(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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 前話にまとめて投稿していた方が良かった話かもしれません。
 とりあえず情報整理はここまでで、次の話から行動を再開させる予定です。







36話 宿題

 

 

 

「《C》はギデオンの話をどう考えますか?」

 

 夜も深まった深夜。

 飛行艇の艦橋でクリスはこの場で自分達の会話を聞いていた《C》に尋ねる。

 

「一人の見解としては興味深いがそこまでだね。聞く価値もない」

 

 あっさりと言ってのける《C》にクリスは呆れる。

 

「本当なら今頃、貴方が貴族連合の参謀として彼らを動かしていたはずなのに随分な言い様ですね」

 

「そうかね? 所詮は自分の感情を制御できない俗物、鉄砲玉くらいにしかならないと思われて当然ではないかな?」

 

 辛辣な言葉にクリスは肩を竦めて答えを言葉にするのを誤魔化す。

 

「彼がもしもオズボーン宰相の前任の宰相か、もしくは次期宰相という立場ならば彼の主張もある程度認めることは吝かではない……

 帝国の未来を憂いていると言いながら、宰相の代わりに帝国を支え導く気概もない彼らをどう評価しろと?」

 

「それは……」

 

「帝国の未来を憂いていると言うのは建前に過ぎない。彼の本質はあくまでも学者、ただ自分の持論の正しさを証明したいだけさ」

 

「そこまで言いますか……」

 

 クリスも帝国解放戦線に掛ける情けなど持ち合わせていないが、《C》程に辛辣にはなれない。

 

「仮にこれからの帝国を背負う意志があったとしても、暴力によって政敵を排除しているため、もはや彼らが作る未来は恐怖政治にしかならないよ」

 

「そこまで分かっていて参謀になる予定だったんですか!?」

 

「ふふふ……」

 

 慄くクリスに《C》は意味深な笑いを返す。

 

「でも、ギデオンの主張に筋が通っていなかったとしてもオズボーン宰相が貴族と平民の対立を促していた黒い噂は事実なんですよね?」

 

「その事に関しても、私は彼らの主張を全て論破できるがね」

 

「ええ……」

 

 話を逸らそうとしたクリスは《C》の自信に満ちた言葉にドン引きする。

 

「《V》なら僕だって論破できるけど……《S》も?」

 

「彼女には同情の余地はあるのを前提として話をするが……

 地上げや平民の財産を地位とミラを使って取り上げると言うのは貴族が行ってきたことなのだよ……

 例えば、Ⅶ組の最初の特別実習で起きた半貴石を巡るトラブルを聞いていないかな?」

 

「あ……」

 

 言われてクリスが思い出したのは、自分が行かなかったバリアハートの特別実習での出来事。

 《ドリアード・ティア》と呼ばれる半貴石を巡る貴族と平民のトラブル。

 規模こそ差はあるが根幹にある問題は確かによく似ていた。

 

「半貴石を結婚指輪にしたいか、漢方として利用したいか……

 これは見解の相違であり、どちらを責める問題ではないだろう……

 しかし中には平民から取り上げた土地や財産を、思っていたものとは違うと簡単に捨て去る者もいる……

 そう言う者が存在することを考えれば、オズボーン宰相の政策は被害者が少ないくらいだろう。それに君はカプア特急便を覚えているかね?」

 

「カプア特急便って……ルーファス教官たちがユミルに来るのに利用したリベールの運輸会社ですよね?」

 

「ああ、実は彼らはリーヴスを治めていた元帝国貴族でね……

 資産や領地を鉄血宰相に騙し取られたという噂があるが、彼らはリベールという新天地で再起することに成功している……

 では何故、政府からの援助があったにも関わらず《S》はテロリストにまで身を落としたのかな?」

 

「それは…………誰もが成功できる程に強くなかったからじゃないですか?」

 

「それもある。だが彼らが大切にしていた“先祖伝来の土地”も開墾を果たした祖先の努力があったからこそのもの……

 祖先と同じ努力をできない……

 ただ継承されたものの上に胡坐をかいているのなら、彼らは平民でありながら昨今の先祖の功績に縋って生きている貴族と同じだと言わざるを得ない」

 

「…………そういう考え方もあるんですね……」

 

 《C》が示す見識にクリスは感心する。

 ギデオンから聞いた解放戦線の幹部たちの生い立ちを軽く聞いた中で《V》の例外はあっても同情できるものを彼らに感じていた。

 

「もっともオズボーン宰相の政策の犠牲者なのだから彼を恨む資格はあることは確かだろう」

 

