ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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勉強会

 学校へ行って、たまに休日に香織と会って遊んで。そんな日々が続き、十二月になった。そして中学二年生の冬にもなれば、嫌でも()()のことを頭に浮かべてしまう。

 

「高校、どうしようかなぁ……」

 

 下校中、ハジメはそう呟く。今までは、特に行きたい高校も無く、高校受験のことなどほとんど考えていなかった。ハジメとしては、適当にどこか行っとこうとくらいにしか思っていなかった。

 

 しかし、頭をよぎるのは香織の顔。彼女はどこの高校へ行くのだろうか。できれば一緒の所に行きたいなぁ。

 

 そんなことを、考えていた。

 

 家に帰ったハジメはすぐに、香織に電話をかけた。すると数秒で、香織は出てくれた。

 

「もしもし」

『もしもし南雲くん。どうしたの?』

「うん。一年後は高校受験だけど……白崎さんは、志望校どうするの?」

 

 尋ねたいのは、それだけ。可能であれば一緒の所へ行きたい。そのためにも、香織の志望校は知りたかった。

 

 しかし香織の志望校を聞き、ハジメは絶望した。彼女の志望校というのは、この地域ではトップクラスの偏差値の私立高校、その特進コースだったから。

 

「え……どうしてそこに決めたんだい?」

『友達がそこへ行くって言ったから行こうと思ったんだ。成績的には一応問題無いよ。……あっ! 南雲くんも来る?』

「行きたいけど……大丈夫かな? テストの成績はそこそこ良いけど、内申点がちょっと……」

 

 ハジメはけっこう頭が良い方だ。地頭が良いとでも言うべきか、あまり勉強しなくても、テストの成績は常に上位にいる。

 しかし授業はほとんどサボっており、常に居眠りしていると言ってもいい。そのため内申点が壊滅的なまでに低いのだ。

 

 ハジメは、この内申点の低さを危惧していた。若干授業をサボったことを後悔していた。

 

『一応大丈夫。問題はかな~り難しいけど、でも内申点とか出席日数とか、そういうので大きく不利になることは無いっぽいよ』

 

 だがそれは杞憂だったようで。問題はかなり難しいようだが、香織の話だと、それさえできれば受かるらしい。つまり、努力すれば受かる。

 

「それなら、頑張ればいけるかな……」

『うん、南雲くんならきっと大丈夫だよ。それでも不安だったら……一緒に勉強しない? せっかく一緒の高校へ行くんだったら、ね』

 

 そこに、香織の提案も入ってくる。この数ヶ月で色々話した結果、香織の成績はかなり良いことを、ハジメは知っていた。また、それを抜きにしても、一緒にいたいという思いもあった。

 

「じゃあお願い。勉強を手伝ってほしい」

『分かった。それじゃあ……勉強会は冬休み入ってからやろっか!』

「うん。それじゃあ」

『じゃあね南雲くん』

 

 電話が切れると、ハジメは大きく息を吐いた。

 

「頑張らないとなぁ……」

 

 元々ハジメは勉強が嫌いなわけではない。あくまで、ゲームや漫画といった好きなものを優先した結果、後回しになっているだけだ。

 しかし香織と同じ高校へ行くという目的が、勉強の優先順位を大きく上げた。

 

 ハジメはスマホを置き、勉強机に向かった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 それから約一週間後、冬休みに入り、中学生は休みに入った。

 

 とはいえ、中学二年生のハジメにとっては休みではない。勉強をするためだけの期間である。多くの人は憂鬱に思うことであろうが、ハジメはそうは思わない。

 

「そういえば、今日は友達が来るんだっけ?」

 

 リビングで勉強していると、母親の南雲菫(なぐもすみれ)が尋ねてくる。漫画家ではあり非常に忙しくはあるが、常に仕事というわけではない。今日は休みだ。

 

