ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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最奥のガーディアン 後編

 そうして落ち着きを取り戻した二人に、ハジメは手短に作戦を伝える。

 

「最初はもう少し敵の動きを見極めてからにする予定だったけど……もうこいつを撃つ」

 

 切り札である、巨大なレールガンを片手で握りながら言う。装填数が一発である都合上、敵の動きがある程度の分かってから撃つ予定だったが、予想以上に強かったため、作戦変更を余儀なくされた。

 

「香織もユエも、最初は無理に頭を倒さなくていい。足止めして、それでこいつを当てたら一気に攻める。連発はできないから、援護お願い」

「もちろん!」

「……任せて!」

 

 いつもより断然やる気に溢れている香織とユエ。静かな呟くような口調は崩れ、覇気に溢れた応答だ。先程までの不安が根こそぎ吹き飛んだようである。

 

 三人は一気に柱の陰を飛び出し散開し、今度こそ反撃に出る。

 

「“緋槍”! “砲皇”! “凍雨”!」

 

 ユエの手で矢継ぎ早に引かれた魔法のトリガー。有り得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。攻撃直後の隙を狙われ死に体の赤頭、青頭、緑頭の前に黄頭が出ようとするが……

 

「“煌鎖”」

 

 黄頭は光の鎖によって拘束され、動きを止められた。殺傷力こそほぼ無いが、黄頭は動けずにいる。香織の魔法だ。

 香織の場合はユエとは違い、攻撃系の魔法は光属性にしか適性を持たない。しかしそれ故に、特化できるとも言える。

 光属性は万能だ。攻撃にも防御にも、あるいは拘束などのサポートにも使える。ユエに色々と教えてもらったというのもあるのだろうが、これは何よりも、香織の努力の賜物だろう。

 

「ナイス……!」

 

 香織かユエ、もしどちらか片方がいなかったら、ここまで上手くいくことは無かっただろう。二人の魔法が、ヒュドラに大きな隙を作り出した。

 

 ハジメがレールガンを構えて“纏雷”を使うと、レールガンが蒼いスパークを発生させる。弾丸はタウル鉱石をシュタル鉱石でコーティングした、地球で言うところのフルメタルジャケットだ。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

ドガンッ!!

 

 大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共にフルメタルジャケットの赤い弾丸が、更に約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力である。異世界の特殊な鉱石と固有魔法がなければ到底実現し得なかった兵器だ。

 発射の光景は正しく極太のレーザー兵器のよう。射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら黄頭に直撃した。

 

 黄頭もしっかり“金剛”らしき防御をしていたのだが……まるで何もなかったように弾丸は背後の白頭に到達し、さらに貫通して背後の壁を爆砕した。階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。

 残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅して融解したように白熱化する断面が見える二つの頭だけだった。

 

 一度に半数の頭を消滅させられた残り三つの頭が思わず、ユエの相手を忘れて呆然とハジメの方を見る。しかしそれは、隙を晒しているのと同義だ。

 

ジャキン!

 

 光が天井から降り注ぎ、糸のような何かが残った三つの頭を拘束する。

 

「“天灼”」

 

 香織の手により拘束された頭に、ユエ渾身の魔法が炸裂する。

 三つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

 

 中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。三つの頭が逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。

 そして、十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。

 

 ユエはぺたりと座り込む。かなり大規模な魔法のせいで、おそらく魔力がかなり減っているのだろう。そこに香織が寄ってきたりするのを、ハジメは遠目で見ていた。

 レールガンから排莢して、背中に背負い、そうして自分も二人の所に向かおうとしたその時だった。

 

「ハジメ!」

 

 ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の銀色の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨していた。

 

「……!」

 

 ハジメは慌てて銃を抜いて撃つが、慌てていたせいか、狙いは定まらずに横を通り過ぎていった。

 銀頭は、攻撃したハジメ……ではなく、弱っているユエの方を向くと、予備動作すらなく極光を放った。

 

「危ないッ!!」

 

 幸い近くに香織がいたおかげで、極光がユエを丸ごと消し飛ばす、といったことにはならなかった。

 しかしその威力は、あまりにも強大だった。つい先程まで香織とユエが立っていた地面は融解し、ドロドロに溶け出していた。もし当たっていたら……そんな想像をすると、思わずゾッとしてしまうくらいの威力であることは明白だった。

 

ガキンッ!

