ライセン大峡谷の入口、ハジメ達はもうすぐ突入する、といったところだ。
ちなみにだが、ここに埋めた帝国兵はいない。脱出したか、あるいは魔物に食べられたか、それは分からないが、とりあえず血痕は無い。
「さてと、今から突入するわけだけど……少し、思ったことがある」
「思ったこと、ですか?」
シアの言葉に頷き、ハジメは詳しい説明を始める。
「今回の目的地はライセン大迷宮なわけだけど……そもそも大迷宮って、解放者の目的を考えると、考えれば見つけられる場所にあるはずだ」
「え? 解放者の目的は、えっと……」
「……攻略者に神代魔法を与え、世界の真実を知ってもらうこと」
「そう。加えて、あわよくば神殺しをしてほしいってのが、解放者が望んでることだと思う」
つまり、とハジメは続ける。
「解放者の目的を考えると、到達不可能な場所には作られていないはずなんだ。必ず、何らかの手段で到達できる場所にある」
「あっ。それと人工的に作られたのなら、分かりやすい道とか、あるいは……大迷宮に近づくと魔物がだんだん強くなっていくとか、そういうのもあるかも」
「そう。もう香織が言ってくれたけど……つまりそういうことだ。魔物が導いてくれるはずなんだ。特に知性の高めな魔物が多い場所に、大迷宮があると、僕は思ってる」
「じゃあそこへ向かって行きましょう!」
そういうわけで、大迷宮探しを始めた。
◆◇◆◇
それから数日。そもそも峡谷があまりにも広いため、捜索は難航していた。峡谷では魔法が使えないが……それはハジメとシアがいるので大きな問題にはならない。二人共非常に強く、そこいらの魔物では相手にすらならなかった。
ちなみにだが、野営に関してもそこまで問題にはならない。ハジメも香織もそれなりに料理はできるし、ハジメの作ったアーティファクトもあるので、野営にしてはそれなりに良い生活を送れていた。テントに調理機器、食材保管用の冷蔵庫や冷凍庫まで、全てハジメ作のアーティファクトである。
テントには生成魔法により創り出した“暖房石”と“冷房石”が取り付けられており、常に一定の温度を保つように自動で作動してくれる。他には魔石を電池にした冷蔵庫や冷凍庫、魔力を込めると熱を発生させるフライパンなど、様々な便利道具がある。
「う~ん……広いなぁ」
「それは仕方ない。ただ……少し、魔物が強くなってる気がする」
「あっ、ユエちゃんもそう思う? やっぱりここで魔法使ってると苦戦しちゃうから、なんとなく分かるよね」
「んっ」
どうやら、戦闘スタイル上不利な香織とユエは、魔物がだんだんと強くなっていることに気づいたらしい。
「ということは、やっぱり迷宮に近づいてるっぽいね。絶対にココってのが分からないのが、ちょっと辛いけど……こっからは峡谷がかなり広くなるっぽいし、細かい所も探していこう」
ここから、二つのグループに別れての探索を始める。片方はハジメと香織、もう片方はユエとシア。どちらのグループにも物理戦闘員を入れるようにした。
そうしてハジメと香織は探索を続けるが、どうやら二人の担当する場所には、それっぽい場所は無いらしい。隠されている可能性も考慮して、岩場の小道も調べてみたが、それっぽい場所は見当たらない。
「ここもダメかぁ……」
「こればかりは仕方ないよ。ハジメくん、ゆっくりでもいいからやってこう」
「ああ……それは分かってる」
十個目くらいの候補地を見つけ、そこがハズレた。しかしその時だった。
「あーっ!!」
峡谷に、シアの声が響いた。悲鳴というわけではない。どちらかというと、何かに驚いたかのような声だ。
「シアちゃん……!」
「大丈夫、場所は特定できる。早く行こう!」
ハジメは事前に、三人に特定石を渡してあるので、どこにいようが場所を特定することができる。ハジメと香織は、急いでユエやシアがいる場所へと向かう。
どうやら二人がいるのは、細めの岩場の奥らしく、そちらへハジメ達も進んでいくと、ユエとシアの姿が見えるようになった。
「あっ、ハジメさん香織さん! あれを……!」
シアが大声で指差す先にあったのは……
『おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪』
壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板だった。しかしそこに書かれた文字は、ポップ体のような丸っこい書体で書かれていた。
「これは……いや、ミレディといえば……」
「うん。解放者の一人の名前、だよね」
“ミレディ”という名は、オスカーの手記に出て来たライセンのファーストネームだ。ライセンの名は世間にも伝わっており有名ではあるが、ファーストネームの方は知られていない。故に、その名が記されているこの場所が、ライセンの大迷宮、あるいはその入口である可能性は非常に高かった。
「入口は無い……いや、どこかに隠してあるパターンだなこれは」
ハジメは地面に手を付ける。そして“錬成”と生成魔法を利用し、アーティファクトっぽいモノを探す。が、峡谷の特性上、どうしても探知範囲が狭いので、慎重に探す必要がある。
「……! ここだ。普通の壁っぽいけど、多分回転するね」
そして数分で、ハジメは入口らしき場所を見つけた。普通に見える壁を指差しているが、どうやら回転扉のようになるらしい。
「近づいて……行くよ」
ハジメの近くに三人が寄ると、ハジメは壁の所定の部分に手を当てる。するとグルンと壁が回り、その奥への入ることに成功した。
扉の向こう側は真っ暗だった。扉がグルリと回転し元の位置にピタリと止まる。と、その瞬間、
ヒュヒュヒュ!
無数の風切り音が響いたかと思うと暗闇の中をハジメ達目掛けて何かが飛来した。ハジメは技能その正体を直ぐさま暴く。それは矢だ。全く光を反射しない漆黒の矢が侵入者を排除せんと無数に飛んできているのだ。
ハジメはドンナーを右手に、左手はそのままに、飛来する漆黒の矢の尽くを叩き落とした。カンッカンッカンッと金属同士がぶつかるような音を響かせ、一本の矢も逃しはしない。
シアも同様に、ドリュッケンを振り回し、矢を薙ぎ払っていく。その恐ろしいフィジカルから放たれる高速の攻撃は、一切の矢を通すことはなかった。
本数にすれば二十本。一本の金属から削り出したような艶のない黒い矢が地面に散らばり、最後の矢が地面に叩き落とされる音を最後に再び静寂が戻った。
と、同時に周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。ハジメ達のいる場所は、十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。
『ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ……それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ』
「「……」」
特にユエやシアの内心はかつてないほど一致している。すなわち「うぜぇ~」と。わざわざ、“ニヤニヤ”と“ぶふっ”の部分だけ彫りが深く強調されているのが余計腹立たしい。特に、パーティーで踏み込んで誰か死んでいたら、間違いなく生き残りは怒髪天を衝くだろう。
「二人ともそんな顔しないで! これは私達を動揺させるためのワナよ!」
「わかってる……わかってる、けど……」
「ムカつく……ほんっとうに!」
「……まぁ、気持ちは分かるよ、うん。とりあえず進むぞ」
そうして、嫌な予感を感じつつも、ハジメ達はライセン大迷宮を進むのであった。
さて様 七海55様
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