ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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約束

 そこからハジメの学校生活は、大きく変わった。

 

 まずハジメは、授業中に居眠りすることがほとんどなくなった。内申点を減らさないため……というのもあるが、最も大きな理由は、勉強するためだ。

 ハジメの目標は高い。いくら学内で成績が良いからといって、県内最難関と言ってもいい私立高校が難しいのは変わりない。授業中に寝ているようでは受からないと、そう判断したのだ。

 

 もちろん、家での生活も変化した。まず、親の仕事の手伝いをほとんどしなくなった。これに関しては、元々親が『やりたいことをやれ』といった考えの元にやらせていたものだったので、特に文句は出なかった。

 ではその時間が何に使われたのかと言えば、やはりそれは勉強だ。徹夜はせずに早めに眠り、代わりに毎朝四時には起きて、朝早くから勉強するようになった。

 そしてちょっとした空き時間にもひたすらに勉強、勉強、勉強。元から成績はそこそこ良く、勉強そのものに苦手意識は無かったので、ひたすらに続けることができた。

 

 そんな努力の甲斐もあって、中学二年生の学年末テストでは、総合で学年六位の成績を取った。しかも主要五科目、英数国理社だけの点数だけであれば、学年一位である。

 それ以降の中学三年生のテストでも常に最上位レベルの成績だった。一位は難しくても、常に一桁台の順位を維持し続けた。

 

 そんな間も、香織との勉強会はちょくちょく続けていた。受験生ということで、遊ぶことはほとんどできなかったが、それでもハジメの香織への愛情は小さくなることはなかった。

 

 そして、ついに運命の日がやって来た。

 

 合格発表だ。

 

 公立などでは直接見に行くこともできるのだろうが、私立だからか、合否はネットで見れるようになっている。

 ハジメはゆっくりと、合格発表のページをクリックし、そこに表示された受験番号を確認していった。そして二分ほど経った後のことだった。

 

「っしゃぁぁぁぁあ!!」

 

 両手を上にあげて、渾身のガッツポーズ。その叫びと態度は、ハジメの合格の喜びを示していた。が、それだけではない。ハジメの三つ斜め上には、香織の受験番号も載っていたのだ。

 

 ハジメは慌ててスマホを取り出して、香織に電話をかける。が、珍しく繋がらない。

 

 三十秒ほど経ってようやく、香織は電話に出てくれた。

 

「もしもし、受験結果見た!?」

『うん! ハジメくん、一緒に受かったよ!』

 

 電話越しから聞こえてきた香織の声は、歓喜に震えていた。彼女も合格発表を見て、そして一緒に受かったことを確認したらしい。

 

『明日! 家に行ってもいい!?』

「え? ああ別に大丈夫だよ」

『わかった、それじゃあね!』

 

 そうして一方的に電話は切れた。口調や態度からして分かっていたことではあったが、香織がかなり興奮していることが本当によく分かる。

 

 その日、ハジメは興奮してしまい、中々寝ることができなかった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 しかしクセがついているからか、早起きはできた。流石に睡眠時間三時間程度で朝四時に起きると、眠くはあるようだが。

 

 そして今日、香織がやって来る。電話ではいつやって来るのかを知らせてこなかったが、とにかく今日のどこかでやって来るはずなので、ハジメは待ち続けた。その間は、何故か眠くなることはなかった。

 

 ピンポーン。

 

 そして鳴るインターフォン。ハジメが急いで玄関に向かってドアを開けると、そこには香織が立っていた。

 

「おはようハジメく――」

 

 香織の顔を見た瞬間、ハジメは思わず抱きしめた。

 

「はっ、ハジメくん!?」

 

 突然の行為に、どちらかというと振り回す側の香織も驚いてしまう。しかしハジメは止めず、そのまま囁いた。

 

「香織……好き、大好き」

「……!」

 

 そう言うと、ひとまずハジメは香織を解放する。そして一年前の約束を、今果たす。

 

「付き合ってください、お願いします」

 

 香織の目をしっかりと見て、ハジメは言った。言われた香織の方は少しだけ驚いていたが、すぐに平静を取り戻し、まるで女神様かのような優しい笑みを浮かべ、答えた。

 

「はい!」

 

 そして今度は香織が、ハジメを抱きしめた。それを受けてハジメも、同じようにする。

 

 今ここが玄関先であることなど、二人の頭には無かった。ただ二人は、歓喜にうち震え、感情の赴くままに互いを求めあった。

 

 

「……それじゃあ。家、上がる?」

「うん。せっかく来たんだし……」

 

 しばらくして、ようやく香織を家に上げたハジメ。だが香織の方には、特に何かをする目的などない。強いて言えば、ハジメと会って告白するくらいだが、それはさっき終わった。なので本当にやることはない。

 

 それは、ハジメも同じようで。一応ゲームとかそういうのはできる。しかし、なんとなくやる気にはならなかった。

 

「う~ん、何しよう……」

 

 だが、香織が来たからには何かしなければならない。ハジメはそう考えていた。しかしそれを、香織は否定した。

 

「別に何もしなくていいよ」

 

 そう言って、香織はソファに座るハジメに近寄り、体を寄せてきた。

 

「うん、これだけでいいよ。今日くらいは、何もしないでずっと一緒にいよう」

「……うん」

 

 そうしてハジメも、片方の手を香織の肩に回し、もう片方の手で香織の手をやさしく握った。だが、それだけしかやらない。ここから何か喋ることもほとんどない。することといえば、たまに互いに見つめ合うくらい。

 

 何かするわけではなく、静かにただ二人でいて、互いに愛を分かち合い、育む。二人にとってはそれが何よりの幸せだった。

 

 ハジメはこの幸福の中で誓った。こんなに素敵な香織、その恋人としてふさわしい立派な男になると。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 そして四月、高校の入学式の日がやって来た。

 

 ハジメの家からは高校までは、歩いて十五分とちょっとくらい。比較的近い場所にある。そこそこゆっくりめに家を出ても、遅れることは無い。

 

(ついに来た……!)

