(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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とりあえずお気に入りユーザー限定の設定を試させていただきます。



―追記―
活動報告にも書きましたが、登録申請を多く公平性を欠くのと手間を考えて通常投降に戻しました。

御迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。

感想に関しては基本的にどんなものでも受け入れるつもりではありますが、アウトの境界が自分でも曖昧なので皆様の節度に任せるとしか言えません。

ただ基本的に自分は軌跡シリーズ全てのキャラを愛しているので、貶めたり不遇のまま死なせることになったとしてもそれは変わりません。

長々と書いていますが、改めてご迷惑をお掛けしました。
今後とも自分の閃の軌跡をよろしくお願いします。







14話 夢の終わり

 

 それを見た時、キーアは全てを思い出した。

 同時に数多の因果にあり得なかった“未知”に困惑した。

 “雲の至宝”。

 後にキーアがなる“零の儀式”のシステムを利用して生まれたあり得ない可能性。

 そもそも“彼”に騎神を持って来て欲しいと頼んだのは、飛行艇がオルキスタワーへ突撃をする未来や列車砲の砲撃が撃たれた未来への備えのはずだった。

 しかし、実際に起きたことはキーアが見たどの未来とも違う結末だった。

 何が未来を歪めたのか“全能”となったキーアでも見通すことができない因果にただ戸惑うことしかできなかった。

 

「どうしたんだキーア?」

 

 ロイドはそんなキーアのささやかな変化に気付き、尋ねる。

 

「ううん、何でもない。キーアは元気だよ!」

 

 一つ、嘘を吐いた。

 彼らに打ち明けても、何の解決にならないから。

 ロイド達には自分の問題を解決する“知識”がないから。

 

「大丈夫、安心してクロスベルの未来は私たちが護るから」

 

「うん、エリィ達ならきっとできるよ」

 

 また嘘を重ねてしまう。

 ロイド達にそれだけの“力”がないのをキーアは知っている。

 オルキスタワーで自分達の限界を思い知らされ、受け入れることができずにいるエリィ達に真実を告げることをキーアはできなかった。

 

「むむ、キーアは情報工学の才能もあるようですね。キーアが将来、何になるのか楽しみです」

 

「将来……うーん、キーアにはよくわかんないや」

 

 嘘で不安を誤魔化す。

 ティオが語る将来など分からない。

 “至宝”にならなければ自分と言う存在を維持できない未来。

 “至宝”になってクロスベルの守護神となって戦う。それしか自分には道はないのだから。

 

「安心しろキー坊、帝国や共和国が攻めて来たとしても俺が返り討ちにしてやる」

 

「うん、ランディは強いもんね」

 

 本心を押し殺して嘘を重ねる。

 キーアが頼るべきなのは唯一の“未知”である“彼”なのだろうと結論に達している。

 だけどそれを明かすことはできない。

 帝国や“彼”に対抗心を燃やし拒絶の壁を作っているみんなにそれを打ち明けるのは裏切りだと、キーアはその未来を選ぶことはできないと自分に嘘を吐く。

 

「帝国人だってそこまで愚かじゃない。どうか信じてほしい」

 

「うん、帝国の人が悪い人じゃないって、ちゃんとキーアも分かってるよ、クルト」

 

 不安に揺れるクルトを慰めながら、キーアは列車砲を撃ってクロスベルを滅茶苦茶にされた未来があったことを隠すために嘘を吐く。

 一つ嘘を吐く度に、何かが歪んでいく。

 その嘘を守るために、新しい嘘を吐く度に罪悪感が胸を締め付けられる。

 

「キーア、それ以上無理をするな。君が全てを放棄したとしてもクロスベルがこの世から消えるわけじゃない」

 

「無理なんてしてない……だってこれが一番良い未来だから」

 

 全てを放棄してしまえと言うアリオスに嘘を吐く。

 一番良い未来は“自分”が目覚めない未来。

 ロイド達と言葉を交わさず、ただ眠り続ける未来こそがクロスベルにとって一番安寧とした未来だと分かっていても、その道を選べない自分にキーアは嘘を吐き続ける。

 

 ――ヨコセ……ヨコセ。ソノ“力”ハ吾ノモノダ――

 

 そして日に日に大きくなっていく声。

 いつの間にかキーアにとっての希望は、悪魔に見えていた。

 

