(完結)二人の緋皇 ―閃の軌跡Ⅱ―   作:アルカンシェル

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 長らくお待たせして申し訳ありません。
 やはりⅦ組+先輩とクロウの関係を描写するのに難しいですね。

 少し強引な展開となってしまいましたがご容赦ください。









37話 豹変

 

 

 

 

「それではアプリリスさん達はこのままユミルの人達についてくれるんですね?」

 

「ええ、いつまでになるかまだ分かりませんが、最低限でも生活が安定するまでノーザンブリアに帰るつもりはありません」

 

 アプリリスの答えにクリスは安堵の息を吐いて感謝する。

 カレイジャスでセントアークに無事に辿り着いたユミルの住民の今後の展望はまだ明確に決まっていない。

 ひとまずはセントアークで、その後は戦線から離れることを目的でパルムへ。

 そこからリベールに亡命するかは、疲れ切った彼らにそこまで考える余裕はない。

 

「それは助かります。できることなら僕達も最後まで付き合いたかったんですが……」

 

「御身の立場を考えれば仕方がないでしょう……

 それに救ってもらったのに、“彼”の故郷を守り切れなかった私たちがここで帰るわけにはいきません」

 

「アプリリスさん……」

 

 彼女の気持ちはクリスも良く分かる。

 クリスも出来る事ならユミルの人達を優先したいが、周りがそれを許してくれない。

 

「ユミルの人達のこと、よろしくお願いします」

 

「勅命、承りました」

 

 恭しく頭を下げてアプリリスは退出する。

 

「それじゃあみんな、これから僕達がどうするか話し合おうか」

 

 クリスは己の仲間達に向き直り、第二、第三のケルディックやユミルが生まれないための話し合いを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のユミル崩落とサザーランド州の消耗率はこんなものね」

 

 そう報告したアリサは席に着く。

 

「ありがとうアリサ……それにしても、分かってはいたけど……」

 

 改めて知らされた自分達の状況にクリス達はため息を吐く。

 クロスベルから乗っていた飛行艇はオスギリアス盆地で簡単な修理はされたものの、オーバーホールが必要であり今後の利用は推奨できない。

 《翠のティルフィング》はカレイジャスに搭載していた交換パーツのおかげで修復は完了している。

 エリオットが使っていた《琥珀のティルフィング》も酷使が酷かったものの、まだ十分に戦える。

 それに対してマキアスが乗った機甲兵はほぼ再利用不可能だった。

 

「肝心の《騎神》も“テスタ=ロッサ”以外は当分動けそうにないか」

 

 三機とも損傷が激しかったのを《灰》と《桃》の二機の神気をつぎ込んで《緋》だけをすぐに戦闘ができる程に回復させた代償でもある。

 イストミア大森林の霊場が使えなくなったことから、《灰》と《桃》を復活させるには別の霊場が必要になる。

 

「セントアークにも騎神を封印していた霊場は一応あるけど、二機まとめて修復できる程じゃないわよ」

 

「それに動けるようになったと言っても《緋の騎神》も休ませなければいけません」

 

 セリーヌとエマの意見にクリスは聞き返す。

 

「他の霊場の当てはないの?」

 

「ここから一番近い場所だと……やはりレグラムのローエングリン城でしょうか」

 

「レグラムと言えば、フィーがクロスベルで別れて向かった場所だな」

 

 エマの答えにガイウスが追加の情報を付け加える。

 

「レグラムにはラウラがいるらしいけど……それにユーシスも……」

 

 クロスベルにいた時点ではクロイツェン州統一を目的に動いているアルバレアと内戦に参加しないと反対するアルゼイドの意見を違えている状態にあった。

 その矢面に立っているのはⅦ組のユーシスとラウラである。

 

「ユーシスはもう貴族連合になったと思うべきなのかな?」

 

 Ⅶ組として特別実習を通して、貴族の歪みを共に見て来た仲間がどうしてとクリスは戸惑う。

 

「正直、信じられないな」

 

 クリスの呟きにマキアスが頷く。

 

「認めたくはないが、良くも悪くもユーシスには一本の筋が通っていた……

 あの男が普段から言っていた“貴族の義務”と言うものが僕には分からなかったが、今の貴族の無法を見て見ぬふりをする男ではなかったはずだ」

 

 ユーシスに対しての考えを語ったマキアスはふと、訪れた沈黙に首を傾げる。

 

「まさかマキアスの口からユーシスを擁護する言葉が出て来るなんて……」

 

「流石は貴族と平民の架け橋、《超帝国アイドル》と言うべきかしら?」

 

「なんだか感慨深いね」

 

 と、クリスとアリサ、そしてエリオットがマキアスの成長に浸り、他のⅦ組も苦笑しながらも同意する。

 

「ええいっ! 僕のことは今はどうでも良いだろ!?」

 

「えっと確かにユーシスさんらしくない行動ですけど、何か事情があるかもしれません……

 貴族の家には私たちでは分からないしがらみがありそうですから」

 

「そこら辺は本人に直接聞けば良いんじゃない?

