やってやろうじゃねぇかこの野郎!
オラッ、光輝を勇者(笑)から勇者(真)にしてやらァ!
高校生活が始まり、大体二週間が経ったが、なんだかんだでハジメは平穏な高校生活を送っていた。
まずこの一週間で、香織が上級生の一部から“二大女神”の一人と呼ばれるようになった。実際それほどに可愛らしく、優しいのは事実だ。
そんな香織と付き合っているハジメに、男子生徒からの嫉妬の視線が向くことがある。それもそうだろう、ハジメは比較的平凡な男だから。
が、それ以上に女子生徒の生暖かい視線が多かったりする。中学生の時のように授業中に居眠りすることは無いので、不快に思う人もおらず、こうなっているのだろう。その結果として、なんだかんだで嫌な気分にはならずに済んでいた。
それに何より、香織と付き合っているという情報のおかげ……いや、情報のせいと言うべきだろうか。ハジメの周りは賑やかだった。
「ねぇねぇハジメン、土日はカオリンとお楽しみだった? ナニかしちゃったり……?」
「……」
その賑やかさの原因その一である、小柄なおさげの少女、
「ちょ、ちょっと鈴? ……えっと、ごめんね南雲君?」
「いや中村さん、僕は大丈夫……」
そんな鈴のフォローを、友人の
そこに追加で、一人の男子の声がする。
「南雲、お前も別に遠慮しなくてもいいんじゃないか? 嫌がってるのは目に見えて分かるし」
「「え?」」
その声に反応し、鈴と恵里は声のした方を向くとそこには、一人の男子生徒がいた。
「あ、えっと……えっと……」
「あれ? 別クラスの人がなんでここに?」
「同じクラスだよ! 遠藤浩介! なんでみんな名前を覚えてくれないのさぁぁぁあ……」
鈴の直球の言葉のせいで、ハジメの机に突っ伏す
浩介は、異常なほどに影が薄いのだ。ハジメが聞いた話によると、自動ドアが三回に一回しか反応しなかったり、中学の時に、先生に存在を忘れられて欠席扱いになったりしたそうだ。
その影の薄さは、常軌を逸している。二週間程度だと、名前すら覚えてくれない。もはや超常現象かと思ってしまうほどの影の薄さを持つのが、この遠藤浩介という男なのだ。
「まぁまぁ、落ち着いてよ」
「南雲ぉぉぉぉ!! お前だけだよ俺に気づいてくれたのはよぉ!!」
ハジメが浩介と仲良くなったのは、高校生になって一週間ほど経った頃だった。
ふと見てみると、机に突っ伏して落ち込んでいる生徒がいたので、ハジメは少し話しかけたのだ。それが遠藤浩介であり、その時は、影の薄さに絶望しまくっていたそうだ。
そこで少し話してみると、ハジメのオタク趣味がいい具合に乗ってきた結果、仲良くなったのだ。今ではこうして仲良く話すことも多くなった。が、やはり影の薄さは変わらなかったので、ハジメ以外には存在を忘れ去られることも多い。
「……まぁ、あれだよ。同じクラスメイトなんだし、名前と顔は覚えといた方がいいんじゃない?」
「うん。ごめんね遠藤君」
「これからはもう忘れないよ」
「うん……それならいいんだ」
鈴と恵里に謝られつつも、浩介は内心では『また存在を忘れられるんだろうなぁ。特に谷口の方には』と思わずにはいられなかった。
◆◇◆◇
そうして午前中の授業は終わり、昼の食事の時間となる。
中学生の時のように、授業中はほとんど寝ているといったことはないので、ハジメにとっては長い時間に感じた。しかしだからといって寝てしまうのは違う。そんなの自分では、香織に釣り合わないと思ったからこそ、起きていられた。
「ハジメくん、一緒に食べよ」
弁当を持った香織が、ハジメの所にやって来る。もちろんハジメに断る気などなく、一緒に昼食を食べることとなる。
「今日のはどんな感じ? 上手くできた?」
「味見した感じはまぁ良かったよ」
ちなみに、ハジメの弁当はハジメの手作りである。最初は作るつもりなど無かったのだが、作らないなら作らないで、香織がハジメの分の弁当まで作って持ってきてしまう。それは気が引けるというわけで、弁当を持っていくことになったわけだ。
とはいえ両親は忙しく、朝食を作る暇すら無い。だから自分で作らないといけないわけだが……最初の方は本当に酷かった。見た目はまともなのだが、味が薄すぎたり、逆に濃すぎてまともに食べられなかったりと、要するに下手くそだったのだ。
「そうなんだ。じゃあ一口食べていい?」
「あ、いいよ」
味見は良かったという言葉を聞き、香織はハジメの弁当のものを少しだけ口に運ぶ。何度か口を動かし咀嚼して飲み込むと、香織は頷く。
「……最初のよりもすごく美味しい!」
「それはよかった」
「あっ、少し食べちゃったから、私のも少しあげるね」
