悪のキモチ   作:ざくろねこ

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ダークパレット

『湊みお、目覚めなさい』

 誰かの声が聞こえてくる。

 目を開ける。全く光が入ってこない。いったいどうして自分はこんなところにいるんだろうか。

「…… ここは?」

 だんだんと思い出してきた。たしか、誰かに話しかけられて、それから……

 思い出せない。

「痛っ!」

 思い出そうとすると頭がずきずきする。考えなければ何もなかった。だからとりあえず考えないことにした。

「とりあえず戻らないと」

『どこへ戻るの?』

 また誰かの声が聞こえてきた。

「それは当然……」

 どこだっけ。

『ここがあなたの居場所よ』

 そうだったかしら。

『そう、そして、お友達を連れてきて』

 お友達…… あいね……。

 真っ先に思い浮かんだのは友達を誰よりも大切にする、私の友達。ベストフレンズ。

「わかりました」

 口が勝手に動いて承諾していた。

 何に承諾したのかも理解していないのに。

 ただわかることは頭の中の声に従うことが心地よかった。

 夢の中に漂うように気持ちよく。

 ただ、深く、深く、ふわふわと沈んでいく。

「さあ、いってらっしゃい。ダークメガミマテリアル」

 何もない空間から光が差し込む。その先にはメガミマテリアルが高校生として通っていた学校。そこに連れてくるべき彼女もいる。

「はい、全てはムリムリズムの赴くままに」

 『ムリムリズム』。それはサンメガミの敵。しかし、サンメガミである彼女の口が発したのはその敵に忠誠を誓う言葉。

「あ…… まいっか」

 なぜそんな言葉を発してしまったのか。疑問と後悔と焦燥が押し寄せる。しかし、何もかもすぐにどうでも良くなった。

 気持ちがいいから。

 ムリムリズムに身を任せて。

 みんなにも、メガミメロディにもこの気持ちよさを実感して欲しい。

 太陽光に照らされた彼女は傍から見れば正義の味方『メガミマテリアル』。しかし、彼女の目は太陽に照らされても闇のように暗く、意思が存在していなかった。

 

 

「あいねー」

「なあに、みお」

 友希あいねのウェーブがかかったピンク髪の頭に湊みおの顎が乗っかる。

 今は2人のアイドルユニット『ピュアパレット』のライブの休憩時間。

 次のライブの準備のため、畳に座るあいねにみおが片膝立ちの状態でお互いの充電を行っていた。

「ねえ、、あいね」

 みおは飽きずに親友の名前を繰り返す。

「うん、みお」

 それはあいねも同じだった。

 2人でいるとなんでもできる。

 そう信じているから。

「ねえ、私の目を見て。あいね」

 みおはあいねの前に回り込むと、目と目を合わせた。

「うん」

 あいねは親友の頼みを素直に聞いた。

「あれ、みお……」

 あいねはみおの瞳に違和感を覚えた。

 吸い込まれるような、虚無の瞳。

 光のない、けれど心地よい、闇の波動。

「あいね…… だんだん、だんだん、何も考えられなくなるよ」

「うん…… あ……」

 まぶたが重くなる。あいねの瞳から光が失われる。

座った状態で、脱力した腕の手の平が畳の上に落ちる。

 みおはあいねを抱きしめた。

 互いの肩に顔が乗って落ち着く。

 そして、みおは背中を一定の感覚で叩いた。

 トントントントン。

 落ち着くリズム。深く、深く、彼女を堕とすリズム。

「み……お」

「さあ、このリズムに身を任せて」

「……うん」

 あいねはぼーっとした様子でみおの言うことを受け入れる。

 きっとみおはライブに向けて自分を落ち着かせようとしているのだとぼんやり考えていた。

「さあ、ムリムリズムの赴くままに」

 みおは口角を吊り上げてニヤリと笑った。

 待っててください、ご主人様。

「あいね、メロディに変身して」

「うん」

 あいねは言われるがままいつも肌身離さず携帯しているメガミマイクでメガミメロディへと変身する。みおも続いてメガミマテリアルに変身した。

 こうすることでさらにムリムリズムの浸透度が上がるから。

「さあ、ムリムリズムに忠誠を誓いましょう」

「え…… みお」

 親友の口から出てきた信じられない言葉にメロディの思考が一瞬抵抗した。

「大丈夫だから」

 規則正しく、落ち着かせるようにマテリアルはメロディの背中を叩いた。

 トントントントントン。

「うん、そうだね」

 友達の言うことなら大丈夫。

 メロディはこれ以上考えるのを辞めた。

 そして2人は体にムリムリズムを深く刻んでいった。

 ライブの出番が来るまで、ゆっくりと。

 

 

 ステージに登場した2人はどこか焦点の定まってない虚ろな瞳を会場に向けながら話し始めた。

「皆様にお知らせがあります」

 真剣な顔で。嘘偽りのない口調。

 二人はにっこりと笑いあって告げた。

「私たち、『メガミメロディ』と『メガミマテリアル』はムリムリズムに忠誠を誓います!」

 会場がざわめく。二人は敵の手に落ちてしまったのか。冗談だろという言葉が観客の中から聞こえてきた。しかし、冗談ではないことを裏付けるかのように『サンメガミ』に変身した二人のスーツにはムリムリズムのロゴが刻まれていた。メロディのピンク色が、マテリアルの青色が、黒く染まっている。

 各所から悲鳴が上がる。

 自分たちの信じていたヒーローが。

 自分たちを愛してくれるサンメガミが。

 敵の手に堕ちている。

 その絶望は会場を染め上げ、今から歌う彼女たちの新曲に格好の舞台となった。

「それでは新ユニット『ダークパレット』による新曲。『悪のキモチ』聞いてください」

 二人のライブが始まると同時に出口へ向かっていた人々の流れはぴたりと止まった。

 ただ、二人のリズムに耳を傾けている。

 逃げるのはムリだ。

 サンメガミがムリムリズムに勝つのはムリだ。

 そうした負の感情が会場内に蓄積されていく。

 ここにいる人間全員は自分の意思を失い、虚ろな目で立ち尽くしていた。

「見て、メロディ。ここにいる人たちは全員ご主人様のもの。きっと、一緒に連れて行けばご主人様がたくさん愛してくれるわ」

 メガミマテリアル改め、ダークメガミマテリアルは恍惚とした笑みを浮かべ、両手を頬に当てた。

「うん、ありがとう。マテリアル。一緒にご主人様のお役に立ててうれしい」

 メガミメロディ改め、ダークメガミメロディは楽しそうなマテリアルを見て微笑んだ。

 会場は闇に包まれ、光から遮断された。

 太陽光が再び差し込んだころには会場に、二人も、ライブ観客も、消失していた。

 彼女たちの行方はというと、玉座の前で、頭を垂れ、意思のない瞳でムズムズリズムへ忠誠を誓っていた。

「全てはムリムリズムの赴くままに」

 最後に堕とすべきはあと一人、虹野ゆめこと、メガミパルフェ。




お約束の闇落ち展開。書いてみたかったので書きました。ゆめちゃんもは早めに落としたいと思います。
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