 と言う事で、次の目的地はレグラムで良いの?」

 

 激昂するマキアスを宥め、エマが議題を進行させシャーリィが指摘する。

 

「うん、《騎神》の回復を考えるならそれが妥当だと僕は思う。ラウラやフィー、それにユーシスとも合流したいし」

 

「で? ラウラとユーシス、どっちに着くつもりなの……

 いや、ユーシスと戦う覚悟が坊ちゃんはちゃんとできてるの?」

 

「それは……」

 

 続くシャーリィの問いにクリスは黙り込む。

 

「クリスだけじゃないよ。みんなもユーシスやそのクロウ先輩って人と本気で殺し合うつもりはあるの?」

 

「殺し合うなんて……そんな……」

 

 物騒なシャーリィの言葉にトワが慄き、場に重苦しい空気が流れる。

 

「そう言う君はユーシスと戦えるのかい?」

 

 即答できない苦し紛れにアンゼリカが聞き返す。

 

「当然」

 

 その質問にシャーリィは即答で言い切った。

 

「シャーリィは今、帝国政府にクリスを守れって依頼でⅦ組にいるんだよ……

 例えここにいる誰が敵に回ったとしてもシャーリィがすることは変わらない」

 

「っ……」

 

「当然、そっちが気にしているクロウ先輩もね」

 

 付け足された名前にトワ達は息を呑む。

 

「それは――」

 

「ねえ、何でそのクロウ先輩に拘るの?」

 

 思わず反論しようとしたトワの言葉はシャーリィに遮られる。

 

「クロウ先輩は帝国解放戦線で、テロリストなんだよ?

 シャーリィ達、猟兵と同じ……ううん、それ以上の人殺しなんだけど、そこら辺ちゃんと分かってるの?」

 

「あ……」

 

 突き付けられた言葉にトワは押し黙る。

 

「根は良い人だから? 憎めない人徳があるから?

 復讐のために一つの都市を焼き払う事を容認するような奴が本当は善人?

 いくら何でも猟兵だってそこまではやらないのにさ」

 

「いや、しかし……」

 

 クロウがして来たことを突き付けて来るシャーリィにアンゼリカは返す言葉が出て来ない。

 

「クロウ先輩にとって、真の仲間は先輩達じゃなくて帝国解放戦線だったって事でしょ?」

 

「……クロウのことを親友だと思っていたのは僕達の独りよがりだったって言うのかい?」

 

「裏切った相手に執着し過ぎ」

 

 ジョルジュの反論をシャーリィはその一言で切って捨てる。

 

「ねえクリス」

 

 煮え切らない先輩達に呆れたため息を吐いてシャーリィはクリスを呼ぶ。

 

「何だいシャーリィ?」

 

「まさかクリスもクロウを殺すなって言ったりしないよね?」

 

 シャーリィの質問にクリスは答えず、目を伏せる。

 

「そんな甘いことを言うようなら、クリスはここでふん縛って監禁するんだけど」

 

「ええっ!? 何でいきなりそんな話に?」

 

「半端な覚悟と意志で戦った所で無駄死にするなら立場上シャーリィはクリスを守らないといけないから……

 戦う事までは否定しないけど、あいつらってオルキスタワーで自爆戦術使って来た奴等なんだよ、変な仏心を出したら死ぬのはクリスの方なんだよ」

 

「僕は……」

 

 胸に手を当ててクリスは考える。

 

「正直、僕はクロウ先輩との面識はあまりないんだよね」

 

 最初は学院ですれ違う上級生くらいの認識。

 彼と関わりを持つようになったのは帝都での特別実習から。

 その後でもリベールへの小旅行や単位不足の補習代わりにガレリア要塞への下級生の引率で顔を合わせたくらいでしかない。

 

 ――思えば、ガレリア要塞の襲撃もクロウ先輩が内部から手引きしていたって言う事なんだろうな……

 

 あの時の凄惨な戦場を思い出し、胸の奥に渦巻く黒い感情をクリスは自覚する。

 

「だけどこれだけは言える。僕はクロウ・アームブラストを許せない」

 

「クリス君っ!?」

 

「トワ会長、クロウ先輩はテロリストです……

 たくさんの人を殺し、オズボーン宰相を撃ってこの内戦の引き金を引いた大罪人です……

 僕は次期帝国の皇帝になる者として、これ以上彼らの暴挙を見過ごすわけにはいきません」

 

「でもっ!」

 

 一見すれば冷静な言葉を並べるクリスだが、その瞳には抑え切れないクロウへの憎悪が見えてトワは声を上げる。

 

 そんな二人を一瞥し、クリスは会議室の一同を見渡して宣言する。

 

「僕はクロウ・アームブラストを討つ」

 

 はっきりと言葉にすると、それまで悩んでいたしこりが消えたようにクリスの口は動き出す。

 

「僕達はこれまで特別実習を通して帝国の歪みを見て来ました」

 

 目を伏せて思い出せば色々あったと懐かしい気持ちが込み上げてくる。

 

「平民を見下して好き勝手振る舞う貴族もいれば、オズボーン宰相の威を傘に礼節を忘れた平民たちもいた……

 争いの切っ掛けは確かにオズボーン宰相だったのかもしれないけど、争う原因はずっと前からあったんだと思う」

 

 マキアスの従姉の事件や士官学院で貴族生徒が平民生徒を見下している現状にはオズボーン宰相は関係ない。

 

「何より、オズボーン宰相に国の舵取りを任せたのは僕の父でもあるユーゲント皇帝です……

 皇族として僕はクロウ先輩や帝国解放戦線の怒りと向き合う義務から逃げるわけにはいかない。だから僕はクロウ・アームブラストと戦います」

 

 言いたいことを言えて息を吐くと改めてクリスは一同を見回す。

 

「僕のクロウ達と戦う“根拠”はこんなところかな?

