「……結局全員来たのか」
フェアベルゲンの外に簡易的な拠点を作ったハジメ達。そのしばらく後に、兎人族達がやってきた。その時のハジメの第一声がこれだ。拠点といっても、ハジメが分析して複製したフェアドレン水晶を使って、結界を張っただけのものだ。その中で切り株などに腰掛けながら、ウサミミ達はポカンとした表情を浮かべた。
「君達には、戦闘訓練を受けてもらう」
「え、えっと……ハジメさん。戦闘訓練というのは……」
一族を代表してシアが尋ねる。
「そのままの意味。分かってるとは思うけど、僕達が兎人族を守るのは、大樹にたどり着くまでだ。その後は多分、君達は処刑される。……弱い限りは」
「ということは、強かったら……!」
「処刑はされないだろうね。単純な話、襲いかかってくる亜人族達を打ち倒すことができれば、処刑されないわけだから。だって、捕まえないと処刑できないでしょ?」
兎人族は、亜人族の中でも直接戦闘においては弱い種族とされている。そんな兎人族の命を、他の亜人族が狙ってくる。この危機に対処するには、強くなるしかない。
「んで、ここまでは普通の兎人族のお話。次はシアの話だ」
「えっはい!」
「もう一度聞いとくけど、僕達についていきたいんだよね?」
「……はい」
「なら、香織とユエに認めてもらうことだ。認めてもらえたら、その時はパーティ加入を考えてもいい」
「本当ですか!?」
「もちろん。余程のことがない限りは、認めてもらえたら入れてあげるから安心して」
訓練内容としては、シアに関しては香織とユエの二人とひたすらに模擬戦。そこで強さを磨き、二人に認めてもらうことを目標とする。
他の兎人族に関しては、ハジメが訓練を行う。戦闘時の心構えから立ち回り方、簡単な武器の使い方まで、教えられることは一通り教えることにした。一応、対魔物の戦闘に特化するが、対人戦もできるようにする。
「そういうわけなので、頑張ってください。生き残りたいのなら」
「ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません……とても、そのような……」
兎人族は弱いという常識がハジメの言葉に否定的な気持ちを生む。自分達は弱い、戦うことなどできない。どんなに足掻いてもハジメの言う様に強くなど成れるものか、と。
「あー、ハハハ……」
そんなハウリア族達に対して、ハジメは乾いた笑いをあげる。
「僕も最初は弱かったよ。具体的に言うと、一般人と同等のステータスで、かつ戦闘技能が無かった」
「え?」
「つまりは、元々僕は君達よりも圧倒的に低い身体能力しか持ってなかったってことだ。技能的にも、直接戦闘には役に立たないものばかりだったから、本当に弱かったよ。ねぇ香織?」
「確かに、あの時はまともに戦闘できるステータスじゃなかったね」
後ろから香織の援護もあったので、驚きつつも、ハウリア族の皆はハジメの言葉を信用できた。
「まぁつまり、身体能力が高い君達が、強くなれない道理は無いってことだ。技術を身に付けて体を鍛えれば、ちゃんと強くなっていくはずだ」
ハジメは言った。ひたすらに努力して体を鍛え、長所を活かし、技術を磨けば、必ず強くなれると。
「まぁそういうわけだから、早速始めるぞ」
ハジメの言葉に、ハウリア族は皆、覚悟を宿した表情で頷いた。こうして、ハウリア族の訓練は開始された。
◆◇◆◇
まずはじめに、シアを除いて、訓練に参加しているハウリア族は四十人だ。なのでハジメは、年齢や性別が上手くばらけるように五人ずつのグループを作らせ、リーダーを決めさせた。ちなみにだがリーダーは、グループで最も若い者である。
そうして作った五人グループごとに、訓練を行った。体の鍛え方や武器の扱い方などは、互いに教え合うことができる環境を作ることで、上達を促した。
と、このように、最初の方は順調だった。互いに互いを教え合うことがしやすい環境を作ったことで、技量はかなりの速度で上がったことだろう。
――しかし問題は、実戦になると起きた。
武器の扱い関しては問題無い。ハウリア族、というか兎人族は、他の亜人族と比べるとそこまで腕力があるというわけではない。だが代わりに、俊敏性はかなりのものだと言ってもいい。
その特性を活かすために、ハジメは特性の小太刀のような、比較的取り回しやすい武器を作って渡した。人工のアザンチウム鉱石を使っているため、よほど変な使い方でもしない限りは、刃こぼれすることはないだろう。
一日目に基礎を教え、二日目から実戦に入った。
こうして始まった実戦で、ハウリア族の一人が魔物の一体に小太刀を突き刺して絶命させる。
「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~」
それをなしたハウリア族の男が魔物に縋り付く。まるで互いに譲れぬ信念の果て親友を殺した男のようだ。
ブシュ!
また一体魔物が切り裂かれて倒れ伏す。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! それでも私はやるしかないのぉ!」
首を裂いた小太刀を両手で握り、わなわな震えるハウリア族の女。まるで狂愛の果て、愛した人をその手で殺めた女のようだ。
バキッ!
