「……そういえば、このハンマーの名前って何ですか?」
パーティ入りが決まったシアは、ハジメから貰った大槌を見て尋ねてくる。
「いや、特に決めてないよ。まぁ好きに決めちゃって。よほど変なのじゃなかったらなんでもいいから」
「ふーん……じゃあ『シルバーイ――」
「却下」
「えええええええ!?」
武器に名前を付けようとしたシアだったが、嫌な予感がしたハジメは即座に武器の名前を却下した。
「なんかダサそうだったし……」
「ダサそうってなんですかダサそうって!」
「そのままの意味だけど? まぁ代わりに僕が名前付けるわ」
そう言ったハジメは、数秒考えた後に『ドリュッケン』と口にした。
「ハイ決まり。この武器は『ドリュッケン』な」
「ちょっ、ちょっと香織さん、ユエちゃん! 私のとハジメさんの、どっちがセンスありそうですか!?」
「えぇ……ハジメくんじゃない?」
「ん」
「うそぉ……」
こういう経緯があり、シアの大槌の名前は『ドリュッケン』となった。ハジメもその言葉の意味はよく分かってない。なんせ数秒で思いついたものなのだから。
それはともかくとして。ハジメはついでに他の武器にも名前をつけることにした。今までは付ける必要性を感じなかったので名付けなかったが、せっかくの機会に付けてやろうと思ったのだ。
そしてこちらも、数秒で思いついた名前を付けた。よく使っている拳銃は『ドンナー』で、対物レールガンは『シュラーゲン』と名付けた。まぁ、武器を名前で呼ぶなんてことは無いだろうが。
「ま、いいや。そろそろ戻ってくる頃かな?」
こんなことをしていたが、ハジメはハウリア族の訓練を見ている。そして今までの傾向的に、そろそろ戻ってくるであろうと予測した。
その予測通り、ハウリア族はノルマの魔物の討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見れば、その内の一人はカムだ。
シアは久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせる。いや、時間的にはそこまで経っていないのだが、シアの方の訓練がとんでもなく濃密だったので、そう錯覚してしまったのだ。
早速、父親であるカムに話しかけようとするシア。報告したいことが山ほどあるのだ。しかし、シアは話しかける寸前で、発しようとした言葉を呑み込んだ。カム達が発する雰囲気が、なんとなく、ほんの少しだけ、以前と違うような気がしたからだ。
「ハジメ殿、ノルマの魔物を倒してきました」
「おお、やればできるじゃん」
言動はそれなりに普通だ。今までは魔物どころか、植物すら踏まないように心掛けていたハウリア族の皆が、シアの目にはなんとなく勇ましい感じに映った。
カム達は、この樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。それを見てハジメは尋ねる。
「……ん? なんか魔物の数、多くない?」
ハジメの課したノルマはそれなりに多いが、しかしその倍近くの素材を持ち帰ってきていたのだ。別にノルマ以上の魔物を倒すなとは言っていないが、これはどういうことかと尋ねた。
「ここへ戻る途中に襲ってきたので、全て倒しておきました!」
「ああなるほど。ならまぁいいや」
そんなやり取りを、当たり前のようにしている。確かシアが以前少しだけ聞いた話だと、魔物を倒すだけでも悲鳴を上げていたほどだとか。
「……なんか、スゴい勇ましくなってる」
シアは一言そう呟くと、それに反応したのか、カムが彼女の方を向く。表情は温厚そうだ。
「そうかな? いや、そうかもしれない。ハジメ殿の訓練で、私達はある気付きを得たからな」
「気付き?」
単に疑問だったので尋ねてみるシア。今までは温厚すぎて、戦うことすら拒絶するようなハウリア族の仲間がどうなったのか……。
「戦わなければ、生き残ることはできない。大切なものを守ることもできない」
「え? ……いや、本当に父様ですか? 今まで戦うことすら拒絶してた人とは思えないんですが……」
「ああ、一応本物だよ。皆が戦闘に向かなすぎる性格だったから『ノルマ達成しなきゃ殺す』って脅してやったら、まぁいい感じに戦えるようになった」