 このまま貴族連合の好きにさせてしまえば問題は帝国だけに留まらないって言うのも理由は二の次になるけど、それで良いかい?」

 

 同席を許したギデオンに問いかければ、彼は恭しく頭を垂れる。

 

「ええ、無人操作の《機甲兵》が開発されたとは言え、クロウの《蒼の騎神》が貴族連合の最高戦力だと言うことは変わりません……

 貴族連合の野望を崩すのなら、クロウを倒すことが一番の近道でしょう」

 

 クリスの宣言にギデオンは昔のことを思い出す。

 

「思えば、最初に会った時から彼は変わってしまった……

 変えてしまったのは私なのでしょう。どうか彼を止めて下さい。そのためならこの身はいかようにしてくれて構いません」

 

「分かった」

 

 ギデオンの覚悟に頷いてクリスは仲間たちに向き直る。

 

「そう言うことだ……もし君達が顔見知りとは戦えないと言うなら、ここで降りてくれて構わない。どうする?」

 

 ギデオンの言葉に頷き、クリスは改めて一同に覚悟を問う。

 

「シャーリィはまだ帝国政府に契約を切られてないから当然付き合うよ」

 

 いの一番に答えたのはシャーリィだった。

 

「僕は…………もう貴族連合の全てを滅ぼしたいとは思ってないけど、父さんを殺したクロウ達を好き勝手させちゃいけないと思う」

 

 彼女に続くのはエリオット。

 先の戦闘に後ろめたさはあるものの、憎しみだけではない理由で戦い続けると告げる。

 

「あたしもクロウ達を倒すことには賛成よ」

 

 そう答えたのはアリサ。

 

「ラインフォルトのことだけじゃない。クロウや貴族連合には聞かなくちゃいけないことがあるから」

 

「私も……私も異論はありません」

 

 重い口を開き、エマもまた“根拠”を口にする。

 

「クロウ先輩は義姉さんが導き手となった《起動者》です……

 でも義姉さんと彼らが袂を分けている以上、《蒼の騎神》は私たち《魔女の眷属》が回収しなければならない“力”です」

 

「俺はみんなと違って大層な理由があるわけではないが」

 

 そう切り出したのはガイウスだった。

 ガイウスはギデオンを一瞥して口を開く。

 

「俺の故郷であるノルドは二度に渡って帝国解放戦線と貴族連合に戦火を持ち込まれた……

 あの穏やかで美しく、俺が愛してやまない大地を汚した報いを受けさせる……

 それが俺の戦う理由だが、それ以上に俺はⅦ組が好きだ」

 

「え……?」

 

 突然のガイウスの告白じみた言葉に一同は虚を突かれる。

 

「まだみんなと出会って半年ほどだが、俺にとってお前達はもはや兄弟同然だと思っている……

 そんな兄弟を助けるのに、それ以上の理由はない」

 

「ガイウス……ありがとう」

 

 臆面もなく言われた言葉にクリスはこそばゆいものを感じるが、自然と御礼が口に出ていた。

 

「みんな……」

 

「トワ……もう無理だ」

 

「でも……クロウ君がおかしくなっちゃったのはきっと“呪い”のせいだから」

 

「“呪い”……」

 

 トワが漏らした呟きにマキアスはあの時の衝動を思い出す。

 

「そうだな……“呪い”なら仕方がないか……」

 

 ガイウスもまた、ノルドを汚された時に溢れた激情を思い出し、クロウへの敵愾心を緩める。

 

「“呪い”のせいなら仕方ないわよね」

 

「むしろ“呪い”なら私はクロウ先輩を責められません」

 

 アリサとエマもまたそれに同調する。

 

「君達は……何を言っているの?」

 

 直前までのクロウを打倒する意識は何処へ行ってしまったのか、前言を撤回するように彼を許そうとしている空気にクリスは困惑する。

 そんなクリスにマキアスが向き直る。

 

「僕にとってクロウ先輩は貴族ではない、憎むべき相手じゃなかった……

 それでもカイエン公の手先だったことを考えれば、僕にとって敵なんだけど……」

 

 うまく整理がつかないとマキアスはため息を吐く。

 

「とりあえず僕はクロウ先輩に騙し取られた50ミラの借りを返すために一発殴りたい」

 

「50ミラ?」

 

「ああ、入学した直後くらいだったかな?