そうして、二人は少しずつ弁当のおかずを交換して食べていった。ようやく香織に食べさせてあげれるくらいに上達したと思うと、思わず笑みがこぼれてしまうハジメであった。
「ごちそうさま」
そうして十五分ほどで、ハジメは全て食べ終わった。香織の方は、まだ少し弁当が残っているようだ。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
「あ、うん」
ご飯を食べ終わり、トイレに行くために教室を出るハジメ。ササッと用を済まして教室に戻ろうとしたのだが、そこに声がかかる。
「南雲」
ハジメの正面。そこにいたのは、彼の記憶だと
まだ話したことは無いが、高校生になってからの短い期間で、クラスの中心になりつつある男子だ。顔立ちは整っており、体は引き締まっている爽やかなイケメン。そんな彼の周りには、人が集まるのだ。
「えっと、天之河君だっけ? なに?」
「……南雲、お前は香織と付き合ってるのか?」
「まぁ、うん。付き合ってるね」
突然、香織と付き合っているか否かを尋ねてきた。何故尋ねてきたのかは分からなかったが、とりあえず答えはした。
「……香織が嫌がっている。別れろ」
「はい?」
そして、光輝はとんでもないことを口にした。思わずハジメは固まってしまうが、すぐに自らの意思を言葉にする。
「……それは本当に言ってるの? 本当に、香織が嫌がってるのか?」
「当たり前だ。香織は優しいから、顔や口にはほとんど出さないけど……確実に嫌がってる」
「……それって実際に香織が言ってたわけじゃないよね? どこから仕入れてきた情報?」
香織が嫌がっていると、光輝は言うが。その根拠はどこにもない。現状では、光輝がそう言ってるだけ。だから、何を根拠として嫌いだと判断したのか、ハジメは尋ねた。
「噂で聞いたんだ。本当は、香織は嫌がってるって。だから香織は嫌がっている、別れろ」
すると光輝は、噂で聞いたと言った。噂ということは、真偽が不明な情報だ。なんせ『いつ』『どこで』『誰が』最初に言ったのか、全て分からかないのだから。それに噂とはたいてい、尾ひれがついて意味が分からなくなるのがオチだ。そんな情報を、ハジメは信用しない。
「……それ、噂でしょ? 嘘が本当が分からない、デマかもしれない。そんな噂のせいで別れるなんて嫌だよ」
だから、光輝の話もまともに聞き入れなかった。噂を信じる光輝に従う必要などないし、そもそも従いたくなかったから。
「まっ、待て!」
「……客観的に香織が嫌がってると分かるような物的な根拠を持ってきたら、その時は別れるよ。でも、今は別れない」
しかし、放置しておくのも面倒である。なのでハジメは条件を言い、教室の方へと歩いていった。
◆◇◆◇
このように、学校生活は色々あるが、ハジメはそこそこ楽しんでいた。友達もできたし、賑やかだし。そして何より、香織と一緒にいることができる。
が、香織といるために、今日もハジメは家で勉強している。別に成績が良くないと別れることになるとか、そういうわけではないが、これは香織に見合うだけの男でいたいという、ハジメなりのプライド故の行動だ。
プルルルル……プルルルル……
と、勉強していると、机の端に置いてあったスマホが鳴った。画面を見てみると“白崎香織”と表示されていた。
「もしもし」
すぐに電話に出るハジメ。しかし、そこから聞こえた声は、香織のそれではなかった。
『南雲ハジメ、だな?』
「え? ……誰、ですか?」
突然のことで驚きたが、すぐに深呼吸をして、画面越しにいる人に冷静に尋ねる。
『
「あっ……香織さんの……どうもはじめまして……南雲ハジメです……」
父親と聞き、ハジメはわずかに安堵し、同時に身構えた。下手なことを言えば別れろと言われそうな、そんな雰囲気だったから。何を言われるのかと、ハジメは心臓をバクバクさせていた。
『今週の日曜日の十時に家に来い。お前と話がしたい』
「えっ日曜日に……分かりました」
そう言うと同時に、電話はプツリと切れた。
オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?
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白崎香織
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ユエ
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どっちも