(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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黎の軌跡は変身ヒーローものみたいですね……

リンやノイでも同じことができそうですかな?
でも、閃Ⅲでは音楽家から灰の王で変身させようかと思っていたけどなぁ……





17話 狂いし者たち

 

 

 

「やっと着いた」

 

 ガイウスと別れ、貴族連合の目を盗んでようやく辿り着いた故郷。

 機能美を追究し、街そのものがラインフォルトの影響を色濃く受ける景観にアリサは帰って来たのだと安堵する。

 

「さてと……あんまり長居はできないのよね」

 

 郷愁をそこそこに切り上げ、コートのフードを被ってアリサは歩き出す。

 トリスタ襲撃からⅦ組は散り散りに逃げることになり、そんな自分達に貴族連合は重要人物と言う事で、保護対象という名目で手配が掛かっている。

 しかしそれも実家に戻れば、貴族側の大義名分は使えなくなる。

 なので人目を憚らず家に帰れるのだが、アリサの意識は仲間たちに向いていた。

 

「ここで車の一台でも確保できたらいいんだけど」

 

 アリサが考えるのは自分をここまで送ってくれた仲間のこと。

 街に入れば、出られなくなることを危惧してガイウスとは街の外で別れた。

 しかし、この道中で彼にかなりの世話になったアリサはこのままで良いとは思っていない。

 ルーレのラインフォルトの下に戻れば安全が得られる。

 しかし、Ⅶ組としてそんな選択肢を選ぶことはできなかった。

 

「あの機甲兵のことも問い質さないといけないしね」

 

 ルーレの門からでも見えるラインフォルトの高層ビル。

 母がどんな思惑であの兵器の開発を認めたのか、特別実習で彼女に切った啖呵のこともありアリサは今のラインフォルトを見極めるためにも踏み出して――

 

「待ってくれっ!」

 

 必死な声が横から掛けられた。

 

「えっ……?」

 

「よかった……間に合った……」

 

 ぜーぜーと運動不足なのだろうか、アリサに駆け寄って来た男は息を絶え絶えにして項垂れる。

 

「オジ様!? どうしてここに!?」

 

 帝都の特別実習から交流ができたルーグマンの登場にアリサは目を丸くする。

 

「ぼ、僕のことはいい……それよりもこれを……っ――」

 

「オジ様!? どこか悪いんですか!?」

 

 ルーグマンはクォーツを差し出そうとして頭を押さえて苦悶の声をもらす。

 そんなルーグマンを案じてアリサは手を伸ばし――

 

「触るなっ!」

 

「っ!?」

 

 拒絶の言葉にアリサは身を竦ませる。

 しかし、ルーグマンは怯えた顔をするアリサに手で顔を隠したまま、優しく語り掛ける。

 

「怒鳴ってすまない。だけど……今は時間がないんだ、アリサ」

 

「オジ……さま……?」

 

 呼び捨てにされたことに違和感を抱かず、アリサは苦しむルーグマンにただ困惑する。

 そんなアリサの様子にルーグマンは優し気な眼差しを向ける。

 

「君の戦術殻、ダインスレイブにこのクォーツをインストールするんだ……

 詳しい機能を説明している暇はないが、それは君達を守るためのプログラムだ。どうか信じて欲しい」

 

 懇願する今のルーグマンと、度々連絡をしていたルーグマンとの印象がずれてアリサは戸惑う。

 しかし、心の何処かで自然と彼の言葉を無条件でアリサは受け入れていた。

 

「いいかい、僕がここから去った後……すぐにだ……すぐにそのプログラムを――ぐっ……」

 

「オジ様っ!?」

 

 一際大きく苦しみ出したルーグマンに先程の拒絶を忘れてアリサは手を伸ばす。

 だが、ルーグマンが後退ったことでアリサの手は空を切った。

 

「すまないアリサ……もう限界のようだ……」

 

 じりじりと後退りながらルーグマンは酷く後悔した眼差しをアリサに向ける。

 

「こんなことしかできない僕を恨んでくれ!」

 

「オジ様っ!」

 

 止める間もなく、ルーグマンはアリサに背中を向けて駆け出した。

 遠ざかって行く背中にアリサはただ手を伸ばす。

 何が起きていたのか、アリサには何も分からない。

 ただ押し付けられるように渡されたクォーツが――これまで幾度となく通信で交わした言葉以上に今のやり取りにアリサは胸が熱くなっているのを感じていた。

 

「何なのよ……?」

 

 何一つ理解できなかった。

 用途不明のクォーツ――プログラムを精査せずにダインスレイブに組み込むことはその戦術殻をくれた本人だったとしても技術屋の娘であるアリサには抵抗のあることだった。

 しかし、それでも今の彼の言葉には無条件で信じて良いと思える何かをアリサは感じた。

 故に、アリサは己の武具である戦術殻を呼ぶ――

 

「ダイン――」

 

「おや、そこにいるのはもしかしてアリサ君かな?」

 