 手品を見せてやるから50ミラを貸してくれと言われて、そのまま持って行かれたんだ」

 

 既視感のある出来事がマキアスの口から語られて、クリスはそれを思い出す。

 

「僕も……同じことをやられた」

 

「え……クリスも?」

 

 クリスとマキアスは無言で顔を見合わせ、揃ってガイウスとエリオットに視線を送る。

 

「俺は手品ではない……

 自動販売機の下に落ちた硬貨を必死に取ろうとしていた姿があまりにもあれだったから……50ミラを貸したことはある……」

 

「えっと僕は学食で……」

 

 二人はそのままアリサとエマに視線をパスする。

 

「あ、あたしはないわよ」

 

「むしろサラ教官に……」

 

「ちょっ!? え、エマ。あれはその日の内に返したでしょ? 本当に寮に財布を忘れただけなのよっ!」

 

 エマの言葉にサラは狼狽えて弁明する。

 

「そう言えば、ブレードの勝ち分まだ払ってもらってなかったな」

 

 そしてジョルジュの呟きにより場は静まり返った。

 

「ちなみに50ミラもあれば狙撃用の弾丸が一発は買えるよ」

 

 シャーリィの余計な豆知識で更に場の空気が冷える。

 たかが50ミラ、されど50ミラ。

 自分の50ミラがオズボーン宰相を撃った弾丸に変わったと思えばあまりいい気はしない。

 

「どうやら貴族連合や帝国解放戦線という前にあのバカはケジメを着けさせなければ――」

 

「あ……」

 

 ため息を吐き、この議題をまとめようとしたアンゼリカはトワの漏らした声に止まった。

 

「トワ……」

 

「な、何でもないよアンちゃん!」

 

「まさかトワ会長も貸していたんですか?」

 

 両手を振って誤魔化そうとするトワにクリスが図星の指摘する。

 

「えっと……」

 

 視線を彷徨わせて答えを濁すトワに一同はいろいろ察する。

 

「その様子だと50ミラでは済まないようですね」

 

「なら100ミラかしら?」

 

「えっと……」

 

「違うようですね。でしたら200ミラ、それとも300ミラですか?」

 

 エマの質問にトワは黙り込む。

 

「まさか500ミラ?」

 

「べ、別に一度に貸したわけじゃないよ。一年生の時から少しづつ……それに通商会議に行く時、半分は返してもらったから……その……」

 

「つまり元は倍の1000ミラだったの!?」

 

「しかも通商会議と言えば、ガレリア要塞の列車砲で……トワ会長を巻き込むと分かっていたんですよね……」

 

 エリオットは総額に驚き、マキアスはそれに気付いてしまう。

 

「いや……まさか……そこまで……」

 

「でも……学生の顔がフェイクでしかないなら、それがクロウ・アームブラストの本性」

 

 再び沈黙が訪れる。

 その静寂にギデオンはいたたまれず、肩身を小さくして俯いて沈黙に徹する。しかし――

 

「ギデオン、当時クロウは列車砲でオルキスタワーを撃つことに何か言及していたかい?」

 

 穏やかな声でアンゼリカがギデオンに話を振る。

 

「い……いいえ、特に何も……トールズ士官学院の学生が通商会議にいたと言うのは私にとっても初耳です」

 

 殺気を向けられているわけではないが、ギデオンは嘘偽りなく答える。

 そんな彼の答えにアンゼリカは穏やかな笑みを浮かべて頷き、クリスに進言する。

 

「クリス君……いえ、セドリック殿下」

 

「な、何ですかアンゼリカ先輩?」

 

「クロウは私が殺します」

 

「え……でも……」

 

「父、ゲルハルトの事……

 そしてクロウの事、近くにいながら彼らの本質に気付かなかった己の不明には恥じる気持ちしかありません……

 この汚名を濯ぐためにも、どうか私に奴を八つ裂きにする権利を任せて頂きたい」

 

「アンゼリカ先輩っ!」

 

「アンちゃん落ち着いてっ!」

 

 物騒な物言いにアリサとトワが声を上げる。

 

「しかし――」

 

「とにかくダメったらダメッ!」

 

 暴れ荒ぶるアンゼリカにトワが叫んだ。

 

 閑話休題――

 

「さっきも言った通り、クロウは僕にとっての“壁”ですからいくらアンゼリカ先輩でも譲るわけにはいきません」

 

 荒ぶるアンゼリカをどうにか宥めてクリスが主張する。

 

「ですがっ!」

 

「気持ちは分かります。ですが、アンゼリカ先輩にはクロウと戦う術がないでしょ?

 持ち出して来た《機甲兵》で《騎神》と戦えると考えるなら甘いですし、《機神》だって――」

 

「しかし、それでは約束が違うじゃないですか」

 

「約束……?」

 

 心当たりのないクリスは首を傾げる。

 

「《C》に……クロウに辿り着くために協力してくれると言っていたじゃないか。だから私達をプロジェクトに参加させてくれた」

 

「…………その約束をしたのは僕じゃない」

 

 アンゼリカの訴えにクリスは首を横に振って答える。

 

「……え?」

 

 その言葉を漏らしたのは誰だったのだろうか。

 そう言う理由でプロジェクトに参加し、自分達もティルフィングのテストパイロットをしていたⅦ組はクリスの答えに首を傾げる。

 

「…………君達は“ティルフィング”がどうして開発されたのか……それも分からないんだね?」

 

 今まであえて触れなかった話題をクリスは指摘する。

 

「何を言っているんだ、クリス?」

 

