(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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13話 特務支援課

 

 

 剣を交えた瞬間、クリスは後ろ腰に装着していたホルスターから小型の導力銃を抜き放ち、至近距離からクルトに向けて発砲、連射する。

 

「っ――」

 

 クルトは後ろに跳躍すると同時に左の導力剣を一閃し、銃弾をまとめて薙ぎ払う。

 

「…………」

 

 かつてはそれで勝負が着き、肩透かしをくらった一幕。

 今度は油断も慢心もない、本気の戦いになるというのにクリスの心は高揚するどころか自分でも不思議なくらい冷め切っていた。

 

「何だその顔は!?」

 

 それがお気に召さなかったのか、クルトは顔をしかめて声を荒げる。

 

「…………今の君に言っても分からないよ」

 

 投げ槍にクリスはそれに応える。

 

「っ――」

 

 クルトは眦を上げながら、闘気を練り上げる。

 彼が纏う気の激しさが今の感情を表し、それでいて冷静を保ちながらクルトは言葉を投げかける。

 

「あの時と同じだと思うなよ」

 

「御託は良いよ。それとも君がクロスベルで学んだのは口だけなのかい?」

 

「っ――」

 

 クリスの挑発にクルトは襲い掛かる。

 クリスはそれに応えるように剣を振り被る。

 互いに右手に握った剣をぶつけ合い、魔剣を盾にしながらクリスは銃の間合いを保とうとする。

 させじとクルトは間合いを詰めて双剣を走らせる。

 

「っ――」

 

「もらった!」

 

 数合の攻防の末、下から救い上げるように放った剣戟が導力銃を捉え、クリスの手から弾き飛ばされる。

 チャンスだとクルトは双剣に光を宿らせ――

 

「リヴァルト」

 

 クリスがその名を呟くと、漆黒の魔剣が怪しく光り、その光は空になった左手に集束され、翠の魔剣となって顕現する。

 

「くっ――テンペストエッジッ!」

 

 どんな理屈か分からないが、クルトは構わず戦技を繰り出す。

 

「テンペストエッジッ!」

 

 対するクリスも二つの魔剣に風を帯びさせて双剣の乱舞を繰り出す。

 

「っ――ふざけるなっ!」

 

 見様見真似の技にクルトは咆え、剣に更に力が籠る。

 勢いを増したクルトの剣戟がクリスの剣戟を押し潰し、翠の魔剣が宙を舞う。

 

「殿下が双剣で僕に勝てるはずないだろ!」

 

 競り勝ったことに気分を良くするクルトに対してクリスは剣を弾かれてかすかに痺れた手を冷めた目で見下ろした。

 

「…………こんなものだったのか……」

 

「何……?」

 

 失望したような、落胆を交えたため息を吐くクリスにクルトは顔をしかめる。

 怪訝そうにするクルトにクリスは剣を向け呟く――

 

「ブリランテ」

 

 次の瞬間、漆黒の魔剣が紅蓮の炎に包まれ、一回り大きな大剣へとその姿を変える。

 

「なっ!?」

 

 常識外の変化にクルトは大きく目を見開く。

 

「クルト、ちゃんと受けないと死ぬよ」

 

 忠告を一言、クリスはクルトに背中を見せる程に体を捩じる。

 繰り出す技は見様見真似だが、何度もその目に焼き付けた一撃。

 踏み込むと同時に回転させた遠心力を繰り出すようにアレンジしたクリスなりの一撃。

 

「螺旋撃っ!」

 

「――っ」

 

 反応に遅れ、回避より防御を選んでクルトは双剣を交差し――

 

「ぐぅっ……」

 

 大剣の一撃を受け止め切れずクルトはたたらを踏んで大きくよろめく。

 

「まだまだっ!」

 

 柄を持ち替え、身体ごと回して大剣を振り回しクリスは追い打ちを掛ける。

 

「っ――」

 

 クルトが体制を建て直すより早く繰り出された一撃をクルトは再び双剣を盾にして、その身を揺らす。

 

「――こんな戦い方どこで習ったんですか!?」

 

 たまらずクルトは叫ぶ。

 クリスの一撃は両手を使って受けなければならない程に重い。

 斬撃で相殺しようとすれば、簡単に押し切られ、双剣術の利点をこんな風に荒々しい攻撃で封じてくるとは想像もしていなかった。

 

「そんなことを気にしている余裕はあるのかい?」

 

「っ――そっちがその気なら――」

 