 

 学校に到着すると、そこには多くの新入生と、その家族がいた。ちなみにハジメの両親は、仕事等の事情もあるので、一応学校には来るらしいが、入学式には間に合わないようだ。

 

 校舎に入ってみると、そのすぐ先の所にクラス表が張り出されていた。クラスは十四もあるが、ハジメはその中のN組のようだ。

 そして、ついでに香織のクラスも探してみると……案外すぐに見つかった。なんせ、奇跡的に同じクラスだったのだから。

 

「っし!」

 

 ハジメは小声で、かつ小さくガッツポーズをした。

 

 そうしてクラスを確認した後に、教室へ向かう。廊下も、やはり人がそこそこ多いが、人の間を縫って進み、自分のクラスの教室へとたどり着いた。

 

 入ってみると、既に結構な人数がやって来ていた。おそらくは、クラスの半分くらいはいるのではないだろうか。既に騒がしかった。

 特に見た感じだと、高身長で爽やかイケメンの男子生徒と、ポニーテールの凛とした雰囲気の女子生徒。この二人の周りに、特に人が集まっているようにハジメは感じた。その中でも、ポニーテールの女子に関しては、どこかで見たことがある気がした。

 

 しかし、肝心の香織が見当たらない。偶然教室から出ているのか、それともまだ来ていないのか。探しながらも、とりあえず自分の席に座ると、ふと自分もついに高校生なんだなぁと、そんななんとも言えない不思議な感覚を覚えた。

 

 すると突然、ここ一年ですっかり聞き慣れた声が、耳に入ってきた。

 

「ハジメくん、おはよう!」

「あっ、香織……おはよう」

 

 いつの間にか、香織が目の前にいた。それに一瞬驚きながらも、ハジメは挨拶を返す。すると香織の方も、笑顔で微笑んでくるのだ。

 その表情を見れただけでも、ハジメは『この学校に来れてよかったぁ』と、強く思うのだった。

 

 そしてその想いは、香織も同じようだ。

 

「本当に良かった……ハジメくんと一緒に入学できて嬉しいよ。しかも同じクラスだしね」

「うんうん。ほんっと、奇跡みたいだよ」

 

 二人でそんな雑談をしていると、一人の生徒――ポニーテールの女子が近づいてくる。香織がそれにいち早く気づくと「あっ」と声を上げた。

 

「おはよう。もしかして君は……例の南雲君?」

「雫ちゃん、改めて紹介するね。彼氏のハジメくん」

「あ、はじめまして。えっと……」

八重樫雫(やえがししずく)よ」

 

 近づいてきた女子の名は、八重樫雫というらしい。そしてその名前は、この辺りの地域に住む人であれば知らない人はいない。もちろんハジメも、名前だけなら聞いたことがあった。

 彼女の実家は、八重樫流という剣術道場を営んでいる。その上、雫も小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。そのため天才美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、ハジメ達の住む地域では、ちょっとした有名人である。

 

「八重樫って……ええっ!? ちょっと待ってもしかして剣道の……?」

「まぁ、うん。剣道はやってるわね。香織とは小学生の頃から一緒の親友なんだ」

 

 そんな言葉を聞いて思い出したのは、一年くらい前に香織が見せてくれたプリクラ。思い返してみれば、香織と一緒に映っていた女の子は、なんとなくこの雫に似ているような気がした。

 

「それにしても、香織から話はたまに聞いてたけど……真面目で優しそうね?」

「いやいや、そこまでじゃありませんよ……というか香織、()()のこと言ってないよね?」

「流石に言わないよ。私はカッコイイと思ってるけど、ハジメくん嫌がるだろうし」

「なら大丈夫だけど……」

 

 そんなハジメと香織の恋人同士のやり取りに、雫は思わず笑みをこぼす。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 チャイムが鳴って先生がやって来ると、教室はすぐに静かになり、全員が各々の席についていった。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 そして入学式が終わり、新入生は家族と校門前で写真を撮ったりしていた。もちろんハジメも、遅れて学校に着いた家族と写真を撮っていたのだが……それを遠目から見る人物が一人。

 

「南雲ハジメ……香織が外の人と付き合ってるって噂は聞いてたけど、まさか同じ学校の同じクラスに来るなんてねぇ……」

 

 その人物は、わずかに口角を上げてニタニタと不気味な笑みを浮かべる。

 

「もしかしたら、これで僕の計画も上手くいくかも……そうすれば……!」

 

 今後のことを考えて、その人物はフフフと笑う。家族はやって来ていないからなのか、そのまま学校を出ていった。




明日からは、毎朝7時に投稿を行うつもりです。よろしくおねがいします。

オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?

  • 白崎香織
  • ユエ
  • どっちも
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