「“ティルフィング”はクロスベルやガレリア要塞に現れた《騎神》に対抗するために旧校舎で発見されたヴァリマールを参考に開発されたものだったはず」

 

「ええ、《テスタ=ロッサ》の起動者になったクリスと一緒に戦えるようにって、Ⅶ組をオリヴァルト殿下がテストパイロットに抜擢してくれたのよね」

 

「違う」

 

 ジョルジュとアリサの答えをクリスは首を振って否定する。

 

「“ティルフィング”は本来、内戦なんかに使っていいものじゃない……

 “ティルフィング”は……あの人が残してくれた“力”なのに……どうしてみんな、忘れているんだ……」

 

「クリス……?」

 

「何を言っているんだ君は?」

 

 一同はクリスの言葉を理解できず戸惑う。

 その顔に、その言葉にクリスは憤りを感じずにはいられない。

 

「そうですか……僕があの人の代わりにアンゼリカ先輩達と約束をしたことになっているんですか……他に僕はみんなとどんな約束を交わしていましたか?」

 

 今すぐ叫び出したい衝動を抑え込んでクリスは自分の認識と仲間たちの認識の差を擦り合わせる。

 

「約束……そう言われたらあれだろうか?」

 

「卒業する前に、オリヴァルト殿下に勝負を挑むから手を貸して欲しいということだろう?」

 

 ガイウスとマキアスの答えにクリスは絶句した。

 

「無理を言って進学を早めたから、その成果を集大成を見せたいって言っていたわよね?」

 

「ええ、具体的に何で勝負をするかまでは決めていないようでしたけど」

 

 続くアリサとエマの言葉にクリスは体を震わせる。

 クルトの例もあり覚悟はしていたが、ここまで仲間と自分の間に溝ができていたとは思わなかった。

 

「クリス? どうしたの顔が真っ青だけど?」

 

「ま、複雑でしょうね。本当なら挑戦すると決めていた相手と手を取って協力しないといけないのは……

 内戦の終わり方次第では、もう競争する機会がないんだから」

 

 呆然とするクリスをエリオットが気遣い、サラが慰めの言葉を掛ける。

 二人だけではない。

 クリスの異変を感じ取り、Ⅶ組のみんな、先輩達、それにエリゼとついでにギデオン。

 クリスと同じく顔を険しくしているアルフィンとキーアを除いて、その場にいる誰もがクリスを気遣っている。

 そんな彼ら気遣いをクリスは――

 

 ――気持ち悪い……

 

 その一言をクリスは何とか言葉にせずに吞み込んだ。

 これまでⅦ組の誰もが“彼”のことを覚えておらず、キーアが《灰》に乗っていることにさえ疑問を感じていなかった。

 見て見ぬふりをしてきた“欺瞞”に、自身の約束さえ歪んでいたことにクリスは気付く。

 

「クリス君? どうしたの顔が真っ青だよ?」

 

「…………どう……して……」

 

 気遣う仲間たち。

 その表情は本心からクリスを気遣っているのは分かる。

 しかし、もはやクリスにはその顔や言葉はとても薄っぺらいものにしか感じられなかった。

 

「どうしてみんなっ! ■■■さんのことを忘れているんだっ!」

 

 ここまでの不満をぶちまけるように、胸の奥の黒い感情に突き動かされるようにクリスは気付けば叫んでいた。

 

「僕がした約束はそんなものじゃないっ!」

 

「ク、クリス?」

 

 突然のクリスの激昂に一同は訳が分からず戸惑う。

 そんな間の抜けた表情にクリスは理不尽と分かっていても憤りを感じずにはいられない。

 

「どうしてみんなおかしいって思わないっ!?」

 

 その訴えは理不尽だとはクリスも分かっている。

 しかし、それでももう黙っていることはできなかった。

 

「内戦が始まるまで僕達にはもう一人、大切な仲間がいたのに!

 僕の目標もっ! “ティルフィング”もっ! 全部、全部あの“人”がくれたものだった……

 みんなだってあの“人”に返し切れない恩があるはずなのにどうしてそんな簡単に忘れることができるんだっ!」

 

 ここまで“彼”を覚えていたのはどれも一度は“彼”と敵対した者たちばかり。

 今はもう思い出せなくなっているエステル達もまだ“彼”のために動いてくれているのに、Ⅶ組は組み替えられた約束を疑問も感じずに受け入れている。

 なまじ記憶を保持している者達がいるだけに、Ⅶ組の絆の不甲斐なさを意識せずにはいられない。

 

「クリス……」

 

「いきなり何を言っているんだ?」

 

「少し休んだ方が良いんじゃないですか? 聞けば目覚めてからずっと張り詰めていたようですし」

 

 クリスの訴えにⅦ組は揺れることはなかった。

 彼らの心配が《ARCUS》を通じてクリスは理解できる。

 しかし、その生温い気遣いは今のクリスにとって神経を逆撫でするものだった。

 

「違うっ! おかしいのは君達の方だっ!」

 

「そう言われても……」

 

 錯乱しているようにしか見えないクリスの豹変に彼らは戸惑う。

 

「じゃあ夏至祭で《暗黒竜》を倒したのは!?

 ノーザンブリアの塩化を浄化したのは!?