『良かったら貰ってくれないかな? またあんな事件があった時にでも使ってくれ』

 

 思い出す言葉とそこに込められた意味にキーアは気付かない振りをして、また嘘を重ねる。

 そしてその嘘と欺瞞を重ねた代償は自分ではなく、“彼”に押し付けるという最悪なものとなった。

 

 

 

 

 

 

 碧の大樹の最奥。

 クルト、ワジ、ノエル。そしてエステルとヨシュアは目の前の白い闇とも言える空間を固唾を飲んで見守っていた。

 彼らが見守る中、白い闇は収束して消える。

 そうして代わりに現れたのはキーアを抱えたロイド達だった。

 

「フフ……戻って来たか……」

 

「キーアちゃん……」

 

「皆さん……よかった……」

 

 それぞれが安堵の息を吐く。

 

「あれ……?」

 

「っ……」

 

 そんな彼らの背後で遊撃士たちは首を傾げる。

 

「ふぅ……ただいま、みんな」

 

「心配を掛けたみたいでごめんなさい。でも見ての通りキーアちゃんは無事よ」

 

 キーアを抱きかかえたロイドとその傍らに寄り添っているエリィがクルト達に応える。

 

「どうやら元の姿に戻れたみたいだが……」

 

「どうしましたキーア? どこか痛いんですか?」

 

 ロイドの腕の中で、呆然とするキーアにランディとティオはその身を案じる。

 

「……ごめんなさい」

 

「え……?」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

「キーアちゃん!?」

 

 急に頭を抱えて謝り出したキーアにロイド達は慌てる。

 

「大丈夫ですキーア。ランディさんが言っていたお尻ぺんぺんは冗談ですから!」

 

「そ、そうだぜ! 本当にやるつもりはなかったから泣くなっ!」

 

「ちがう……ちがうの……」

 

 必死にあやそうとしてくる四人にキーアは首を振って否定する。

 ならば何に謝っているのか理解できず特務支援課メンバーたちは困り果てると、そこでエステルが声を上げた。

 

「ロイド君っ! ■■■君はどうしたの!?」

 

「エステル……」

 

 キーアからエステルに振り返り、ロイドは答える。

 

「■■■君って誰のことだ?」

 

「…………え?」

 

 全く聞き覚えのない名前だと言わんばかりの反応にエステルは固まる。

 

「っ――ちょっと変な冗談はやめてよロイド君!

 ■■■君は■■■君よ! あの《灰の騎神》の起動者の■■■・■■■■■■■のことよ!」

 

「ロイド君達が白い闇の中に入った後、■■■君が追い駆けて行ったのを君達も見ていたはずだよね?」

 

 叫んで訴えるエステルとヨシュアは自分達の言葉の違和感に気付かず、彼らを問い質す。

 

「……そう言われても……」

 

 二人の指摘にロイドは《灰の騎神》を見上げるが、何故帝国の“大いなる騎士”がこの場にいるのか思い出せず首を傾げる。

 それはロイドだけに留まらず、外で待っていたクルト達も同じだった。

 

「…………キーアのせいなの……」

 

 困惑が支配する空気の中、罪悪感に満ちたか細い声が上がる。

 

「キーア?」

 

「キーアちゃん、それどういう事?」

 

 様子がおかしいキーアにロイドはさらに困惑し、エステルが彼女に詰め寄ろうとして目の前に現れた男に止められる。

 

「そこまでにしておきたまえ、エステル・ブライト」

 

「教授……っ!? まさか貴方の仕業なの!?」

 

 咄嗟にその場から飛び退き、エステルは反射的に棒を構え、ヨシュアも無言で双剣を抜く。

 

「いいや、この件に関しては私は何の関与もしていない」

 

「だったら、どうしてみんな■■■君のことを忘れているのよ!」

 

「君が気にする必要はないさ。君達もおそらくこの“大樹”から出れば彼の事を思い出すことはできなくなるはずだからね」

 

 説明を求めるエステルにワイスマンはあっさりとその要求を受け流し、代わりに伝言を伝える。

 

「まるで自分は例外みたいな言い方だな」

 

「そう取ってもらって構わないよ、ヨシュア……今は説明の時間すら惜しい」

 

「時間が惜しい?」

 

 オウム返しに聞き返す言葉に応えず、ワイスマンは話し始める。

 

「彼から君達に遊撃士として仕事の依頼だ……

 内戦が起きている帝国において、彼の妹と二代目《幻の至宝》であるナユタ、そして彼の故郷であるユミルを護り、安全を確保すること……

 そしてそこの《零の御子》を帝国のとある人物に引き渡すこと」

 

「なっ!?」

 

 ワイスマンの突然の提案に、彼女の保護者を自負している者達は驚愕の声を上げる。

 

「どういうつもりだ? キーアを利用しようと言うなら――」

 

 抱いたキーアを守るように抱え直しながら、ロイドはワイスマンを睨む。

 

「君達は私の話まで覚えていないのかな?