「うん。冬休みの間は結構来るかもだけど、いいよね?」

「いいよ〜。むしろいつでも来てくれていいって言っといて!」

「ハハハ……分かったよ」

 

 そして、菫は興奮している。今まで友達というものをほとんど作ることが無かったハジメが、友達を連れてくると言ったのだから。

 ……しかし、まだハジメは伝えていない。連れてくるのが、男子ではなく女子であることを。もし伝えていれば、騒がしくなっていたことだろう。最も、どうあがいても、今日その事実がバレてしまうのだが。

 

 ピンポーン。

 

 勉強をしていたら、十時になる頃にインターフォンが鳴った。

 

「あっ、多分来た」

「じゃあお茶を用意しとくわねぇ」

 

 ハジメは勉強を中断し、玄関へ向かう。するとそこには、予想通り香織がいた。

 

「おはよう南雲くん」

「うん、おはよう白崎さん。今日は母さんがいるから、うるさくなるかもしれないけど……」

「別に大丈夫だよ」

 

 とりあえず、先に母親のことを言っておく。流石にひとしきり騒いだら静かになるだろうが、性格上しばらくはうるさくなるであろうことを、説明しておいた。

 

「おじゃましま~す」

 

 簡単な説明をし終えると、香織を家に上げた。当然女の子の声が玄関に響く。

 

 それと同時に、リビングの方から「えっウソ!?」という声がして、ドタドタと大きな足音が近づいてくる。そうして出てきたのが、ハジメの母親の菫だ。

 

「もしかしてもしかして……あなたがハジメのお友達!?」

 

 菫は突然ハジメが連れてきた女の子である香織に詰め寄る。

 

「えっはい、白崎香織といいます」

「香織ちゃん……まっさかうちのハジメがこんな可愛らしい娘と仲良くしてるとは思わなかったわぁ……!」

 

 さぁ上がって上がってと、菫は香織をリビングに連れ込んだ。すると急いでお茶を用意して、ハジメと香織の前に置いた。

 

「それじゃあ、勉強頑張ってね! 私はちょっと出かけてくるから!」

 

 そうして、菫は家を飛び出していった。

 

「……賑やかそうな家だね」

「うん。本当に賑やかだよ。たまにうるさすぎる時もあるけど……とりあえず、勉強始めよっか」

 

 そういうわけで、二人は勉強を始めることとなった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 それから約二時間後。ちょうど十二時を少し過ぎたあたりのことだった。

 

「ただいま〜」

 

 どうやら菫が帰ってきたらしい。それなりの量の荷物を持っている所から、おそらくは食材の買い出しに行っていたのだろう。

 

「ほら二人とも。昼ご飯買ってきたわよ」

 

 それと、弁当も。そこそこ良い所のものを買ってきてくれたようだ。

 

 ここで休憩がてら、二人は昼食を食べることになった。そこに菫も入ってくる。

 

「ところで香織ちゃん、ハジメとはどこで知り合ったの?」

「えっと……最初に南雲くんを見たのは確か、知らないお婆ちゃんと子供を不良達から守ってた所かな?」

「えっ? ハジメ、あんたそんなことしてたの?」

「あー、いやー……うん」

 

 あの時のことは、ハジメにとっては黒歴史だ。あの出来事があったから香織に出会えたと考えると、悪いこではないのだが……それでも、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 

「それを見て、南雲くんって本当に優しいんだなぁって思って。だって南雲くん、知らない人のために土下座までしてたんですよ?」

「あーあー! ちょっと白崎さん!」

「あらら〜……カッコイイことするねぇハジメ〜」

 

 だから、こうやってバラされるのを凄く嫌がる。香織の優しい人という評価そのものは嬉しくはあるが、それとこれとは話が別だ。

 

「ということは、香織ちゃんは、ハジメのそういう優しい所に惚れちゃったわけ?」

「ほれっ……!? いや、そういうわけじゃ……」

「でも、恋人同士にしか見えないけど?」

「母さん。まだそういう関係じゃないから」

「へぇ〜、()()ねぇ……」

 