 オルディスに現れた魔煌兵の大群を退けたのは誰なんだ!?」

 

「誰って……」

 

 一同は顔を見合わせ、トワが代表して答えた。

 

「全部オズボーン宰相のおかげだよね?」

 

「…………は?」

 

 トワが何を言っているのか理解できず、クリスは間の抜けた声を漏らした。

 

「だから全部オズボーン宰相がしてくれたことでしょ?」

 

「その前のノルドでの帝国と共和国との抗争も止めてくれたのもオズボーン宰相だったな」

 

 トワの答えを補強するようにガイウスが語る。

 

「貴族への偏見に暴走する僕を諫めてくれたのもオズボーン宰相だった」

 

「僕は父さんと喧嘩をしたんだけど、仲直りする切っ掛けを作ってくれたのはオズボーン宰相だったよ」

 

 そしてマキアスとエリオットもそれに続く。

 

「私がリベールに家出した時に相談に乗ってくれたのもオズボーンの叔父様だったわね」

 

「ヴィータ姉さんが結社から離れることができたのもオズボーン宰相のおかげですね」

 

 アリサとエマもまたオズボーン宰相への恩を感じさせる事を言い出す。

 

「……何を……何を君達は言っているんだ?」

 

 みんなが示し合わせたようにオズボーンのおかげだと口を開く異常な光景にクリスは慄く。

 

「…………これが因果を組み替えるって言う事なんだね」

 

 おぞましいと吐き気を覚える光景を前にキーアはこれが自分達がしようとしていた改変なのだと、罪悪感に俯く。

 

「これがあり得ない心変わりや不自然な意識の変化……あの人が言っていた通りだ」

 

 ――ようやく分かった……

 

 愕然と肩を落としながら、クリスは“彼”が“ティルフィング”を与えておきながら自分達に共に戦って欲しいと言わなかったのか理解した。

 

「――別れよう」

 

 一抹の寂しさを感じながらクリスは突然、そんなことを言い出した。

 

「クリス君?」

 

「僕はもう……君達に背中を任せて戦えない」

 

 先程まで聞いたそれぞれの意識表明はもう心には響かない。

 

「何を言い出すんだ君は!?」

 

「言葉通りの意味だよ。僕はもう君達を信頼できても信用できない」

 

「クリス!?」

 

「君達はこのまま兄上と合流すると良い……

 対機甲兵兵器として“ティルフィング”を持っている君達を兄上達はきっと歓迎してくれるよ」

 

 一方的に言ってクリスは席を立つ。

 

「ちょっと待ちなさいクリス!」

 

 そのまま扉へと歩き出したクリスの前にサラが立ち塞がる。

 

「退いて下さいサラ教官」

 

「そう言うわけにはいかないわ。何が不満なのかちゃんと言葉にして言いなさい」

 

「言っても貴方達には理解できないですよ」

 

 嘲笑するようにクリスは言い切る。

 サラ達にとっては突然心変わりしたように豹変したクリスに困惑する。

 

「クリス、君はいったいどうしてしまったんだ?」

 

「僕達の絆はこんな風に壊れるようなものじゃなかったはずだ」

 

「絆ね……」

 

 白々しく聞こえる“絆”という言葉をクリスは鼻で笑う。

 “彼”のことを忘れてしまっているというのに、どの口が“絆”だと宣うのだろうか。

 

「オーブメントに頼って作った“絆”にどれだけの価値があるんだい?

 オーブメントを使って人の心を覗いてその人のことを理解できたとでも? クロウのことを何も気づかなかったくせに」

 

「――っ」

 

 クリスの指摘に先輩達は息を呑む。

 もっともクリスにとって、それは自分に向けた皮肉でもあった。

 

 ――《ARCUS》のおかげで僕はあの人と対等になれたと思っていた。でもそれは違った……

 

 クロウが本心を隠していたように、“彼”はⅦ組を戦いに巻き込まないように線引きしていた。

 彼がクロスベルに向かう時、何を考えていたのか今ではもう知る術はない。

 

「だからってあんた一人で貴族連合と戦うつもりなの!? そんなの担当教官として――」

 

「サラ教官、いつまで貴女は教官でいるつもりですか? これは特別実習なんかじゃないんですよ」

 

「それは……」

 

「それでも僕の前に立ちはだかるなら……ええ、もう良いです……僕は《Ⅶ組》を止めます」

 

 言葉にしてみれば驚くほど簡単にその言葉が出て来たことにクリスは自分でも驚いた。

 “呪い”に翻弄されるしかない仲間達。

 それとも“彼”がいない学生生活に価値を感じていなかったのか。

 

「キーア、ギデオン。場所を変えて話をしよう」

 

「え……う、うん……」

 

「……分かりました」

 

 クリスの呼び掛けに二人は切り捨てられたⅦ組を気遣いながらも頷き、席を立つ。

 

「待ちなさいセドリック!」

 

 誰もが呆然とクリスの豹変に驚き、見送る中でアルフィンが声を上げる。

 制止の声を無視してクリスは会議室の扉を開く。

 

「まさか……クリスさんも“呪い”に?」

 

 エマの呟きにクリスは一度振り返る。

 

「そんなことを言っているから、君達はダメなんだ」

 

