ありふれた錬成師は治癒師と共に   作:木崎楓

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今回はひどいことになります。覚悟してください。

というか光輝の言動が合ってるのか気になる。流石に今回書いたのは、今までの中でトップクラスにイカれまくっているので……。


騒動

 それから数週間。ハジメはいつも通りの生活を送っていた。ただ、香織の父親である智一に認めてもらうため、愚直に勉強をし続けていた。中間テストで、総合学年一位を取るために。

 

 もちろんゴールデンウィーク中は、香織と遊ぶことが何度かあった。だが香織によると、ハジメと遊びに行くことを伝えても、智一は「好きにしろ」と言うだけで、特に怒ったりはしなかったらしい。

 

 だから、なんだかんだで普通の生活を送っている。

 

「あっ、ハジメくんおはよう!」

「うん、おはよう香織」

 

 こうしていつもの場所で待ち合わせして、出会うとすぐに手を繋ぎ、共に学校へ向かう。とりとめのない会話に柔らかな相槌、そうして平和に、二人は学校へ向かっていた。

 

 そうして学校へ到着し、自分達の教室へ行き、ドアを開けた。

 

「おい南雲!」

 

 その瞬間、ハジメは壁にたたきつけられた。

 

 あまりに突然のことだったので、ハジメも香織も、これには一切の反応ができなかった。特にハジメは、肉体に物理的にやってきた衝撃もあってか、特に混乱していた。

 

「光輝くん!?」

 

 そう、ハジメを壁にたたきつけ、その胸ぐらを掴んでいるのは天之河光輝だった。

 

「なんでっ、こんなことを……」

「なんで、だと……?」

 

 一瞬の混乱から回復したハジメは、すぐに目の前の光輝に尋ねる。しかし光輝はその言葉を聞いた途端に、さらに激情し、力を強くした。

 

「ふざけるなッ! お前が嫌がる香織を脅して、無理矢理付き合わせているんだろッ! 俺はそのことを知っている!!」

「は……」

 

 意味が分からなかった。光輝は、ハジメが香織を脅して付き合ってるとそう言っているのだ。ハジメ本人からしてみれば、全く身に覚えの無い冤罪を被せられているようなものだ。

 流石にこれには、普段は温厚なハジメも声を大にして反論する。

 

「そんなことはしてない! そんなに言うのなら、僕が脅してる所を見たっていうのか!」

「……そう言えば、引き下がると思ってるのか! 隠れてやってるんだろう本当は!」

 

 朝っぱらから始まる言い争い。そこにはほとんど誰も寄せ付けず、いつの間にか、多くのクラスメイトが教室外に出ていた。

 

 しかしそんな中、止める生徒が一人。

 

「光輝、変な言いがかりは止めなさい!」

 

 そう言って、一時的に光輝をハジメから引き剥がし、その間に割って入った女子生徒が一人。八重樫雫だ。それに彼女に加え、すぐ側にいた香織も声を上げる。

 

「そうだよ! そもそも光輝くん……私はハジメくんに脅されてなんかないよ!」

「……香織も雫も、本当に優しいんだな。こんなどうしようもないヤツに情けをかけて庇うなんて」

 

 しかしその声は、必死の訴えは、光輝に届かない。光輝は二人の言葉を優しさだと言い、まともに聞くことはなかった。しかしそれでも、ハジメは対話の試みを続けようとした。

 

「……天之河君。少し、話をしようか」

 

 香織と雫が入ってきたおかげで落ち着いたハジメは、光輝に呼びかける。

 

「二人は、ちょっとどいててほしい……今は、面と向かって話したい」

「…………分かったわ」

「うん……」

 

 ハジメの要請で、香織と雫は退き、光輝と再び対面する。

 

「……もう一度言うけど、僕は香織を脅してなんていない。けどそれを天之河君が嘘だというのなら……どうやって、嘘じゃないと証明すればいい?」

「証明なんて必要は無い。俺は、お前が脅しているという証拠を持っている」

「じゃあ、それを見せてよ」

 

 そうハジメが言うと、光輝はその証拠とやらについてを語った。

 

「実はだ。うちのクラスメイト……誰がとは言わないけど、そいつが教えてくれたんだよ。お前が、嫌がる香織に無理矢理迫っている姿を!」

 

 とは言ったが。結局の所、噂だ。クラスメイトが言った、クラスメイトが見た。ただそれだけでは、証拠にはなり得ない。前回も似たような感じだったことを思い出し、ハジメは大きなため息を吐いた。

 

 それと同時に、怒りが込み上げてくる。わけのわからない言いがかりをつけ、無理矢理別れさせる。ハジメには、光輝のやってることが、そうとしか思えなかった。

 

「……天之河君。悪口みたいなことは言いたくないけど、流石に今回ばかりは言わせてもらうよ」

 

 普段にも増して強い口調で、ハジメは続ける。

 

「天之河君のやってることは、ただの言いがかりだ。人伝いに聞いた不確実なことの中で、自分にとって都合の良い情報だけを切り取って証拠にしているだけ。正直、難癖つけて僕と香織を無理矢理別れさせたいだけのように感じるんだけど?」

「そんなことは……!」

「そんなことは? 自己弁護のためにまた都合の良い噂話だけを並べ立てるのか? あるいは捏造した噂でも作り出すのか?」

 

 そしてハジメは、偶然なのだろうが……言ってはならないことを、言ってしまう。

 

「……もしお前が弁護士だとしたら、正真正銘の無能――三流以下だ」

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 突如として光輝はハジメに掴みかかり、壁にたたきつけて顔面を殴った。

 

「ふざけるな! お前のようなヤツに弁護士の何が分かるってんだ!」

 