「っ――」

 

 召喚を中断し、聞こえて来た声にアリサは身構える。

 

「おお!? そう警戒しないでくれたまえ」

 

 アリサの警戒態勢におかしなくらいにその男は狼狽える。

 

「ハイデル伯爵?」

 

「トリスタが賊軍に襲われたと聞いたが無事で何よりだ」

 

「っ――」

 

 白々しい言葉にアリサは怒鳴ろうとした言葉を必死の思いで呑み込む。

 

「もしかして君は一人でルーレまで辿り着いたと言うのかい? 流石イリーナ会長の御息女と言ったところかな?」

 

「…………申し訳ありません。ハイデル伯爵。母に無事な姿を一刻も早く見せたいので失礼します」

 

 ハイデル・ログナーはラインフォルト社の第一製作所を束ねる取締役。

 厳密には貴族連合ではないのかもしれないが、通報されれば厄介だとアリサは会話を切り上げる。

 

「ああ、そうだね。引き留めてしまって申し訳ない」

 

 ハイデルも特にアリサを引き留めようとはせず、その言葉を受け入れる。

 彼が自分を捕まえようとしないことにアリサは安堵の息を吐き――

 

「イリーナ会長のところに行くのなら、すまないがこれを会長に渡してもらえるかな?」

 

 そう言ってハイデルは抱えていた箱をアリサに差し出した。

 

「これは……?」

 

 持てない程ではないが、ずしりと重い箱の中身をアリサは尋ねる。

 

「機甲兵に関する重要な部品でね。イリーナ会長に提出を求められていたものだよ」

 

「機甲兵の……」

 

 事も無げに言うハイデルに、アリサは彼に機甲兵のことを問い質すべきか迷う。

 

「私も忙しい身でね。ではアリサ君、よろしく頼むよ」

 

「あ……」

 

 止める間もなくハイデルは踵を返し、駐車してあったリムジンに乗り込むとアリサが止める間もなく発進してしまった。

 

「…………はあ……」

 

 ルーグマンと言い、ハイデルと言い、こちらの意志を無視して勝手に押し付けて行ってしまった大人たちにアリサはため息を吐く。

 

「だけど、これは渡りに船かも」

 

 ハイデル伯爵からの提出物。

 アリサ個人で面会を申し込んでも無視される様が簡単に想像できるが、荷物を届けるという口実があるなら最低でも顔を合わせることができるだろう。

 

「よし……」

 

 アリサは気持ちを切り替えて歩き出す。

 その手には箱と一緒にクォーツも握られていたが、後で良いかとアリサは考えてしまう。

 

 その選択を後悔することを彼女はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「ふ……無駄な足掻きを……だが存分に諍えば良い……

 その諍いが徒労となる絶望、それが貴様を殺す毒なのだから……フフフ……ハハハハハ……」

 

 

 

 

 

 黒銀の鋼都市ルーレ。

 帝国北部ノルティア州の州都であり、四大名門のログナー家が治める都市。

 大陸最大の重工業メーカー、ラインフォルト社を中心に据えた重厚かつ機能美が溢れた建築物に溢れた街は異様な静けさが満ちていた。

 

「……簡単に街に入れたのは良いんだけど」

 

「何か、きな臭いねえ」

 

 本来なら門の前に門番として領邦軍の兵士が駐在しているはずなのに、誰もいなかったことにクリスとシャーリィは警戒心を高める。

 

「あら? 騒ぎを起こさずに街に入れたんですから良いじゃないですか」

 

「まあ……そうなんだけど」

 

 楽観的にこの状況を見ているアルフィンにクリスは歯切れの悪い言葉を返す。

 何故か貴族連合の戦力配置図を持っていた《C》のおかげでノルティア州に飛空艇を着地することができ、そこから徒歩でルーレに辿り着き、街の中に入ることもできた。

 全てが順調だが、だからこそ警戒を緩めてはいけないのだがそれを戦士ではないアルフィンに求めるべきではないとクリスは呑み込む。

 

「それにしてもルーファスさんは流石としか言えないな……」

 

 改めてクリスはルーレ潜入のメンバーを見回して、彼が用意した変装の服に感嘆する。

 シャーリィはⅦ組の制服ではなく、猟兵としての露出度の高い彼女の普段着だが、アルフィンとエリゼが着ている服はどちらもトールズ士官学院の緑の――平民の制服。

 士官学院の知名度を利用し平民だと第一印象を抱かせる方法としては悪くない。

 

「それにしてもキーアちゃんは大丈夫でしょうか?」

 

「《C》とセリーヌが付いているから大丈夫でしょう。それに今回は下調べですから」

 

 来た道を振り返るエリゼにクリスは安心させるように応える。

 確かに《C》にキーアを任せるのは心配だが、ルーファスが信頼を寄せている部下であるのだからこのタイミングで裏切ることはないだろう。

 

「ガイウスと合流できれば人員の振り分けにも余裕ができるから、今回だけは我慢しましょう」

 

「とりあえずここで話していても目立つだけだから移動しない?

