒れただけだった。

 

「う~ん、全然取れないなぁ……友達は上手く取ってたのに……」

 

 香織は首を傾げる。どうやら香織は、あまりクレーンゲームが得意ではないらしい。

 

「あ、じゃあ僕がやってみていい? あのウサギの人形、取ってみるよ」

「え? できるの?」

「できる……かも、しれない。とりあえず頑張ってみるよ」

 

 そう言うと、香織は「頑張って!」と応援してくれた。

 

 香織が狙っているウサギのぬいぐるみは倒れている。だが掴むことはできても、アームの力が弱くて落っこちてしまうだろう。それを少し見て、ハジメは頷いた。

 

「よし、転がそう」

 

 そう言ってお金を入れて、アームを動かし始める。アームはぬいぐるみをガッチリ人達鷲掴みする……のではなく、人形の下半身の部分を掴む。

 

「でもこれじゃ落ちちゃう……」

「大丈夫。これでいいと思うから」

 

 香織の懸念通り、少しは持ち上がったが落ちてしまう。しかしバランスが元から偏っていたため、落とし口に大きく近づくように転がっていった。それを見て香織は「あっ!」と声を上げた。

 

「ほら。多分もう一回やれば取れるよ」

 

 そうしてもう一回、ハジメが同じことをすると、ぬいぐるみは受取口に転がり落ちた。

 

「どうぞ」

「ありがとう……! 大切にするね!」

 

 香織はぬいぐるみをギュッと抱きしめ、微笑みを浮かべる。その可愛らしい純粋な笑顔は、ハジメの心臓を一瞬だけ高鳴った。喜んでくれて嬉しかった。

 

「喜んでくれて良かった……他に、何か欲しいのあったりする? 簡単なのなら頑張ってみるけど……」

「ううん。南雲くんが取ってくれたこれがあれば、それだけで充分。それよりも……プリクラ撮らない?」

「うん、やろう」

 

 というわけで、次はプリクラを撮ることになったのだが、こればかりはハジメも詳しくない。行ってみたはいいものの、筐体は複数あり、どれが良いのか分からなかった。

 

「えっと……どれで撮る?」

 

 香織に尋ねてみるも、そこそこ悩んでいるらしい。男女二人で撮る、というのは慣れていないのだろうか。そうして一分ほど迷ったすえに、一つの筐体を指差した。

 

「アレはどう? 男女の写真が載せられているし、男の子にも向いているスタンプとかがあるかも」

「じゃあそれでいいと思う。というか、僕プリクラには詳しくないから、白崎さんに任せるよ」

 

 結果、香織が最初に指差したプリクラに入り、お金を入れて写真撮影を始めるのだったが……

 

『彼氏は彼女を抱きしめてね』

 

「はぁ!?」

「ええっ!?」

 

 そんなアナウンスが聞こえると同時に、ハジメと香織は顔を真っ赤にして驚いてしまう。ここでハジメはようやく、このプリクラがカップル向けのものだと理解した。男女の写真がプリントされていたのは、そういうことだったわけだ。

 

「えっと……どうする? 流石に嫌、だよね……?」

 

 想定外のことに、ガチガチになりつつも香織に尋ねる。ハジメはアナウンス通りに抱きしめて、嫌われるのを恐れていた。

 

 しかし、香織はゆっくり首を横に振る。そして真っ赤になりながらハジメの顔を見つめて言った。

 

「……いい、よ。南雲くん……ほら、抱きしめて」

 

 まさかの答えに一瞬困惑するハジメだったが、一度深呼吸をして、香織に言われた通りに後ろから抱きついた。

 ハジメはもちろんだが、抱きつかれている香織も、羞恥でうつむいてしまっていた。

 

 一応、ある程度落ち着いてから撮った写真には、そういう雰囲気はそこまで無かったのだが、モニターに撮られた写真が表示された時に、またしても二人は恥ずかしくなった。

 

「なんか……こうやって撮られた写真を見ると恥ずかしくなるね……」

「うん……と、とにかく! 落書き、だったっけ? それやらないの?」

「あっそうだね……こんな感じにやるといいよ」

 

 香織はポーチの中から小物入れを出す。そこには香織の友達と思われるポニーテールの女の子と撮ったものがあり、可愛らしい文字が書かれたり、カラフルなマークが散りばめられている。

 

 そうして、ハジメは香織の周りを、香織はハジメの周りを落書きすることになった。

 

 ハジメは少し考えると“優しい女神様”と書き、それっぽい綺麗なマークを付けた。香織が何を書いたのかは、その時になるまで見ないことにした。

 

 そうして全て完了させ、プリントアウトされたものを受取口から取り出してみると……

 

「うおっ……なんか、恥ずかしい……」

 

 ハジメの部分には“強くて優しい親友”と。その周りには可愛らしいマークが散りばめられていた。

 

「ふふっ、でも似合ってるよ。それに私も、南雲くんにそんな風に思われてたんだぁ」

「あの時助けてくれたのは、本当に嬉しかったからさ」

 

 その後も二人はゲーセンで遊び、映画を見て、一緒に昼食を食べて帰った。ハジメにはどれも初めての経験であり、記憶に残る一日となった。




最後らへん、かなり適当に省略しちゃってすみません。私の実力だとここまでか書けませんでした……。

オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?

  • 白崎香織
  • ユエ
  • どっちも
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