改めて連載を再開させて行こうと思いますので、改めてよろしくお願いします。
一ヶ月前、帝国宰相ギリアス・オズボーンが狙撃されたドライケルス広場にて一人の少年が壇上に立つ。
「――親愛なるエレボニア帝国の民よ、よく集まってくれました」
皇族特有の金糸の髪を持つ少年は背後に《蒼》を含めた、機械仕掛けの巨人達を従えて堂々と続ける。
「先月、この場でオズボーン宰相が狙撃された事件がありました……
犯人は未だに公開されておらず、皆不安に思っている事でしょう」
その声は導力ネットを通じ、また導力ラジオを持って帝国全土に、それどころかゼムリア大陸全土に向けて放送される。
「エレボニアの民よ。僕は告げる。帝国は今、未曾有の危機に瀕していると」
少年の両脇は四大名門の当主たちが控え、彼の正当性を市民に裏付けさせる。
「今日、この場を借りて僕はあの日、帝国を導いて下さった《鉄血宰相》を暗殺しようとした罪深い犯人を公表させていただきます」
少年は広場に集まった市民を見回して、その名を口にする。
「その者の名は《オリヴァルト・ライゼ・アルノール》」
その言葉に市民は静まり返り、ざわめく。
「皆も知っているように、彼は僕の腹違いの兄になります……
ですが、彼は己の立場を弁えず皇帝の椅子を欲し、この度の蛮行に至ったのです」
疑念の囁きを押し潰すように少年は語り掛ける。
「幸い、父上は四大名門と当主たちの迅速な対応のおかげで無事です。かくいう僕も彼らに助けられました」
少年は顔を伏せ、気丈に振る舞いながら言葉を続ける。
「ですが、《鉄血宰相》の尊い命は失われてしまった。これは決して許されない罪です」
護る人々の情に訴えかけるように、同情を誘うように少年は訴える。
「彼は帝位を簒奪せんために僕の姉を攫い、皇族に代々伝わる《緋の騎神》さえも盗み出した。それがあの日の真実です」
不安を囁く民衆に少年は力強い言葉を投げかける。
「鉄血宰相という偉大な指導者を失い、皆不安を感じているでしょう……
だからこそ、僕はここに宣言します。オズボーン宰相の意志は僕が継ぐと!」
少年は拳を握り宣言した。
「僕は確信している! エレボニアの民が団結すればこの程度の《国難》など容易に乗り越えることができると!」
その言葉を示すように彼の両脇に控える四大名門が無言で自分達の存在を魅せつける。
「僕はここに誓おう! 罪深き兄を正し! 《大いなる騎士》をこの手に取り戻すことを!」
そして少年は名乗る。
「エレボニアの民よ……僕こそが次期エレボニア帝国皇帝――セドリック・ライゼ・アルノールである!」
*
サザーランド州。
セントアーク大聖堂の前には多くの人だかりが集まり、カール・レーグニッツは即席で造られた壇上に立つ。
「親愛なるセントアーク市民の皆さん、初めまして。私は帝都知事カール・レーグニッツです」
カールは鉄道憲兵に身辺を護られながら告げる。
「本来なら帝都知事である私がこのセントアークにいることを不思議に思われるでしょう……
その訳はこの場を借りて説明させて頂きたい」
平民ばかりが集まっている広場をカールは見渡して口を開く。
「皆さんもご存じの通り、帝都ヘイムダルは四大名門の当主たちによって不当に占領されました……
私は鉄道憲兵隊のおかげでこのセントアークに辿り着き、帝都で起きた事件の真実を話すためにこの場に立たせて頂いております」
カールは一呼吸置いて、はっきりと告げる。
「まず先に言わせていただきたい……
先日、帝都でセドリック皇子が発表した声明は全て偽りだと!」
その一言に広場はざわめく。
「皆さんも導力ラジオのオズボーン宰相閣下の御言葉を聞いているはず!
閣下を狙撃した犯人の名は《クロウ・アームブラスト》!