 《零の御子》はその出生から短い命を運命づけられている、それを解消するために然るべき知識を持つ者に委ねる……

 それとも君達に彼女の寿命の問題を解決できると? そこの第九位殿に具体的な方法があるとでも言うのかな?」

 

「……流石にホムンクルスについての技術は七耀教会も持ち合わせてはいないかな」

 

 水を向けられたワジは目を伏せ、首を振る。

 

「それなら俺達も――」

 

「残念だが、その者達は彼にとって重要人物なのでね。君達の様な恩知らずを近付けさせるわけにはいかないのだよ」

 

「なっ!?」

 

 謂れのない誹謗中傷に特務支援課一同は絶句し、

 

「言ってくれるじゃねえか……」

 

「まさか私たちがキーアを貴方達、結社に渡すとでも思っているのかしら?」

 

「心外ですね」

 

 キーアをたぶらかすワイスマンにそれぞれ武器を構える。

 

「自分達が何を忘れているのか、それさえも理解できずにいるから論外なのだよ……

 まあいい。元々君達と問答するつもりはないのだから。それで彼らはこう言っているが君はどうするのかな?」

 

 凄むランディ達を無視して、ワイスマンはロイドに――キーアに質問を投げかける。

 

「つい先程の出来事だと言うのに改変をされた彼らにここで何を説明したところで無駄だろう……

 そのような愚物など放っておいて、さあキーア……いや、キーア様どうぞこちらに」

 

 何を思ったのか、その男は意地の悪い笑みを浮かべて恭しくキーアに手を差し出した。

 

「お前っ! その顔で、その言葉を!」

 

 今のゲオルグ・ワイスマンは《D∴G教団》の司祭であったヨアヒム・ギュンターの身体を器にしている。

 彼の今の言動は数ヶ月前の《教団事件》のことをロイド達に否応なく思い出させる。

 キーアは渡さないと言わんばかりにロイドは抱えていた彼女を強く抱き締め――拒絶するようにその小さな手に押し返された。

 

「キーア?」

 

「ごめん……みんな……」

 

 そう言ってキーアはロイドの腕から降りる。

 

「キーアは行かなくちゃ行けないの」

 

 キーアは自分を守ろうとしてくれている家族たちの間をすり抜けるように彼らの前に出る。

 

「あ……」

 

 ロイドが伸ばした手はキーアに届かず空を切る。

 

「ロイド達は忘れちゃったみたいだからもう一度言うね」

 

 そう言って振り返ったキーアの顔は今にも泣き出しそうだった。

 しかし鏡の城での決別にあったはずの悲壮感が消えた、作り笑いにロイド達は言葉を失い、彼女を止める言葉を呑み込んでしまう。

 

「ごめんね、みんな……キーアはちゃんと罪を償わないといけないの……

 でも安心して、どんなに時間が掛かっても必ずみんなの所に帰って来るから……だからその時まで……またね」

 

 その言葉を最後にキーアは《灰》の掌に乗って自分達の元から去って行った。

 去り際にエステル達がキーアの事は必ず守ると約束してくれたが、ロイド達はディーター・クロイスの独立宣言の黒幕だったイアンを逮捕できた達成感に浸ることもできず虚無感に支配されることとなった。

 その後、頬に赤い紅葉を張り付けたマリアベルが現れ、捨て台詞を残して行ったのだがロイド達に彼女を追い駆ける気力はなくなっていた。

 だが、“大樹”から帰還したロイド達に休む暇などなかった。

 国土を護る三体の《神機》と《零の騎神》を失ったクロスベルは直後のエレボニア帝国の侵攻に対抗することなどできるはずもなく、その占領をただ受け入れることしかできなかった。

 

 

  *

 

 

 そして、その別れからロイドには待ち望んでいた、キーアにとってはバツの悪い再会となった。

 