 先に来ているガイウスと合流する? それともアリサが入院しているっていう病院に行く?」

 

「そうだね……まずはガイウスと合流しよう……

 導力メールによればダイニングバー『F』を拠点にしているみたいだから、まずはそこに行こうと思う」

 

「ああ、あそこか」

 

 鉄道憲兵隊の繋がりがありそうだったバーのことを思い出しシャーリィが歩き出す。

 

「ダイニングバーですか?」

 

 その言葉に印象にアルフィンは顔をしかめる。

 

「何やら不埒な響きですね」

 

 アルフィンに同調するようにアルティナがジト目をクリスに向ける。

 

「い、いやバーって言ってもいかがわしいお店じゃなかったよ」

 

「本当かしら?」

 

 アルフィンの咎める様な眼差しにクリスは居たたまれなくなる。

 

「行けば分かるよ」

 

 弁明は無駄だとクリスは諦めて歩き出す。

 立体的な構造が特徴のルーレの街の中で、空中回廊の南側に店を構えるダイニングバー。

 しかし、昼間は営業していないのか扉には準備中の札が掛かっており――

 

「ひゃああああああっ!」

 

 まだ営業していないはずの店から貴族の風貌の男が悲鳴を上げて飛び出した。

 男は脇目も振らず、クリス達の間を掻き分けるように走り去って行く。

 

「…………何あれ?」

 

「さあ?」

 

 クリスとシャーリィが振り返って去って行く男に首を傾げたその瞬間、目的地としていたダイニングバーが爆発した。

 

「え……?」

 

「ひゅうっ!」

 

 呆然と立ち尽くするクリス達に対してシャーリィは口笛を吹いて囃し立てる。

 

「何々!? 随分シャーリィ好みなことやってるじゃない!」

 

 そう叫ぶシャーリィに応えるかのように、黒い煙が昇る店の中から二人の人影が現れる。

 

「このクソメイド! 何とち狂ったことしてるのよっ!」

 

「邪魔ですサラ様、そこを退いてください」

 

 紫電とメイドが空中で剣とナイフをぶつけ合って吠える。

 

「え…………?」

 

 Ⅶ組の担当教官とⅦ組が生活する第三学生寮の寮長の本気の戦いにクリスは目を疑う。

 

「どうしてサラ教官とシャロンさんが戦っているんだ!?」

 

 街の中だと言うのに二人は手加減をする様子もなく、本気で銃を撃ち、鋼の糸を振る。

 弾丸が街を破壊し、鋼の糸がまるで刃物のように街路灯や石畳に爪のような斬痕を走らせる。

 

「アハハッ! 二人とも凄い凄いっ!」

 

「言ってる場合じゃないよシャーリィ!」

 

 殺気を剥き出しにして戦う二人に興奮した声を上げるシャーリィをクリスは窘める。

 

「退いて下さいサラ様! 邪魔をするなら貴女であっても容赦しませんっ!」

 

「上等っ! 二年前の借り! ここで返してやろうじゃないのっ!」

 

 叫びながら二人は跳び上がり、刃を交えながらルーレの家屋を縦横無尽に駆けて行く。

 

「…………いったい何が起きてるんだ?」

 

 取り残されたクリスは呆然と呟く。

 第三学生寮での生活から決して仲が悪いとは思わなかっただけに、今の二人の殺し合いにしか見えない戦闘が信じられなかった。

 

「ゴホ……ゴホ……」

 

 呆然と立ち尽くすクリス達の背後で咳き込む声が聞こえて来る。

 

「しっかりしてください。ここまで来ればもう大丈夫です」

 

 肩を貸したダイニングバーのマスターに青年は声を掛けながら、煙を掻き分けるように外へ出て来る。

 

「ガイウス!?」

 

「――っ……クリスか」

 

 ガイウスはクロスベルから一方的に別れた彼の顔を見て安堵の表情を浮かべる。

 

「今、サラ教官とシャロンさんが凄い勢いで斬り合って、何処かに行っちゃったんだけど何があったんだい!?」

 

「それが……俺にもよく分からないのだが」

 

 どう答えて良いのかとガイウスはマスターを介抱しながら言葉を濁す。

 

「とりあえずサラ教官たちを追い駆けた方が良いんじゃない?」

 

 そう提案するシャーリィにクリスはガイウスを見て悩む。

 

「行ってくれ。俺もマスターを安全な場所に送ったらすぐに行く」

 

「分かった。アルフィン達もそれで良いね?」

 

「え…………ええ……」

 

 二人の殺気にあてられて放心していたアルフィンは何とか返事をする。

 そうしてクリス達は街で本気の戦いを行う二人を追い駆け――目にしたのは鋼の糸で簀巻きにされて逆さ吊りにされたサラの姿だった。

 

 

 

 

 

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