 全ての不都合を“呪い”のせいにする。

 それはクリスにとって全部“ノイ”のせいだという責任転換にしか聞こえなかった。

 

「セドリック、待ちなさい! 貴方は――」

 

 アルフィンの言葉を背にクリスは再び歩き出すのだった。

 

「………………いったい何が起きたんだ?」

 

 突然豹変したように見えたクリスの態度にマキアスが呟きがクリスがいなくなった会議室に空しく響いた。

 

 

 

 

 

 

「クリス……本当にこれで良かったの?」

 

 駆け足でクリスに追い駆けたキーアは不満そうにクリスに尋ねる。

 

「良いか悪いかじゃない。いつ心変わりが起きるか分からない味方に背中は預けられないという話だよ」

 

 “彼”もこんな気持ちだったのだろうかと考えながらクリスは応える。

 

「みんながクロウを更生させたいと思うのは別に良い……

 だけど。僕は宰相を撃ったクロウを裁かなければいけないんだ」

 

 次期帝国の皇帝になる者として、そこは譲れない一線でもある。

 

「キーアだってみんながおかしいと思っただろ?

 あの人がして来たことを全部オズボーン宰相の功績だとすり替えられているのに、スウィン達が気付いている記憶の矛盾に気付いてもいない」

 

「その事なんだけど、戦術オーブメントを見せてもらえる?」

 

「《ARCUS》を? 別に良いけど……」

 

 突然のキーアの要求にクリスは首を傾げながらそれを渡す。

 

「そう言えば、Ⅶ組をやめるなら《ARCUS》は返さないといけないか……」

 

 とは言え、導力魔法を使える恩恵を捨てるわけにはいかない。

 どうしたものかと悩むクリスだが、キーアの次の言葉に耳を疑った。

 

「うん。これはやっぱり《グノーシス》だね」

 

「え……?」

 

 思わぬ答えにクリスは目を丸くする。

 

「人と人の心を繋げるシステム……《叡智の薬》程の効果はないけど、根本にあるシステムはきっと同じだと思う」

 

「こ、これが《D∴G教団》の技術を流用されたオーブメントだって言うのかい?」

 

「分からない。別の“力”も働いているけど……キーアはそう感じたよ」

 

 キーアの答えにクリスは考える。

 そういうシステムだと疑問を考えずに使っていたが、言われてみれば導力技術よりも魔術的な技術の方が強い装置であり、得体のしれないシステムだとクリスは考え直す。

 

「“アークス”と“グノーシス”……」

 

 そして言い掛かりかもしれないが名前も何処か似通っている。

 

「この戦術オーブメントにどこまで強制力があるか分からない。それでもアリサ達が自己矛盾に気付かないのはこれのせいだと思うよ」

 

「……たしかに《ARCUS》には強い感情を共有してしまう欠点があるけど……」

 

「この場合は多数の意見を自然と受け入れちゃう感じかな?」

 

「そうか……連携を妨げないように思考が均一化される……何もそれは戦闘に限ったことじゃないのか」

 

 連携の不備とはすなわち意思伝達の齟齬から生まれるもの。

 入学当初はあった意見の対立も気が付けば、少なくなっていた。

 それを馴染んだのだと思っていたが、《ARCUS》の機能によって無意識に相手が譲れる範囲を言葉にするまでもなく感じられると考えれば説明ができる。

 

「あと《蒼の起動者》は殺しちゃいけないって言う“因果”がみんなに見えたよ」

 

「《蒼の起動者》を殺してはいけない因果? それはいったいどういうことだい?」

 

「それ以上のことはキーアにはわかんない」

 

 クリスの追及にキーアは首を振って答える。

 

「そうか……」

 

 その答えについてクリスは思考を巡らせる。

 今回の場合ではトワが言い出したクロウの行動が“呪い”のせいだという事がそれに当てはまる。

 

「《起動者》は二年後の“相克”まで生かされる。あの“人”がそんなことを言っていたな」

 

 もしそれが正しいのなら トワがクロウを擁護し、それにⅦ組が同調するようにクロウを許す空気になってことに説明が着いてしまう。

 

「これはテストモデルで……将来的には軍に正式採用される……」

 

 《薬》とは違う形で帝国全土に《ARCUS》が配備される。

 Ⅶ組では留まらない規模で、人々を扇動するのにこれ以上ないシステムであることに気付くとクリスは背筋が凍り付く。

 

「キーア、この事は誰にも話さないでくれるかな?」

 

「うん、それは良いけど……どうするの?」

 

「正直、僕一人の手には余る。だから後で《C》に相談するよ」

 

 ここに来て新しい懸念の材料が増える。

 《ARCUS》とはいったい何なのか。

 単なる戦闘システムでは留まらない、何かの悪意をクリスはそこに感じずにはいられなかった。

 

「それはそうとキーア。君はこれからどうする?」

 

 クリスは深呼吸をして気持ちを切り替えて話題を変える。

 

「え……?」

 

「正直に言えば、君には一緒に戦って欲しい」

 

 Ⅶ組を切り捨てたことで身軽になったものの、数的戦力はなくなった。

 

「でもここから先は“守るため”の戦いでは済まない……

 ここから先は互いの主張の潰し合い、滅ぼし合う戦いになる。帝国の戦いにこれ以上、君を巻き込むのは忍びない」

 

