しかもちらほら別のありふれ二次創作の作者さんがいたりして……評価やお気に入りもしてもらって、本当に嬉しい限りです。
これからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。
その後ハジメは、割とすぐに忘れていた記憶を思い出した。思い出したというよりかは、むしろ頭がちゃんと回るようになったと言うべきかもしれないが、とにかく、分からなかった香織の顔と名前も思い出した。
どうやらハジメは、軽い脳震盪だったようだ。光輝に殴られ、その勢いで壁に頭をぶつけまくったせいで、呂律が回らなくなり、記憶に混濁が生じていたようだ。
一応病院で検査を行ってみたところ、脳に出血などはなく、頭蓋骨にヒビが入っているということもなかった。しかし大事をとって、早退することとなった。
それ以外だとかなり殴られてしまったため、顔がかなり腫れていたり、切れて出血したりしていた。なので、顔には湿布や絆創膏が貼られている。
早退したハジメは、昼食も食べずにしばらく眠り、そして起きた時、いや起こされた時には既に午後の四時。ベッドの側には、二人のクラスメイトがいた。
「あ、急に起こしちゃってごめんね」
「南雲、体の方は大丈夫か?」
いたのは雫と龍太郎だ。おそらくは、光輝の代わりに謝りに来た、といったところだろう。
「大丈夫。殴られた所は痛いけど……別に頭がこんがらがってるわけでもないし、目眩とか吐き気もないし」
「なら、一応良いのか?」
「そうね……」
ハジメの体の無事を確認すると、二人は深々と頭を下げる。
「ごめんなさい。光輝にあんなことさせて……」
「俺がもっと早く教室に来ていれば止められた……! 助けられなくて、本当に悪かった!」
そうして頭を下げた二人に対して、ハジメは慌てて止めにいく。
「ああいや、二人は謝らなくていいんだよ? 止めてくれたわけだし、むしろこっちが感謝したいくらいだよ」
それ以外にも、色々と感謝の言葉を述べるハジメ。そうしていくの、二人も顔を上げた。それから、学校を早退してから起きたことを、雫と龍太郎は教えてくれた。
「まず、今回のことで光輝は厳重注意が入ったわね。正直あそこまでやったのなら、生徒指導レベルで良い気がするんだけど……」
「ということは、天之河君は教室にいるんだね?」
「まぁいるな。けど……なんだ、クラスメイトの光輝を見る目は変わった気がするな」
とりあえず、光輝は厳重注意となった。*1なので一応、教室で皆と同じように授業を受けてはいる。
しかし、光輝に対する視線、特に女子の視線はかなり冷たいらしい。今回の件で、香織と雫が光輝と仲違いしてしまったため、それに続いて女子のほぼ全員を敵に回してしまったのだ。
ついでに、これは学校のことではないのだが、光輝は八重樫道場を破門されることになったらしい。武道を修める者がここまでの暴力行為を行ったのなら、当然のことだろう。
「……と、こんな感じね」
「そっか」
こうして、一通りの事後報告は終わった。しかしハジメが学校に行くのは何日かの休養の後なので、即座に関係あることではないが。
「あっそうだ。南雲、一つ気になったんだけどさ」
ここで、龍太郎が思い出したかのように尋ねる。
「香織はどこにいるんだ? 玄関に靴があるから、多分家にいるんだろ? てっきり俺はこの部屋にいるもんだと思ったんだけど……」
玄関にはハジメのものとは別に、誰かの靴があった。龍太郎は、それが香織のものだろうと予測した。
しかしその言葉にハジメは、わずかに目を見開き、首を傾げた。
「え……? いや、先に来てもう帰ったけど?」
「いやいやそりゃないだろ。靴あったんだし」
「でも帰るって言ってたよ?」
香織は帰ったはず。なのに誰のものか分からない靴はある。ではその靴は、一体誰のものだろうか。
「……まぁ、気にしなくてもいいか。多分雫のを見間違えたかなんかだろ」
そんな風に考えることはなく、龍太郎は見間違いだと判断した。
「とにかく、そろそろ俺達帰るわ」
「南雲君、しっかり休んでね」
「うん。今日はありがとね」
そうして雫と龍太郎は、部屋を出て、家を出た。オートロックの玄関の扉が閉まる音がわずかに聞こえた後、ハジメはこっそりと言う。
「……香織、バレそうだったんだけど」
そう言うと、ハジメが入っている布団がゴソゴソと動き出し、香織が顔を出した。
「ごめん。ちょっと寝ちゃってて……」
「ああいや、別に怒ってはないからね?」
実を言うと、香織は帰っていなかった。いち早く家にやって来たのだが、二人きりだったので、香織は布団の中に潜り込んできたのだ。だが途中で眠ってしまったため、そのままになっていたというわけだ。
「ハジメくん、本当に体は大丈夫なの……?」
「大丈夫だって。目眩とかは……今の所ないし」
「……なら、いいけど」
香織はハジメの胸に寄りかかり、その状態でハジメの顔を見つめる。ハジメから見ると、潤んだ瞳がよく分かる。
「もう私のこと、忘れないでね」
「……うん。絶対に忘れないよ」
