ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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シアの心情とハルツィナ樹海

 七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱えるハルツィナ樹海を前方に見据えて、ハジメが車で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進んでいた。

 車の方は、一度降りたので席を変更してある。前の席にハジメと香織、後方にユエとシアが座っている。シアに関しては、車に乗りたいと駄々をこねた結果、ハジメが苦笑いして頷いたという経緯がある。

 

 シアとしては、ハジメ達には色々と聞きたいことがあったようだ。

 

「そういえば……今までの戦いを見て気になったことがあるんですけどぉ……」

「ん?」

「今までの戦いで三人とも、魔法使ってましたよね? 大峡谷では使えないはずなのに……」

 

 今までに何度かあった大峡谷での戦いで、ハジメは何度も銃を撃っていたし、香織やユエも、少ないながらも魔法で攻撃をしていた。それこそ、魔力操作や固有魔法の技能がないと、まともに魔法が使えない場所にも関わらず、だ。

 

「簡単に言うと僕達全員、魔力操作の技能持ちだからさ。だから大峡谷でもある程度は魔法が使えるんだ」

「うん、そうだね。ユエちゃんは元々使えて、私とハジメくんは魔物を食べてからできるようになったんだよね?」

「まぁそんな感じ」

 

 詳しく話せば話すほどに、呆然としていたシアだったが、突然、下を俯いてしまった。ユエがちらっと表情を見てみると、何故か泣きべそをかき始めていた。

 

「……どうしたの?」

「あ、うん……一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

「……」

 

 どうやら魔物と同じ性質や能力を有するということ、この世界で自分があまりに特異な存在であることに孤独を感じていたようだ。家族だと言って十六年もの間、危険を背負ってくれた一族、シアのために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる家族、きっと多くの愛情を感じていたはずだ。それでも、いや、だからこそ、“他とは異なる自分”に余計孤独を感じていたのかもしれない。

 シアの言葉に、ユエは思うところがあるのか考え込むように押し黙ってしまった。いつもの無表情がより色を失っている様に見える。おそらく、ユエは自分とシアの境遇を重ねているのではないだろうか。共に魔力の直接操作や固有魔法という異質な力を持ち、その時代において“同胞”というべき存在は居なかった。

 

 二人の孤独というのは、それなりに違っている。ユエは物理的な孤独を、シアは精神的な孤独を感じている。

 

 ユエの孤独は文字通り、ずっと独りでいると感じる孤独だ。周りには誰一人いない、誰一人こない。真っ暗闇の中で独り、この先何が起こるか分からない。そんな中で百年以上も過ごすなど、苦痛と言う他ない。

 対するシアは、ユエとは違って周りには家族がいる。しかしだからこそ、周囲との違いを自覚してしまう。家族は確かに優しくしてくれる。だけどそれは、自分が特別だから。大きくなるにつれて、シアはそれを自覚し、なんとなく空しい気持ちになっていったのだ。

 

 少し後ろを見たハジメだったが、二人の思っていることはなんとなく分かっていた。が、理解しようにも、本物の孤独感というのを感じたことのないハジメには、上手くは理解できなかった。香織も、同情はしていても、その感情を本当の意味で理解はできていないのだろう。

 

「大丈夫。孤独ってのをよく知らない僕が言うのもアレだけど……でも、もう独りじゃないから。ユエはもちろん……シアも」

 

 だからハジメは、これくらいしか言えなかった。信念を持って言った言葉ではないので、ユエとシアに顔を向けて言うことはできなかった。

 しかし、言い方が悪かったのだろうか。シアを勘違いさせてしまうこととなった。もしかしたら、仲間に入れてもらえるかも、と。

 

「あ、あの……もしかしてハジメさん、私を仲間に入れてくれたり……」

「ん? いや流石に無理」

 

 しかしハジメは即座にシアの言葉を否定し、その理由を述べた。

 

「ちょっと前に話したと思うけど、僕達の旅ってかなりキツいんだよね。今のシアだと、もし僕達についていったとしても、多分一瞬で死ぬよ?」

 

 完全な拒絶というわけではない。あくまでこれは、シアの身を案じての拒絶だ。今のままの……ライセン大峡谷でただの魔物から逃げるしかできないシアだと一瞬で死ぬだろうと、ハジメは考えていた。