 

 そんな二人の方を向いたことでできた隙に、ハジメは銃撃を行うが、

 

「うわっ……」

 

 銃弾は銀頭の表面を傷つけただけ。ほとんどダメージを与えることができなかった。

 拳銃は効かない、レールガンは効くかもしれないが一発しか撃てないので使いにくい。そしてハジメの切り札であるガスブレードは、効かないどころか反撃に利用される可能性もある。

 

 わずかに思考を巡らせたハジメだったが、すぐに銀頭の攻撃は開始された。大量の光弾が、雨のように降り注ぐ。

 

「香織、ユエ! かわせ!」

 

 ハジメは反射的に声を出す。有効打が思いつかない以上、ひたすら耐え抜くことしか思いつかなかった。

 

(多分……レールガンを当てたら勝ちだ。でも、どうやって当てる……?)

 

 一応、勝利条件は見えている。しかしそれを満たす方法が分からなかった。香織も様々な魔法を利用して反撃しているが、そのどれもが、銀頭には効果が薄かった。

 もちろん拘束系の魔法も同様だ。確かに一秒程度であれば、動きは止められる。しかし銀頭は、すぐに拘束から逃れてしまう。一発だけのレールガンを確実に命中させたいのだが……。

 

「くっそ、どうすれば……」

 

 攻撃を回避しつつ、香織やユエの元にたどり着いたハジメ。しかし、あまりにも強力な敵を目前にして、思わずぼやいてしまう。

 

「ハジメくん! 上だよ上!」

 

 そこで香織の声が耳に入る。上を見ると、ヒュドラの銀頭があり、そのさらに上には……白い天井が広がっていた。

 

「…………ありがとう、香織。ようやく勝ち筋が見えた」

 

 ここからさらに、銀頭の攻撃は激化する。今までの六本の時よりも、攻撃の密度も威力も圧倒的に上だ。それを回避しながら、ハジメは“念話”で作戦を伝える。

 

“天井を崩落させて、あの魔物を生き埋めにする”

“生き埋め?”

“天井を落とせば数十トン単位の負荷がかかる。いくらあの魔物が強くても、これには耐えられないだろ。……そこを、叩くんだ”

 

 ハジメは攻撃を回避しつつも銃撃する。しかし狙いは銀頭ではなく、天井だ。攻撃が外れているようにも見えるが、一発一発丁寧に天井に撃ち込み、天井に穴を開けていく。

 

“さぁ、相手がでかい一撃を撃ってくるまで耐えるよ。耐えたら僕達の勝ちだ”

“んっ!”

“わかった!”

 

 ハジメはいつでもレールガンを撃てるよう、背中から下ろす。動きにくい体勢ではあるが、回避を続ける。

 どちらかというと、香織やユエの方より、ヒュドラはハジメの方を狙っているためか、攻撃が集中しているが……

 

ズガガガガガガガガガッ!!

 

 その分、香織やユエの攻撃がしやすくなり、銀頭に命中しやすくなっていた。傷からして、そこまで効いているようには見えないが、ヒュドラを苛立たせるには充分だった。

 

 そしてついに、銀頭が闇雲に極光を放った。それを見たハジメは不敵に笑う。

 銀頭は極光を放つ際には、予備動作はほぼ何もない。しかし攻撃をしている間は隙だらけだ。

 

「終わりだ!」

 

 ここでハジメは、レールガンを撃ち込む。対象は銀頭……ではなく、天井だ。

 すると、突然天井に強烈な爆発と衝撃が発生し、一瞬の静寂の後、一気に崩壊を始めた。その範囲は直径十メートル、重さ数十トン。大質量が崩落し直下の銀頭を押し潰した。

 

「今だ!」

「んっ! “蒼天”!」

「“光臨”!」

 

 焼夷手榴弾などが入ったポーチを丸ごと瓦礫の中に放り込みつつ、ハジメは叫ぶ。すると巨大な炎の塊が炸裂し、天から光が注ぎ込まれる。

 そして最後に……充分な時間をかけてリロードを完了したハジメが、レールガンを生き埋めにされた銀頭に向けて打ち込んだ。

 

『グゥルアアアア!!!』

 

 銀頭が断末魔の絶叫を上げる。何とか逃げ出そうと暴れ、光弾を乱れ撃ちにする。壁が撃ち崩されるが、ハジメが錬成で片っ端から修復していくので逃げ出せない。極光も撃ったばかりなので直ぐには撃てず、銀頭は為す術なく高熱に融かされていった。

 

 そして……ヒュドラは、動かなくなった。

 

 ハジメは敵の死を確認すると、ドサッと後ろに倒れた。

 

「ハジメ!」

「ハジメくん!」

 

 急に倒れたことに驚いた香織とユエは、慌ててハジメに駆け寄るが、ハジメは右腕の拳を上に掲げた。

 

「……終わった」

 

 両腕があったら、ハジメは体を大の字にして、大きな伸びをしていたことだろう。そうして倒れていたところを、香織に片手を掴まれて起き上がる。

 

 すると、最奥の扉がゆっくりと開かれた。




火力万能主義様

評価していただき、ありがとうございます。第二章もあと少しです!
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