そう言ってハジメは、不安に震える香織の背に手をやり、ゆっくりと抱き寄せる。すると香織は体を横にし、ハジメもそれと一緒に横になった。そのまま二人は、しばらく一緒に添い寝することとなった。
◆◇◆◇
それとほぼ同時刻。普段の堂々とした様子など微塵も感じさせず、光輝は帰宅した。
ある人物から、ハジメが香織を脅している噂があると聞いた。それを聞いて、ハジメを倒そうとしたのに……倒したら香織は泣き喚き、雫は今までに無いくらいに怒り、そして「二度と近付くな!」と言われた。
その後、教師からも怒られることとなった。悪いことなど何もしていないはずなのに。香織を救い出そうもしただけなのに。
クラスメイトの様子も違った。誰も話しかけてこない。話しかけようもしても、明らかに避けられていた。特に女子はそれが顕著だった。香織や雫に近付こうものなら、二人にひどく罵られた。
ただ、昔からの親友だった龍太郎は、話を聞いてくれた。最初に、どうして香織と雫が怒ってるのかと聞くと、龍太郎は「お前アホか?」と言われた。
しかし理由は教えてくれた。まず最初に、香織はハジメのことが本当に好きなのだという。そう言われたとき、光輝は「え……?」と啞然としてしまった。彼は今まで、香織がハジメのことを好きになるはずがないと、そう思っていたのだから。
そして香織が泣いて怒った理由は、ハジメが傷付いたから。雫は、そのせいで傷付いた香織を見たから怒ったのだ。
今までの光輝なら、嘘だと言って突っぱねたことだろう。しかし今回は、否定できなかった。
クラスメイトのよそよそしい態度、教師の叱責、香織や雫の怒り、その他様々なもののせいで、自分というものを信じることができなくなっていた。
――もしかしたら、自分は過ちを犯してしまったのかもしれない。
あの時からずっと、そう思わずにはいられなかった。
「ただいま……」
消え入りそうな声を出して、光輝は家の中に入っていく。
「ようやく帰ってきたねぇ光輝……!」
そこには、玄関には、物凄い剣幕で睨みつけてくる光輝の母親――
「香織ちゃんと雫ちゃんから話を聞いたよ……あんた、香織の彼氏――南雲君だったっけ? に言いがかりつけて殴りかかったんだってねぇ?」
「そっ、それは……香織が南雲に脅されてるって噂を聞いて、香織を助けようと――」
「そんな言い訳は聞きたくないわ!」
問い詰められた所を、光輝は反射的に弁明しようとする。しかし美耶は、そんな言い訳のような弁明を聞くことなく怒鳴った。
「噂で聞いたから助けようだぁ……? あんたはただ、香織ちゃんと付き合ってた南雲君が気にいらなかっただけだ! 気にいらないから、自分で無理矢理殴る口実を作ったんだろ!」
「そ、そんなことは……」
「そんなことはない? なんだ、香織ちゃんが本当に脅されてるとでも思ってたのか? あ?」
畳み掛けるかのように問い詰める美耶。その迫力にいつの間にか、光輝はドアに背をべったり付けて、目を大きく見開き冷や汗をかいている。
「脅されてると、思ってた……だって噂で聞いたから……」
「なるほどなるほど……じゃあ何でその噂を信じた? そして学校で流れてるもう一つの噂――『南雲君と香織ちゃんは中学生の時から恋仲』という噂は何で信じなかった?」
「何でって……二つ目の噂は嘘に決まってる……香織があんな――」
「
ドンと、光輝の胸ぐらを掴んで扉に押し当てる美耶。光輝は普段では考えられないほどの怒りっぷりに、全身を震わせていた。
「今の言葉で確信したよ……! あんたはただ、気に入らない南雲君を香織ちゃんから引き離そうとしてただけってね!」
「そ、そんなことは――」
「黙れ! じゃあどうして片方の噂だけを、南雲君の悪い噂だけを信じた! 良い噂は嘘だと断定して、悪い噂だけを本当だと信じた理由はなんだ、アァ!?」
鬼かと見間違えるほどの威圧感。それを前にして、光輝はわずかに口から音を出すだけで、言葉を発することはできなかった。
ハァ、ハァと、ここで美耶は落ち着いてくる。肩で息をしつつ、美耶は光輝から手を話し、大きなため息を吐いた。
「……確かに南雲君の言うとおり、もしお前が弁護士だったら、無能の中の無能――三流以下だ。
「……!」
今まで震えていた光輝だったが、“祖父さん”という言葉に反応すると同時に、震えは止まった。
「そんなことは……なんで……俺は正しいことをしたはずじゃ……」
「違う。あんたは正しさと独りよがりを履き違えてる。そして今のあんたは、独りよがりだ。自分にとって都合の良い情報だけで物事を判断して、それ以外の都合の悪い情報は嘘だと断定する。何の客観的な根拠もないのに」
だからあんたは弁護士としては三流以下だと、美耶は言う。
「うそだ、俺は正しいことをしたはずなのに……」
光輝は膝から崩れ落ちる。自らの常識が、今まで無意識に行ってきた行為全てが否定されたような感覚に陥ったからだ。
少なくとも、今までは失敗しなかった。ちゃんと努力をして成果を出して、困っている人は全員助けた。それによって色々な人に褒められた。
