ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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 というわけで、ライセン大迷宮攻略開始ですが……なんかハジメが無双しちゃいました。シアが無双するのは戦闘中だから……許して。


ライセン大迷宮

 ライセンの大迷宮は想像以上に厄介な場所だった。

 

 まず、魔法がまともに使えない。峡谷の中でも特に魔力の分解作用が強く働く場所なのだろうか、通常の魔法はほとんど使えなかった。あのユエでさえ、上手く発動するのは難しい。一応装備はあるが、その減りもとんでもなく速い。なので魔法は滅多なことでは発動できない。

 

 ハジメにとっても多大な影響が出ている。とりあえず“空力”や“風爪”といった、体の外部に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て威力や射程が低下している。戦闘にはまず使えない。さらには“纏雷”もその出力も大幅に低下しており、それ故にドンナーはその威力が半分以下に落ちているし、シュラーゲンも通常のドンナーの最大威力レベルしかない。つまりは弱体化している。

 一応、辛うじて“錬成”は普段通り行えている。魔力を多く消費するが、練度は下がらないので、普段通りに機能はしている。

 

 そして唯ほぼ一弱体化していないのが、シアだった。シアの場合、固有魔法が未来視であり、また戦闘スタイルも、身体能力を上げて物理で戦うタイプなので、この場においては、最も頼もしい存在だった。

 

 で、そのハジメ達の頼もしきシアはというと……大槌ドリュッケンを担ぎ、据わった目で獲物を探すように周囲を見渡していた。明らかにキレている。

 

「あぁ〜……ムッカつくぅ……」

 

 普段は明るいシアだが、明らかに口調が違うし、口数も少ない。しかもその少ない口数も、大体がミレディに対する罵倒のようなもの。

 ハジメと香織がフォローをしているため、辛うじて正気を保てている、といった感じであり、いつ爆発してもおかしくはなかった。

 

「とりあえず、警戒はしとけよ〜」

 

 ハジメはゆるく、皆にそう呼びかけてから進み始めた。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 ここからは、ハジメが先導して進む。気配感知を利用しながら進むが……魔物の気配は一切しない。なので途中からトラップに警戒していく。

 ハジメは錬成師だ。その能力の都合上、トラップの探知等は得意だ。それに加えて、魔物を食べたことにより得た技能のおかげで、探知能力はさらに上がっている。

 

「……何も無いっぽい」

「じゃあ早く進みましょう! 私はヤツを――」

 

 そう言ってシアがハジメの前に出た時だった。

 

ガコンッ

 

 音を響かせて、シアの足が床のブロックの一つを踏み抜いた。そのブロックだけ、シアの体重により沈んでいる。ハジメ達が思わず「えっ?」と一斉にその足元を見た。その瞬間、

 

シャァアアア!!

 

 そんな刃が滑るような音を響かせながら、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する円形でノコギリ状の巨大な刃が飛び出してきた。右の壁からは首の高さで、左の壁からは腰の高さで前方から薙ぐように迫ってくる。

 

「かわせ!」

 

 ハジメは咄嗟にそう叫びつつ、前方のシアを無理矢理押し倒しながら地面に伏して回避した。香織もハジメと似たように伏して回避。元々の背が低めのユエは、しゃがむだけで回避できた。

 

「これは……絡繰仕掛けみたいな感じか?」

 

 このライセン大迷宮でも当然、魔力は分解される。しかしそれは挑戦者側だけでなく、迷宮側も同じ。故に魔法によるトラップは見つけられず、物理的なトラップが中心になっているのだろう。

 

「一歩動くだけでも、別のトラップに引っかかりそうだね……」

「いや香織……あんまり気にしなくてもいいかも」

「へ? ハジメさん、トラップ見分けられるんですか?」

「物理的なトラップと分かった以上、技能で壁の向こう側を見ればいい。トラップがあるなら、特殊な構造があるはずだ」

 

 トラップ探知によく使われるフェアスコープで判別できない理由は、フェアスコープは、魔力で起動するトラップを見つける物だからだ。だから絡繰のような仕掛けで動くトラップは探知できない。

 しかしある程度の技量を備えている錬成師であれば、例えば“鉱物系探査”やら“鉱物系鑑定”といった技能で、奥に隠れた機構を見つけられる。

 

 それに、ハジメは思い出したことがあった。

 

「それと、今思い出したんだよね……神水を何十リットルも持ってることを」

「……あっ!」

「ということは……」

「ユエ、香織。魔法使い放題だぞ」

 

