ズガンッ! ドギャッ! バキッバキッバキッ! ドグシャッ!
樹海の中、凄まじい破壊音が響く。野太い樹が幾本も半ばから折られ、地面には隕石でも落下したかのようなクレーターがあちこちに出来上がっており、更には、燃えて炭化した樹や氷漬けになっている樹まであった。
この多大な自然破壊は、たった三人の女の子によってもたらされた。そして、その破壊活動は現在進行形で続いている。
とはいえ、その内の一人は既にダウンしているのだが。シアによって倒されたユエだ。
「……がんばれー」
率直に言うと、シアはおかしいくらいに強かった。未来視能力の他に、彼女は魔力を使うことで身体能力を強化することができるのだが、その倍率が凄まじく、ユエ曰く、強化してないハジメの六割くらいなのだという。訓練を始めて数日の段階でもうこれだ、化け物と言う他ない。
だがシアは、ユエはともかくとして、香織にはかなりの苦戦を強いられていた。というか香織に関しては、今までに何度も戦って、一度も勝つことができなかった。
ユエの場合は、多彩な魔法を使えるとはいえど、根本にある戦闘スタイルは『高火力魔法によるゴリ押し』である。ゴリ押しを通すために頭を使うということはあれど、ゴリ押しとは別の戦術を取ることはあまりしない。なので一応、勝てる時は簡単に勝てた。
対する香織は、ゴリ押しをあまり行わない、というか行えない。攻撃系の魔法は光属性しかまともに使えないため、攻撃系での対応力が低いからだ。しかし光属性の魔法は様々な種類がある。拘束魔法や強化魔法の一部、さらには結界魔法も光属性にあたる。故に、どちらかというと搦め手に長けている。
この搦め手を使ってくる相手が、シアは何よりも苦手だった。シアの基本戦術はユエと似ており、超高火力によるゴリ押しだ。その手段が魔法から近接物理攻撃に変わっただけで。
しかし香織にゴリ押しは効きにくい。しかも近接戦闘でのゴリ押しは尚更だ。故にシアはどうしても頭を使う必要があったのだが、それが中々に難しいのだ。そこからシアが導き出したのは……
「“光糸”」
香織は周囲に、蜘蛛の糸のような細かい線を張り巡らせる。単純に動きを阻害する硬い糸ではあるが、糸だからと侮るなかれ。一度触れるか壊すかすれば即座にトラップが発動し、そこからさらに連鎖的にトラップが発動していく。その先にあるのは敗北だ。
シアも幾度となくこれに苦しめられた。本来なら回避するべきなのだが、回避したらしたで、香織がさらに“光糸”を増やしていくのでどうしようもない。故にシアがとった行動は……
「でぇやぁああ!!」
糸を破壊することだった。シアの持つ巨大な槌が起動し、周囲に衝撃を放つ。同時に周囲の糸は全て破壊されていった。
今回のトラップは、太い光の糸による拘束と、光の柱による攻撃。糸が破壊された後のコンマ数秒で、静かに効果が発動する。
「ハァッ!」
しかし無駄だ。シアはバランスモードからスピードモードに変える。とはいえど、これは身体強化による強化の比率を、バランス型から敏捷特化型へ変えるだけだ。
「……! 全てかわして……!」
兎人族特有の高い敏捷性と、高過ぎる身体強化倍率を合わせた速度は恐ろしいものだった。外で見ているユエですら、シアの残像を認識するのがやっと。そんな速度なのだから、トラップが発動するまでのラグの時間だけで、危険域から脱出してしまった。
シアは結論付けたのだ。
「ゴリ押しが効かないから! 今までよりも強い力でゴリ押しすればいいだけです!」
結局の所、ゴリ押しなのだ。これまでは全体的にステータスを上げて殴っていたが、今は違う。一点集中で相手を圧倒し、隙を作り、最後にフルパワーで殴る。それだけ。
「これで、終わりですぅ!」
香織に接近し、シアは巨大な槌を振りかぶる。そして振り下ろすまでが敏捷特化で、そこからは筋力特化へ。シアの速度と自然の重力で加速した槌を、フルパワーで香織に叩きつけた。
ズゴォォォォオン……
おぞましい破砕音と衝撃。それと共に舞う土煙と天然の霧。だんだんと視界が晴れていくとそこには、香織が倒れて気絶していた。怪我は……わずかに頭から血が出ているようだが、その程度である。流石は魔物肉での強化と言うべきか。
「う〜……いたたたた……負けちゃったかぁ」
だが即座に気絶から立ち直る香織。いくら強くとも、流石に初見殺しをされたら勝てない。
「……私、勝ったんだよね?」
しかし、当の本人であるシアは困惑していた。まさかここまで上手くいくとは、とでも思っているのだろう。香織に負けまくったせいで。
「うん。シアちゃん、よく頑張ったね」
「やったぁ! 勝ちました、ついに勝ちましたよぉ! 今まで香織さんに負けて四十三回目! ついに、ついにですよぅ!!」
シアは飛び跳ねて大喜びする。今まで負け続けていたからこそ、勝ったときのカタルシスは凄まじいものになったのだろう。
「とにかく! これで私を旅に連れてってくれますよね!?」