 しかしシアは、どうしてもハジメ達についていきたいからなのか、まだ食い下がる。

 

「で、でも! 私は絶対に迷惑を――」

「本当に、そう言い切れる?」

 

 そこに、香織が入ってきた。

 

「ねぇシアちゃん。ハジメくんの左腕……どう見える?」

「え? 義手、ですよね……?」

「うん、義手。ハジメくんの本物の左腕はね……私を庇ったときに、魔物に千切られちゃったんだ……」

「……」

 

 これにはシアも何も言えなかった。流石のシアも、こんな過去を語られてなお食い下がるほど図々しくはない。

 

「……もし、ハジメくんに強さを認めてもらいたいのなら、少なくとも私やユエちゃんくらいは、一対一で倒せるくらいにならないとダメだよ? ね、ハジメくん?」

「まぁ、そうだね。旅についてくるって言うなら、最低限それくらいはできないと、こっちが困る」

「と、ということは……」

「ああ、勘違いしないで。一対一で香織とユエを倒すってのは、あくまで最低条件。もし性格の方で難があると思ったら、もちろん仲間に入れることなんてしないからね?」

「……ハイ」

 

 そんな話をしていると、遂に一行はハルツィナ樹海と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

「それでは、ハジメ殿、ユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「それで大丈夫。聞いた限りだと、そこが本当の迷宮と関係してそうだからね」

 

 カムが、ハジメに対して樹海での注意と行き先の確認をする。カムが言った“大樹”とは、ハルツィナ樹海の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には“大樹ウーア・アルト”と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

 

 当初、ハジメはハルツィナ樹海そのものが大迷宮かと思っていたのだが、よく考えれば、それなら奈落の底の魔物と同レベルの魔物が彷徨いている魔境ということになり、とても亜人達が住める場所ではなくなってしまう。

 ならば、ハルツィナ樹海そのものが大迷宮というよりかは、そのどこかに、大迷宮への入口があると考えた方が自然だ。

 

 カムは、ハジメの言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をしてハジメ達の周りを固めた。

 

「ハジメ殿、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

「なるほど……うん、分かった」

 

 ハジメと香織は“気配遮断”を使い、極限まで気配を消す。ユエも、奈落で二人を見て戦って培った方法で気配を薄くした。

 

「ッ!? これは、また……ハジメ殿、香織殿……できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

「ん? ……これくらい?」

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

 

 元々、兎人族は全体的にスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。地上にいながら、奈落で鍛えたユエと同レベルと言えば、その優秀さが分かるだろうか。しかしハジメと香織の“気配遮断”は、さらにその上を行く。普通の場所なら一度認識すればそうそう見失うことはないが、樹海の中という悪環境だと、兎人族の索敵能力を以てしても見失いかねないものだった。

 

 カムは、人間族でありながら自分達の唯一の強みを凌駕され、もはや苦笑いだ。隣では、何故かユエが自慢げに胸を張っている。シアは、どこか複雑そうだった。ハジメの言う実力差を改めて示されたせいだろう。

 

「それでは、行きましょうか」

 

 カムの号令と共に準備を整えた一行は、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ。

 

 しばらく、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、カムの足取りに迷いは全くなかった。現在位置も方角も完全に把握しているようだ。理由は分からないが、亜人族は、亜人族であるというだけで、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。

 いや……もしかしたら霧そのものに、魔術的な何かが仕掛けられているのかもしれない。たまにそういう風に考えながらも、ハジメは案内されるがままに進んでいった。

 

 時折魔物が出てくることもあったが、たかが迷宮外の魔物だ、ハジメ達にかかれば拳銃で秒殺だった。電磁加速させる必要もない。その度に、特にハウリア族の子供達には何度も感謝されるのであった。

 

 しかし、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、ハジメ達は歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

 そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 三人ともすぐに相手の正体に気がつき、面倒そうな表情になった。

 

 その相手の正体は……

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

 虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。




エルツバイン様  すぷりんぐ様

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正直、ここまで伸びるとは思いませんでした。ここまで応援してくれた方に、改めてお礼申し上げます。本当に、ありがとうございました。

シアの立ち位置、どうする?

  • 原作通りにハーレム入り。
  • 原作より少し遅れてハーレム入り。
  • その他
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