ライセン大峡谷と蒼色のウサギ
魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の
やがて光が収まり目を開けたハジメの視界に写ったものは……洞窟だった。
「えっ? ……ああいや、出入口だもんな、そりゃ隠すか」
外は地上だと無条件に信じていたハジメだったが、よくよく考えてみれば、反逆者と呼ばれていた者達が、簡単に分かるような出入口を作るわけがなかった。
緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、三人とも暗闇を問題としないので、道なりに進むことにした。
途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。ハジメと香織はこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間、求めてやまなかった光。
近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。ハジメは“空気が旨い”という感覚を、この時ほど実感したことはなかった。
そして、三人は同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。
◆◇◆◇
地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西のグリューエン大砂漠から東のハルツィナ樹海まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。
――ライセン大峡谷と。
ハジメ達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は
たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていた三人の表情が次第に笑みを作る。無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。
「外だ……めっちゃ久しぶりだぁ……」
頭上には青空と太陽、そして地上の澄み渡る空気。ハジメは全身でその光を浴びるかのように、地面に体を倒す。
香織とユエは、そんなハジメの様子を見て、小さく微笑むと、その両隣に寝転んだ。
しばらくの間、今いる場所が地獄のような場所であることも忘れて、ハジメは地面に寝転がっていたが、周囲に魔物の気配を感じて、ゆっくりと体を起こす。香織とユエも、それに続く。
「おっとと、魔物だ。……流石にのんびりしすぎたかな?」
魔物に囲まれつつあることに気づいたハジメはゆっくり立ち上がると、拳銃を抜き、おもむろに一体の魔物の頭部を撃ち抜いた。
「確かライセン大峡谷だと、魔法が使えないんだっけか?」
拳銃を抜きながら、二人に尋ねるハジメ。自主的に知識を身に付けようと努力していたので、ハジメはここがライセン大峡谷であり、魔法が使えない場所であると理解していた。
「固有魔法なら大丈夫っぽいけど……普通のは難しいかな?」
「ん、魔力が分解される……でも力づくでいく」
ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。もちろん、香織やユエの魔法も例外ではない。香織に関しては、魔物を食べて得た固有魔法は使えるだろうが。しかしそれを抜きにしても、二人の内包魔力は相当なものである上、今は外付け魔力タンクである神結晶製の装備を所持している。
つまり、その豊富な魔力量を活かして、分解される前に大威力を持って殲滅すればよいということだ。
とはいえ魔法の効率が悪くなるのは、誰がどう考えても明らかなわけで。
「ま、ここは僕に任せてよ。この環境じゃあ、二人とも戦いにくいでしょ?」
「でも……」
ユエが一瞬拒否して戦おうとするが、香織がユエの肩に手を置くと、ハッとして静かに「……わかった」と呟くのであった。
そうして、ハジメと魔物の戦闘が始まったわけなのだが……五分もしないうちに、ハジメ達の周りには魔物の死体の山が出来上がっていた。
「……弱い。いや、むしろオルクス大迷宮の魔物が強すぎるのか?」
適当に魔物の素材やら魔石やらを回収しつつ、ハジメはボソリと呟いた。
その後、魔物の素材や魔石の回収が終わったハジメは、香織とユエの方を向く。
「さてと。とりあえず街の方に行っときたいから、樹海側に向けて探索でもしながら進む? ここって確か、七大迷宮があるって言われてるし、その迷宮を探しながらさ」
「……なぜ、樹海側?」
「いやだって、砂漠側より樹海側の方が人が住んでそうじゃん。過酷な環境にわざわざ街を作る人なんてそうそういないだろうし」
「確かにそうだね」
ハジメの提案に、二人は頷いた。魔物の弱さから考えても、この峡谷そのものが迷宮、というわけではなさそうだ。ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。
ハジメや香織の“空力”やユエの風系魔法を使えば、絶壁を超えることはそこまで難しくないだろうが、どちらにしろライセン大峡谷は探索の必要があったので、特に反対する理由もなかった。
ハジメは、右手の中指にはまっている〝宝物庫〟に魔力を注ぎ、魔力駆動車を取り出す。ちなみにこの魔力駆動車だが、二種類のモデルを用意してあり、今回取り出したのはオープンカータイプだ。
ハジメが運転席に、そして助手席には……じゃんけんで勝ったユエが座り、後ろに香織が乗る。
ササッと準備を終えると、早速出発した。この魔力駆動車は、神結晶から溢れ出す神水を燃料にして動く。直接動力となっているので、駆動音は電気自動車のように静かである。
ライセン大峡谷は、基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく、道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。三人とも迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動車を走らせていく。車体底部の錬成機構が、谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。
ちなみに、魔物の相手はどうしているのかというと、車体にいたる所に埋め込んである小型の機銃から放たれる弾丸が、自動的に敵を狙い撃ってくれている。“魔力感知”を付与した鉱物で作ってあり、感知した魔力に向けて、自動で撃ってくれるようにしているのだ。
しばらく魔力駆動車を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。もう三十秒もしない内に会敵するだろう。
「ん? 二体いる……いや、片方は魔物じゃないな……」
が、ハジメの“魔力感知”にはもう一つ、魔物とは別の何かを感じ取った。香織も同じようなことに気づいたようで、気配がした方向を見ていた。
しばらくすると、大型の魔物がハジメ達の車の方向に走ってきた。かつて見たティラノモドキに似ているが、頭が二つある。双頭の恐竜のような魔物だ。
だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。
「えっと……何あれ?」
「……兎人族?」
「え? でも確か兎人族って、樹海に住んでたような気が……いや、それは別にどうでもいいか」
ハジメは拳銃を抜いて車から降りる。
「とりあえず助けるわ」
車から降りたハジメは、少し前の方に出て、魔物を待ち構える。二人のことも考えて、あまり車からは離れないようにする。
そんなハジメ達のことを発見したのか、それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女は必死に大声で叫ぶ。
「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」
滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。
そしてもうすぐ喰われる――というその時であった。
ドパンッ!! ドパンッ!!
銃声が響き渡る。射程内に入った魔物の二つの頭を、二つの弾丸が貫いた。二つの脳を貫かれた魔物は無事ではなく、わずかに痙攣した後に動かなくなった。
「えっ……あ、え? 死んでます……あのダイヘドアが一瞬で……」
たった数秒の出来事に、ウサミミ少女は困惑し、死んだダイヘドアという魔物とハジメを何度も交互に見ていた。
「落ち着けよー! とりあえずこっち来い!」
「あっ、はい!」
反射的にそう答えると、慌ててハジメ達の方へ走ってくるウサミミ少女。かなりボロボロのようで、女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。それに思わずハジメは目を逸らす。
しかしそんなハジメの心を無視してウサミミ少女は近づき、そして何度も何度も頭を下げた。
「本当に本当に、助けていただきありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! お願いです! 私の仲間も助けてください!」
「仲間? ……とりあえずほら、話は聞くから」
助けるか否かは置いといて、とりあえず話くらいは聞こうと、ハジメはシアという兎人族の少女を車に乗せた。
なんというか……シアみたいな元気っ娘をしょんぼりさせた後に、色々やって幸せにしてあげたい。めっちゃ甘えてきそうだし。
シアの立ち位置、どうする?
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原作通りにハーレム入り。
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原作より少し遅れてハーレム入り。
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その他