彼は厚顔無恥にもセドリック皇子が声明を発表したあの場にいた《蒼の騎士》であり、《帝国解放戦線》のリーダーである《C》でした」
ざわめきは大きくなり、カールは確かな手応えを感じながら続ける。
「皆さんの戸惑いは分かります……
《帝国解放戦線》は壊滅したはずだと。ですが、思い出して下さい……
その発表をしたのが誰だったのかを……そう! 四大名門のカイエン公爵にログナー侯爵の御二人です!」
戸惑いのざわめきは少しづつ小さくなり、市民はカールの言葉に聞き入ってしまう。
「皆さんも噂話として聞いたことはあるでしょう。四大名門がテロリスト達を支援していると……
それが真実であり、彼らは我等の《鉄血宰相》を暗殺しようとし、さらには偽物のセドリック皇子を祭り上げこのエレボニア帝国を乗っ取ろうとしているんです!」
カールの発言の証拠に、並び立つ鉄道憲兵隊のミハイルが口を挟み、クロウ・アームブラストが宰相狙撃の犯人だと証言する。
「さらにそれらの罪をあろうことかオリヴァルト皇子に擦り付けようとしている! こんな蛮行を許して良いはずがない!」
拳を握り締めて叫ぶカールに同調する声が上がり、その声は瞬く間に伝染して広場は熱狂に包まれる。
本来ならこれだけの騒ぎを起こせば領邦軍が踏み込んで来るのだが、その気配はない。
何故なら既にセントアークは帝都から脱出した正規軍と鉄道憲兵隊によって制圧が完了しているからに他ならない。
「セントアークの市民よ!
貴方達も旧態依然の貴族がもたらす搾取は身に染みて分かっているはず!
これ以上、四大名門の彼らの傲慢を野放しにしておけば、帝国に未来はない! 故に今こそ立ち上がる時なのです!」
市民の士気がこれ以上ない程に上がっている。
自分らしくもない演説にカールはオズボーンの様にできたかと安堵する。
見る者が見れば、彼には《黒》の瘴気が纏わりつき、それが市民たちへと伝播しているがそれに気付ける者はその場にはいない。
「この場で紹介させていただきましょう……
私たちエレボニア帝国正規軍の正当性を示す、旗頭を――」
そう言ってカールは壇上の場を譲り、代わりにそこに立ったのは赤い礼服に金糸の髪を持つ青年。
「やあ、セントアークの諸君。知っている者もいると思うが名乗らせて頂こう」
不本意だと言う内心を顔に出さず、《放蕩皇子》はセントアークの市民に対してにこやかな笑みを振り撒き名乗る。
「僕はオリヴァルト・ライゼ・アルノールである」
――どうしてこうなってしまったんだろうね……
外面を取り繕いながらもオリヴァルトはこの状況に苦悩する。
起きてしまった内戦に嘆くも、オリヴァルトは貴族派、革新派、どちらの陣営にも肩入れせず、中立の立場として互いを滅ぼし合う戦いを回避しようと努めていた。
しかし、その努力は先日の帝都でのセドリックを名乗った何者かによって台無しにされた。
だがオリヴァルトの胸中を締めるのは徒労ではなく、憤り。
自分の中にこんな感情があったのだと、オリヴァルトは自嘲する。
――いくらボクでも譲れない一線はあったということか……
脳裏に今は亡き母の顔をオリヴァルトは思い出す。
帝国貴族の策謀によって命を落とした母の存在と、名と立場を利用されて居場所を奪われた弟の存在が重なる。
――同じような欺瞞を繰り返すことは許さない……
かつてリベールで言った己の言葉を思い出す。
今日まで多くの貴族と顔を繋ぎ、話し合って来たが結局オリヴァルトの言葉は彼らに届くことはなかった。
「しかし、それでも――」
自分の中の《黒》い衝動を呑み込んでオリヴァルトは自分の言葉を待つ帝国市民に正規軍を率いて四大名門を討つことを宣言するのだった。
*
「ふう……」
演説が終わり、壇上から降りたオリヴァルトは熱狂する市民たちを他所に陰鬱なため息を吐く。
「大丈夫か、オリビエ?」
「ああ、ミュラー。大丈夫だよ。全て受け入れた上での決断だ」
気遣ってくれる親友にオリヴァルトは笑顔を繕って答える。
「とてもそうには見えないが……」
「柄ではないことは承知しているよ……
だけど、誰かが正規軍の旗頭にならなければ状況は更に酷くなる。だからボクが立つしかなかっただけの話さ……
それにこうでもしないとボク自身を護る手立てもないからね」
帝都のセドリックの宣言によりオリヴァルトは逆賊として帝都中に指名手配されてしまった。
「あれが本物のセドリックの宣言なら、ボクは喜んでリベールに亡命しているんだけどね」