 クリスの物言いにクルトは歯噛みし、双剣の導力刃を消し、伏せて炎を纏う大剣の横薙ぎの一閃を躱して距離を取る。

 

「モードβ《剛剣》」

 

 二つの柄を直列に連結させ、発生させた導力刃はクリスのブリランテに劣らない程の大剣。

 

「なるほど、そういう武器なのか」

 

 感心したようにクリスは一つ頷き、

 

「エリクシル」

 

「え……?」

 

 大剣の炎が消えたと思った瞬間、クリスは先程までの回転移動とは異なる一直線の突撃でクルトに迫る。

 

「ふっ――」

 

「っ――」

 

 思った以上に様になっている刺突をクルトは咄嗟に大剣を盾にする。

 

「どうしたんだいクルト? さっきから全然攻めてこないじゃないか?」

 

「ぐっ――この――っ!?」

 

 クリスの挑発にクルトはムキになって大剣を振り被ろうとしたタイミングで金の穂先がクルトの眼前を掠める。

 反撃に強引に大剣を振るが、クリスは一歩後ろに下がるだけで難なくクルトの攻撃を回避する。

 

「な……」

 

「ほらほらどうしたんだいクルト? もう終わりかい?」

 

「っ――モードΔ《風御前》」

 

 間合いの外から視認が難しい雷光の刺突を嫌ってクルトは距離を取り、オーブメントの接続を切り替えて薙刀を構える。

 

「これなら――」

 

 仕切り直したところでクルトは目を丸くした。

 

「…………え?」

 

 槍を消したと思ったクリスは何を思ったのか、クルトに背中を向けると脇目も振らずに駆け出し、最初に弾き飛ばした導力銃を拾う。

 

「しまった――」

 

「クルト、君はさっき双剣で僕は君に勝てるはずないって言ったよね?」

 

 クリスは左手に導力銃を、右手に《ARCUS》を構えて告げる。

 

「それは正しいよ。だけど、この戦い方でなら僕に君が勝てるはずないんだよ。《ARCUS》駆動っ!」

 

「っ――」

 

 クルトの周囲に七耀の力が渦巻く。

 正面突破を考えるが、突き付けられた銃口にクルトは二の足を踏み――

 

「あ……」

 

 次の瞬間、クリスは思わず横を見た。

 

「っ――どこまで馬鹿にするつもりだ! そんな手に――ぐはっ!?」

 

 激昂したクルトは次の瞬間、クリスがよそ見した方向から吹き飛んできたロイドの体当たりを喰らう。

 

「ロ、ロイドさんっ!」

 

「ク、クルト……すまない……」

 

 大きくよろめき、薙刀を落としながらもロイドを受け止めたクルトがその次に見たのは黒い鎧を纏って飛翔する銀髪の少女。

 

「アルカディスギア――」

 

 少女はその小さな体躯に不釣り合いな大きな鉄の拳を握り込み、解き放つ。

 

「はこうけんっ!」

 

 鉄の拳はロイドとクルトを纏めて捉えるのだった。

 そして――

 

「まだやりますか、ランディさん?」

 

「……いや、降参だ」

 

 仲間をやられ、三人に囲まれたランディはベルゼルガーを下ろして両手を上げた。

 

 

 

 

 

「くっ……まさかここまで力の差があるなんて……」

 

 膝を着いて悔しがるクルトをクリスは冷めた気持ちで見下ろした。

 

 ――あの人も、もしかしたらこんな気持ちだったのかな?

 

 弱いながらも《黒い気》を纏っている支援課の三人にクリスはそんな感想を抱く。

 特務支援課の一連の行動が《呪い》によって促されたものだとすれば、諦観して仕方がないと割り切るしかない。

 しかしクリスが考えるのは、自分達Ⅶ組の行動。

 マキアスを初め、Ⅶ組の大半は《呪い》に侵されて愚行を行ってしまった。

 もちろん、《呪い》が晴れた後はみんな後悔し、憑き物が落ちたように前を向けるようになった。

 それ自体は喜ばしいことだが、クリスはまだ《瘴気》を漂わせているクルトに失望と諦観を感じずにはいられなかった。

 

 ――クルトはダメだ……《黄昏》の戦力にはならない……

 

「どうして、どうやって殿下はそれだけの“力”を手に入れたと言うんですか?」

 

 見上げるクルトの嫉妬が混じった眼差しにクリスは優越感を抱くことはなかった。

 

「僕が強くなったんじゃない……君達が弱くなったんだ」

 

「なっ――?」

 

「言ってくれるじゃねえか」

 