瀕死の魔物が、最後の力で己を殺した相手に一矢報いる。体当たりによって吹き飛ばされたカムが、倒れながら自嘲気味に呟く。
「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか……当然の結果だな……」
その言葉に周囲のハウリア族が瞳に涙を浮かべ、悲痛な表情でカムへと叫ぶ。
「族長! そんなこと言わないで下さい! 罪深いのは皆一緒です!」
「そうです! いつか裁かれるときが来るとしても、それは今じゃない! 立って下さい! 族長!」
「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。族長、行けるところまで一緒に逝きましょうよ」
「お、お前達……そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。死んでしまった彼(小さなネズミっぽい魔物)のためにも、この死を乗り越えて私達は進もう!」
「「「「「族長!」」」」」
いい雰囲気のカム達。それを見ていたハジメな大きなため息を吐く。
「おいおい。戦闘向きの性格じゃないことは最初から分かってたけどさぁ……もう少しまともに戦わないと、君達その内死ぬよ?」
一応ハジメにも、ハウリア族達が頑張っているのは分かる。だがその性質故か、魔物を殺すたびに訳のわからないドラマが生まれるのだ。この二日、何度も見られた光景であり、ハジメもまた何度かやんわりと注意しているのだが一向に直らない事から、いい加減注意をするのも億劫になってきていた。
だからといって放置して死なせてしまうのも、ハジメは嫌だった。なんとかして彼らの思考を変えたいと思ってはいるのだが……それが難しいということだ。
「う~ん……」
「どうしましたかハジメ殿? あとこれ……今日のノルマ分です」
「……あんな風だけど、一応は魔物を倒せてるんだな」
ハジメは対魔物の訓練を始めてから、各グループにノルマというものを用意している。ノルマといっても、魔物をどれだけ倒すといった、そこまで難しくない内容だ。
ちなみに、これを達成しない限りは、食事を食べることができない。ハジメが食べさせない。なのでノルマを達成せざるを得ないということだ。
「あっそうだ。今ってさ、みんな集まってるよね?」
「はい!」
ちょうど今は、ノルマの魔物をハジメの所に持ってきていた所なので、訓練に参加しているハウリア族は全員集まっている。それを見て、ハジメはあることを宣言した。
「とりあえず、この二日間訓練を見てきたけど、全員それなりに技術は身に付いてるようだね。というわけで、今回はその訓練の成果を確認するテストを行うことにする」
「テスト……ですか?」
ハジメは一つ、ハウリア族の実力を測るテストというものをすることにした。
「そう。君達の実力なら、ある程度頑張れば達成できるレベルにしてあるから安心してほしい。ただその代わり、テストに落ちたらペナルティがあるから、そこは気をつけてね」
「ペナルティ……?」
「まぁ簡単に言えば罰だね。といっても、別に君達に暴力をふるうとか、そういうことは無いから安心して。そんなことしちゃったら、訓練できなくなるし」
ペナルティの内容に関しては秘密だと言って、ハジメはテストの説明を終えた。
「じゃあそういうわけで。休憩が終わったら、一グループずつテストしていくよ。僕はちょっとやるべきことがあるからこの場を離れるけど、みんな頑張ってね」
そうして休憩が終わった後、テストが始まった。
◆◇◆◇
ハウリア族にテストをさせている間に、ハジメはシアが訓練している場に向かった。そこにはシアと、彼女に訓練をつけている香織とユエもいた。どうやら今は休憩中のようで、三人とも切り株に座って休んでいる。
「訓練の調子はどう?」
「う~ん、割といい感じだよ? シアちゃんもかなり強くなってきてるし」
「ん……特に身体強化に特化してる。正直、化物レベル」
「ああ〜、確かになぁ」
今までに何度か、ハジメはこの三人の訓練を見にきていたのだが、その時のシアの動きは中々のものだった。兎人族としての俊敏性があり、かつ身体強化の倍率が凄まじいのか、パワーもある。
「でも私、まだお二人に全然勝てないですよぉ」
「そりゃまぁ、そう簡単に勝てるわけないだろ、って話だ。いやむしろ、シアはかなり善戦してる方だと思うよ?」
「そう、ですか……?」
「うんうん。まぁこれからも頑張って」
そう言ってハジメは去ろうとしたのだが、ここでハジメは、本来の目的を思い出した。
「あっそうだシア」
「えっ、どうしましたか?」
「ちょっと手伝ってほしいことがあるから、こっち側の訓練に来てほしい」
「……? 分かりました。でも何を手伝えばいいんですか?」
「それは今から話すから。ということで香織、ユエ。ちょっとシアを借りるよ」
こうしてハジメはシアを連れ、他のハウリア族が訓練している場に戻った。もちろんその間に、シアに手伝うことに関する説明も行った。
◆◇◆◇
そうしてハウリア族の訓練に戻ったハジメは、彼らのテストの集計をしていた。
「なるほどなぁ。八グループ中、不合格は六グループか」
今回のテストで合格したのは、第三グループと第八グループだ。それ以外のグループは不合格だ。
ちなみにテストの内容は、三十分以内に魔物を五体倒してくること、というものだ。別段難しくも何ともない内容である。それにも関わらず、大半のグループは不合格となった。
「そ、それで……罰の内容は……」
カムが震えながら尋ねる。ちなみにカムのいるグループは第三グループ、つまりは合格のグループだ。おそらくは、罰を受ける家族のことを心配しているのだろう。
「まぁまぁ安心して」
そう言いつつも、ハジメはゆっくりと手元で銃をいじっている。ただその銃は、普段使っているものとは違い、銃身には英語で『PAINT』と、赤く書かれていた。もちろん英語なんて読めないハウリア族には、その意味は分かるわけがない。
ちなみにだが、シアはハジメから一メートルほど離れた場所に座っており、しばしば挙動不審に陥っている。
「それにしても六グループかぁ……」
ハジメはゆっくりと弾丸を装填していく。装填数は、合計六発。ちょうど不合格になったグループと同じ数だ。
「じゃあ、ペナルティを執行するね。シア、ちょっと立って」
「あっ、はい――」
ドパンッ!