ハジメが平然と『殺す』と口にした点。シアはここに突っかかった。
「……もし、ノルマ達成しなかったら?」
「さっき言ったでしょ? 心を鬼にして殺すよ。もちろん全員ってわけじゃないけど。もし死んだら、その時は真面目に訓練しなかった奴等が悪いだけだ」
運が良かったのは、一度目の脅し――シアをペイント弾で撃った際に、恐怖を植え付けることに成功したことだろう。成功したからこそ、一切の不正を行うことなく、ちゃんと訓練を行うようになった。そして死人が出ることもなかった。
ちなみにだが、最初は小太刀による奇襲戦法を鍛えさせていたが、ここ最近では、兎人族の索敵能力を活かして、遠距離からの攻撃の訓練もしている。こちらは年寄りや子供を中心に教えている。
ある程度好戦的になった家族を見て、シアはわずかに微笑んだ。少しだけ以前とは変わったとはいえ……確かに強くなっているのが分かるからだ。強くなれば、家族が死ぬこともなくなる。家族を守るために戦う家族達が、なんかカッコよく見えていた。
そんな中、一人のハウリア族の少年がハジメの目の前にやって来た。その肩には大型のクロスボウが担がれており、腰には二本のナイフとスリングショットらしき武器が装着されている。
「ハジメさん! 重要な報告があります!」
「報告? 何があったんだい?」
重要と言われたら、聞かなければならないだろう。ハジメは耳を傾ける。
「武装した熊人族の集団を発見しました。場所は大樹へのルートに。多分僕たちに対する待ち伏せ……だと思います」
「はぁ〜……ああ、熊人族といえばあの……」
ハジメは思い出す。長老会議の時、襲いかかってきた熊人族の長老のことを。おそらくは、種族の性質的にかなり血気盛んのだろう。だからこそ、こういう行動を取ったわけで。
詳しく聞いてみると、その熊人族の長老がリーダーをしているらしく、数は二十程度のようだ。今までのハウリア族達であればまず太刀打ちできない相手だが……。
ハジメは集まってきたハウリア族達に尋ねる。
「それで、どうするの? ぶっちゃけこれに関しては、君達の判断に任せるけど……」
すると一族の長であるカムが、わずかに考えた後に口を開く。
「戦うぞ。ここで勝てば、私達は全員で生き残ることができる……!」
「まぁそうだね。ちょうど熊人族の長老もいるみたいだし、全員倒してから交渉すれば、いい感じの条件を突きつけることも可能かもしれない」
こういう対人戦闘というのは、何も殺すだけじゃない。交渉の手段にもなり得る。武力というのは、持っているだけで敵を牽制することができるのだ。
今回の場合は、敵を倒してからの交渉だ。倒すことさえできれば、どんな無茶な交渉であろうと、通すことができるだろう。なんせ事前に倒しているので、交渉相手の生殺与奪の権利を握っているも同然なのだから。
「……できるんだね? 基本的に僕は助けに入らないつもりだから、失敗したら、まぁ確実に死ぬよ?」
「もちろん……皆も、大丈夫だな?」
カムは後ろのハウリア族の家族にも尋ねるが、全員が静かに頷いていた。この訓練で、かなりの自信がついているように見える。そしてカムは、大きな声で皆に発破をかける。
「さぁ戦うぞ! 相手は熊人族の集団! 今までの私達なら逃げるしかできなかった相手だが、今は違う! ハジメ殿に鍛えられた私達なら、必ず倒すことができるはずだ! 敵を倒して、そして生き残るぞ!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」
号令に凄まじい気迫を以て返し、ハウリア族達。彼らは団結して、生き残るために戦うことを決意した。そんな様子を横から見ていたシアは、大きな声で言った。
「やっぱりなんかおかしいよ! だって今までの家族じゃないもん!」
「でもまぁ、いいんじゃない? 戦闘狂ってわけじゃあないんだし」
「うぅ〜〜……まぁ確かに、この様子だったら生き残れそうではあるけどぉ……」
めちゃくちゃに変化したというわけではないにしろ、変化はしている。それに戸惑うシアであった。
九龍ビルダー様
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