「…………それじゃあ結局どっちが悪いんですか?」

 

 しかし直前の言動を翻す《C》にクリスは困惑する。

 

「こんな論争など意味はないよ……

 オズボーン宰相は噂通りの悪なのかもしれない……

 しかし、彼が悪だからと言って帝国解放戦線が正当化されるわけではない……

 彼らは既にオズボーン宰相と同じ穴の狢なのだが、彼らはそれを理解していないように感じるね」

 

「そうですよね……」

 

 ノルティア州で遭遇した《V》やクロウは以前に増して人の言葉を聞こうとしない狂気を纏っていた。

 

「それじゃあクロウの言い分の穴って何なんですか?」

 

 クリスは改めて一番気になっていたクロウについて尋ねる。

 

「僕は噂通りアームブラスト市長が鉄路を爆破した真犯人だと思うんです……

 ただ根拠はそれこそクロウ先輩がテロリストだということくらいで……」

 

「ふむ……その質問に答えることはできるが……そうだね、それは宿題にしておこう」

 

「ええっ?」

 

 意外な答えにクリスは声を上げる。

 

「君が本気でクロウ・アームブラストと相対するつもりがあるのなら、彼にぶつけるべきは私の答えではなく、君自身が出した答えであるべきだろう」

 

「僕自身の答え……」

 

「だが、あえてヒントを上げるならジュライは“アルセイユを用意できなかったリベール”という事だ」

 

「リベール……アルセイユ……」

 

 思わぬヒントにクリスは意味も分からず首を傾げ、ため息を吐く。

 

「どうして僕の周りの先生ってスパルタが多いのかな?」

 

 今の《C》や士官学院でのルフィナの個別指導を思い出せば、その前の皇宮での授業が凄く易しいものだったと思えてくる。

 

「それにしても……宿題か……

 そう言われるとオズボーン宰相を思い出すな」

 

 思い出した記憶に連想してクリスはオズボーン宰相との思い出を振り返る。

 

「今の《C》――ルーファス教官はオズボーン宰相に似ていましたね」

 

 ただ率直な感想をクリスは言葉にする。

 学院でのルーファスはまさに貴族とはこうであるべしと言わんばかりの貴公子然とした振る舞いと言動を取っていた。

 それにオズボーンを擁護するような意見もそんな貴族は決して口にしたりはしないだろう。

 

「む……そうかね」

 

 クリスの言葉に《C》はくぐもった返答をする。

 どこかバツが悪い、失言をしてしまったルーファスの反応にクリスはある可能性を閃く。

 

「ルーファス教官、貴方は……もしかして……」

 

「…………何かな?」

 

 歯切れの悪い反応にクリスは確信を得ながら、気付いた真実を突き付ける。

 

「貴方は――オズボーン宰相の隠れファンですねっ!」

 

「……………」

 

 今は畏怖を感じるようになったものの、オズボーン宰相への尊敬の念が消えたわけではない。

 故に同好の士を見つけたようにクリスは目を輝かせてはしゃぐ。

 

「表向きにはルーファス教官は四大名門の跡取り候補だったわけですから、表立ってオズボーン宰相の凄さを称賛するわけにいかないですよね!」

 

「…………」

 

「この手の話題って“あの人”とはできなかったから何だか嬉しいな」

 

「…………はぁ、貴方と言う人は……」

 

 《C》は思わずため息を吐く。その言葉には笑いの気配があった。

 

「馬鹿な子ほど可愛いという言葉があるが、なるほどこれがアルノール家の人誑し力と言うものか」

 

 ユーシスや“彼”を始め、およそ優秀な者達しか周囲にいなかったルーファスにとってクリスはある意味で新鮮な眩しさがあった。

 仕方がないと呆れさせながらも、手を伸ばして助けてしまいたくなる。

 ルーファスが敬う“彼”とは異なるカリスマ性に惹きつけられるものを感じてしまう。

 

「馬鹿って……それは酷くないですか?」

 

「そう言われたくないのならしっかりと宿題を果たし、クロウ・アームブラストと決着を着けてみたまえ」

 

 《C》の指摘にクリスは緩んだ表情を引き締めて――

 

「あの二人とも……」

 

 今まで沈黙を保っていたアルフィンが口を挟んだ。

 

「何だいアルフィン? 今日はもう休んだ方が良いって言ったのに何か用?」

 

「はあ……用があるのはわたくしじゃありません」

 

 ぞんざいな弟の言葉にアルフィンはため息を吐き、隣に座っているキーアに視線を送る。

 

「キーアちゃん……キーアちゃん……」

 