 クリスの指摘にクルトとランディは心外だと言わんばかりに顔をしかめる。

 

「本当は君達も理解しているんじゃないかい? 自分達が間違ったことをしていると」

 

 その言葉にクルト達は沈黙を返す。

 

「何の欺瞞もなく、ただひたすらに真っ直ぐではいられなくなった……

 正直見ていられませんよ。クロスベルの大きな《壁》を前に悩みながらも一歩ずつ前に進もうとしていた貴方達が見る影もない。それに……」

 

 彼らが成長していないのは“彼”の存在が消えた影響かもしれないと思考が過る。

 

「――そんな君達に負けてなんてやるものか!」

 

「殿下……?」

 

 突然のクリスの激昂にクルトは目を丸くする。

 

「…………まあいい。少し予定とは違うけど、君達はここで拘束する」

 

 頭を振ってクリスは彼らへの憤りを呑み込み、三人に告げる。

 そうして戦いは特務支援課側の敗北で幕を閉じた――かに見えた。

 

「ッ……まだだ!!」

 

 それまで沈黙を保っていたロイドはゆっくりと体を震わせながら立ち上がる。

 

「ようやくここまで辿り着いたんだ……!」

 

 満身創痍でトンファーを構え、ロイドはその身にこの場でクリスだけが見れる《黒い瘴気》を立ち昇らせる。

 

「絶対に負けられない……!

 大樹の時は届かなかった……だけど今度こそ絶対に……ッ!」

 

「ロ、ロイドさん……」

 

「……ロイド……」

 

 彼の叫びに共感するようにクルトとランディが纏っていた《瘴気》がロイドへと流れて一つになる。

 

「…………本当に君達は……」

 

 その光景にクリスはため息を吐く。

 

「ッ――うおおおおおおっ!」

 

 ロイドは雄叫びを上げる。

 心を燃やし、彼が纏う闘気は彼の心情を表すかのように激しく燃え盛る。

 ただしその色は《黒》。

 

「良いでしょう、そちらがその気ならもう容赦はしません」

 

 不屈の闘志を漲らせるロイドにクリスは覚悟を決める。

 いくら《呪い》に背中を押されていたのだとしても、この行動は紛れもないロイドの選択に他ならない。

 それ程までにあの少女がロイドにとって大切だと言うのなら、これ以上の問答は無粋だとクリスは魔剣を抜く。

 ロイドがトンファーを身構え、クリスが魔剣を振り被る。

 ロイドは雄叫びを上げて床を蹴り、クリスは突撃して来るロイドを迎え撃つ。

 

「ちょっと待ったああああああっ!」

 

 制止の声が魔導区画に響き渡り、それとは別に黒髪の青年が音もなく二人の間に現れ、次の瞬間ロイドとクリスは彼の手によって宙を舞っていた。

 

「なっ!?」

 

「くっ!?」

 

 何とか受け身を取ってクリスは着地し、渾身の一撃を極めるはずだったロイドは彼とは対照的に無様に床に転がった。

 

「その喧嘩はもうお終いよ」

 

 そして二人の間にツインテールの娘が立って宣言した。

 

「エ、エステルさん……」

 

「エステル、どうして君がここに?」

 

「どうしてじゃないわよ、ロイド君」

 

 はぁ、っとエステルは大きくため息を吐いて、背後を振り返る。

 

「ほら、話さないといけないことがあるんでしょ?」

 

 そこで二人はエステルが何かを背負っていたことに気付く。

 それが何なのかはすぐに分かった。

 

「…………うん」

 

 エステルの言葉に小さく頷いた声に、ロイド達は目を大きく見開く。

 エステルはその場に膝を着いて背負った少女をその場に降ろし、その女の子はロイド達に向き直った。

 

「ロイド……それにクルトとランディ……」

 

「…………キーア」

 

 クロスベルの独立からすれ違っていた彼らは、ここにようやく再会するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 








自分が碧の二次創作を作るなら、追加シナリオはバニングス捜査官の事件簿かな?

通商会議後、ロイドに一本の電話が届く。
彼はガイ・バニングスの死の真相を知っているとロイドに告げ、この情報をいくらで買うかと情報料を要求して来た。
真実を知りたいとは思うものの提示されたミラを用意することはできないと断る。
しかし次の日、クロスベルで殺人事件が起こる。
その被害者はロイドに取引を持ち掛けた人物だった。
この事件を切っ掛けにロイド達はガイの事件の調査を始める。

という感じの話で本編の補強をしていたかもしれません。


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