 ――弁護士、無能、三流以下。

 

 光輝はハジメを怒らせただけだった。しかし怒って感情的になったハジメは、光輝の逆鱗を、無意識に蹴飛ばしてしまった。

 

 光輝は憤怒し、その感情のままにハジメを殴り倒す。

 

「光輝! ちょっと――」

「うるさい! 黙れ!」

「わっ!?」

 

 光輝を止めようとする雫だったが、逆に突き飛ばされて倒れた。今の光輝は、周囲の香織や雫の静止にすら憤怒するほどの怒りに包まれている。

 何度も何度も、血眼になって遠慮せずに殴る。ハジメの顔は真っ赤になり、鼻からは血が垂れる。光輝の手にはわずかに血が付くが、それすら気にしない。

 

 もはや、怒りに身を委ねた光輝は止められない。そんな時だった。

 

「うぉぉぉぉぉぉおお!!」

 

 そんな雄叫びと同時に、光輝が地面にたたきつけられた。その上には光輝の親友である坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)が乗っかり、拘束している。

 

「おい光輝お前なにしてやがるんだ!」

「クッ……離せ龍太郎! 俺は、アイツを――」

「んなこと知るか! こんなになるまで殴ってたら止めるに決まってんだろ!」

 

 暴れる光輝の隣で、ハジメは倒れていた。その顔は、血や涙で汚れきっていた。一応気絶とか、そういうのはしていないようだ。

 

「ハジメくん!」

「ん、ぅう……」

 

 香織が体を揺すると、ハジメはすぐに体を起こし、香織に礼を言おうとした。

 

「んぁ……ありかどぅ、えっと…………?」

 

 しかし、なんだか呂律が回っておらず、フラフラしている。しかも名前を言おうとした所で、ハジメの口の動きは止まってしまった。

 

「どうしたの?」

「えっと……ぁれ……?」

 

 わずかに首を傾げるハジメ。その様子の違和感に何かを感じたのか、雫も駆け寄ってくる。

 

「……ねぇ南雲君。ここがどこか分かる?」

「がっこぅ?」

「うん。じゃあこの子の名前は分かる?」

「……」

 

 この子と言って雫が指さしたのは、香織だ。しかしハジメは、その名前を言うことができなかった。思い出せなかった。

 

「え……ねぇハジメくん、分かるよね? 私のこと分かるよね……!?」

「……ごめん」

 

 香織は分かってしまった。ハジメが自分の名前を、顔を忘れてしまったということを。最愛の人に忘れられることがどれだけの苦痛を伴うことか。

 

「どうして……どうしてぇ! 思い出してよハジメくん!」

 

 その悲しみに耐えきることができず、香織はハジメの胸に顔を埋めて泣き出した。それをハジメは、おどおどしながらなだめることしかできなかった。

 

「えっ……え? 香織……どうして――」

 

 しかしそれを見て最も困惑しているのは、光輝だった。彼には、何故香織があそこまで悲しんで泣いているのか、理解ができなかった。

 そんな光輝の頬を、雫は思いっきり引っ叩いた。その目には、涙が浮かんでいる。

 

「雫! 何で急に……」

「何で……? アンタが南雲君を何度も殴ったせいで、香織は悲しんでるのよ! アンタのようなやつには分かんないだろうけど、香織は南雲君のことが本気で好きだったのよ!」

「なっ……どうして、そんなことは……」

「アホかお前! あの学校での態度を見たら、俺でも香織が南雲のことが好きだって理解できるわ!」

「そうよ! アンタのせいで! 香織は泣いて本気で悲しんでるのよッ! もう私や香織に二度と関わらないで!」

 

 そう言って、雫は光輝を離れ、泣いている香織をなだめてから、ハジメを保健室へと連れて行った。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「よし! よし! これで雫は光輝くんから離れていくはず!」

 

 そんな様子を影から見て、密かに喜んでいる人物が一人いた。

 

 その人物こそが、光輝にハジメに関するデマ情報を流した張本人である。しかし先に断っておくと、ハジメを貶めたかったというわけではない。

 むしろその逆で、その人物は光輝を孤立させたかったのだ。いや正確には、香織と雫の光輝に対する評価を落としたかった、というのが正しい。

 

 まず香織について。香織は高校入学時点で、既にハジメと付き合っていたので、別に何かをする必要はなかった。付き合っている時点で、光輝からは離れているわけだから。

 問題は雫だった。別に雫は、誰かを好いているわけではない。だから引き離すのはかなり難しい。

 

 そこで利用したのが、香織だった。

 

 雫は香織の大親友だ。小学生の時に雫はイジメられていたのだが、それを耐えることができたのも、香織という親友がいたおかげだ。そのため雫の中では、香織という存在は光輝よりも大切だった。

 故に、もし仮に光輝と香織が対立すれば、雫は香織側に立つだろう。そう予測した。光輝と香織を対立させるのは難しいが、香織の恋人であるハジメと対立させるのであれば、そこまで難しくはない。

 

「ふふっ、でも嬉しい誤算だねぇ♪派手にやってくれたおかげで、完全に仲違いさせることができそうだし♪」

 

 しかし、光輝がここまでやってしまうのは、流石に予想外だったようだ。しかし想定外も、その人物にとってはプラスに働いた。

 周囲の光輝を見る目が、大きく変わった。クラスの女子は警戒するような目で、男子達は変なモノを見るような目で、光輝を見るようになった。

 

「後は光輝くんに近づけば……!」

 

 この人物の作戦も、最終段階に入りつつあった。

オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?

  • 白崎香織
  • ユエ
  • どっちも
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