 ハジメはそう言いながら“宝物庫”から神水の入った水筒を取り出して二人に渡した。ついでにシアにも、二人のよりも小さめの水筒を渡した。

 

「さ~てと、ゆっくり行きましょうか!」

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 ここから先は、あまりにも余裕だった。

 

 階段を歩いていれば急に段差が消えて坂になり、滑る液体があふれ出すトラップがあったが、ここは即座に“錬成”で足場を作ることで、上手く移動することに成功。坂の下の方へ行くと、麻痺毒を持ったサソリが蠢く穴があったので、放り出されていたらヤバかっただろう。

 次に坂道を登ると、新たな通路に出た。そこにはこういう場所ではお約束のような、巨大な鉄球が転がってくるトラップがあった。とはいえこれも、ハジメが“錬成”で対処した。壁や地面や天井を変形させてしまえばいいだけの話だった。そうして緩やかな坂を下ってみると、そこには大穴があり、溶解液で満たされていたが、ここは一人ずつジャンプして飛び越えた。

 

 本来なら、これらのトラップに苦戦というか、ストレスを貯めていくことだろうが、ハジメにはあまり関係が無かった。神水を大量に持っているため、魔力消費を気にすることなくトラップ探知し、壁や天井を“錬成”して対処することができたのだ。

 

「うぅ〜〜……つまらないですぅ」

「我慢しろ。というかシアは僕の前に出るな」

「でもぉ、活躍できてないし……自慢のトラップぶっ壊せてないし……」

 

 ただ、シアに関しては違う。身体をあまり動かせないためなのか、不機嫌になってるようだ。元からこの迷宮の主にムカついている上に、自分があまり活躍できていなかったからだろう。

 

「じゃあ、どこかから見てるミレディとやらに向けて煽ってみたら?」

「それです!」

 

 そんなシアのストレスを解消させるために、ハジメが適当なことを言っていると、後ろからクイクイと、袖が引っ張られた。

 

「それより……なんか広い所に出そう」

 

 ユエに言われて目の前を見ると、そこは長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。壁の両サイドには無数の窪みがあり、騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほどの像が並び立っている。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。

 

「これは……入る前に調べるか。シア、前に出るなよ?」

「分かってますよぅ!」

 

 ハジメはゆっくり慎重に、部屋の内部に入らずに覗いて、床に、天井に、甲冑を対象に“鉱物系鑑定”の技能を使用する。

 

「ん?」

 

 すると、面白いモノが見つかった。

 

 

 

================================== 

感応石

 

魔力を定着させる性質を持つ鉱石。同質の魔力が定着した二つ以上の感応石は、一方の鉱石に触れていることで、もう一方の鉱石及び定着魔力を遠隔操作することができる。

==================================

 

 

 

 壁や天井、そして甲冑までもが、この鉱石で構成されていた。要するに、鉱石に魔力を流すことで、遠隔操作を行うことができるようだ。

 

「これはこれは……なるほどねぇ」

「えっ、あの、ハジメさん? 凄い嫌な笑顔してますけど、一体何を……?」

 

 ハジメは口角をつり上げて、ニヤリと笑っていた。

 

「シア、もうすぐ迷宮のボスと会えるぞ」

「えっ!? そうなんですか!?」

「絶対会える、断言するよ。あと、部屋に入ったら戦闘があるから、その時は頼むよ。僕はちょっと、やらないといけないことがあるから」

 

 そう言って、ハジメは部屋の中に入り、残りの三人もそれに続く。そして先頭のハジメは、ドンと大きく踏み込み、トラップを起動させた。

 

ガコン!

 

 すると、皆予想していたのだろう。騎士達の兜の隙間から見えている眼の部分がギンッと光り輝いた。そして、ガシャガシャと金属の擦れ合う音を立てながら窪みから騎士達が抜け出てきた。その数、総勢五十体。

 

「じゃあ、頼りにしてるよ。僕もやることが終わったら、戦いに参加するから」

 

 そう言うと、ハジメは地面に手を付けた。何かを探るかのように。

 

「じゃあシアちゃん!」

「もっちろん! 全員ぶっ壊す!」

 

 三人は臨戦体勢を取る。この戦闘の中心となるのは、物理主体のシアだろう。香織はシアに発破をかけ、シアはゴーレム騎士達に向けて威嚇するように叫ぶ。それを聞いたのか、ゴーレム騎士達は一斉に侵入者達を切り裂かんと襲いかかった。




Mirai&1様  刻流 皆凪様  ゆはる様

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