ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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長くなったので、オルクス最終戦は前後編に分けます。今回は前編ということで。


最奥のガーディアン 前編

 アルラウネを撃破した日から随分経った。あの後、ハジメ達はあっさりと次の階層への道を見つけ、再び迷宮攻略に勤しんでいた。

 

 そしてついに、次の階層でハジメと香織が最初にいた階層から百階目になるところまで来た。その一歩手前の階層で、ハジメは装備の確認と補充にあたっていた。なんせ次で百の大台、何か無いほうがおかしいというものだ。

 

 相変わらず、ユエは飽きもせずにハジメの作業を見つめている。というよりも、どちらかというと作業をするハジメを見るのが好きなようだ。

 ここ最近の数日で、ハジメとユエの距離感はかなり縮まった。今も、危険な迷宮にいるとは思えないような緩んだ表情で、ハジメに密着してまったりしている。最初は香織の目を気にして、ハジメに甘えることは無かったが、最近では本当にべったりだ。

 そうして二人の距離感が近くなればなるほど、香織も対抗するかのように甘えるようになった。いや、香織に関しては元々ではあるが、普段以上に甘えているのだ。

 嫉妬……かと言われればそうでもない。香織とユエの関係は良好であり、特に香織の方は、ユエを妹のように可愛がっている。

 

 そんな風にしているが、元々ハジメの耐性は高い。というか香織と付き合い始めると、耐性がかなり上がったので、別に密着されたくらいなら、あまり緊張はしなかった。

 

「ハジメ……いつもより慎重……」

「うん? ああ、次で百階だからね。こういう節目ってのは、何かある気がして。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから」

 

 ハジメ達が最初にいた階層から八十階を超えた時点で、ここが地上で認識されている通常のオルクス大迷宮である可能性は消えた。奈落に落ちた時の感覚と、各階層を踏破してきた感覚からいえば、通常の迷宮の遥かに地下であるのは確実だ。

 銃技、体術、固有魔法、兵器、そして錬成。いずれも相当磨きをかけたという自負がハジメにはあった。もちろん共にここまでやって来た香織も同様だ。

 

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76

天職:錬成師

筋力:2350

体力:2480

耐性:2400

敏捷:2810

魔力:2260

魔耐:2260

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+消費魔力減少][+鉱物融解][+鉱物凝固][+遠隔錬成][+鉱物融合][+鉱物分離][+高速錬成][+錬成範囲拡大][+鉱物昇華][+鉱物系探査][+複製錬成]・魔力操作[+魔力強化Ⅲ][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪[+三爪][+飛爪]・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

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 ステータスは、初めての魔物を喰えば上昇し続けているが、固有魔法はそれほど増えなくなった。おそらくは、魔物を喰らう度に魔力が変質していき、大きな変化が起きにくくなったのだろう。新たな固有魔法を得ることは、ほとんどなくなっていた。

 

 しばらくして、全ての準備を終えたハジメ達は、階下へと続く階段へと向かった。

 

 その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。地面も荒れたところはなく平らで綺麗であり、どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

 ハジメ達が、しばしその光景に見惚れつつ足を踏み入れる。すると、全ての柱が淡く輝き始めた。同時にハッと我を取り戻し警戒し直す。柱はハジメ達を起点に奥の方へ順次輝いていく。

 

 ハジメ達はしばらく警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「……反逆者の住処?」

「反逆者? ということは……」

「ここがゴール……なんだろうね」

 

 何か危険な気はする。本能が警鐘を鳴らしている。しかしそれでも、ゴールは目の前にある気がしてならなかった。

 

 そして三人は、揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

 その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

 ハジメは、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない。あの日、ハジメが奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「これは……!」

 

 ハジメは驚きつつも、ありったけの鉱物手榴弾を魔法陣周りにばらまく。もちろん手榴弾は溶けて気体と化していく。

 

「戦闘準備!」

 

 続いて大声で叫ぶと、ユエと香織の表情もキッと変わった。それぞれが、いつでも敵と殴り合えるような体勢を取る。

 

 魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

 体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

『『『『『『クルゥァァアアン!!』』』』』』

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がハジメ達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気がハジメ達に叩きつけられた。

 

 それと同時に、緑頭の口が大きく開き、凄まじい突風と風刃が発生する。かなりの量で、その威力も柱を容易に斬り倒してしまうほど。一応、三人とも咄嗟に回避することには成功した。

 しかし、鉱物手榴弾によって発生した気体が飛ばされたのは痛い。これまでの魔物とは違い、確実に、ばら撒かれたモノを理解しているように見える。

 

(気づかれた……!?)

 

 初めての経験に軽く驚きはすれど、すぐに呼吸を整えて反撃を開始する。ハジメの拳銃が火を吹き、電磁加速された弾丸が超速で緑頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず緑頭を吹き飛ばした。

 

 まずは一つとハジメが言おうとした時、白い文様の入った頭が『クルゥアン!』と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。すると傷が逆再生するかのように、みるみるうちに治っていった。

 ハジメに少し遅れてユエと香織の魔法が赤頭と青頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 

“香織! ユエ! 回復役の白頭を狙うぞ!”

 

“んっ!”

“分かった!”