「キーア……」

 

 言いたい事も碌に言えずに別れることになったキーアを目の前にロイドは言葉を詰まらせる。

 言いたいことは沢山あったはずなのに、いざ彼女を前にすると用意していたはずの言葉を忘れてしまう。

 

「ごめんなさい、ロイド」

 

「な、何でキーアが謝るんだ?」

 

 彼女が突撃してこない事に一抹の寂しさを覚えながらロイドは何とか言葉を返す。

 

「むしろ俺達の方が謝らないと……本当ならすぐにでもキーアを追い駆けて帝国に行くつもりだったのに」

 

 ロイド達がキーアを追い駆けられなかったのは、占領した帝国軍によってあの事件であり逮捕できた三人の極刑を宣告されてしまったからだ。

 帝国に冤罪を掛けて市民を扇動し、《D∴G教団》の創始者でもあったディーター・クロイス。

 遊撃士の立場を利用し、周辺国への働きを行っていたアリオス・マクレイン。

 そしてクロスベルのあらゆる情報を取りまとめてディーターを影から操っていた黒幕、イアン・グリムウッド。

 いつか再び、本当の意味でクロスベルが独立するために必要な存在だとマリアベルに諭されたこともあり、ロイド達はこの一ヶ月、彼らの減刑と地盤固めのための地下活動に勤しんだ。

 

「だけど帰って来てくれたってことはもう良いんだよな? キーアの身体はもう大丈夫なんだよな?」

 

 久しぶりの再会だからだろうか、キーアの顔は別れた時からやつれているように見える。

 

「とにかく一緒に帰ろう。エリィにティオ、課長にツァイトも待っている」

 

 手を差し出すロイドにキーアは悲しそうに首を振る。

 

「クロスベルに戻って来たのは偶然なの……だからキーアはまだ帰れない」

 

「そんなっ!」

 

 ロイドはキーアの背後に控えるエステルとヨシュアを睨む。

 その視線にエステルは静かに首を振って謝罪する。

 

「ごめんロイド君。キーアちゃんのお願いで、キーアちゃんの身体を治すより先にエリゼちゃんを探すことを優先して」

 

「っ――キーアの寿命のことなら俺達も何とかする方法を調べているんだ」

 

 ジオフロントの端末に残されたクロイス家の情報をかき集めている。

 断片的ではあるがデータ化されたクロイス家の錬金術の書の一部も見つけ、確かな手応えを感じている。

 だからこそ、ロイドはあの時掴めなかった手をキーアに差し出して訴える。

 

「まだ全然足りないけど、それでも必ず俺達がキーアの身体を治して見せる。だから帰って来てくれキーア」

 

「ちがう……ちがうの……」

 

 自分が行った愚行に気付いていないロイド達にキーアは一層罪悪感に胸を締め付けられながら、首を何度も振る。

 

「キーア……どうして……?」

 

 拒絶されるとは思っていなかったロイドはそんなキーアの反応に立ち尽くす。

 

「キーアが帝国に行ったのは……行ったのは……キーアの身体を治すためじゃない!」

 

「なっ!?」

 

 もちろんそれも理由の一つだが、今はヴァリマールの力によって不死者となっているため、急ぐことではない。

 エステル達も、“彼”の家族の事は自分達に任せて、キーアは治療を優先して良いと言ってくれたが、キーアの意志でそれを拒絶してこの一ヶ月、帝国内をヴァリマールで飛び回った。

 

「キーアは“あの人”の代わりに“あの人”が護るはずだったものを護らないといけないの!」

 

「あの人?」

 

 曖昧なキーアの言葉にロイドは眉を顰める。

 どこの誰だか全く心当たりは思い浮かばないが、キーアについた悪い虫の気配に黒い衝動が胸の奥から湧き上がる。

 キーアはロイドが纏う気配の変化に気付かずに続ける。

 

「それだけでキーアがしたことが償えるわけじゃないけど……

 全部が終わるまで……“あの人”が帰ってくるまでキーアはクロスベルには帰れない」

 

「キーア……」

 

 沸々と湧き上がる不快感がロイドの中で大きくなる。

 だが悪い虫の件を問い質すことをぐっと堪えてロイドは言う。

 

「クロスベル独立も歴史の改竄もディーターさんやイアンさんが考えたことだ。キーアのせいじゃない」

 