シアが立ち上がったその瞬間、赤い鉄臭い匂いのする液体が、シアの周りに飛び散る。ハジメが、シアの胸に弾丸を撃ったのだ。
もちろん銃撃を受けたシアが無事なわけもなく、シアは胸を抑えてその場に倒れた。
「はい、これで第一グループのペナルティは終了。残りは五発――」
「なっ、何をするんですかハジメ殿! シアは何もしていない!」
そんなことをしていると、カムが口を挟んでくる。当然だろう、なんせシアが大量の赤い液体を流しているのだから。
しかしその反応は織り込み済みなのか、ハジメはスラスラとカムに、動揺しているハウリア族に向けて言う。
「ああ、確かにシアは何もしてないね。でもさ、君達がちゃんとテストに合格すれば、こうはならなかったんまよ? つまり、合格しなかった君達が悪い」
「でもどうして……! やる――」
「やるなら私達に? でもそんなことしたら、怪我しちゃうでしょ? 最初にそういうことはしないって、宣言しちゃったし。それに怪我されたら、今後の訓練ができなくなる可能性があるし」
ハジメの言葉に、ハウリア族は黙り込み、俯く。彼らは彼ら自身を責め続けた。自分達のせいで、無関係な大切な家族であるシアを傷つけることになったと。
「さて、残り五発残ってるからさ。悪いねシア。でも恨むなら、テストに合格しなかったハウリアの仲間達にしてくれよ?」
そう言いながら、ハジメはシアに銃弾を放つ。しかもある程度間隔を開けながら、可能な限り苦痛を感じさせるように。
一発撃ち込むごとに、シアはあまりの苦痛に身悶える。体をくねらせ、顔を歪ませる。しかし六発撃ち込んでも、シアは苦しみはしていても、死にはしなかった。
「……マジか。流石に死ぬと思ってたけど、六発を耐えやがった」
これには流石に、ハジメもわずかに驚いていた。しかしすぐに、ハジメは絶望顔のハウリア族の方へ向く。
「さてと、じゃあ新たなノルマだ。一つのグループにつき、魔物を三十体倒して持ってくること。ちなみに一グループでも達成できなかったら、今度はチームのリーダーを全員殺すから、よろしく」
「な、何故……」
「何故って、だって君達の態度、こうでもしないと直らなさそうだったから」
そうハジメはあっさり言い切る。ハウリア族は誰も言い返せなかった。
「ああそれと」
そんなハジメの言葉に、ビクリとハウリア族は震える。
「第三グループと第八グループが、他のグループにノルマの魔物を受け渡してることは知ってるからね? 今後同じことやったら、受け取ったグループの奴等は皆殺しだから」
「は、はいぃぃぃ! 申し訳ありません! 二度としませんから許してください!」
「じゃあさっさと魔物を殺してこい。ちなみに制限時間は一時間だ」
「「「「分かりました!!」」」」
恐怖に怯えながら、ハウリア族は樹海に走り去っていき、最後にはハジメと倒れたシアだけとなった。
「……っと。シア、悪いけどその汚れは自分で洗い流しといてほしい」
「分かりましたぁ。それと……演技はどうでしたか?」
「普通によかったと思うよ」
シアはゆっくりと立ち上がりながら、ハジメと会話をする。痛がる様子など一切無い。
そう、今までのはすべて演技だったのだ。ハジメが撃ったのも、単なるペイント弾で、着弾した場所に血の匂いのする赤い液体をばらまくだけのものだった。
それを事前に教えてもらっていたシアは、痛がるふりをして、ハウリア族を騙しきったわけだ。実際はペイント弾なので、怪我一つしていないが。
「それじゃあ、これ洗い流してきますね」
「ん。それと訓練も頑張ってね」
そうして軽く手をふると、シアは他のハウリア族とは逆方向に去っていった。
有名人ヲタク様 さばたつ様
評価していただき、本当にありがとうございます。
シアの立ち位置、どうする?
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原作通りにハーレム入り。
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原作より少し遅れてハーレム入り。
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その他