 

 青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出すが、それを回避しながらハジメとユエと香織の三人で、三方向から白頭を狙う。

 

 閃光と燃え盛る槍、そして高速の弾丸が白頭に迫る。しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝き、ハジメのレールガンもユエや香織の魔法も受け止めてしまった。

 一応三人の攻撃を受け止めたのだから、無傷では無かったのだが……傷は白頭によって、即座に回復されてしまっていた。

 

「面倒だ……アレで一網打尽にできれば……!」

 

 ハジメはそう思いつつ、少しずつ少しずつ、周囲に飛ばされた気体の鉱物を集め、ヒュドラの方へ近づけていく。しかし、

 

『クルゥアアア!』

 

 それを認識した緑頭は口を開き、突風と風刃を発生させる。しかもピンポイントにハジメの方に向けて。回避そのものは容易だったが、ハジメは苦い顔をしていた。

 

(やっぱり、何しようか気づいているか……)

 

 最初ので嫌な考えがよぎっていたが、これで確信に変わった。この敵には、ハジメの最強の攻撃である“ガスブレード”が通用しないと。いや、それだけではない。

 

『クルゥアン!』

「クハッ……!?」

 

 今までの最強の攻撃が、ハジメに牙を剥く。白頭の咆哮と共に、ハジメの胸部を突き破って三本の針が出てくる。片方の肺がもろにやられているからか、激痛に絶叫しようとした拍子に吐血してしまう。

 

 思わず膝を付きそうになったが、気合で踏み留まるハジメ。苦痛に顔を歪ませていたが、直後に聞こえてきた声に目を丸くする。

 

「いやぁああああ!!!」

「ああぁぁぁあッ!!」

 

 声がした方向を向くとそこには、香織とユエがいたが、それを黒頭が見つめている。ハジメは即座に、黒頭が何かをしていると察し、空力でジグザグに動きながら接近し、黒頭に向かって発砲した。

 射撃音と共に、止まっていた黒頭が吹き飛ぶ。すると香織とユエはくたりと倒れ込んだので、片手で無理矢理掴んで離脱し、柱の陰に隠れた。

 

「香織! ユエ! しっかりしろ!」

「……」

 

 二人ともハジメの呼びかけなど耳に入っていないのか、青ざめてガクガクと震えている。何かされたのは明白だったが、今はそんなのを気にする余裕など無かった。

 

「ハジメ、くん……ッ!?」

 

 先に反応したのは香織だったが、彼女はハジメの様子を見ると驚き目を丸めた。そしてすぐに、ハジメの胸に突き刺さった三本の針を抜いて、ひたすらに謝りながら回復魔法を行使した。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……守るって言ったのに守れないなんて……!」

 

 その声は震えていたが、同時にどこか重苦しいようなそんな雰囲気だった。悲しくて声が漏れる、というよりかは、まるで……自分に言い聞かせているようであった。

 

「香織……」

「ごめんなさい、ごめ……!?」

 

 その表情は涙を流しながらも、かなり強張っていた。そんな彼女に、ハジメは無言で抱きしめてキスをした。ほんの少し触れるだけのものだったが、それは香織を正気に戻した。

 

「大丈夫、僕は生きてるよ。それにこれからも、僕は絶対に死なない。だから……安心して」

 

 一瞬きょとんとした香織だったが、すぐにハッとし、涙を拭うと、数秒だけハジメの胸に顔を埋めた。

 

「……死なないでね」

「もちろん」

 

 しかし、そんな隣で震えているユエ。彼女は震えた手で二人の手を握る。手は震えており、明らかに何かに恐怖を覚えているようだった。

 

「ユエ……何が、あったんだ?」

「多分、幻覚を見せられたんだと思う。私には『ハジメくんが死ぬ幻覚』が見せられたし、ユエも何か見せられたのかも……」

「……幻覚」

 

 通常は一人に対して使う魔法を、香織とユエの二人に対して使っているので効力は若干弱まっているが、それでも依然強力なままだ。

 

「ハジメ……香織……見捨てない、よね……? 私、もう一人は、いや……」

 

 おそらくは、ユエは『独りになる幻覚』でも見せられたのだろう。現実と幻の区別は一応ついているようだが、それでもユエにとって、独りになってしまうのとは相当のトラウマだった。心細そうに、不安そうにハジメと香織を交互に見つめる。

 

「大丈夫」

 

 そんなユエを、香織の時とほとんど同じようにハジメは抱きしめた。

 

「ユエはもう、一人じゃない」

「うんうん、そうだよ。もう私達とずーっと一緒。好きなだけいていいんだよ?」

 

 そうして抱きしめられながら、香織に頭を何度も撫でられるユエ。そうしている内に、あの封印部屋から解放されてからの日々を思い出す。

 何百年も生きてきたのに、まるで小さな子供のように甘やかされた。本来ならあまりよく思わなかったかもしれないが……数百年ぶりに解放されたユエにとっては、何よりも嬉しかった。

 こうして、理由も無くただ愛情を注がれるのを感じると、気づいたらユエの胸は熱くなっていた。

 

「さぁ、あいつを倒して外に出て……そして、元の世界に帰るんだ。もちろんユエも一緒に」

「んっ!」

 

 ユエは未だ呆然とハジメと香織を見ていたが、無表情を崩しふんわりと綺麗な笑みを浮かべた。




星雲 輪廻様  ちいさな魔女様

評価していただき、ありがとうございます。最近投稿頻度が遅くなっていますが、今後ともよろしくお願いします。
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