「……それはハジメが決めること」
「そうだね。でも多分大丈夫だよ。私達に勝っちゃったわけだし」
ハジメは最初、シアに「旅についていきたいのなら、香織とユエと戦って、強さを認めてもらうこと」と言った。具体的にどうすればいいのかは言わなかったが、一度でも二人を倒せは、ハジメは認めてくれるだろう。
そろそろ、ハジメのハウリア族への訓練も終わる頃だ。上機嫌なシアは、香織とユエと並んでハジメ達がいるであろう場所へ向かうのだった。
◆◇◆◇
三人がハジメのもとへ到着したとき、ハジメは巨大な金属製の槌のような何かを作っているところだった。槌のような、という表現をしたのは、それが直径四十センチ長さ五十センチ程の円柱状の物体であり、見た感じでは槌に見えないものだったからだ。
作業をしていたハジメは、やって来た三人に気づくと、そちらに軽く手を降った。
「おっ、そっちの訓練は終わったか?」
「はい! ハジメさんハジメさん、聞いてください! 私、ついに香織さんを倒しましたよ! 大勝利ですよ! ほんっと、四十回も負け続けて辛かったですよぉもぅ!」
「おぉ、マジか。近接戦闘で香織を倒したのか……」
これにはハジメも驚いていた。そもそもの話、近接主体のシアと、魔法主体の香織とユエは相性が悪く、どうあがいてもシアが不利になってしまう。特に香織に関しては、その戦闘スタイル上、シアと不利なのは明白であった。
そんな中、何十回と負けてはいたようだが、なんとか香織に勝利することができた。これは評価して、認めなければならない点だろう。
「これで!」
「うおっ!?」
シアはさらにハジメに詰め寄る。
「私を仲間に入れてくれますよね!?」
「……もちろん。ユエだけじゃなく、香織にも勝ったんだ、何も文句は無いよ」
「……! ハジメさん、本当にありがとうございます! これからも一生懸命に頑張るので、よろしくお願いします!!」
シアはハジメに向けて、元気にそう言った。
「おうおう。それとシア、ちょっとここで待ってて。今最終調整中だから」
「へ?」
するとハジメは、今までいじっていた槌のようなものをガチャガチャと操作し始めた。そして数分後、全ての調整やテストが完了したのか、小さく息を吐く。
「よし。はいシア、これ」
「へ? なんですかこれ?」
「仲間になったってことで。ちょっとした記念品みたいなものだ」
「えっ、ウソ!? ありがとうござ……って重っ! あのハジメさん、なんですかこれ!?」
「武器」
ハジメは淡白にそう言い、機能の簡単な説明を始めた。どうやらこの武器には様々な機能が搭載されているようで、魔力を流す部位によって、それら機能の起動を行えるのだとか。
実際にシアが魔力を流して動かしてみると、ガチャンガチャンと変形していった。これにはシアも大興奮で、ハジメに何度もお礼を言っていた。
「……ああそうだ。シア、一つ聞きたいんだけど。何で旅についていきたいだなんて言い出したんだ?」
「え? えっと、それはぁ…………」
何やら急にモジモジし始めるシア。指先をツンツンしながら頬を染めて上目遣いでハジメをチラチラと見る。それを何度か繰り返した後に、シアは深呼吸をして、勢いよく言った。
「ハジメさんのことが好きなんです!」
「……はぁ?」
ハジメは思わず目を丸めて声を上げた。そして数秒してまた、困惑の声を上げる。
「いや、え? あの、シア……僕のどこを好きになったんだ? 自分で言うのもアレだけどさ、僕そこまで大層な人間じゃないよ?」
「そんなことありません! ハジメさんは優しくて仲間思いで、私達のことを助けてくれたじゃないですか! そりゃあたまには厳しいこともありましたけど、でもそれがむしろ私達を大事に思ってくれるってことですよね? ハジメさんは本当に凄いんです、大好きなんです!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶシア。そしてそれを聞いて色々と困惑するハジメ。
「えぇ……でも、流石に想いには答えられないよ? だって――」
「でもハジメさん、香織さんともユエちゃんとも付き合ってるじゃないですか! 今更二人も三人も変わりませんよ!」
「……いや、ダメ……なのは前からか。でもさぁ、シアはともかく、香織とユエはいいの?」
「うん。私がハジメくんの一番だからね」
「私は……ハジメの側にいられればそれでいい」
今までは、これはハーレムだ、こんな常識外れなことをしてもいいのかと、そう思っていた。だが流石にここまで言われると、吹っ切れるものだ。
「ああもう分かったよ!」
そういうわけで、ハジメは開き直ることにした。ハーレムは悪くないと。そしてシアは大喜びした。
ああああえあ様 ボス猿様
評価していただき、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。