「ちがう……ちがうよ……

 キーアの“力”があったからディーターもイアンもそうする“道”を選んだの……全部キーアがいたから……

 キーアが目を覚まさなければ、ロイド達が教団事件で死んじゃうことも、猟兵がクロスベルを襲う事も、帝国に占領されることもなかった……

 全部、全部キーアのせいなの!」

 

「キーア……」

 

 捲し立てるキーアにロイドは思わず怯む。

 

「デミウルゴスがどうして消えることを選んだのか、キーアにはそれが分かるはずだった……

 なのにベルが教えてくれた、みんなといる未来をキーアは選んじゃった」

 

「それの何がいけないって言うんだ!」

 

 自分を責める言葉にロイドは反論する。

 

「いなければ良かった。そんなこと言わないでくれ!

 キーアがいてくれたから俺達は今まで頑張って来れたんだ……

 マリアベルさんが言っていたキーアが俺達に好意を抱かせていたことだって、そんなのただの切っ掛けにしか過ぎない!

 俺達がキーアを好きなのは誰にも侵すことができない“真実”だ。なのにキーアは俺達と過ごした日々が全部“嘘”だったって言うのか!?」

 

「それは……」

 

 訴えかけるロイドの言葉にキーアは目を伏せる。

 

「キーア……」

 

 押し黙ったキーアにロイドは安堵して一歩近付き――

 

「そうだよ」

 

 キーアの拒絶の言葉に足を止めた。

 

「ずっとキーアはロイド達に“嘘”をついていたんだよ」

 

「キーア……」

 

「ずっとみんなを騙して、ずっと良い子の振りをしていた。キーアは本当は悪い子だったの」

 

「だったら、そんな顔をするな!」

 

 思わず怒鳴ってロイドは言い返す。

 

「そんな顔で言う言葉が信じられるはずないだろ!? 取り繕った“嘘”じゃない、キーアの本当の“真実”を教えてくれるまで俺は――」

 

「もう良いだろロイド」

 

 それまで事の成り行きを見守っていたランディがロイドの肩を抑える。

 

「ランディ?」

 

「とりあえずキー坊は元気でやっている。今はそれで良いだろ」

 

「だけど――」

 

「お前には分からないかもしれないが、これは誰かが悪かったって話じゃねえんだ……

 誰よりも自分が許せない。だからケジメをつける。そう言いたかったんだろ?」

 

「ランディ……」

 

 ランディの言葉にキーアは小さく頷く。

 

「それからな。女の秘密はむやみに暴くもんじゃねえ。女の“嘘”は黙って受け入れてやるのが男ってもんだろ」

 

「そんな馬鹿な……」

 

 警察官としてあるまじきランディの言葉にロイドは眉を顰める。

 

「ランディさん、それは極論過ぎると思います」

 

 クルトもランディの言葉を受け入れられずに白い目を向ける。

 

「あれ? 俺、格好いいこと言ったはずなんだけどなぁ?」

 

 真面目な二人の生真面目な反応にランディはわざとらしくおどける。

 

「とにかくだ。キー坊のことはエステルちゃん達に任せて、俺達はいつか帰って来るこのクロスベルを守っていれば良いんだよ」

 

「ランディ……」

 

 全てに納得できたわけではない。それでも受け入れなければいけないのだとランディに諭され、ロイドは“力ずくでキーアを取り戻せ”という囁きを呑み込む。

 

「分かった――」

 

「いいや、君達も取るべきケジメを取ってもらわないとならないな」

 

 その場に新たな声が響く。

 それは遠巻きに見ていたクリスやアルティナ、スウィンのものではない。

 区画の奥から多くの帝国兵を引き連れて、クロスベル総督ルーファス・アルバレアが現れる。

 そしてロイド達が来た道からは、エリィがクレアに、ティオがレクターに促されるように現れる。

 

「なっ!?」

 

 ロイド達にとって不俱戴天の敵とも思える侵略者の親玉の登場に咄嗟に武器を構える。

 

「ふっ……」

 

 そんなロイド達の反応にルーファスは不敵な笑みを浮かべて指を鳴らす。

 その音を合図に彼の背後の帝国兵たちがロイド達に向かって来る。

 

「くっ――ここで捕まるわけには」

 