「オリビエ……」
「帝国は何も変わらなかった……
ボクの母上やハーメルの悲劇、そしてオズボーン宰相の狙撃……
彼らはまた同じ欺瞞をまた繰り返そうとしている」
彼ら四大名門が偽物のセドリックを用意していたことを考えれば――
「それだけは見過ごすことはできない」
例え、これまでの主義を捨てることになったとしても本物の弟を見殺しにする選択肢はオリヴァルトにはない。
それに自分の身を護ることも理由の一つだが、暴走しそうな彼らや市民に対しての抑止力になることも考えての立身でもある。
正規軍に占領されたとはいえ、セントアークにはまだ多くの貴族が残っている。
戦闘の末に捕縛された領邦軍も少なくはない。
彼らにオズボーン宰相が殺された憎悪の矛先が向けられないために、節度ある誇り高いエレボニア人として振る舞いをオリヴァルトが訴えたおかげで正規軍は秩序を保っている。
「はぁ……」
らしくもなく肩肘を張っているオリヴァルトにミュラーはため息を吐く。
しかし苦言を告げることはない。
ミュラーもまたオリヴァルトが立ち上がらなければ正規軍はまだしも、それに平民は貴族への憎悪を爆発させて暴徒と化していてもおかしくはない。
「あまり無理はするなよ」
「この程度の無理なんてクロスベルで戦ってくれた彼に比べれば……彼?」
自分の口から出て来た言葉にオリヴァルトは首を傾げる。
“彼”とはいったい誰の事だろうか。
その疑問に向き合おうとオリヴァルトは考え込む。
――何か忘れてはいけないことがあったような……
それが何なのか、思考の霧を探ることに神妙な顔をして没頭するオリヴァルトにミュラーは彼を安心させるための報告をする。
「ランドナーから朗報だ。クリス・レンハイムをノルド高原で発見、怪我もなく無事だそうだ」
「そうか! それは何よりだ」
掴みかけた“それ”は思考の霧の奥に消え、オリヴァルトは次の瞬間気に掛けたいたことも忘れ弟の無事に安堵する。
「ではミュラー。《紅き翼》の件は――」
「アルゼイド子爵にそれは任せてある。安心しろ」
「そうか……」
オリヴァルトは笑みを浮かべると北の空――ノルドの方の空を見上げる。
「ボクはこんなことになってしまったが、セドリック……どうか君に女神の祝福を……」
自分ではなれなかった《第三の風》に弟がなってくれることをオリヴァルトは祈るように願うのだった。
原作との差異。
カール・レーグニッツが帝都から脱出していること。
正規軍及び鉄道憲兵隊がクロウが宰相狙撃の犯人だと大々的に公表。
それに伴い、四大名門のテロリストの支援も暴露し、彼らの正当性を糾弾。
しかしこれだけでは正規軍の欺瞞情報だと突き返されるので、正規軍は旗頭としてオリヴァルトを支持する形で対抗する。
オリヴァルトは革新派に取り込まれることは不本意であるが、正規軍が制圧した地方の貴族の身の安全を引き換えに旗頭になることを受け入れる。
なお閃Ⅱとは別に前回の閃Ⅰは完結させましたが、短編を掲載するかもしれません。
現段階でのネタとしては、
「ラウラのアルバイト」
借金返済のためにキルシェで働くことになったラウラ。
主にウェイトレスの仕事をしているのだが、ある客に愛想が足りないと言われて……
「園芸部フィー先輩」
トールズ士官学院に入学して数ヶ月、園芸部に時期外れの新入部員?が入る。
彼女の名前はリン。
フィーは初めてできた後輩に何を思うのか。
「導力ネットチェスを作ろう」
マキアスが所属している第二チェス部は少ない部員、代わり映えのない相手としか打つことができない状態に伸び悩みを感じていた。
そのことを寮での会話で話題に出したところ、リィンが落ちものゲームの「ポムっと」からチェスでもそういうのができないのかと提案する。
全国の相手と身分に関係なくチェスを打てるということにマキアスは興味を示し、導力ネットの勉強を始めるのだった。
今はこの三人のくらいしかネタは思い浮かんでませんが、できたら一巡位はⅦ組のそれぞれの話を書いてみたいと考えています。
なお時系列はともかく、リィンの多忙でそんな暇はなかったとかはあえて考えずに書こうかと考えています。
NG
クリスは一人で空を見上げて呟く。
「リィンさん、僕はどうしたら良いんですか?」
独り言に誰かが答えてくれるはずもなく――そう思った所でクリスは肩を叩かれた。
「――っリィ――」
「みししっ」
そこにいたのは遠いクロスベルのテーマパークのマスコットみっしぃだった。
「…………何で?」