しかし今回はどうか。ハジメを殴ったら、雫と香織を悲しませてしまった。先生には怒られた。クラスメイトの自分への視線が冷たくなり、避けられるようになった。そして今、母親に怒られている。
正しいことをしていたら、こんなことは起きない。つまり今回やった行為は、間違い。光輝は今になって初めて、間違いというものを実感した。
瞬間、心臓の拍動が速まる。間違いなど、光輝にとっては初めての感覚だった。間違いという悪事を犯した。自らの何かが、汚れてしまった気分だった。心が、ズキズキと痛んだ。
それを見て、美耶は落ち着いて語りかける。心を読んだかのように。
「光輝。あんたは、間違えることは悪だと思っている、そうじゃない?」
「だって、間違いは良くないことだから……」
光輝にとっては、間違いは悪であり、汚点だ。そして彼は今まで、見かけ上は間違いを犯すことは無かった。しかしそれ故に、汚れを身に受けることを恐れた。
今までに出てきた光輝の敵は、露骨な悪、例えば暴力をふるう不良だったり、イジメを行うクラスメイトだったりした。そういう人は殴り倒し、解決することで、多くの人に感謝されてきた。
だから、光輝が他人を気に入らないと思うことはなかった。気に入らない人はたいてい、イジメを行ったりしているから。そしてそういう人は、すぐに光輝自らの手により断罪される。
しかし、そういう露骨な悪以外に、気に入らない存在が出てきた。それが南雲ハジメだ。
ハジメは真面目であり、特に問題行動を起こすことはない。しかし、香織と付き合っているという事実が、光輝を苛立たせることとなった。要するに、嫉妬というものだ。
しかし、だからといって無意味に暴力行為を行ってはならない。何も悪くない人を殴れば、それは悪だから。だから光輝は、ハジメをこじつけで悪に仕立て上げようとした。そうしてから殴り倒せば、何の問題も無いと考えた。なんせ、悪い人を倒すことは悪くないことだから。
そうして、無理矢理ハジメのネガティブキャンペーンを行うことにした。ハジメに関する悪い噂だけを集めて、それを根拠にして、あたかも自分は正しいかのように、ハジメへの攻撃を行った。
しかし結果は失敗。光輝は意味なく他人を殴った生徒、つまり悪となった。最も恐れていた悪となってしまった。それに今更気づき、絶望したのだ。
「……間違いはさ、悪いことじゃないよ。本当に悪いのは、間違いを省みないことだ」
「間違いを、省みない……」
「そう。だから反省しなさい。自分の何が悪かったのかを考えて、改善して……そして何より、謝りなさい。迷惑をかけた人全員に。……これは私も、お父さんも、美月も……祖父さんも、全員経験したこと。だから、心配しなくてもいいよ」
その言葉を聞き、崩れ落ちた光輝は、ゆっくり立ち上がる。そして、自らの罪を認め、口に出した。
「俺は……南雲だけじゃない、香織や雫までもを傷つけて、龍太郎に迷惑をかけた……! 都合の良い考えで、自分勝手に行動したせいで……!」
「そう、それでいい。……だけど、私からも謝らないとね」
光輝が謝っている姿を見て、美耶も頭を下げた。しかも実の子である光輝に対して。
「光輝、本当にごめんね……私がもっと向き合っていれば、こうして苦しむことは無かっただろうに……」
美耶もまた、かつての自分の行いを悔いていた。かつて、光輝の思い込みの激しい性格を家族で直そうとした。しかし光輝は一切聞き入れることなく、流してしまった。
そんなことを続けていたら、いつしか性格を直そうとする試みを、止めてしまっていた。それこそが、家族の、母親の美耶が自ら感じた罪だった。
「ううん……それは、聞かなかった俺も悪いから……」
「そうかい。……ほら、じゃあ家上がろうか」
こうして長い言い争いと懺悔の後、光輝は靴を脱ぐことができた。
原作の光輝って、なんとなく悪になりたくないとか、汚れたくないとか、そういう風に思ってるように感じます。別の言い方だと、他人に嫌われたくないとか、そういう風に表現することができますね。
それが顕著に出てるのがカトレア戦で、一度は追い詰めたものの、光輝は殺すのを躊躇うわけですね。なんせ殺しは本来悪だから。殺してしまえば、地球出身のクラスメイト達に怖がられるかもしれないから。それが嫌だったから、殺すのを躊躇ったのではないかと思います。
ほとんど失敗せず、悪にもならず、周りにチヤホヤされ続けて成長した結果、悪になることや、周囲に嫌われることを極端に恐れたのではないか。それが光輝という人間に対する私の考察です。
オルクス大迷宮のボスであるヒュドラ。その幻覚魔法は香織かユエのどっちに対して使ってほしい?
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白崎香織
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ユエ
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どっちも