 既に捕まっているエリィとティオを助ける算段を考えながら、脱出する方法を探るロイド達だったが帝国兵たちはロイド達の前で足を止めると抱えていたパイプ椅子を五つ並べ、足早にルーファスの背後に戻る。

 

「さあ、席に着きたまえ特務支援課の諸君」

 

 呆然とするロイド達に、先に同じパイプ椅子に座っていたルーファスが着席を促す。

 魔導区画に場違いな椅子。

 それも彼の様な貴公子が座るとは思えない質素な椅子だと言うのに、その姿に品を感じてしまうことに息を呑む。

 

「な、何のつもりだ?」

 

「こちらが出した出頭命令を拒否され続けたのでね。だからこそ、こちらから出向かせてもらったまでだよ。何かおかしいかな?」

 

 真意を覆い隠す作り物の笑みにロイドは彼の背後にいる者たちに気付く。

 

「課長……それにマグダエル市長……」

 

 自分達と同じようにパイプ椅子の席を用意される二人。

 そして帝国兵に付き添われながら最新のオーバルカメラを肩に担いだレインズとマイクを握ったグレイスが一同を撮影できる位置に移動する。

 

「私は暫定とは言え、このクロスベルを治めることを任された身……

 民の不満に対しては可能な限り聞き入れるつもりでいる。もちろん治安維持組織の意見などはとても重要だと考えているよ」

 

 あくまでも穏やかな声でルーファスは話し合いを促す。

 

「だが至らない私には何故君達が頑なに帝国の支配を受け入れられないのか理解できない……

 この場で君達を逮捕、拘束しないことは約束しよう。発言の内容についても罪に問うつもりはない……

 クロスベルの統治者として君達が持つ不安を教えて欲しい。同時に私は君達に今のクロスベルがゼムリア大陸全土からどのような目で見られているのか自覚して欲しいと考えている」

 

 あくまでも強制ではないと言いながら、映像を映すことができるオーバルカメラの意味にロイドは既に《籠》の中に囚われたことを自覚する。

 彼の言葉通り、ロイド達が使ったエレベーターへの道を帝国兵は遮る様子はない。

 逃げることは簡単だが、それをすればどうなるか想像は容易だった。

 

「…………いったい、いつから?」

 

「ふふ、それを知りたければ座りたまえ、ロイド・バニングス」

 

 あくまでも穏やかに促すルーファスにロイドは従う以外の選択肢はなかった。

 そしてこの日クロスベル特務支援課は市民が見守る中、解散が宣言されるのだった。

 

 

 

 

 

 

「では最初に聞かせてもらおう……

 君達はクロスベルの独立騒動において、《零の至宝》はあくまで道具であり、彼女を使っていたディーター・クロイスとイアン・グリムウッドこそが諸悪の根源だったと言うのだね?

 しかし、君はそう言いながら二人の減刑を望んでいるわけだ。では果たして誰が一番悪かったと思っているのかな?」

 

「……そ、それは……」

 

「いや、そもそもこの二人と今は留置場にいるアリオス・マクレイン……

 この三人は君の兄であるガイ・バニングスを殺害し、その罪を隠蔽した犯人なのだが、恨みはないのかね?

 逮捕し、余罪を明らかにするのなら理解もできるが君がしていることはそれと真逆な行為なのだが釈明をしてもらえるかな?」

 

 口ごもるロイドにルーファスは矢継ぎ早に質問を重ねる。

 その光景をクリス達は離れて傍観していた。

 

「…………いきなりぶっこんだな」

 

「そりゃあ、資産凍結を正常化させて、各方面に謝罪しなくちゃならなかったり、クロイス家の遺産の調査を邪魔されたり、貧乏くじを引かされていたからな。相当頭に来てるだろ」

 

 クリスの呟きにスウィンがこの一ヶ月のルーファスの働きを思い出して答える。

 

「自業自得です」

 

 そしてアルティナは優しさのない一言を特務支援課に向ける。

 

「やーお疲れー」

 

 そんな三人の集まりにナーディアが労いの言葉を掛ける。

 

「お前もな」

 

「なーちゃんの方は全然楽だったよー。なんたって上と下が優秀だったからねー」

 

 ナーディアの仕事はジオフロントに潜伏して不法なハッキングを行っていたティオと特務支援課のアジトを特定するために動いていたクレアとレクターのサポート。

 しかし、二人の能力によって得た情報とルーファスの統制を右から左に、左から右に流すだけでナーディアは特にこれと言った仕事を果たさずに目標を捕らえることができた。

 