 うつらうつらと舟をこいでいるキーアをアルフィンは揺さぶって呼び掛ける。

 

「だいじょーぶ……だいじょーぶだよエリゼ……きーあ、ねむってないよ」

 

 アルフィンをエリゼと間違いながらキーアは自分は起きていると眠そうな目をこすりながら答える。

 既に時間は深夜。

 良い子は既に眠る時間なのだが、キーアはある理由でクリスと《C》の話し合いが終わるのを待っていた。

 

「クロスベルのことについては明日、改めて話し合うって言ったはずだけど……」

 

「だめ……きーあもちゃんときく……きかないといけないの……」

 

 そんな眠そうな顔を言われてもとクリスと《C》は困ったように顔を見合わせる。

 こうなることが分かっていたからクロスベルのことについては明日に回すことにしたのだが、どうやらキーアはそれを待つことはできなかったようだ。

 

「そうは言っても、今の僕達にできることはほとんどないんだけどな」

 

「ギデオンが提出した暗殺計画の導力メールのコピーだが、クロスベルのジオフロントから送信されたものに違いないが……」

 

「どうかしましたか?」

 

「この送信場所を示しているコードはジオフロントB区画、第八制御端末。そこは何者かによって既に破壊されていたはずだ」

 

「……証拠隠滅ですか……明日、レクターさんに連絡して最後に端末を操作した人物を洗ってもらいますか?

 たぶんディーター・クロイスの協力者だと思いますから」

 

「その程度が妥当だろうね……

 帝国の内戦に集中しなければならない現状で、この情報を公開してクロスベルに暴動を起こされてはたまらない」

 

「そう言うわけで、この事については内戦が終わるまで保留にするから、キーアはもう寝た方が――」

 

「ごめんなさい」

 

「え……?」

 

「ん……?」

 

 突然謝ったキーアにクリスと《C》は揃って首を傾げる。

 

「えっと……B区画の第八制御端末……きっと最後に触ったのは……ロイドたち……です」

 

 キーアの正直な告白にクリスと《C》は天井を仰いだ。

 

「また特務支援課か……」

 

「ロイドさん……」

 

 

 

 

 

 






リーダーは誰だ!?

クリス
「そう言えば一つ、疑問なんだけど」

ギデオン
「何ですか? 私に分かることでしたら全て答えるつもりですが……」

クリス
「そこまでかしこまった疑問じゃないんだけど、どうやって帝国解放戦線のリーダーを決めたのかなって」

トワ
「そう言えば……」

ジョルジュ
「確かに結成が数年前ならクロウはまだ16歳くらいだったのかな?」

アンゼリカ
「ザクソン鉄鉱山で会った《V》は子供をリーダーにして黙っているような物分かりの良い男には見えなかったな」

ギデオン
「もちろん最初は私たちもいがみ合っていたものだよ……
 だが魔女が導く試練を共に潜り抜け、共に修羅場を乗り越えることで私たちは同じ意志を持つ同志なのだと互いの理解を深めた……
 そうして《蒼の騎神》を得る頃には皆、クロウをリーダーと認めていました」

クリス
「…………僕達が旧校舎で受けた試練をクロウも受けていたのか……」

エマ
「それで姉さん……ヴィータ・クロチルダはどういう理由で帝国解放戦線の中からクロウ先輩を“起動者”に選んだんですか?」

アリサ
「そう言えば《騎神》って帝国人じゃなくても乗れるのね?」

エリオット
「でもキーアちゃんも乗れているし……でもクリスの“テスタ=ロッサ”は皇族専用だったね」

ガイウス
「だが確かに疑問ではあるな。戦闘のプロである猟兵」

マキアス
「それに七耀教会の法剣を修めた教会の剣士」

シャーリィ
「あれを戦闘のプロって認めたくないけど、三年前のクロウならあのチンピラの方が強くてもおかしくないよね」

サラ
「それに自分の手でオズボーン宰相を殺したいって言うなら《起動者》の席を他人に譲るとは考えづらいわね」

エマ
「どうなんですか?」

ギデオン
「私は彼女ではないので正確な理由は分かりませんが……その……」

エマ
「その……?」

ギデオン
「………………“顔”……そう魔女は言っていました」

エマ
「…………………へえ……そうですか……“顔”ですか……」

クリス
「おおお、落ち着いてエマ! ヴィータさんの事だからきっと冗談――ひぃっ!」

エマ
「ふふ、フフフフフ、姉さんったら……くすくす……」




*ここでは《蒼》の試練は帝国解放戦線のメンバーで行い、その過程で絆を深め合ったということにしています。


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