 人を殺すことになりかねない戦場にこれ以上キーアを連れて行くことを危惧して、クリスは提案する。

 キーアにはこれから出て来る無人機に専念してもらえば良いかもしれないが、それでも事故と言うものは起きる。

 

「大丈夫だよクリス……」

 

 そんなクリスの気遣いにキーアは儚い笑みを浮かべる。

 

「キーアの手はもう汚れてるから……だから大丈夫……」

 

「キーア……」

 

「でも一つだけお願いして良い?」

 

「何だい?」

 

「キーアががんばるから、ロイド達のこと守ってあげて」

 

 ギデオンからもたらされたロイド達への嫌疑のことなのだろうとクリスは察する。

 

「…………僕が勝ったらロイドさん達への恩赦は約束する」

 

「うん……」

 

 クリスとキーアは頷き合い――

 

「でもクリス、これからどうするの? 飛行艇もみんなもいないのに」

 

「それなんだよなぁ……」

 

 腕を組み、クリスは勢い任せにとった自分の行動を反省する。

 もしかすれば別室で会議室の様子を見ていた《C》達もクリスの行動に呆れて、見放されているかもしれない。

 

「僕達だけなら精霊回廊を使えば済むけど、やっぱり飛行艇と言う拠点は欲しいんだよなぁ」

 

 クリスはヴィクターから預かったカレイジャスの鍵に視線を落とす。

 

「ここで兄上に泣きつくのもバツが悪いし」

 

 オリヴァルトのⅦ組を否定した手前、カレイジャスだけを貸して欲しいなどと言えるわけがない。

 

「……いっそ盗む?」

 

「クリス……?」

 

 どこかの猟兵じみたことを言い出したクリスをキーアはジト目で睨む。

 

「アハハ、良いじゃんそれ!」

 

 しかし、クリスの提案を笑って受け入れる声が一つ。

 二人が振り返るとそこにはギデオンを片手に引き摺って来たシャーリィが満面の笑顔を浮かべていた。

 

「はぁ……全く何しているのよアンタは……」

 

 そしてシャーリィの肩の上でセリーヌが呆れ切ったため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







Ⅶ組集合を待たずにクリス君がⅦ組から離脱しました。
原因はひとえにⅦ組にクリスが進学を強行した理由である《超帝国人》がいなかったことでしょう。






《ARCUS》について

 便利な術でも弱点は必ずある、と某忍者も言っているのでデメリットを考えてみたのが今回の話になります。

 欠点は主に思考、思想の共有です。
 共感の強要とでも言うべきことでしょうか。

 ガイウスで例えれば、ノルドの生活は素晴らしいという意見に対して都会の便利さの方が良いという感想を抱いていても、ガイウスの感情に共感してノルド最高という感想で統一されます。

 マキアスとユーシスで例えれば、互いの踏み込まれたくない距離を無意識で把握し、本来ならトライアンドエラーを繰り返して身に着ける距離感を一度の失敗だけで完璧に把握できるようになります。
 この二人がAとBの意見を出した場合、言葉を交わすことなく互いの妥協案を把握できるのが《ARCUS》の恩恵になります。
 しかし、これに慣れると無意識での判断基準が一つに均一化され、別の意見を考えるという思考を鈍らせることに繋がります。
 結果、無意識での判断基準が均一化された集団となってしまいます。
 Ⅶ組が原作主人公に前に倣えという思考になっていたり、閃Ⅱでは相対すらしていないⅦ組がクロウに好感度MAXだったのはこれが原因になります。


 そして最後の副作用としてはリンクした相手との自己認識の共有です。
 戦術リンクを結ぶことは極端に言えば、自分の存在を二つに増やすことに近い感覚になるでしょう。
 そのためリンク先の相手を特別に害そうという意識が希薄になってしまうのではないかという副作用です。
 例えるなら、他者を自分と見立て相手の殺害が自殺と誤認してしまう気持ちが生まれてしまうことです。
 そのため敵対しても本気で相手を憎んだり、殺そうということができなくなってしまいます。
 この副作用は原作主人公とクロウとの間に発生したものと考えています。


 もちろん戦闘外で戦術リンクを使ってなければこれらの副作用は現れないはずだという意見もあるでしょう。
 そこら辺は長期間での戦術リンクの行使の影響と相性の問題とお考えください。
 というか試験運用なのでこういったデメリットが現れるかを調べるのを含めてⅦ組なのだと考えています。

 自分は《ARCUS》は“響きの貝殻”を基礎にして開発されたものだと思っていましたが、《Ⅶの輪》というシステムが後付けされていたのでアルベリヒがクロイス家から奪った《グノーシス》の効果をオーブメントに落とし込んだものなのではないかと考えてみました。
 将来的に戦術オーブメントが携帯電話として個人単位で普及されることを見越して、黒焔のプレロマ草とリンクする端末として人を扇動するシステムになるでしょう。

 《アークス》と《グノーシス》の名前が響きが似ている邪推してしまったのが今回の設定を作った切っ掛けだったりします。

 当然ではありますが、オリヴァルトは《ARCUS》のこの裏側の仕様は把握できていません。





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