「まあ、流石のロイドさん達も相手が悪かったとしか言えないかな」

 

 実働部隊をこのオルキスタワーの魔導区画におびき寄せるためにわざとキーアの情報を漏らしたことといい。

 何重にも渡る罠を用意されていた場に特務支援課が踏み込んだ時点で勝敗はほぼ決まっていた。

 そして討論に関してもルーファスの独壇場となっていた。

 そもそもの特務支援課の反帝国活動の理由は感情論による部分が大きく、終始ルーファスが会話の主導権を握っていた。

 

「クロスベルは今、存続の危機に立っている」

 

 いくらゼムリア大陸の中心にある立地とは言え、金融都市による資産凍結により今まで積み上げて来た信頼は崩れ落ちた。

 さらにはクロイス家が《D∴G教団》と密接な関係があったこと。

 ガレリア要塞を消滅させるだけの兵器を開発、隠匿していたこと。

 ジオフロントやオルキスタワー、ミシュラムの用途不明施設の開示。

 ルーファスが重ねる質問にロイド達、特務支援課はもちろん同席を許されたヘンリー・マグダエル元市長もクロスベルと言う都市の全容を把握できていないことを露呈させる結果となった。

 

「…………行こう」

 

「良いのか? あそこにいる奴はお前の親友なんだろ?」

 

 踵を返したクリスにスウィンが尋ねる。

 彼が親指で指す先のパイプ椅子に座る親友をクリスは一瞥する。

 

「良いさ。クルトだって負ければこうなることは分かっていたはずだからね」

 

 もしくは自分達が正しいのだと信じて微塵も疑ってなかった様子から負けるとは思っていなかったのかもしれない。

 だが仮にも貴族、武闘派であり、守護役ということもあり政治に疎くても貴族の子息。

 正直、ルーファスの土俵に誘い込まれた以上、クルトを始め特務支援課に勝ち目があるとは思えない。

 むしろこの一ヶ月、地下活動をあえて見逃していたのではないかとさえクリスは考える。

 

「それよりも……」

 

 クリスは振り返り、キーアに向き直る。

 

「っ――」

 

 クリスに睨まれ、キーアはびくりと体を震わせる。

 

「君に聞きたいことがある。“あの人”……《超帝国人》に何があったのかを」

 

 ロイド達クロスベルの行く末が気にならないわけではないが、それ以上にクリスは過去の方が気になってしまう。

 

「え……“あの人”のこと覚えているの?」

 

 クリスの言葉にキーアは目を丸くして驚く。

 

「おそらく僕が《騎神》の起動者だから、後はあそこのルーファス総督も《超帝国人》のことは覚えているよ」

 

「ルーファスも……」

 

 振り返ったキーアは小さく安堵の息を吐く。

 

「ううーん、それにしてもキーアちゃんとクリス君を二人きりにさせないといけないのか……」

 

「別にエステルさん達も立ち会ってくれて構いませんよ?」

 

「そうしたいのけど、僕達はその“彼”についての話を聞いているとその記憶について消されているみたいでね……

 “彼”に妹がいた。“アルティナ”と一緒にいた“誰か”って言う風に関連して何とか記憶は維持できているけど、それも長く持たないだろうね」

 

「そう……ですか……」

 

 ヨシュアの説明にクリスは肩を落とす。

 

「ねえアルティナちゃん? 《影の国》で私たちに会ったこと覚えてる?」

 

「何ですか急に? 貴女のような人は知りません」

 

「そっかぁ……」

 

 アルティナに不審者を見るようなジト目で睨まれてエステルは肩を落とす。

 

「僕達の事は良いけど、《超帝国人》って言う渾名に心当たりはないかな?」

 

 落胆するエステルを他所に何故かヨシュアもアルティナに対して質問を重ねていた。

 

「正直、帝国にまつわる伝承に因んだ渾名をあえて名乗っている人なんて、オリビエさん――オリヴァルト殿下くらいに強烈な印象がありそうな人なんだけど」

 

「そんな不埒な人知りません」

 

 にべもない答えにヨシュアもまたエステルと同じように肩を竦める。

 

「まあ、それは良いとしてクリス君。覚えてる?