 意味深に、菫は深く頷く。その際ハジメはため息を吐きながらも、チラッと香織の顔を見ると、顔を真っ赤にしてうつむいていた。そしてチラチラと自分のことを見ていたので、一度目線が合ったが、すぐに彼女は目をそらしてしまった。

 

「じゃ、お邪魔虫は退散しましょうかねぇ」

 

 そして、いつの間に昼食を食べていたのか。菫は弁当のゴミを軽く洗って捨てた後に、またどこかへ行ってしまった。

 

「……」

「……」

 

 それからハジメと香織は、終始無言で昼食を食べ続けた。とにかく、あまりにも気まずかった。

 

 香織としては、自分のハジメに対する好意をバラされてしまったようなものだし、ハジメの方も、そのせいで香織を不快にさせてしまったかもと思い込んでいた。だから、何も話せずにいた。

 

 そして二人が食べ終わり、ハジメは弁当のゴミを洗って捨てた後のこと。

 

「……うん? 白崎さん、どうしたの?」

 

 台所から戻ってきたハジメに、香織が無言で近づいてくる。うつむいているため、表情はよく分からない。

 

「……っ!?」

 

 それはあまりに突然のことだった。香織が、抱きついてきたのだ。これにはハジメも、口を動かすことすらできなかった。

 すると香織は、一旦抱きつくのを止めて、ハジメの目を見つめた。

 

「南雲くん……ううん、ハジメくん……好きです」

 

 そして、自らの秘めた想いを、告げた。

 

「だから、お願い……付き合ってください」

 

 不安そうに、上目遣いでハジメを見つめる。

 

 そんな香織に対して、ハジメは数秒間黙り込んでいたが、静かに口を開いた。

 

「僕も、白崎……いや、香織さんのことが好きです」

 

 そうしてハジメもまた、想いを伝える。しかし、次は違った。

 

「でも……ごめん。今はまだ、それに答えることはできない」

「え……」

 

 香織は、ハジメのまさかの言葉に啞然としてしまう。それもそうだろう。最初に「好きです」と言ったにも関わらず、その直後に「付き合えない」という意味合いの言葉を言ったのだから。彼女からしてみると、意味が分からないといったところだ。

 

「どうして……」

 

 静かに、声を震わせる香織。そんな香織の肩に手を添え、ハジメは意図を説明した。

 

「……僕は、香織さんと同じ高校へ行きたかった。好きだったから、一緒にいたかったから」

「一緒に……それなら……」

「うん、一緒にいたいのなら、普通なら付き合えばいい。だけど……もしここで付き合っちゃったら、僕はきっと、それで満足しちゃう。受験勉強が、できなくなっちゃう……」

 

 それじゃダメなんだと、ハジメは言う。

 

「僕は、ずっと香織さんと一緒にいたい。そのためにも、一緒の高校に行きたいんだ。だから……一年だけ、受かるその時まで、待っていてほしい」

 

 これは言ってしまえば、ハジメの我慢だ。香織と同じ高校へ行くという目的のために、香織と付き合わない、恋人関係にならない。もし付き合ってしまえば、それで満足してしまう。自分がそういう人間だと、ハジメは知っていた。だから我慢したのだ。

 

「…………わかった。一年後、約束だよ」

 

 そしてその我儘を、香織は受け入れた。そのままもう一度、ハジメを抱きしめて、か細い声で呟いた。

 

「受からなかったら……約束を破ったら、許さないからね」

「……うん。約束する」

 

 そしてハジメも、香織のことを抱きしめ、囁いた。

 

 それからの午後の勉強で、ハジメと香織は、今までとは比べ物にならないほどの集中力を発揮するのであった。全ては、一年後のため。

オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?

  • 白崎香織
  • ユエ
  • どっちも
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