 ケルディックでキーアちゃんが乗っていたヴァリマールを君が乗っていたテスタ=ロッサでボコボコにしていたこと」

 

「え……僕がヴァリマールを?」

 

 言われ、記憶を反芻するがケルディックでテスタ=ロッサに乗った後の記憶は正直興奮し過ぎて曖昧だった。

 

「そう言うわけだから、クリス君とキーアちゃんを二人きりにするのはちょっとね……」

 

「今の話を聞く限り、ルーファス総督にも記憶はあるみたいだから彼に仲介に立ってもらうべきなのかもしれないけど……」

 

「ふふ、それならば私が立ち会って上げようじゃないか」

 

 声は背後から突然に気配と共に現れ、一同は一斉にその場を飛び退いて振り返る。

 

「っ――出たわね。教授」

 

 忌々しいと言わんばかりにエステルは顔をしかめる。

 

「彼が……あの……」

 

「フフ、御初にお目にかかります。セドリック殿下。私はゲオルグ・ワイスマン。以後お見知りおきを」

 

「気を付けてクリス君。こいつは人の認識と記憶を操る力を持っているから」

 

「大丈夫です。彼については僕も聞いています。精神に干渉する術に対しての対処も一通り教えられましたから」

 

 立場上、覚えていて損はないと教えてもらった精神防壁をクリスは己の内側に意識し、彼の言葉を話し半分に聞くように注意力をあえて散らして向き直る。

 

「ほう、ルフィナ・アルジェントかそれとも《超帝国人》の薫陶かな?」

 

 その対処法にワイスマンは賞賛を送る。

 

「両方です。貴方と出会う事があったら決して貴方の言葉に心を掴ませないように注意しろと教えてもらいました」

 

「それはそれは、では挨拶代わりに私の力の一端を経験してみるかね?」

 

「ちょっと教授」

 

「大丈夫です、エステルさん」

 

 不穏な提案をするワイスマンを戒めようとするエステルをクリスが止める。

 

「例えこの人が何を言っても、僕の心は奪わせたりしません。僕はこれでもエレボニア帝国の次期皇帝なんですから」

 

 自信満々に宣言するクリスにワイスマンは一言告げる。

 

「《超帝国人》は私が育てた」

 

「詳しく」

 

 クリスはその一言にあっさりと心を掴まれ、その背後でエステルが棒を振り上げた。

 

 

 

 

 






《超帝国人》

エステル
「それにしても《超帝国人》か……」

ヨシュア
「どうしたのエステル?」

エステル
「いや、これまで“あの人”とか“その子”で通していたでしょ? だから本名じゃないけどちゃんと呼べることが新鮮で」

ヨシュア
「人の記憶を操作する。ワイスマンと同じ能力だけど規模と強制力の差を考えると恐ろしい話だね」

エステル
「それにしても《超帝国人》か……ううーん」

ヨシュア
「無理に思い出そうとしない方が良いんじゃないかな。何がトリガーになって記憶が消されるか分からないから」

エステル
「そうなんだけど……何か思い出せそうなんだよね……えっと……あっ!」

ヨシュア
「エステル? まさか……」

ワイスマン
「ほう、流石は剣聖の娘か……」

クリス
「エステルさん……」

エステル
「超帝国人、帝国人、つまりはオリビエ、そしてワイスマン……つまり《魔界皇帝》っ!」

クリス
「ま、魔界皇帝? 何ですかそれ?」

エステル
「確か上半身が裸で、その剥き出しの身体に顔まで広がっている光る入れ墨――」

ワイスマン
「聖痕と言いたまえ」

エステル
「聖痕が刻まれていて、マントに王冠を被った《超帝国人》と言えば《魔界皇帝》って名乗っていた気がする」

スウィン
「いやいやいや、何だその変態」

ナーディア
「なーちゃんたち、そんなエンペラーを超える変態に助けられたの? ちょっとショック」

クリス
「ヨ、ヨシュアさん……?」

ヨシュア
「…………確かにエステルが言っていた人と対面したことがある気がする……
 それにオリビエさんの帝国人にイメージとも一致する?」

クリス
「ワイスマン?」

ワイスマン
「うむ、だいたい合っているね」

クリス
「そんな……裸にマント……僕にはまだそこまで恥を捨てる事なんてできない! 流石です《超帝国人》!」

アルティナ
「超帝国人……やはり不埒な人のようですね」

キーア
「えっと……たぶんエステルが誤解していると思うんだけど……」



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